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53⑭

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鞭を振るった辺りを破壊し舞い散った粉塵は収まり。獰猛な魔物の爪痕のようなものがマンションの敷地内に残された。

唐突に披露された桁外れの威力に、

「やっべーあり得ねぇ……なんだよこのオカルトは魔法……? ゲーム、RPG? ケイコさんッこんなに強いなら最初から」

「ホント超凄いよミレー、ケイコさんの技! まさに旧ヒーローの窮地に駆けつけた新ヒーローだよ!」

「旧って……実際に経験するとかなしいななんか。今まで必死こいて夜の古井戸で悪とたたかってたのは旧ヒーローなんだよなぁーー」

「馬鹿を言うな。私もこの武器を実戦で使ったのは初めてだ。もっと練り上げてから子供の遊びに混ざるつもりが……美玲貴様が余計な敵を見つけたせいだぞもっと考えてから行動を起こせ馬鹿」

「イヤあんたが探せって!! てかはああああ子供の遊び!? あんたマ」

「黙れ静かにしろ様子がおかしい」

3人の目の前に横たわるのはケイコの技エレメンタルウィップを貰い腕と脚はあらぬ方向に曲がり再起不能となった厄介だった裏のバトルマニア。
3人がべらべらと戦闘後の高揚感で騒いでいたのも、流石に既に彼が息絶えたものだとその様子から確認されていたからだ。

その死体の様子がおかしい、そう言ったケイコ警部。

ずるりずるり。

辺りに転がっていた黒い鉈が磁石のように、だがゆっくりと中へと引き込まれ横たわる男に吸い込まれていった。

ばきりばきり。聞こえる異様な音、蠢くその物体に3人は身構える。

そして血まみれの死体はむくりと起き上がった。


「ナッ!? アイツまた起きやがった!! 死体だぞおい!!」

「ええーーーー!? 不死身なんて設定もういいよーー!!!!」

「殺したハズなのだがな…………フフ、夜と死なんてオカルトはいらないぞ」

非常な異様さがこの場を包む。

肩を慣らし、揉み。手の平と甲をぐるり回して不思議に見つめ。まだ生地の残っていたダメージジーンズの埃を手で払い、乱れた髪をバックまでかき上げた。

「ふむ。これはこれは人間の身体、そして鬼達の現世か。まさか私が早々に御伽噺の舞台に来れるとはな」

立ち上がった死体は自身の鳩尾みぞおちの辺りに右手をかざし、中からナニかを取り出した。
心臓のように鼓動を打つ裏のバトルマニアの使っていた黒い鉈。黒い血管のようなツタが絡み生命と武器が合わさったような様であり。
死体はソレを手に持ちおもしろそうな表情で眺めた。

「なるほど、これには私が願掛け程度に仕掛けた特性悪魔球が使われていますね。私の発明にこのようなことをするとは狂っていて素晴らしい! ……君達の発明かな?」

「なんだ貴様は、さっきのヤツと違うな二重人格か。二重人格であれ三度は殺す気でぶちかましたハズだぞ」

「フムこの身体は君達の敵だったかそれは申し訳ない。とまぁ、私も御伽噺のセカイに来たばかりでよくは分からないのでね。おっと名乗り忘れていたな、私は悪魔ジバベルよろしくたのむよ人間」

「悪魔……なんだよそれ……」

「死体が生き返るなんて悪魔だよミレー……」

「せめて妖怪だろ、悪魔なんて唐突過ぎて頭おかしいだろ!」

「フフ、本当に頭がおかしいようだな古井戸は」

「たのしげなところに申し訳ないな。ふふ私も目覚めたばかりで時間もなさそうだ」

「ではさっそくだがタイムリミット前に現世での私を色々と試させてもらおう。実験だ武器を取れ人間の戦士達」


黒い鉈を裏のバトルマニアの身体の中に仕舞い込んだ悪魔ジバベル。ネズミパーカーはもはやバトルで吹き飛び上半身の裸体にダメージジーンズ。
死んだはずの男が再び立ち上がり武器を取るようにオカルト探偵部の面々に向かい言い放った。

