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第三章 王子の秘密
予定がくるう?
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「お願いですから、これ以上話をややこしくしないでいただけますか」
自室に戻ったエレナは、リディアにお説教していた。
「でも、あそこでわたくしが名乗り出なければキコ――フランシスコさんが困ったでしょうし、名乗り出て以降は間違ったことを言ったつもりもありませんわ」
「言い方というものがございます。もう少し穏便にお話をすることはできないのですか?」
エウラリアも同席していて、二人の会話を黙って聞いている。積極的にリディアを責める側に加わるつもりはないようだが、かといって弁護することもできないようだ。
エウラリアが味方してくれないとみると、リディアは孤独な反論を試みる。
「言い方でどうにかなる状況ではなかったと思いますわ。アルボス家の兄妹は先日の件の仕返しに来たのですから。最初から喧嘩する目的で来た人とは、どうやっても衝突します。ですから、衝突がフェンシングの試合という形になったのはむしろ良い流れで、あとはダミアンさんさえ負けてくれればうまくいったのですわ」
悪いのはダミアンですわ。とふてくされたように言うリディア。
「そもそもリディア様がアルボス家の妹と対立なさらなければこんなことには……。まあ、済んだことをグズグズ言っても仕方がありません。これから起こりうる問題について考えましょう。つまりは、フェンシング大会にアルボス兄妹との勝負という要素が加わったことで、大会当日のスケジュールが乱される可能性があるという問題についてです」
大会当日はクロエと一緒に校内を回りながら、エルネスト王子とフェルナンドのイベントを消化していかなければならない。それだけで非常にタイトなのだが、ここにさらにアルボス家との勝負が加わったことで、当日の予定を立てるのが難しくなる。リディアのせいでキコたちが勝負する羽目になったのだから彼らの試合をまったく観戦しないのは薄情すぎるから、彼らの試合が行われる場所も回るべきだ。かといって、イベント消化以外に追加で別の場所を回る余裕はない。
「わたくしがクロエと一緒に回りましょうか。リディア様はフランシスコさんたちを応援してあげて下さい」
「……うーん、それは……」
エウラリアの申し出に、エレナは渋面をつくる。
「ありがたいご提案ではありますが……エウラリア様は次期聖女として、学園内の生徒や教師にまで、崇拝に近い尊敬を受けていらっしゃいます。そのエウラリア様が平民のクロエと一緒にいると、クロエが嫉妬の対象になりかねません」
エウラリアを慕っている人たちから見れば、平民のクロエがエウラリアと親しげにしていたら気に食わないだろう。同様にリディアとお近づきになりたい生徒も多いので、リディアも必要以上にクロエと親しくするのは避けているものの、リディアが慕われる理由はエチェバルリア家と世俗的なコネクションを作りたいからでしかない。それに対してエウラリアの場合は宗教的な畏敬の対象なのだから、思いの強さもより強くなる。クロエと仲良くすることは、リディア以上に慎重にならなければならない。
「……やはりわたくしがクロエと一緒に回るのが一番良いと思いますわ。最初はフェリシアたちと一緒にフランシスコさんたちの応援をする予定ということにしておいて、あとから何かの事情でわたくしはクロエと別行動しなければ行けなくなったことにしましょう。フランシスコさんたちはフェリシアたちが応援すれば、最低限の義理だてはできますわ」
そう提案するリディア。エレナはちょっと嫌な予感をしながらも、一応質問してみる。
「何かの事情って、どんな事情ですか?」
「それはこれから考えますわ」
嫌な予感が当たった。この子は基本的に考えなしなのだ。
「それを考えてからご発言なさっていただかないと、その案が現実的かどうかの議論ができません」
「でも、それ以外の選択肢はないのではなくて? エウラリア様がクロエを同伴する案はクロエが周囲の嫉妬を買う問題以外にも、ルート暗記の問題がありますわ。エウラリア様がルートを覚えなければその案は実行できませんもの」
先日からリディアはフェンシング大会の日にクロエを連れ回すルートの暗記を開始しているが、まだ完璧には覚えられていない。今からクロエの同伴者をエウラリアに変更するとなると、エウラリアがルートを暗記しなければならなくなる。しかも暗記するために使える日数は、リディアが使えるはずだった日数より数日分短いわけだ。しかもエウラリアにエレナが付き添うわけにはいかないから、フォローできる人物もいない。
「確かに……。エウラリア様は『チェンジ☆リングス』をプレイ済みですから、どこでイベントが起きるか知っている分ルートを覚えやすいはずですが、万一の時にフォローできる人がいないのは危険ですね。ルートを忘れる以外にも、不測の事態が起きる可能性はあるわけですし」
エレナはそう納得してからさらにしばらく考えて、「それしかなさそうですね」とため息をついた。
「リディア様が大まかな方針を示して、わたくしが細かい部分をフォローする。この前の『聖女の秘密』のトロフィーを取ったときも、思えばそれが一番うまく行きましたから。別行動をしなければならない理由はわたくしが考えますので、リディア様はルート暗記に専念してください」
