【BL】眠りたくない夜には嘘を織り交ぜて

一月ににか

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過去篇

ぼくらは恋を自覚する(仮)4

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「ふぅん。それで、慶太は今日もまた昴を家に泊めるわけだ」
 電話の向こうで、桐岡はやけに棘のある言い方をした。

 場所をダイニングテーブルに移し、慶太は今日二回目の電話を掛けた。
 夕食後でもいいかと思ったが、さきほど会話の途中で電話を放ってしまったのでそういう訳にもいかない。
 スマホには「ちゃんと後で説明しろよ」と、状況を察したメッセージが入っていた。

「なにか不満でも?」
「いーや。別に」

 いくら慶太に丸投げしたとは言え、桐岡も当事者であり、それなりに昴のことを心配していた。詳細はかなりぼかしたにしろ、きちんと事の顛末を話したうえでの反応がこれだったので、慶太の声は低くならざるを得なかった。

「こんなに良くしてやってる先輩の俺でも、お前の家に行ったのは数えるほどだし?
 泊ったことなんて一度もないなぁと思っただけだ」
「子供みたいな言い方を」
「俺は子供じゃありませーん。本物はお前のところにいるだろ」

 辛辣な言葉におふざけのニュアンスを感じ、安堵して視線を向けると、昴は目をまん丸にして慶太を見つめていた。
 電話越しの桐岡が、警察署で会話した印象と異なるのだろう。
 慶太自身も話していて引くほどだ。大丈夫だと手で合図を送り、慶太は会話を続けた。

「何か、仕事で嫌なことでもあったんですか」
「全然。今が面白いだけだよ」
「はぁ? 面白くないじゃなくて?」
「ああ。面白いよ。やっとお前にも隙ができたというか、揶揄からかいがいのある人間になってくれたなって」

 八つ当たりかと思ったら、単純に茶化されているらしい。
 慶太が渋い顔をすると、反対に昴がくすくすと笑った。

 今日の昴は、今までよりもずっと感情豊かで表情がころころと変わる。
 つられて慶太が微笑むと、昴はふいと目を逸らした。スマホを操作しているかのように装っているが、指先は全く動いていない。
 互いに踏み込んだ話をしたためだろうが、こうもいちいち照れを見せられるとこちらまで変に意識してしまう。
 慶太は乾いた喉にお茶を流し込んだ。

「慶太、聞いてるか。お前」
「はいはい。聞いてます。そういった揶揄いは謹んでご遠慮申し上げます」
「遠慮は無用だ。肉も好きなだけ食べるがいいさ。ただし、特上は一皿だけな。後は並みで頼む」
「そっちは遠慮しませんけど」
 慶太が突っ込んで返すと、桐岡は流れを変えようとひとつ咳払いをした。

「昴が退屈するだろうから、さっさと話を詰めるか。
 俺は別に今からでもいいけど、どうする?」
「ええと……」

 慶太は腕時計を確認し、昴の顔を見た。
 作り置きのカレーを使ってドリアでも作ろうかと話はしたが、やるべきことを先に済ませようと、まだ調理には取り掛かっていない。
 昴は食べ盛りの年齢なのだから、ドリアよりは肉の方が喜ぶだろう。午後八時と時間は少し遅いが、昴が望むなら行けなくはないと慶太は思った。

 けれど、昴は大きくかぶりを振った。続けて、声を出さずに何かを言っている。
 くちびるを読むことができずに慶太が首を傾げると、昴は文字を入力したスマホの画面を見せてきた。

『ぼくはカレードリアがいいです。明日はだめですか?』
 液晶の向こうには、控えめにようすを窺ってくる昴の瞳がある。

「今日はもう食事の用意してるので、明日にできませんか?」
「明日なぁ。……わかった。調整しておく」
「ありがとうございます」

 難しいかと思ったが、桐岡はすぐに了承した。
 あまり長引かせたくはないのだろう。

「店の予約入れてから、後で連絡する。
 もしかしたら少し遅れるかもしれないが、文句言うなよ」
「その時は勝手に注文して食べておきますんで、会計だけお願いします」
「言うようになったな、お前も」
「良くしてもらってる先輩に、親しみを感じて貰おうと思って」
「結構なことだよ」

 桐岡の声は呆れまじりだがやさしかった。
 慶太の目元が綻ぶ。
 自分と昴は事情が全く違うが、甘えてほしいと願うなら自分も甘えることを実践してみようと思った。今のは多分、悪くなかったはずだ。

 電話を終えると、昴が深く息を吐いた。
 脱力して、スマホを持ったままテーブルに突っ伏す。

「桐岡さんは昴が聞いてる前提で話してたんだから、普通にしててよかったんだぞ」
「そうなんですけど、なんとなく」

 なんとなく、なんだろうか。
 慶太は言葉の続きを考えた。怖かった。嫌だった。どちらもしっくりとこない。
 昴の性格を踏まえるなら、居心地が悪かった。それが一番近いだろうか。

「これで互いに義理は通しただろう。少しは肩の荷が軽くなったと思うが」
 昴は頭を撫でられ、顔を上げた。
「里崎さんって、寡黙な人かと思ったら意外と弁の立つタイプですよね」
「そうか?」
「ぼくが一番言いたくないことには触れないで、相手を納得させてるじゃないですか。うらやましい」

 昴が言っているのは、今の話ではなかった。
 その前の、昴の父親との会話を指している。

「こういうのは慣れだよ。でも、相手がやさしかったのが一番大きい」
「そう思いますか?」
「ああ。お前のお父さんはやさしいよ。聞きたいことはもっとあったはずだ。
 でも、オレ達のことを信用してくれた。昴の居場所を奪うようなことはしたく無かったんだろう」
「そういう……ものですか」
 昴は釈然としないようすで視線を落とした。

 慶太が昴に出した二つの条件。
 それは桐岡との約束を果たすこと、昴の両親から外泊の了承を得ることだった。

 家出の理由を話したくない昴はもちろん難色を示したが、慶太はそこは伏せていいと断言した。昴の家族関係が悪くなるようなことはしない。必要な嘘はいくらでも吐いてやると。

 それでも、昴の不安が拭えたわけではない。
 呼び出し音の最中、昴は緊張から顔を青くしていた。
 けれど、電話を代わってもらい実際に話してみると嘘はほとんど必要なかった。

 出会ったきっかけを補導から捜査協力に変えただけで、昴の父親は二人の交友関係に納得してくれた。それどころか、昴に頼れる相手がいて良かったと感謝されたくらいで、頭の中でさまざまなシミュレーションを行っていた慶太は罪悪感さえ覚えた。

 感傷的になっているせいで見落としているようだが、昴はきちんと両親に心配され、信頼されている。
 昴の身なりや言動からそれなりに自信があったとはいえ、昴が大切に思われていることがわかって慶太も安堵していた。

 バランスやフォローが万全でない可能性は十分あるが、それは一朝一夕でどうにかなる話ではない。
 自分が居場所になることで少しでも昴が生きやすくなるなら、いくらでもそうしようと思った。

「オレが警察っていうのも大きかっただろうがな」
「それは否定できませんね」

 慶太はにやりと笑った昴の頭をもう一度撫で、席を立った。
 キッチンに向かう足を止め、振り返る。

「今日はオレが夕食を作るが、今後も継続的にうちに来るって言うなら、昴にも手伝ってもらうからな」
 ぐしゃぐしゃになった髪を整えていた昴が、はみ出しそうなくらいの笑顔を浮かべる。
「今から手伝います!」
 勢いよく背中に抱きついてきた昴の瞳は、ほんの少しだけ濡れていた。
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