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第二章 聖女の秘密
手に負えない
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えーと、この子は馬鹿なのかな。
下校するリディアを迎えに教室前までやって来たエレナは、この六年間たびたび感じた疑問を、またもや感じていた。
朝、寮を出発して講堂に着いて以降、リディアとエレナは別行動を取っていた。リディアは他の新入生たちとともに講堂内で整列し、エレナは入学式を参観するために今朝到着したばかりのエチェバルリア公爵夫妻に挨拶し、一緒に入学式を見守った。
入学式が終わると公爵夫妻は学校の敷地内に停めてあった馬車に乗り込み、慌ただしく王都へと帰っていった。エレナは馬車の停めてある場所までついていって見送る。リディアたち新入生は、教室で今後の学校生活についての諸注意の説明を受けているはずだ。今日は授業はないから、その後は寮に戻ることになる。
エレナの周囲には彼女と同じように主人の父兄を見送ったメイドや執事たちがいて、彼らは寮ではなく校舎の方へと歩き出していた。もうじき主人たちが教室から出てくるので、お迎えに行こうというのだろう。寮まで歩いて五分もかからないのに、迎えに行く必要があるのかとエレナは疑問に思う。普段の日なら主人の鞄でも持ってあげることができるが、今日は授業がないためリディアたちは鞄など持って行っていない。迎えに行ってもそのまま寮までの短い道を、それも学園によって完全に管理されて事故も誘拐もまず起こらない安全な道を連れ立って帰るだけだ。
とは言っても、他の従者たちが出迎えに行くというのにエレナだけが主人をほったらかしというわけにはいかない。公爵夫妻への挨拶などで色々と気疲れしたから一刻も早く寮に戻って休みたいんだけど、仕方がないからお迎えに行ってやろう。
そんなことを考えながらリディアの教室の前まで来てみれば、あの馬鹿、とんでもないことをやらかしていた。
学園へ来る前から、何度も口を酸っぱくして言っておいたはずだ。攻略の関係上、クロエと知り合うのはゲームのシナリオ通りのタイミングにしたいから、それまではクロエと接触するなと。
それなのに、なんであいつは、クロエの席の隣に座ってやがるのか。
(そもそも、リディアの席はそこじゃねぇっ!)
確かゲームでは、リディアは真ん中の列の一番前に座っているという設定だったはず。そちらの方を見ると、知らない少女が座っている。
その左隣にミランダ、その後ろにフェリシアがおり、周辺にゲーム内でリディアの取り巻きとして出てきたキャラっぽい娘の姿も見えるところから察するに、リディアは最初は正しい席に座ったのだろう。彼女を慕って取り巻きたちが周囲に座った後で、あえて席を変えたのだ。
『チェンジ☆リングス』のシナリオでは、入学初日の教室ではクロエの周囲に誰も座りたがらず、教師が入室して生徒たちに着席を命じると、他に座る席のない生徒たちが仕方なしにばらばらとクロエの周囲に座る、という流れだったはずだ。その本来のストーリーと現状を考え合わせると、何があったのかは察しがつく。
リディアはクロエと知り合うなという指示だけでなく、目立つなという指示も無視したのだ。
最近はあまり突飛な行動を取らない様になってきたので安心していたらこれだ。本当にこの子は手に負えない。
他人の目があるのでお小言は自室に戻るまで我慢することにして、エレナは表面上は平静を保った。程なく教師が解散を告げ、他の生徒たちに混じってリディアが教室から出てきたときも「お疲れ様です」と一礼して迎えたし、廊下を歩きはじめたリディアのななめ後ろに付き従って大人しく歩いた。フェリシアとミランダもリディアに付いて歩きながら、何やら話しかけている。フェリシアたちの席の近くに座っていた子の一人は、やはりゲーム内のスチル画像で見た取り巻きの少女だったらしく、フェリシアたちに連れ立って歩きながら、エレナに自己紹介した。なんかセンテーロ公爵の親戚らしいけれど、今はリディアへの苛立ちで頭がいっぱいで、自己紹介があまり頭に入ってこない。とはいえ、侍女として主人の友人の顔と名前は覚えておかないと。名前は、ええと、さっきこの子名前なんて名乗ったっけ。確かプリシラ。