敵に言われなくてもその有り得ない不可解過ぎた目の前の現実に対し既に戦闘体勢。

鍋の蓋は右腕に装備され、後ろに下がった素手の拳には青いオーラがチャージされていく、そして黒い鞭はしなり地に打たれた。



悪魔ジバベルと名乗り出した生き返った汚い金髪男の死体はそれまでの戦い方とは全く違い。

【悪魔ランス】
黒く発光する魔法陣を複数構築。宙に展開した黒いオーラの槍がオカルト探偵部の面々を襲い続けていた。

「いいですよォォこれはいい実験になりますふふよく動けますね。篭りがちな私と違い、君は戦い慣れているようですね」

「この身体の持ち主も素晴らしい戦士。そうですね……タイムリミットはどうなのか? あなた方はこのシステムを発明した方をご存知ですか?」

可黒美玲は臆しながらも臆している場合ではない、パーティーの盾役として鍋の蓋を消費しながらケイコと子春に向かった魔法の槍を防いでいく。

「ッほんとに魔法じゃねぇか、これっ!!」

「美玲、ヤツに突っ込んで全力で時間を稼げ。妙なマジックを使うがただの飛び道具だ動き自体は殺した男より大したことはない、お前なら対処可能だ。それにこちらに長期戦をしている余裕はないぞ!」

「ハァハァうぜぇ弾幕ッ何かあるんですか!」

「私の技は子春と同じ充電可能だまだまだ先がある、お前は1人で死ぬまでヤツを抑えろ命令だ。失敗したら全力で私と子春は逃げるぞ」

「俺を囮に逃げるってマジかよあんた……それは現実的な良い案、分かったァァァ!!!!」

明確に納得のいった作戦にそう叫びすぐさま隙を見て上空に投げ上げたカラフル石。

下準備を済ませた可黒美玲は敵の飛び道具に対抗すべくサン弾32の石をお見舞いした、彼のまりょくはこの電子のセカイの主人公仕様、たたかいの最中も僅かづつながら自動的に回復されていき継戦を可能にしていた。

バラバラと汚い金髪の死体に向かい広範囲に撒かれた石の数々。
それらは黒く発光した宙に浮かぶ魔法陣を貫き次々に破壊していった。

「私の魔法を破るだと?」

「石が当たったときイビツにブレていたぜあんたの魔法、だったらど真ん中ブチ抜けば」

「そんなお絵描き魔法陣なんて石以下なんだろ! こっちのオカルトの方がダンチで速いっての鈍足悪魔野郎」

「ふふ君はおかしいですねェェおかしな人間はおもしろい!」

「こんな深夜に騒ぐお前らがおかしいんだぜソレのレベルに合わせてやってんだよッ! 【サン弾】!!」

「それはそれはふふ申し訳ない【悪魔シルドⅡ】」

悪魔ジバベルは黒い卵のような殻に閉じ籠り可黒美玲のサン弾は弾かれ防がれた。悪魔シルドでオカルト探偵部の攻撃を防ぎ悪魔ランスで寄せ付けない、そんな実験戦闘を行っていた悪魔ジバベルであったが。

可黒美玲の奮闘により悪魔ランスは止み隙は作られ、技は十分に充電された。

「いくよミレー!! 【オーラ張り手】!!!!」

荒々しいオーラのグーパンチが殻にめり込み青い特大パーオーラが全てを破り砕いた。当たれば威力は十分、悪魔相手にも通用した旧ヒーローの技。
剥き出しになった中身の悪魔ジバベルはすぐさまバックステップを踏み戦いの流れ通りに距離を取ろうとするが。

「ばっちり!! チンピラに悪魔を倒したら次はなんだ! 地獄にもいねぇだろ!」

「俺のオカルト全部もってけよ【サンライトバースト】!!」

下準備、成したその準備。上空に投げ上げられていたカラフルパワーストーンの数々は可黒美玲の指示のもと悪魔に向かい降り注いだ。
カラフルレーザービームが大地に次々と突き刺さり地を抉り、後退しようとしていた悪魔ジバベルの身体にぶち当たり逃がしはしない。

