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後日談3 京都旅行 / 相川湊
【3】キスマークと歯型
しおりを挟む恭介さんと手を繋いで町家に帰ってきたら、二人とも無言で二階に上がって寝室に駆け込んだ。だけどそこにあったのは、まっさらな和室で。ここはホテルとか旅館じゃないから、お布団は自分たちで敷かないと駄目なんだ。
「出かける前に、布団敷いておけばよかったな」
「……それはちょっと、気が早すぎると思います」
僕がそう答えると、恭介さんが「それもそうだ」って言って笑ったから、僕も笑った。
そして、二人で協力して布団を敷いた。学校の旅行で、みんなであーだこーだといいながら布団を敷いたときみたいだ。勿論、僕と恭介さんはそんな時期に出会っていないので、一緒にやった経験はないのだけど、こういったことを恭介さんと一緒にするのもなんか新鮮で、僕の胸はずっとドキドキしっぱなしだった。
僕たちが借りた町家の近くにも一つ鉾が建っていたので、部屋の中まで祇園祭のお囃子の音が聞こえてくる。山鉾というのは、祇園祭で曳かれる山車のことで、山というのが小さいもので鉾というのが大きいものらしい。
部屋の雰囲気と、外から聞こえてくる高音の笛と鐘の音と、浴衣姿と。非日常な空間に二人でいるということに、のぼせてしまったみたいだ。さっき浴衣のまま布団を敷いたから、二人とも着崩れてしまった。胸元の部分がはだけてしまっていて、そこから素肌が見えている。いつもとは違った見え方に、僕の視線はそこに釘付けになる。
「湊が色っぽいからドキドキしてる」
「恭介さんのほうが色っぽいと思います」
二人とも布団に向かい合って座っていたのだけど、僕は身体を前に倒して、浴衣の隙間から恭介さんの素肌に触れた。左手は布団について、もう片方の手で肌の表面を撫でる。僕たちはさっきまで屋外に居て、外は少し暑かったから、肌がしっとりと汗ばんでいる。ドクドクと心臓の音が伝わりそうだ。その心音は、僕のものなのか恭介さんのものなのか。
恭介さんも手を伸ばしてきて、僕は優しく布団の上に押し倒された。そのまま自然と唇が合わさる。
キスの後、「湊に痕をつけたい」って恭介さんが言ったから、僕は「いいですよ」と答えた。
衿の部分を大きく開かれて、恭介さんの眼前に露わにされた素肌に吸い付かれる。チリっとした痛みがあって恭介さんが顔をあげると、そこには赤いキスマークがついていた。恭介さんから愛情の証をもらったみたいでなんか嬉しくなる。
「僕もつけたいです」
そう言うと、「つけて」って言って恭介さんが襟を開いてくれた。僕も恭介さんの真似をして胸元にチュッて吸い付いたけれど、力が足りなかったのか色は変わらなかった。
僕が失敗した場所をじっと見ていると、恭介さんが気づいて「もう一回する?」って聞いてくれたから、再チャレンジしたんだけれど、やっぱり上手くできなくてうっすらと色が残っただけだった。
「湊、噛んでみる?」
恭介さんに言われて、僕はパチリと目を開く。噛む? どこを?
僕が悩んでいると、恭介さんが袖から腕を抜いて二の腕を僕の口許に近づけてくれた。口を開いて歯を立てる。弾力のある肌が僕の歯を押し返す。「もっと、力入れてみて」って言われたので、顎に力を入れて噛みつく。僕は恭介さんに頭を抱き込まれるような姿勢になっていたので、耳に息が掛かって擽ったい。「耳、感じるんだ?」って言われたから、僕は返事をする代わりに更に力を込めて恭介さんの肌を噛んだ。
キスマークは残せなかったけれど、僕は恭介さんの肌に歯型を残した。
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