そのプリシラを含めた四人の貴族令嬢と、それぞれ一人ずつの侍女の計八名、ちょっとした小集団になる。他の新入生たちも多くはそう言ったグループを作って、固まって寮へと戻った。
「さて、申しひらきがございましたら伺いましょうか」
自室に着いて入り口の戸を閉めるなり、エレナはそう切り出した。
「……ごめん」
やらかした自覚はあるようで、リディアはうなだれながら謝罪する。
「だけど、クロエの周りに誰も座ろうとしなくて、いじめみたいだったから」
「んなことは分かってんの! 入学式の日にクロエに何が起こるかなんて、ゲームで二十回は繰り返し見てるっての! 変な予備知識を持たせるとあんたはかえってボロを出すから教えてないだけでね!」
エレナは思わず声を荒げてしまう。自室でも誰かに声が聞かれている可能性があるから慎重にしようと昨日リディアとも話したばかりだったが、実際のところは多少声が大きい程度では部屋の外には漏れそうにないし、ちょっとくらい感情を爆発させてもいいだろう。だいたい、どれだけ自分が気をつけていても、こうやってリディアが台無しにするんだし。
「あーもう死んだわ。シナリオ狂ったから攻略にも影響が出るかもだし、そもそも公爵家のお嬢様が自分から平民に声かけて隣に座るなんて、それだけで取りかえ児だと疑われかねないもん。明日火炙りになってもおかしくないわー」
当てつけがましくエレナは言い募る。何しろ、リディアが取りかえ児だとバレたらエレナもとばっちりを食うのだ。もう少し考えて行動しろと言いたい。
「……ごめん。だけどさ、シナリオが狂うと攻略に失敗する『かもしれない』、取りかえ児だとバレて火炙りにされる『かもしれない』。そんな不確かな不安を理由に、今実際に辛い目にあってるクロエを放っておけなくて……」
――なにそれ。
そんなこと言われたら、私が自分の保身のためにクロエを見捨てようとしてるみたいじゃない。とエレナは思う。
まあ、実際にその通りなのだ。と内心、後ろめたい気持ちになる。リディアは思慮が足りないからクロエに話しかけたわけじゃない。自分に降りかかるリスクをちゃんと考えた上で、それでもクロエのために行動したのだ。リディアとはもう六年以上も一緒にいるからそれはわかる。リディアとは、というより脇谷玲司とは、そういう子なのだ。
そんなリディアと比べてしまうと、自分の態度は保身でしかない。そう思えて、エレナはそれ以上なにも言えなくなった。
「本当にごめん。もしも取りかえ児だってバレて、エレナまで火炙りにされそうになったら、審問官にエレナは取りかえ児じゃないからやめてくださいってちゃんとお願いするから」
そしてこの子は、あれだけ一方的に怒鳴りつけられた後で、その怒鳴りつけてきた相手のことを思いやる気持ちを持っている。
本当に、この子は手に負えない。
「……無駄なことはなさらなくて結構です。人の心配の前に自分の身を守ることをお考えください。危なっかしくて見ていられないので」
『チェンジ☆リングス』のフェルナンドルートのグッドエンドでは、ライバルキャラのリディアは取りかえ児であることが発覚して火炙りになるのだが、その際、十字架に貼り付けられたリディアのスチル画像の背景に、同じように十字架にかけられたエレナが描かれている。
これについて、ある時インターネットの掲示板で「なぜエレナまで火炙りにされるのか」と議論になったことがある。一緒に火炙りになっているからにはおそらくエレナも取りかえ児だったのだろうが、仮にそうだったとしてもエレナは怪しまれるような行動をしているようには書かれていない。取りかえ児だとバレる理由がない。
掲示板の議論ではもちろん説得力のある結論は見いだせず、そもそもシナリオのテキストにおいてもエレナが処刑されていることについての記述が一切ないことから、スチル画像を描いたイラストレーターへの伝達ミスによってエレナが描かれてしまっただけ、と結論づけられていた。
