【GAME原魔勇】 不遇王子で完全攻略、リアルなこのゲームセカイで俺は……!

山下敬雄

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GAME17

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 リアルでも遊牧民などが居住空間としてつかうイメージのある、移動式の〝ゲル〟のようなものを、なだらかな平原に展開した。

 複数のゲルを陣のように展開。円形のゲルのまわりには同時に布製の風除けも設置してあり、その綺麗に整頓された配置はものの見事だ。

 馬車に金をかけたりする第九王子様のお気楽なこだわりが、細部にクオリティを求めるメイド長の仕事と変なところで合致しているものだからおもしろい。

 結局俺はその場から動かず。部下たちの働きを眺めているだけで野営の準備は整っていた。

 そして、そんな俺の見事な木偶の坊ぶりに見惚れてか、緑のもじゃ髪が足音を仰々しく立てながら接近してきた。

「ちょっと、さっきからなんにもしてないじゃない」

「そりゃそうだ、オウ──」

「あのへんな……そうっ! ブーメ?って武器がなければ、剣でもなんでも余ってるヤツを使って戦えばいいでしょ! さっきも!」

 いつもの魔法の言葉を言おうと思ったが、させない、させてくれない。見かねたサボり行為を咎めて、クピンが俺の呑気な言葉を遮りながら言う。

 まるで何を言おうとしているのか分かっているように、先手を打ってきたようだ。

 相手が王子でなんであれ、フラットに接しているつもりなのだろうか。いや、フラットというよりは甘噛みか? 少々噛み跡が残るほどの。

 なんてどうでもいいキャラクター分析をしている間にも、ボンボンの王子を睨みつけるそいつの視線はまだ外れない。さすが羊飼いの娘といったところか、統率の乱れは一度ガツンと取り締まらないと気が済まないようだ。

 しかし俺は、彼女がわざわざ鼻息を荒くして説明してくれたようにサボっていた訳ではない。

 武器のボーンブーメが手元になければ戦えない、すごくシンプルな理由があった。

 しかしそれだけで、先の魔物との小競り合いでじっと腕を組み観戦を決め込んでいていい理由にならない。

 ブーメ(ブーメラン)がなければ剣で戦えばいいじゃないと、至極真っ当な代替案をもって羊飼いの娘が七光の王子を叱りつけている。

 しかしのしかし、その現実的な代替案を飲む可能性は──

「馬鹿言え、俺に剣を使わせるな。王ヂだぞ」

「はぁ? ちょっと! それってどういう!」

 限りなくゼロに近い。

 王子という存在が七光を放つそのブーメを使うことに意義があり、逆に俺という存在が剣を使うことは一時の気の迷い以外ではない。

 自分でもすごく奇妙なことを言っている。

 だが、俺がメインの兵装に剣を握るという選択肢は今のところないのだ。

「お前の方がよっぽどヘンだってこと。すっぽんぽん娘」

「はぁ!? す、すすすっぽ!?」

 武器など何も持たない彼女の方が、全てを持っているように見える。

 剣は剣士が握り、魔法師は魔法を練り、プレイヤーは対応策を練る。

 やはりそれがベストだ。

 クピンの入れてきたクレームごと煙に巻いた俺は、風除けに置かれていた緑の陣幕をハードルのようにひょいと飛び越えた。

 剣は持たずとも持てずとも、サボってはいられない。

 部下からの熱い叱咤を受けた俺は、さっそく第九王子旅団の展望を練り直すべく、他より一際豪華なゲルの中へと、たわむ入り口のドレープをくぐり入っていった。






《話題ex》まもののおせわ?


