かなざくらの古屋敷

中岡いち

文字の大きさ
23 / 97

第七部「猫の目」第4話

しおりを挟む
 気怠けだるい朝だった。
 妙な疲労感が残ったままの朝。
 この街に来てから萌江もえ咲恵さきえも感覚が鋭くなっているのは自覚していた。
 刻一刻とその感覚は重くなる。
 しかもお互いに、何か大きな〝壁〟を感じていた。
 何かに妨害されている感覚。
 誰かにシャットアウトされている感覚。
 それが常に消えない。
 萌江もえが枕の上で顔を横に向けると、そこにはまだ微かに寝息を立てる咲恵さきえの寝顔があった。

 ──……円満な解決はない…………

 それは咲恵さきえも分かっているはず。萌江もえはそう思いたかった。

 ──……でも……それが私たちが望んだ仕事…………

 萌江もえはゆっくり、静かにベッドを降り、バスルームへと向かった。

 ──……嫌な予感がするな…………

 やがて萌江もえがバスルームを出ると、ベッドの脇にバスローブ姿の咲恵さきえが座り込んでいた。片手にはスマートフォン。頭は項垂うなだれたまま。
咲恵さきえ? どうしたの?」
 萌江もえはすぐに駆け寄って咲恵さきえの体を包む。
「……西沙せいさちゃんから…………ダメだった…………また…………」
 その咲恵さきえの小さな声に、萌江もえは反射的に返した。
「…………また?」
「また殺された…………六人目…………」
「シャワー浴びて出る準備して」
 萌江もえはそういうとジーンズを履いて上にトレーナーを着ただけで部屋を飛び出した。
 同じ階の西沙せいさの部屋のドアを叩く。
西沙せいさ! 説明して! 何があったの⁉︎」
 ドアはすぐに開いた。
「六人目だよ」
 西沙せいさ萌江もえの顔を見るなりそう言って続ける。
「四番目の犠牲者の弟…………」
「弟? 例の議員の三男?」
 西沙せいさはベッドに腰を降ろしながら応えた。
二階敦彦にかいあつひこ…………少し前に自宅で見付かったってテレビ局から電話があった…………出勤してこないし電話しても出ないからって議員事務所の人が自宅まで行ったらしいんだけど…………ドアの前に靴の跡があって…………血みたいだったから警察に電話したんだって…………」
「……どうして…………」
「殺され方はいつもと同じ。テレビ局は当然六人目の犠牲者って報道するみたい…………」
「…………なにか…………何か理由があるはず…………」
 すると西沙せいさは、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを二本取り出し、一本を萌江もえに手渡して言った。
「今日の予定は殺害現場を見て回ること…………先に新しい所に行く?」
 そして西沙せいさはペットボトルの蓋を回す。
 大きくその中身を喉の奥に押し込んだ直後、萌江もえ西沙せいさをベッドに押し倒した。
「…………え?」

 ──……こういうのは…………だめ…………

 ペットボトルがカーペットに落ちる鈍い音がした。
西沙せいさ…………」
 萌江もえのその声に、西沙せいさは何も言い返せない。
 萌江もえの声が続いた。
西沙せいさの力を頼ることになる…………いい?」
「…………は?」
「頼むよ」
 萌江もえはベッドを降りると足早に部屋を出て行った。

