【BL】眠りたくない夜には嘘を織り交ぜて

一月ににか

文字の大きさ
17 / 17
過去篇

ぼくらは恋を自覚する(仮)6-3

しおりを挟む
「昴、話は終わったよ」
 父の呼び声に、昴はすぐに姿を現した。二人がどのような話をしていたのか気になっていたのだろう。その顔は緊張の色を帯びていて、少し疲れているように見える。

「父さん……」
 不安げに指先を交差させながら、昴は親の顔色を窺った。
 慶太には理解のある父親に思えたが、昴にとっては違うのかもしれない。それだけ、昴は普段からわがままを言わないのだろう。

「大丈夫だよ。父さんは反対しない。昴のしたいようにしていい。
 お前に負荷がかかってないはずがないのに、気付けなくてごめんな」
「ううん。父さんも義母かあさんも、大変なのはわかってるから」
「……昴が聞き分けのいい子に育ったのは、父さんのせいだな」

 父親に頭を撫でられて、昴は喜びよりも戸惑いの表情を浮かべた。それは当然父親にも伝わり、二人の間に何とも言えない空気が流れる。
 不器用な親子のやりとりを見ていると、どうにももどかしい。
 何か声を掛けるべきかと慶太が頭を悩ませていると、その気配に気づいたのか昴の父が振り向いた。

「昴とは、もう少し膝を付き合わせて話をします。心配をおかけしてすみません」
「いえ、じゃあ、オレはそろそろお暇します」
 昴は大人二人が挨拶を交わしている間に靴を履くと、慶太の隣に立ち腕を取った。
「父さん、ぼくバス停まで見送ってくるから」
「ああ」と頷く昴の父はほんの少し寂しそうに見える。

「里崎さん、今日は本当にありがとうございました。昴のことをよろしくお願いします。これからも仲良くしてやってください」
 一回り以上離れた相手に深々と頭を下げられ、慶太は焦って言葉に詰まった。
 それは昴も同じで、父親の予想外の姿に目を丸くし、遅れて同じように頭を下げた。
「そんな改まらないでください。昴まで」

 顔を上げた昴と目が合う。昴はイタズラっ子の顔で笑った。
「慶太さんが慌てるところ、初めて見たかも」
「コラ、昴。困らせるようなことを言うんじゃない」
「ごめんなさい」
 父親に諫められて、昴はしゅんと肩を落とした。
「大丈夫ですよ。それでは、失礼します」
 慶太は軽く会釈してからドアを開けた。一歩踏み出そうとした足が止まったのは、腕を掴んだ昴がその場から動かなかったからだ。

「父さん、理解してくれてありがとう」
 ドアを閉じる間際、不意打ちで投げ込まれた言葉に昴の父は顔をくしゃくしゃにして笑った。



 外に出ると、薄雲に和らいだ太陽の光が降り注いだ。陽は少し傾き始めているが、地面は充分に熱されている。その上を通り抜ける風は、生ぬるいけれど心地いい。
 慶太はめいいっぱい空気を吸い込んだ。
 手土産を渡した分身軽になったのは確かだが、それ以上に心が軽くなった気がする。

「父さんと、どんな話をしたんですか?」
 角を曲がり、家が見えなくなってから昴は慶太の腕を引いた。
「父さんのことを考えると、言えることと言えないことがあるな」
「ぼくは言えないことの方が知りたいんですけど……。でも、いいです。言えることだけ教えてください」
 少し不服そうにくちびるを尖らせる昴を、慶太は眩しそうに見つめた。

「お父さんは昴のことを一生懸命に考えていたよ。昴に悲しい思いをさせていたんじゃないかって気にしてた」
「そうですか」
「信じられないか?」
「信じる信じないというより、実感が湧きません。
 放置されていたって拗ねてるんじゃありませんよ。ぼくのことを気にする余裕さえ、父さんにはなかったんじゃないかって思ってるだけです」
「じゃあ、どうしたらいいと思う?」