斑賀李衣だった頃にその掲示板の書き込みを読みながら、変にストーリー上の理屈を作るよりはそういった制作上の理由の方が納得が行くと思ったものだったが、自分がエレナになった今は、なんとなく本当の理由が分かるような気がする。エレナは多分、取りかえ児の疑いをかけられたリディアをかばおうとしたのだ。それも、容疑者隠匿のような、かなり社会正義に反する方法で。
自分がエレナとして、リディアの取りかえ児疑惑に巻き込まれたとしたら、自分は目の前にいるこの子をそうまでして守るかと問われたら、それはその時になってみないとわからないけれど、なんとなく守るような気がする。ゲーム内のリディアは脇谷玲司の記憶を持つこの子と違ってかなり意地悪で高飛車だけど、長年そばに仕えてその成長を見守ってきたエレナから見たら、あのリディアもまた、守りたいと思えるお嬢様なのかもしれない。
「ですが、クロエに優しくすることが、かえって彼女の立場を悪くする可能性がございますので、今後も過剰にクロエを構うのはやめたほうが宜しいかと」
怒りの矛先を納めたエレナは、冷静にそう忠告した。
「立場を悪くするって、どうしてですの?」
リディアの方もお嬢様口調に戻り、いつもどおりの二人の会話になる。
「学園には、王国随一の名家であるエチェバルリア家の一人娘とお近づきになりたい方々が掃いて捨てるほどたくさんいらっしゃいます。その方たちが、ただの平民風情がリディア様と親しくしているのをご覧になったら、不愉快に感じるからです」
今日にしても、わざわざリディアの近くの席を選んで座った少女たちの目の前で、リディアは席を立ってクロエの隣へ移動したのだ。リディアの奇行に慣れているフェリシアとミランダはともかく、プリシラあたりは怒っても不思議ではない。
「下校時にお目にかかった時の様子では、プリシラさまも怒ってはいらっしゃらないようですが、今後お気をつけ下さいませ」
「わかりましたわ。以後気をつけます」
リディアは、素直にそう答えた。
下校するリディアを迎えに教室前までやって来たエレナは、この六年間たびたび感じた疑問を、またもや感じていた。
朝、寮を出発して講堂に着いて以降、リディアとエレナは別行動を取っていた。リディアは他の新入生たちとともに講堂内で整列し、エレナは入学式を参観するために今朝到着したばかりのエチェバルリア公爵夫妻に挨拶し、一緒に入学式を見守った。
入学式が終わると公爵夫妻は学校の敷地内に停めてあった馬車に乗り込み、慌ただしく王都へと帰っていった。エレナは馬車の停めてある場所までついていって見送る。リディアたち新入生は、教室で今後の学校生活についての諸注意の説明を受けているはずだ。今日は授業はないから、その後は寮に戻ることになる。
エレナの周囲には彼女と同じように主人の父兄を見送ったメイドや執事たちがいて、彼らは寮ではなく校舎の方へと歩き出していた。もうじき主人たちが教室から出てくるので、お迎えに行こうというのだろう。寮まで歩いて五分もかからないのに、迎えに行く必要があるのかとエレナは疑問に思う。普段の日なら主人の鞄でも持ってあげることができるが、今日は授業がないためリディアたちは鞄など持って行っていない。迎えに行ってもそのまま寮までの短い道を、それも学園によって完全に管理されて事故も誘拐もまず起こらない安全な道を連れ立って帰るだけだ。
とは言っても、他の従者たちが出迎えに行くというのにエレナだけが主人をほったらかしというわけにはいかない。公爵夫妻への挨拶などで色々と気疲れしたから一刻も早く寮に戻って休みたいんだけど、仕方がないからお迎えに行ってやろう。
そんなことを考えながらリディアの教室の前まで来てみれば、あの馬鹿、とんでもないことをやらかしていた。
学園へ来る前から、何度も口を酸っぱくして言っておいたはずだ。攻略の関係上、クロエと知り合うのはゲームのシナリオ通りのタイミングにしたいから、それまではクロエと接触するなと。
それなのに、なんであいつは、クロエの席の隣に座ってやがるのか。
(そもそも、リディアの席はそこじゃねぇっ!)
