捨てられオメガは純情ビッチ~王太子に婚約破棄されたら隣国の騎士団長に溺愛されるなんて聞いてませんが?~

夏芽玉

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8話 娼館

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 僕は馬車から降りて、目の前の建物を見た。
 貴族街の中心からはかなり外れているというのに、えらく立派な屋敷だ。
 こんなところに住んでいる貴族なんて居たっけ?
 小さい頃から、国内貴族の情報は頭の中に叩き込まれてきたけれど、こんな不便なところにこんなにも大きな屋敷を建てる貴族に心当たりはない。
 
「えーっと、ここは……?」
「娼館です」
「娼館!?」

 想像もしていなかった単語がテオの口から飛び出してきて、思わず声がひっくり返ってしまった。

「なんで……って、ああ!?」

 さっき、テオは「その道のプロに聞いてみるのがいいのでは?」って言ってたけれど、その道のプロってもしかして、そういう……!?

「さ。中に入りましょう」

 こんなところに来たのは初めてだけど、ここがどういったことをする場所かなんてことは、流石に僕だって知識としては知っている。

「え、でも……それは……」

 思わずキョロキョロとあたりを見回してしまう。
 第一王子の婚約者である僕がこんなところに来ているのを知られたら、変な噂が立ってしまう。貴族たちは噂好きだから。
 ……いや、もう婚約破棄されているのだから、僕がどこで何をしたとしても問題はない……のかもしれないけれど……

「あまり長時間ここに立っているほうが目立ちますので」

 それもそうだけど。
 まだお昼にもなっていない。
 こういうところは何時から営業しているのだろうか。それに……

「えっと……でも、大丈夫なの?」

 こんなところをウロウロしているのを見られるのもマズいけれど、どんな店かもわからずに入るのはもっとマズい気がする。

「ここは貴族街にある唯一の娼館で、貴族御用達のお店です。最高級のサービスを売りにしています」
「へぇ……」
「ちなみに、貴族街の外にも似たような館はありますが、そこにはお近づきになりませんように」
「え!? なんで……!?」
「売られますよ」
「は、はは……」
 
 何を、とは聞かなかった。
 これでも僕自身も高位貴族ではあるので、身柄だって、僕が漏らした情報だって、使い方によっては価値がでるだろう。
 ちょっとした好奇心で身を滅ぼしたいとは思わない。

「ここは、大丈夫なんだよね?」
「はい。館内の防犯対策は勿論、顧客情報の管理も徹底されていますので」
「そ、そっか……」
  
 なんでそんなことまでテオは知っているのだろう……とは思ったけれど、そこまで言うのであれば、信頼できる店ということなんだろう。

「ただ、本来であれば、あらかじめ来訪を伝えてから来るべきなのですが、今日は急だったので……」
「ああ、いいよ。せっかく来たんだから、中で多少待つのは構わないよ」

 僕はテオに案内を任せて、店に入ることにした。



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