 ──…………ビックリして…………ドキドキしてるんですけど…………





 現場までは少し距離があった。
 テレビ局からの情報では、議員の三男────二階敦彦にかいあつひこは二ヶ月ほど前に離婚したばかり。実家には戻らずにマンションを借りて生活していた。愛人を囲っていたという情報もあった。
 そのためか決して新しいマンションではない。マスコミの目を逃れたかったのだろうという噂もあった。しかしそれが今回は仇になった。廊下などには監視カメラが無い。その情報は期待出来なかった。
 マンションの周囲には何台もの警察車両とマスコミ関係者、テレビカメラ、野次馬。すでに遺体は搬送された後なのだろう。萌江もえたちがタクシーで到着した頃には救急車は見当たらなかった。
 何人もの警察関係者が激しく出入りする中、上空には報道ヘリが飛ぶ。
 おそらく今頃はすでにテレビ報道が始まっているのだろう。ただでさえ猟奇連続殺人事件。しかも一人の政治家の次男に続いて三男までもが犠牲となる。当然誰もが縁恨説を唱え始めるだろう。
 しかし、その〝縁恨〟は別のところにあると萌江もえ咲恵さきえは考えていた。
 例え西沙せいさとはいえ、事件現場に入ることは出来ない。人混みの中でもどかしい時間を過ごすだけ。その西沙せいさが後ろの萌江もえに振り返って声を張り上げる。
「どうするの? 勢いで来ちゃったけど…………これじゃどうしようもないよ」
 すると萌江もえは、隣の咲恵さきえと繋いだ手に力を入れて即答した。
「大丈夫……絶対に無駄にはならない…………」
 直後、周囲がザワつきだす。
 周囲からカメラのシャッター音がうるさく鳴り始めた。
 被害者の父親。県議会議員の二階敦敏にかいあつとしの姿がマンションから降りてくると、途端に警察とマスコミ関係者がもみ合いとなる。人波がうごめき始めた。
 しだいに三人に近付いてくる人波の中心。萌江もえ西沙せいさがはぐれないように背後から片手で包んだ。小柄な西沙せいさは簡単に萌江もえに捕まる。
「ちょ……ちょっと…………」
 そして、二階敦敏にかいあつとしがしだいに近付く。
 かすれた声が三人まで届いた。
「だから家に帰ってこいとあれほど言っていたんだ…………それなのにあのバカ息子が!」
 やがてその声は、咲恵さきえの隣を通り過ぎる。
 離れていく人波を感じながら、咲恵さきえの口元に笑みが浮かんだ。
 その咲恵さきえささやく。
「…………見えた?」
「…………うん」
 萌江もえは即答した。
 そして続ける。
西沙せいさ…………次に行こうか…………」
 すると、二人を見上げた西沙せいさが口を開く。
「…………何が、見えたの?」
「うん…………〝縁恨〟……」





 最初に三人が向かったのは五人目の殺害現場。
 最初のマンションから近かったのが理由だったが、そこは小さな公園。
 すでに殺害現場のベンチは撤去されていた。近辺の土も掘り起こされているのが色から分かった。
 黄色のバリケードテープもすでにない。公園などの公共施設の中で、鑑識作業さえ終わればもう必要のない物だ。
 萌江もえ咲恵さきえはベンチのあったであろう場所で、手を繋いだまま立ち尽くす
 そして二人は不思議な感覚に囚われていた。
 先に呟くように口を開いたのは咲恵さきえだった。
「……萌江もえ…………これは……どういうことだと思う?」
 萌江もえはゆっくりと応える。
「昨日もだった…………邪魔をしてるのは誰?」
 ここは繁華街近くの公園。
 近くの繁華街の四人目の犠牲者の殺害現場へ移動した。
 結果は同じ。
 イメージを読み取ることが出来ない。
 三人目の殺害現場である大きな公園のトイレへ。
 やはり同じだった。
 二人に焦りと苛立ちが生まれる。
 二人目の殺害現場は一軒家。
「さすがに今は空き家になってるよ。息子さんがそう遠くない所に暮らしてるから、旦那さんはそっちに引っ越してるみたい。まだ所有は旦那さんみたいだけど…………」
 西沙せいさが現状を説明し始めるも、咲恵さきえがイメージを読み取れないのは同じ。
 萌江もえ咲恵さきえの背中に冷たいものが走った。
 口数も少ないまま、一人目の殺害現場へ。
 郊外の地主。その勢力は縮小されたとはいえ、やはりそこは充分にお屋敷と呼べる建物。背の高い塀に囲まれ、屋敷前の道路から中を伺い見ることは出来ない。
 入り口のインターフォンを押した西沙せいさが口を開く。
「アポは取ってあるから」
 すると、スピーカーからくぐもった声。
『……はい』
「昨日お電話した御陵院ですが…………」
『あ、御陵院ごりょういん様……すぐに…………』
 二人に振り返った西沙せいさが続ける。
「ここの人たちは一番協力的かも」
 通された和室で家主を待つ。
 通路の板間のかすれ具合、柱に染み付いた色。例え都市開発の時代の流れの中で資産価値を落とされたとは言っても、その栄華まで削られたわけではないことがすぐに分かった。
 三人の目の前に出された緑茶一つとっても、口をつけた途端に安物でないことが感じられる。
 少し慌てたように入ってきた家主は腰の低い人物だった。
「これはこれは御陵院ごりょういん先生…………わざわざお越しくださいまして」
 まだ六〇才前後と思われるその家主の男性は、西沙せいさの前に正座したまま深々と頭を下げる。
「いえいえ久宝くぼうさん……頭を上げてください…………」
 西沙せいさのその声に、頭を上げながらも視線は畳へ落としたまま、Yシャツの胸ポケットから取り出したハンカチで広くなった額の汗を拭った。