「そりゃわたしもいっ、言えないけどッ。言い方があるでしょうに、ヘンな武器で調子乗っちゃってたからそうなんのよッほんと……」

 ひとり、愚痴る言葉もそのものたちには鼻唄に聴こえたか。平原に置いた簡易な椅子に座り込むクピンは、今寄ってきた魔物たちにペティナイフで皮を剥いて果物の餌を与えた。

「へぇーもじゃこってモテるのねぇ」

「「モテるのねぇ~」」

「モテるじゃないでしょ! ほんとどうすんのこれ……はぁ」

 そのどうぶつたちとの珍しいふれあいを覗いていた、双子とオレンジ帽の仲間に茶々を入れられるも、クピンは即座にリアクションした。

 冗談のようで冗談ではないのだ。しかし、羊や動物と同じように魔物たちも腹を空かせていることには変わりない。

 空飛ぶ奇妙な目玉まで、彼女に餌をねだり細い尻尾でフルーツを器用に巻き取っていく。

「ってこらそこ、岩塩かじらない!」

 羊飼いらしく支給した岩塩のブロック。ミネラルたっぷりな気の利いた塊を、メイヂ馬が舐めていると、横から入った鼠たちがそれを齧りだしたので注意した。








《話題ex》イエローのはなし


 彼女の名は【イエロー・シャインハット】。原大陸にある名のある魔法学校に通っていたが、日々行われる実践的でない学術的なその授業メソッドに疑問を感じていた。ある日、メイヂ国が魔法師を募っているという秘匿の噂を友人からまた聞き、勇大陸へと乗り出す決意を固めた。


 いかにも平凡な理由だった。もちろん彼女のその決意は現実換算すると平凡なものではないが、ゲーム的に言わせると至って平凡で真っ当なものであった。


 王子の憩うゲルに恐る恐るも入ってきたのは、偉そうなとんがり帽子ではない。

 どうやら魔力の調整でその魔女帽子は、ツンツンにも平たくもできる優れ物のようだ。

 そんな帽子の話は路地裏の帽子屋以外どうでもよく。

 イエロー・シャインハット。シャインというよりは今は社員。威厳がなくなってもその平たい帽子をどうにも脱がない彼女のこだわりは気になるが、そんなことはどうでもよく。

 黒い帽と衣によく映える黄色く明るい髪。そんな一人の魔法師らしい魔法師の遅ればせの面接を、今俺は王子として行っている。

 緊急性はないが、自ら赴いてくれたからには済ませておいて損はない。

「ダイヨンからこちらに乗り換えた理由は」

「も、もっと、せっ、戦術的な魔法の使い方を学びたいから……です」

 ぽつんと一つ用意された椅子に座る魔法師は、執務机に偉そうに肘をつく茶髪の王子を緊張の面持ちで見つめ続けている。

 戦術的な魔法の使い方、つまりは実質ドロップアウトしたブール・ロビンゾン第四王子の旅団より、石の軍勢を打ち破った焦げ臭いにおいのするこちらの旅団にその身をベットするといったところか。

 あいにくこちらには優れた剣士は一人だが、優れた魔法師は数名既にいる。あるいはその才その魔力に気づいたか惹かれたか。

 いずれにせよ──

 俺は対面におかれた琥珀色の瞳を宿したツラを見つめ返す、いや、睨み返す。

 そして机上に用意された薄っぺらい資料を眺めながら、判を押そうとした手を一旦とめた。

「いる?」

「……!!」

 緊張の面持ちにながれる、左の鼻穴から赤い鼻水。彼女の熱意の色・現れか?

 俺はちぎって丸めたちり紙を、指先に摘み悩んだ。







《話題ex》使い回しは好まない


 ゲルに籠り、以前とすっかり変わった黒ずんだ骨を手に取り、そこに空いた小さな穴を不思議そうに眺める。後ろに縛った赤髪が頭を抱えたり、掻きむしったり、悩み揺れている。

「このところどころ空いた風穴構造がきっと揚力と舵を取りながら、投げ与えた魔力にシャープさを生み出していて……うーん……こうでもなく、あぁでもなく……だはぁー……」

 最後には力尽きた猫のように作業机に突っ伏した赤髪の娘。その下に敷かれてい用紙を俺は抜き取った。

「おっ、できたか」

「できたもなにも修理とは訳が違うでしょこれ! まだまだ絵に描いた餅の段階で……イチからって感じだし。(実物は焦げちゃってるし)お爺ちゃんも〝これ〟弓や投げ槍とは全く異なる技術が必要なモノだって言ってたし。ひろった骨を合わせてもどうにもならないでしょ。だはぁー……」

 無責任にも呑気な一言を放ったカール王子、その倍以上の言葉が苦悩する見習い鍛冶師から返された。

 座る椅子から振り返り、赤髪のノゾミィはそう言った。ご丁寧にもその芳しくない進捗度合いを説明してくれた。

 壊れたカールの武器は修復の見込みは未だ立たず。ブーメについてその構造を解析するが、お勉強は実らず。ノゾミィは今まで作ってきた武器の応用が及ばない、くの字に曲がったこの全くの専門外に、頭を悩ませていた。