確かゲームでは、リディアは真ん中の列の一番前に座っているという設定だったはず。そちらの方を見ると、知らない少女が座っている。
その左隣にミランダ、その後ろにフェリシアがおり、周辺にゲーム内でリディアの取り巻きとして出てきたキャラっぽい娘の姿も見えるところから察するに、リディアは最初は正しい席に座ったのだろう。彼女を慕って取り巻きたちが周囲に座った後で、あえて席を変えたのだ。
『チェンジ☆リングス』のシナリオでは、入学初日の教室ではクロエの周囲に誰も座りたがらず、教師が入室して生徒たちに着席を命じると、他に座る席のない生徒たちが仕方なしにばらばらとクロエの周囲に座る、という流れだったはずだ。その本来のストーリーと現状を考え合わせると、何があったのかは察しがつく。
リディアはクロエと知り合うなという指示だけでなく、目立つなという指示も無視したのだ。
最近はあまり突飛な行動を取らない様になってきたので安心していたらこれだ。本当にこの子は手に負えない。
他人の目があるのでお小言は自室に戻るまで我慢することにして、エレナは表面上は平静を保った。程なく教師が解散を告げ、他の生徒たちに混じってリディアが教室から出てきたときも「お疲れ様です」と一礼して迎えたし、廊下を歩きはじめたリディアのななめ後ろに付き従って大人しく歩いた。フェリシアとミランダもリディアに付いて歩きながら、何やら話しかけている。フェリシアたちの席の近くに座っていた子の一人は、やはりゲーム内のスチル画像で見た取り巻きの少女だったらしく、フェリシアたちに連れ立って歩きながら、エレナに自己紹介した。なんかセンテーロ公爵の親戚らしいけれど、今はリディアへの苛立ちで頭がいっぱいで、自己紹介があまり頭に入ってこない。とはいえ、侍女として主人の友人の顔と名前は覚えておかないと。名前は、ええと、さっきこの子名前なんて名乗ったっけ。確かプリシラ。
そのプリシラを含めた四人の貴族令嬢と、それぞれ一人ずつの侍女の計八名、ちょっとした小集団になる。他の新入生たちも多くはそう言ったグループを作って、固まって寮へと戻った。
「さて、申しひらきがございましたら伺いましょうか」
自室に着いて入り口の戸を閉めるなり、エレナはそう切り出した。
「……ごめん」
やらかした自覚はあるようで、リディアはうなだれながら謝罪する。
「だけど、クロエの周りに誰も座ろうとしなくて、いじめみたいだったから」
「んなことは分かってんの! 入学式の日にクロエに何が起こるかなんて、ゲームで二十回は繰り返し見てるっての! 変な予備知識を持たせるとあんたはかえってボロを出すから教えてないだけでね!」
エレナは思わず声を荒げてしまう。自室でも誰かに声が聞かれている可能性があるから慎重にしようと昨日リディアとも話したばかりだったが、実際のところは多少声が大きい程度では部屋の外には漏れそうにないし、ちょっとくらい感情を爆発させてもいいだろう。だいたい、どれだけ自分が気をつけていても、こうやってリディアが台無しにするんだし。
「あーもう死んだわ。シナリオ狂ったから攻略にも影響が出るかもだし、そもそも公爵家のお嬢様が自分から平民に声かけて隣に座るなんて、それだけで取りかえ児だと疑われかねないもん。明日火炙りになってもおかしくないわー」
当てつけがましくエレナは言い募る。何しろ、リディアが取りかえ児だとバレたらエレナもとばっちりを食うのだ。もう少し考えて行動しろと言いたい。
「……ごめん。だけどさ、シナリオが狂うと攻略に失敗する『かもしれない』、取りかえ児だとバレて火炙りにされる『かもしれない』。そんな不確かな不安を理由に、今実際に辛い目にあってるクロエを放っておけなくて……」
――なにそれ。
そんなこと言われたら、私が自分の保身のためにクロエを見捨てようとしてるみたいじゃない。とエレナは思う。