「ッぐこれは強烈なッ」


「よし練り上げた」

緑、赤、青、赤、青、黒。両腕で鞭の中途と柄を持ちながら練り上げられた出鱈目なカラフルオーラ。

ケイコが編み出した充電可能なその技はフルチャージされ。

「フフ、技はド派手に子供の遊びは全力でやらないとな」

圧倒的な高揚感とチカラの塊に身は支配される。黒いライダースーツ、全身黒のオーラになびかせる黒い長髪。カラフルに貫かれた悪魔に迫った悪魔は。

「エレメンタルウィップ」

鞭打った。

瞬間黒のオーラは緑に切り替わり。8つの風の刃が敵を斬り刻む。続いた赤いオーラと鞭、豪炎が敵を呑み込み、青い氷で成したさそりの尾が悪魔の胸を貫く、赤い炎の蛇は巻きつき獲物を燃やし、氷の薔薇いばらの連打が犯罪者を痛めつける。

そして切り替わった黒のオーラ。

「フフ、こいつは当たりだもってけええええ古井戸!」

天から地へと振り下ろし脳天を撃ち抜いた黒鞭。伝染した激しい黒雷こくらいが全てを燃やし悪の存在そのものを打つ。


レベル違いの武器、レベル違いのケイコの連撃技が決まり。悪魔ジバベルその存在を黒く燃やし。


「おーーすごいッ悪を、悪魔を討つヒーロー!!!!」


「ハァハァ……はははこれが大人でヒーロー……かよっ、ははははは」



ラヴあス2、深夜の古井戸町を捜査するオカルト探偵部ルートでのみ主人公可黒美玲の仲間になるケイコは特殊なキャラであり。その仲間になる条件もケイコの裏の顔であるSMクラブで人脈を駆使して裏のバトルマニアが現れるタイムリミットまでに神器を探し出さねばならない非常に難しいものであった。初期技にしては非常に強力な溜め技を持ち炎神の子孫にしか使えないはずの炎属性までその博打技のエレメンタルウィップのランダム性に組み込まれている。



一つの技による数多の属性鞭で身を打たれよろよろと黒く燃え盛りながら後ろに下がった悪魔ジバベル。

だが悪魔は倒れない、大ダメージを与えたはずが光の粒へと還らない。

黒を纏い立ち尽くす異様な光景にケイコ、オカルト探偵部の面々は違和感を覚え悪魔ジバベルに対しフォーメーションを組み直した。
この悪魔は異様全くもって油断はならない。

「ケイコさん、ちゃんとぶっ殺しましたよね! 手加減してませんよね!」

「あぁヤツを15回は殺した! 悪魔より悪魔になったつもりだ!」

「喋ってるより今がチャンスだよミレーケイコさん! 蘇ったらぁ、即倒して死体にすればいいっ!」

「そりゃそうだ! 充電しておけ子春ケイコさん!」

「言われなくてもだ……!」

目の前の不気味な現実に対し技をチャージしていく子春とケイコ。これ以上があった場合に備えて戦闘のイニシアチブを取るためである。

そして、黒い炎が収まり止んだ。味わい尽くすように全てを受け止めた悪魔。エフェクトは消え失せ顎と頬を右手のひらで何度もさするようにし、薄い笑みを浮かべた。

「ふふふ、そんなに構えないで下さい知恵を絞った素晴らしい戦い素晴らしい技と戦闘力でした。私自身の試運転、実験は終了です、私にもうあなた方への敵意はありません」

「何サンザン身勝手なこと言ってんだよおい!」

珍しく口調が熱くなる美玲に対し、技の充電を一旦やめ不意に黒い鞭を地に打ったケイコ。

「待て美玲。冷静になれ、ヒーローの最高の技は決まって手負いの悪は去る。戦いは終わりだ、終わらせろ!」

「はぁ!? ってんなバカなヤオヒーローが」

「これが終わりなの!? 納得いかないよミレー!」

「納得ってそりゃァ俺も、終わりそうで……全然終わらなくて今度はこっちが自衛やめて平和的に終わらせないといけないのかよ! なんだよそれ! そんなの頭おかしくなるだろッ!」

