ミリしら令嬢 ~乙女ゲームを1ミリも知らない俺が悪役令嬢に転生しました

yumekix

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第二章 聖女の秘密

堅信礼のお手伝い

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「堅信礼のお手伝いをすれば大聖堂へはいけますけど、聖女様に会って話ができるとは限りませんよ」

 エレナの反論に、リディアは答える。

「なんとか致しますわ。幸いにして、わたくしは高貴なるエチェバルリア家の令嬢。なるべく聖女様のお傍へ行けるようなお仕事を割り振ってもらうぐらいの我儘わがままは通りますわ。そうしたら、あとはチャンスを待つだけです」

 エレナが何か言いたげなのをみて、リディアは言葉を続ける。

「口で言うほど簡単じゃない、と言いたげですわね。それは分かっておりますけれど、試してみる価値はあるのではなくて?」
取りかえ児チェンジリングが聖女様にわざわざ逢いに行くこと自体、多少の危険をはらんでいることはご理解なさっていますか?」

 心配げに問うエレナだが、リディアは涼しい顔だ。

「取りかえ児が聖女様にお逢いするだけで火あぶりになるなら、わたくし達は今、ここにこうして存在していませんわ。わたくしは堅信礼の時点ですでに取りかえ児でしたし、エウラリア様も取りかえ児に成りたてホヤホヤだったのですから」

 それを聞くとエレナは、「お止めしても無駄なのでしょうね」と、諦め顔でため息をついた。

「あの、でしたら、わたくしが行きます。次期聖女のわたくしの方が、ファティマ様とお話できる可能性は高いですから」

 エウラリアがそう言うと、エレナが慌てて制止する。

「リディア様が無茶をなさるのはいつものことですが、エウラリア様は少しでもリスクのある行動は控えられた方が良いです」

 だがエウラリアは聞き入れない。

「もともと、次期聖女であるわたくしは堅信礼にお手伝いすべきなのだろうと思っておりましたし、むしろお手伝いに行かない方が不審に思われる可能性がありますわ」
「じゃ、じゃあ、せめてわたくしもご一緒致しますわ!」

 リディアが言うと、エレナも頷く。

「エウラリア様がどうしても行くとおっしゃるなら、リディア様もお連れいただいた方が……。万一のときに、その場にお味方がいないと困りますでしょう」

 そういうわけで、リディアたちは堅信礼の手伝いをすることになった。

 *

 春の堅信礼はそれから数週間後の日曜日だった。その前日、リディアたちは馬車で聖グラシア大聖堂へと向かっていた。
 同じ馬車には、やはり手伝いに志願した学園の女子数人が乗っている。泊りがけなので侍女たちも同行するが、一つの馬車には乗り切れないので別の馬車で随行している。手伝いには男子たちも志願しているので、男子たちの乗る馬車、その男子たちの使用人が乗る馬車など、何台かで隊列を組んで、聖地ウルフィラの中央通りを進んでいく。
 同乗者の中には、見知った顔も多かった。リディアはその中の一人に話しかける。

「馬車ってすごく揺れるので苦手ですわ。おしゃべりでもしていないと酔ってしまいそう。ミランダ、何か面白いお話をしてくださらない?」

 無茶ぶりされたミランダは、なんとか話題を探そうとする。

「面白いお話……ですか。……しいて言うなら、女子寮の侍女たちの間の噂くらいですわね。わたくしの侍女のナタリアから聞いたのですが、寮生のどなたかの侍女は、主人の服のフリルを枕に縫い付けて、それを主人に見立てて夜な夜な殴っているとか」
「そのお話はあまりしたくありませんわ。ごめんなさいねミランダ」

 ミランダが必死にひねり出した話題を、リディアは即座に中断させる。二人の近くに座っていたエウラリアが、ハンカチで口元を隠しながら顔を伏せた。あくびでも噛み殺している風を装っているが、笑いをこらえていることをリディアは知っている。『氷の聖女』というイメージを持たれている手前、堂々と笑うことに抵抗があるのだろう。

「エウラリア様、笑っても良いのですわよ」

 フェリシアがエウラリアに言う。どうやらリディア以外にも、結構バレているようだ。そしてバレた方が、親しみを感じてもらえている。氷の聖女の氷は、ゆっくりと溶けて行くだろう。

「エウラリア様は、すっかりリディアさん達のグループの一員ですわね」

 やはり馬車に同乗していたローゼ公女の言葉に、リディアが答える。

「ええ、仲良くさせていただいておりますわ」
「わたくしは、そのグループには入れてもらえませんの?」

 ローゼの言葉に、リディアはとんでもない、と首を横に振る。

「ローゼさんもわたくしたちの大切なお友達ですから、『わたくしたちのグループ』の定義によっては、ローゼさんもとっくにグループの一員ですわ」
「定義によっては、とは?」
「ローゼさんとは、あまりお茶会などご一緒していないのは事実ですからね。親しいお友達同士でもそれぞれの方との関係性が一人ひとり違うので、誰がグループのメンバーで誰が違うのか、一概に言えませんしね。エウラリア様とプリシラは私にとって対等なお友達ですけれど、フェリシアとミランダは手下ですわ」

 リディアがそう言うと、フェリシアは不服そうに反論する。

「手下って……確かにわたくし共の家はエチェバルリア家の分家みたいなものですが、分家は宗家の手下ではありませんわ」
「一般的な宗家と分家ならば、そのとおりですわね。でもフェリシアとミランダはわたくしの手下です。そうですよねミランダ?」
「はい。わたくし共はリディア様の手下ですわ」
「ミランダまで?」

 彼女たちのやり取りを見ながら、こういう冗談が言い合えるのもお互いの信頼があってこそだろうとローゼは思った。リディアにとって、同じ友達とは言っても最近知り合ったプリシラやエウラリアと比べて、フェリシアとミランダはより深い信頼関係があるのだ。

「ではわたくしも、リディアさんの手下にしていただけますかしら?」
「ロ、ローゼさんはさすがに……、国際問題になってしまいますので」
「そうですか。残念ですわ」

 ローゼンブルク公国の公女がエチェバルリア家の令嬢の手下になったりしたら、両国の関係に激震が走る。本人たちがお互い冗談だとわかっていても、周囲で見ている人々にもそれがわかるとは限らないのだ。

「ところでローゼさんは、聖グラシア大聖堂を訪れるのは初めてですの?」

 ヴァンダリア王国の国民ではないローゼは、堅信礼を自国の教会で受けている。ヴァンダリアの堅信礼を見てみたいというのが、彼女が手伝いに志願した理由の一つなのだそうだ。

「大聖堂自体には、数年前の女神様の記念日に礼拝に来たことがありますわ。世界中の女神教徒にとっての聖地ですもの。その日の礼拝では聖堂前の中央広場に大勢の人が集まって、聖女様がその前に立ってお祈りの言葉を述べておりましたわ」

 女神様の記念日の礼拝には、リディアも参加したことがある。たしかに諸外国の要人たちも多数参列していたようだった。ローゼもそんな要人の一人だったのだろう。
 そんな話をしているうちに、馬車は大聖堂に到着した。淑女たちは、久しぶりに学園の敷地外にやって来たことに少し興奮しながら馬車を降りた。
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