まあ、実際にその通りなのだ。と内心、後ろめたい気持ちになる。リディアは思慮が足りないからクロエに話しかけたわけじゃない。自分に降りかかるリスクをちゃんと考えた上で、それでもクロエのために行動したのだ。リディアとはもう六年以上も一緒にいるからそれはわかる。リディアとは、というより脇谷玲司とは、そういう子なのだ。
そんなリディアと比べてしまうと、自分の態度は保身でしかない。そう思えて、エレナはそれ以上なにも言えなくなった。
「本当にごめん。もしも取りかえ児だってバレて、エレナまで火炙りにされそうになったら、審問官にエレナは取りかえ児じゃないからやめてくださいってちゃんとお願いするから」
そしてこの子は、あれだけ一方的に怒鳴りつけられた後で、その怒鳴りつけてきた相手のことを思いやる気持ちを持っている。
本当に、この子は手に負えない。
「……無駄なことはなさらなくて結構です。人の心配の前に自分の身を守ることをお考えください。危なっかしくて見ていられないので」
『チェンジ☆リングス』のフェルナンドルートのグッドエンドでは、ライバルキャラのリディアは取りかえ児であることが発覚して火炙りになるのだが、その際、十字架に貼り付けられたリディアのスチル画像の背景に、同じように十字架にかけられたエレナが描かれている。
これについて、ある時インターネットの掲示板で「なぜエレナまで火炙りにされるのか」と議論になったことがある。一緒に火炙りになっているからにはおそらくエレナも取りかえ児だったのだろうが、仮にそうだったとしてもエレナは怪しまれるような行動をしているようには書かれていない。取りかえ児だとバレる理由がない。
掲示板の議論ではもちろん説得力のある結論は見いだせず、そもそもシナリオのテキストにおいてもエレナが処刑されていることについての記述が一切ないことから、スチル画像を描いたイラストレーターへの伝達ミスによってエレナが描かれてしまっただけ、と結論づけられていた。
斑賀李衣だった頃にその掲示板の書き込みを読みながら、変にストーリー上の理屈を作るよりはそういった制作上の理由の方が納得が行くと思ったものだったが、自分がエレナになった今は、なんとなく本当の理由が分かるような気がする。エレナは多分、取りかえ児の疑いをかけられたリディアをかばおうとしたのだ。それも、容疑者隠匿のような、かなり社会正義に反する方法で。
自分がエレナとして、リディアの取りかえ児疑惑に巻き込まれたとしたら、自分は目の前にいるこの子をそうまでして守るかと問われたら、それはその時になってみないとわからないけれど、なんとなく守るような気がする。ゲーム内のリディアは脇谷玲司の記憶を持つこの子と違ってかなり意地悪で高飛車だけど、長年そばに仕えてその成長を見守ってきたエレナから見たら、あのリディアもまた、守りたいと思えるお嬢様なのかもしれない。
「ですが、クロエに優しくすることが、かえって彼女の立場を悪くする可能性がございますので、今後も過剰にクロエを構うのはやめたほうが宜しいかと」
怒りの矛先を納めたエレナは、冷静にそう忠告した。
「立場を悪くするって、どうしてですの?」
リディアの方もお嬢様口調に戻り、いつもどおりの二人の会話になる。
「学園には、王国随一の名家であるエチェバルリア家の一人娘とお近づきになりたい方々が掃いて捨てるほどたくさんいらっしゃいます。その方たちが、ただの平民風情がリディア様と親しくしているのをご覧になったら、不愉快に感じるからです」
今日にしても、わざわざリディアの近くの席を選んで座った少女たちの目の前で、リディアは席を立ってクロエの隣へ移動したのだ。リディアの奇行に慣れているフェリシアとミランダはともかく、プリシラあたりは怒っても不思議ではない。
「下校時にお目にかかった時の様子では、プリシラさまも怒ってはいらっしゃらないようですが、今後お気をつけ下さいませ」
「わかりましたわ。以後気をつけます」
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