 慶太の問いかけに、昴は目を伏せた。
 昴は、蓮人を放って自分にだけ構って欲しいなんて考える人間ではない。けれど、どうしてほしいかが自分でもわからないから、昴は希望を口にすることができなかった。
 慶太は立ち止り、昴の返事を待った。現状の理解は、昴にとっても必要なことだ。言語化させることに意味がある。

「……わかりません」
 期待通りの返答に、慶太はよしよしと昴の頭を撫でた。
「お父さんもそうなんだよ」
「そう、ですか」
「だからと言って、昴が寂しいのを我慢する必要はない」
 腰を屈めて、慶太は昴と視線を合わせた。

「その分、オレに甘えていいから。いつでもうちに来ればいい」
「本当に? いいの?」
「ああ。お父さんもいいって言ってくれただろ。他に誰の了承がいるんだ?」
 大きな目が不思議そうに揺れる。数秒の沈黙の後、昴ははっとしたようすで慶太を見つめ返した。

「昴のことを許せるのは、昴だけだ」
「だって、……うれしいけど、際限がないのは怖いです」
「昴はそういうところ下手だもんな。変に我慢するなよ。オレはもう、そういうの勘弁だからな。どれだけ心配したと思ってるんだ」
「ごめんなさい……」
 慶太はやさしく微笑むと、わざと髪型を乱すように強く昴の頭を撫でた。

「じゃあ、取り合えず泊りは週末に、二週間に一度を限度とする。昴が家に一人になる日があるなら、その時もうちに来い」
 昴は無言のまま頷き、慶太のシャツを掴んだ。
「平日に来たかったら学校帰りに寄ってもいいが、残業の可能性もあるからな。前もって連絡すること。泊まりはなし。八時までには家に帰ること。あと、勉強は疎かにするなよ」

 門限は昴の父と決めた。向こうは昴を信用すると言ってくれたが、線引きはしておいた方がいいと慶太から提案した。
 一昨日やっとわかったことだが、慶太の家は昴の家と学校の間にある。昴が言うには、今まで何度か家の近くまで来ていたらしい。いじらしいと思うが、そんなことをするくらいなら遠慮などせずに家に来てほしい。迎えに行ってもいい。

「何か問題はあるか?」
 昴は首を振り、恥ずかしそうに視線を逸らした。頬が紅潮している。
 瞬きすると零れそうな、潤んだ瞳に慶太の胸は締め付けられた。住宅街の一角に人の往来はないけれど、誰の目に触れるかわからない。引き寄せたい衝動を必死に抑える。

「慶太さんは? 困りませんか?」
 昴の声は小さくて、聴き取ろうとすると自然に距離が縮まる。
「オレは特に趣味もないし、仕事以外の時間は何もしてなかったからな」
「食費とか、他にも……」
「それは昴のお父さんにも言われたが、受け取るつもりはない」
「でも」
「オレは昴が笑ってくれるならそれでいい。宿泊業をしているつもりはないぞ」

「じゃあ、明日遊びに行ってもいいですか?」
「ああ」
 おずおずと尋ねた昴に、慶太は当然と言わんばかりの顔で応える。
 昴は満面の笑みで慶太の首元に抱きつき、我に返ってすぐに離れた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

30歳の誕生日、親友にプロポーズされました。

BL
 同性婚が認められて10年。世間では同性愛に対する偏見は少なくなってきた。でも結婚自体、俺には関係ないけど…  缶ビール片手に心を許せる親友と一緒に過ごせればそれだけで俺は満たされる。こんな日々がずっと続いてほしい、そう思っていた。  30歳の誕生日、俺は親友のガンちゃんにプロポーズをされた。  「樹、俺と結婚してほしい」  「樹のことがずっと好きだった」  俺たちは親友だったはずだろ。結婚に興味のない俺は最初は断るがお試しで結婚生活をしてみないかと提案されて…!?  立花樹 (30) 受け 会社員  岩井充 (ガンちゃん)(30) 攻め   小説家

片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

処理中です...