溜まったフラストレーションをすっきりとしない黒髪を無茶苦茶に掻きむしりぶつけた。
ここまで戦ったのに全く納得のいかない結果に行きつこうとしている、その気持ち悪さに、

「そういう戦いもある美玲子春。単純に考えろ凶悪な犯罪者の男は死んだ、訳の分からない理由で死んでいた多くの市民の命が救われた。私たちの勝ちだ。ここで命を奮ってふざけたピエロの悪魔を倒しても世の中はおそらく変わりようがない、誰も知らない神様が喜ぶだけだ」

「……はぁマジかよそんなヒーローフツウじゃないっての、どうしてこうシンプルにスッキリさせてくれないのやら」

「私はどちらでも構いませんがミレーくん、意外と熱血も持ち合わせているのですね人間の戦士として悪魔という存在はやはり許せないものなのでしょうか。私も、ふふあなたに選択を委ねましょう。……しかし戦いはあまり得意ではないのでこれ以上のダメージを受けるのは……人間と悪魔どちら側であれ、きっと困りますねぇ」

それは明らかに余裕の、高みの、表情。人の身を勝手に乗っ取ったムカつく悪魔がそこにいる。

「委ねるつもりなんて一切ねぇだろ……さっさと帰ってくれ鈍足悪魔野郎!」

「ふふ、やはり期待通り君はおもしろい人間です。ひじょーに気に入りました、私の」

「気に入ってんじゃねぇよ大迷惑だ。さっさと俺の古井戸から出てけよ! 他所で猫でも飼って一生静かに過ごしとけっての! ついでに猫さんの悪魔的なかわいさでひっそり悶え死んどけ悪魔!」

「ネコさんとは何でしょうかふふ。さっぱりですが酷くミレーくん君のナワバリをお邪魔しすぎたということは分かりました」

「フフ、本当に邪魔が、邪が多すぎる町だ」

「そうだそうだー! 古井戸は他所者にすっごく厳しい町なんだからね! 別所水産本店のちくわでも買ってけドロボー!」

得体の知れない悪魔にはもうご退場を願いたい、それがこの場のヒーローたちの総意であった。

「ふふ私のような厄介者の他所者は相当に嫌われているようですねぇ」


「ふむ。さてさてこれは本当に予想外、悪魔球もない人間にここまでの戦闘力。私に武器がないとはいえどのようなカラクリがあるのでしょうか、ひじょーに」

「……おやっ」

「さて少し調子に乗りすぎましたこのまま去ってもいいのですが、私の本業は悪魔ならば奮闘した戦士には褒美を上げましょう。……呪いとチカラの、ではまた会えたらいいですねふふっ」

長々とそう言い残し悪魔ジバベルは警戒し構えるオカルト探偵部の面々を指差し背を向け走り去っていった。
アニメの悪役のように不意に闇に溶け消えたりはしなかった、確かに存在した悪のその背姿を。

「やっと行きやがっ」

「やれやれ本当に古井戸は狂っているな、フフ」

解けた緊張。その強張っていたチカラを解放しようと喋り始めた面々だが。


突然、その場にチカラなく。

美玲と子春が糸の切れた人形のように倒れた。

「ナニが!? 美玲ッ子春ッ────」

突如の現実的ではない事態にケイコの必死の呼び掛けがつづく。横たわった2人の身体は目を瞑り全くその場を動かないで冷たい地に伏している。



裏のバトルマニアは死に悪魔ジバベルは去り、オカルト探偵部は古井戸の一時の平和を守り勝利した。だが、可黒美玲と虎白子春は悪魔ジバベルの贈り物。拾い上げポッケに所持していた悪魔球による悪魔システムをその身に組み込まれ呪われてしまいヒーローの2人は地に倒れた。



こうして古井戸の長過ぎる夜は明け、混じり合い引き返せなくなった様々なサダメを乗せて電子のフルセカイ、ラヴが溶けるほどあなたがスキよ。2の物語はつづいていく。
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