 そらそうだ。なんせこの武器、どこかの星の魔女が魔法を学習するための遊び道具が元なんだと言われている。ところどころ空いたただの穴も理論的な普通の機構で片付く訳がない。

 相当頭を悩ませて苦戦しているようだ。今手に取ったこの設計図未満、論文未満のごちゃごちゃ詰められた書き文字の様相からその迷いが見て取れる。

「親子そろって仕事が遅いな」

「それはそうだけ……い、いまなんて!」

 淡々とした口調で、耳を疑う言葉を聞いたような気がする。再び猫や餅のように机上前方に伸びようとしていた赤髪の娘が、慌てた様相で振り向いた。

「いいから仕上げろってこと。使い回しの過去の遺物に興味なんざ──ねぇっ!」

 それは耳を疑うと同時に、目を疑う光景だった。

 俺は熱心な勉強模様が記されたその設計図を破いた。修復が不可能なほどに破いて破いて、積もったその塵屑をはるか彼方へと舞い上げた。

 いいから作れ、俺はそれしか言えない。失敗作でもなんでも、俺がいいと思えばそれでいいのだ。修復依頼といっても、俺はあのボーンブーメを気に入っているわけじゃない。

 つまり一介のプレイヤーがもっとも安心するものと、もっとも恐れるものは〝イコール〟。


 必死に伸ばしたちいさな手の平のあいだをすり抜ける。火のような赤髪に、雪のように舞いかかる。

 唖然茫然と開いた彼女の口の中まで、とても横暴なその味がひろがった。


 取り返しのつかない粉雪の中、何故目の前に立つソイツは、白いモザイクごしにはっきりと笑っているのか。

 心と頭ごとを破かれた見習い鍛冶師ノゾミィ・ノームには分からないだろう。

 歪んでいて純粋なその底知れぬ欲望、わがままな王子プレイヤーのことなど分かる訳もない。

 仕舞いには手を叩きヤツは笑っている。神様に人生一番の屈辱と衝撃を受けた時のことを問われれば、ノゾミィ・ノームはきっとこの日のことを、指折り数えたその二番目に上げることだろう────。







《話題ex》陥って、穴の中


 厳しい戦いを生きぬき、三人無事にまたここに戻ってこれた。

 替えのきく末端の兵たちにとってそれは祝うべき嬉しいことだ。

 破れた服の修繕や、戦闘で使う剣や斧などの汎用武器のメンテナンス。第九王子の旅団所属のメイド兵たちは、ゲルの中で与えられた雑務をいつものようにこなしていた。

 しかし、いつものように服を編む手先を動かすものの、どこか虚ろな目の色をしている者がいる。

 アレ以来まるで魂が抜けたように、メイド兵の一人ニモアのぼーっとするシーンを見かけることが多くなったのだ。

 いつもの調子ではないことに、この二人が気付かぬはずもなく──

「まぁなんにせよ良かったじゃん。こうして三人無事で。──私はカール王子様のそばから離れなかったけど」

「そうそう。物語はまだつづいているから大丈夫大丈夫。──私もカール王子様のそばから離れなかったけど」

 ナンナとホック、メイド仲間の二人がちょっぴり嫌味のように最後に付け加えた言葉にも、ニモアの反応は薄い。

 大好きなおやつのドーナツにも手をつけた様子はない。全て完全な丸い形のまま皿の上に積まれていた。

⬜︎
一人のメイドが命令に背き、想い人のために抜け駆け気味の暴走をした。しかし、賭したその命は無事。どこかうっすらと元気がない今の彼女の背を見ていると、まるであの破れかけのページに自分の影を置いてきた、そのように思えてしまう。