自分はこの子に振り回されるのが、ちょっと楽しくなってきているのかも知れない。エレナはそんなことを思った。
自室に戻ったエレナは、リディアにお説教していた。
「でも、あそこでわたくしが名乗り出なければキコ――フランシスコさんが困ったでしょうし、名乗り出て以降は間違ったことを言ったつもりもありませんわ」
「言い方というものがございます。もう少し穏便にお話をすることはできないのですか?」
エウラリアも同席していて、二人の会話を黙って聞いている。積極的にリディアを責める側に加わるつもりはないようだが、かといって弁護することもできないようだ。
エウラリアが味方してくれないとみると、リディアは孤独な反論を試みる。
「言い方でどうにかなる状況ではなかったと思いますわ。アルボス家の兄妹は先日の件の仕返しに来たのですから。最初から喧嘩する目的で来た人とは、どうやっても衝突します。ですから、衝突がフェンシングの試合という形になったのはむしろ良い流れで、あとはダミアンさんさえ負けてくれればうまくいったのですわ」
悪いのはダミアンですわ。とふてくされたように言うリディア。
「そもそもリディア様がアルボス家の妹と対立なさらなければこんなことには……。まあ、済んだことをグズグズ言っても仕方がありません。これから起こりうる問題について考えましょう。つまりは、フェンシング大会にアルボス兄妹との勝負という要素が加わったことで、大会当日のスケジュールが乱される可能性があるという問題についてです」
大会当日はクロエと一緒に校内を回りながら、エルネスト王子とフェルナンドのイベントを消化していかなければならない。それだけで非常にタイトなのだが、ここにさらにアルボス家との勝負が加わったことで、当日の予定を立てるのが難しくなる。リディアのせいでキコたちが勝負する羽目になったのだから彼らの試合をまったく観戦しないのは薄情すぎるから、彼らの試合が行われる場所も回るべきだ。かといって、イベント消化以外に追加で別の場所を回る余裕はない。
「わたくしがクロエと一緒に回りましょうか。リディア様はフランシスコさんたちを応援してあげて下さい」
「……うーん、それは……」
エウラリアの申し出に、エレナは渋面をつくる。
「ありがたいご提案ではありますが……エウラリア様は次期聖女として、学園内の生徒や教師にまで、崇拝に近い尊敬を受けていらっしゃいます。そのエウラリア様が平民のクロエと一緒にいると、クロエが嫉妬の対象になりかねません」
エウラリアを慕っている人たちから見れば、平民のクロエがエウラリアと親しげにしていたら気に食わないだろう。同様にリディアとお近づきになりたい生徒も多いので、リディアも必要以上にクロエと親しくするのは避けているものの、リディアが慕われる理由はエチェバルリア家と世俗的なコネクションを作りたいからでしかない。それに対してエウラリアの場合は宗教的な畏敬の対象なのだから、思いの強さもより強くなる。クロエと仲良くすることは、リディア以上に慎重にならなければならない。
「……やはりわたくしがクロエと一緒に回るのが一番良いと思いますわ。最初はフェリシアたちと一緒にフランシスコさんたちの応援をする予定ということにしておいて、あとから何かの事情でわたくしはクロエと別行動しなければ行けなくなったことにしましょう。フランシスコさんたちはフェリシアたちが応援すれば、最低限の義理だてはできますわ」
そう提案するリディア。エレナはちょっと嫌な予感をしながらも、一応質問してみる。
「何かの事情って、どんな事情ですか?」
「それはこれから考えますわ」
嫌な予感が当たった。この子は基本的に考えなしなのだ。
「それを考えてからご発言なさっていただかないと、その案が現実的かどうかの議論ができません」
「でも、それ以外の選択肢はないのではなくて? エウラリア様がクロエを同伴する案はクロエが周囲の嫉妬を買う問題以外にも、ルート暗記の問題がありますわ。エウラリア様がルートを覚えなければその案は実行できませんもの」
先日からリディアはフェンシング大会の日にクロエを連れ回すルートの暗記を開始しているが、まだ完璧には覚えられていない。今からクロエの同伴者をエウラリアに変更するとなると、エウラリアがルートを暗記しなければならなくなる。しかも暗記するために使える日数は、リディアが使えるはずだった日数より数日分短いわけだ。しかもエウラリアにエレナが付き添うわけにはいかないから、フォローできる人物もいない。
「確かに……。エウラリア様は『チェンジ☆リングス』をプレイ済みですから、どこでイベントが起きるか知っている分ルートを覚えやすいはずですが、万一の時にフォローできる人がいないのは危険ですね。ルートを忘れる以外にも、不測の事態が起きる可能性はあるわけですし」
エレナはそう納得してからさらにしばらく考えて、「それしかなさそうですね」とため息をついた。
「リディア様が大まかな方針を示して、わたくしが細かい部分をフォローする。この前の『聖女の秘密』のトロフィーを取ったときも、思えばそれが一番うまく行きましたから。別行動をしなければならない理由はわたくしが考えますので、リディア様はルート暗記に専念してください」
自分はこの子に振り回されるのが、ちょっと楽しくなってきているのかも知れない。エレナはそんなことを思った。
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