⬜︎

 ホックは手に取った自分の日誌に、虚ろなニモアのことを盗み見ながらそう記した。

 静かなゲルの内に時々聞こえてくる溜息の音が、しっけたドーナツの穴を通り、二人の耳の穴を通り聞こえてくる。

 ホックとナンナは顔を見合わせて、首を傾げた。そして盗み取ったドーナツの穴から、編み物をするメイドの姿をじっと見つめる。

 丸く抉られた視界に二人が観るニモアの背姿は、さらにその奥を覗いている。


 秘めた恋心と吐き出した衝動のままに走り思い描いていた妄想の先の光景は、ずっと冷たくて、ずっと残酷で、ずっと無意味なものだった。

 しかし、そんなしずむ暗い闇の中に現れた光は、とても熱く赤く瞬いた。

 石の魔虫を斬り裂いたその剣士の名は、その男の名は──やはり一致しない。

 ニモアはぶんぶんと首を横に振り、耽っていた石色のイメージをかき消した。

 『ちがう、そうじゃない』冷たい石床から見上げたその男の背姿を、飲み込み、肯定することが恐ろしく思えた。

 また一から、目に映る白い壁色をぼかしてイメージを展開してみる…………見知らぬ深い穴の中にオチたようだ。

 これでもう何度目だろうか、ホックが手帳に正の字を書いてカウントする。一介のメイド兵、ニモアの吐く溜息は飽きることなく────。








《話題ex》グロウアップ&コンバート?


 鉄剣の柄が焦げている。誰かが握った痕のように、自分の手の平より一回り大きな手がそこにある。

 強くなる方法はここにたくさんある。この旅団には才が才を呼び集う。そんなミエナイ魔法と仕掛けがまだある気がすると、鉄剣を握りしめながら彼は気づいた。


 皆が寝静まった夜。その時に剣を振るのが一番集中できるのは、彼にとって余計なものが何もないからだ。

 ベヌレの街にいた偽父親クズも、顔もよく知らない母親のことも全てが無くなった。これほど前向きになれることはない。

 平原にはぐれたコボルトを今、一匹仕留めた。魔物を狩るぐらいここではできて当然だ。

 しかし阻害するものが何もない自由なほどに、彼にとって今使うその体と、振り下ろすその剣の重さが不自由に思えた。

 殺しの剣を盗むなどと言ったが、このお下がりの剣ですら存分に扱うことはできない。

 剣の刃をじっと見つめながらいると、やけに周りが明るいことに気づいた。

 野営地から離れた場所で火が踊っている。奇怪な鳥が鳴いている。目に見えた明かりの方に、ユウは剣を抜き出したまま息を殺し近づいていった。



 汚い鳥の鳴き声、いや風が鳴っている。

 火元から離れた距離に立てた一台の木の的に向かい、矢を放つ。

 そんな行為を繰り返す青い髪の生物がいた。

 ソイツの傍には体躯に見合う大きな斧が使われずに置かれている。かわりに弓を持ち、近くの地に無造作に突き刺していた矢をまた一本その手に掴み、番えようとした。

 焚き火のあるところで弓矢の修行か。意外な人物が意外なことをしていた。

「全然当たってないな」

 気配に気づかないほどにその弓矢の修行に集中していたようだ。青い女、傭兵アオ・ニオールの後ろに立ったユウはこれみよがしか、剣を鞘へと仕舞う。

 番えていた弓矢の力を緩めたアオは、ユウの投げかけた言葉に振り返り反応した。

「王子に言われたから、やっている」

 巨躯の女は突飛なことを言い出したが、ユウにはなんとなくその予想がついていた。王子の入れ知恵でまた変なことをしているのだろうと。

 主体性のない言葉を発した突っ立つその傭兵から、寄ってきたユウは弓と矢を奪い、狙いをすました────。

「的に当てるぐらいならできる。向いてないことでもやるってのか。アイツが嘘をついていても?」

 身の丈に合わない弓を引いて、少年は見事に矢を遠くの的へと命中させた。それに比べて外れたところに深く突き刺さるのは、努力の証といえば聞こえはいいが、それだけ撃っても当たらぬ矢に意味がないということもまた事実。

 しかし、アオは愚直にもこう答えた。

「強さは嘘をつかない」

「逆に弱くなっちまったら?」

 即座に言葉を返したユウの差し向けた手元から、アオは弓と矢を奪った。

「……かんがえていない。それに、私はすでに弱い。────姉より」

 引き放たれた矢は、とても遠くの闇の奧の景色まで射抜いた。矢の軌道から逸れた途中、不安定に刺さっていた木の的が横倒れになる。

「ハッ……冗談か?」

 辺りを照らしていた火は消えてもなお香る。ゆっくりと立ち上る煙の行方に、青髪は星空を見上げた。

 燻っていた才能が、わずかに瞬いたように見えた。
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