 ──……寒い季節なのに凄い汗…………

 咲恵さきえがそう思った時、口を開いたのは西沙せいさだった。
「最近、警察からは何かありましたか?」
 家主は相変わらず汗を拭きながら応えた。
「いえ…………最近は何もありませんで…………それより今朝……二階にかい先生の息子さんがまた…………」
「はい…………私たちも今朝行ってきたところです」
「まさか先生の息子さんが二人も…………それでこちらも朝からバタバタとしておりまして…………」
 久宝くぼう家は、以前から地元で息の長い政治家である二階敦敏にかいあつとしの講演会の中心となってきた家でもある。当然その久宝くぼう家と二階にかい家でそれぞれ犠牲者を出しているということで、以前から警察としては縁恨説がなかったわけではない。しかし他の犠牲者との繋がりが希薄過ぎた。
「そうですよね……そんな時にご無理をお願いしまして…………」
 西沙せいさがそう言って視線を落とすと、家主は顔を上げて返す。
「何をおっしゃいますか。孫を殺した犯人を一刻も早く…………お願いします…………」
「今日はそのことで改めて強力な助っ人を連れて来ました…………私の…………仕事仲間みたいなものですが…………」
 家主が萌江もえ咲恵さきえに目をやると、その腰の低さに、つい二人も深々と頭を下げていた。
 頭を上げながら、咲恵さきえが口を開く。
黒井くろいと申します……隣は恵元えもとです」
「これはこれは……わざわざこんな所まで…………ありがたいことです…………」
 再び深々と頭を下げる家主に、咲恵さきえが言葉を続けた。
「早速…………見せて頂きたいのですが…………蔵を…………」
 その咲恵さきえの言葉に一瞬視線を落とした家主は、覚悟を決めたかのように軽く頭を下げて応えた。
「かしこまりました…………すぐに…………」
 蔵の鍵を手にした家主の案内で、三人は敷地の奥へと足を進めた。
 家主は歩きながら、すぐ後ろの西沙せいさに向かって言葉を投げかける。
「そう言えば御陵院ごりょういん先生……最近いらっしゃった御同業の方で、仁暮にぐれ先生という方をご存知でしょうか…………」
仁暮にぐれ? ああ…………あまり面識はありませんが」
「あの方が月曜日ですかね……いらっしゃいまして…………これから更に大変なことになるかもしれないから覚悟するようにとおっしゃいまして…………御面識があったらと思いまして」
「そうでしたか…………」
 すると、西沙せいさの背後から萌江もえの声が上がる。
西沙せいさ、知ってる人?」
 すると西沙せいさは軽く振り返って応えた。
ほこらの場所で…………会った女の人…………」
 二つの蔵が並んでいた。
 蔵としては小ぶりな物だとは聞いていたが、見慣れない萌江もえ咲恵さきえから見れば決して小さな物ではない。
 家主は左側の蔵に向かった。鍵は構造的には南京錠と同じような物だが、突き出しやダルマと呼ばれるタイプの大きな物だ。それすらもかなり古い物であることが見てとれた。いくら雨風に曝されているとはいえ、その金属の色褪いろあせ具合は時代を感じさせた。
 重く分厚い両開きの扉が開くと、その中にはやはり色褪いろあせた黒い内扉。
 家主はその内扉を大きく右にスライドさせて口を開いた。
「最近はテレビ局もあまり来ておりません……しばらく開けておりませんが…………」
 中は思ったよりも広かった。
 しかし何も入ってはいない。
 萌江もえ咲恵さきえが一歩踏み込んだ途端に嫌なものを感じた直後、家主が説明する。
「あの後……綺麗に掃除しまして…………その時に中の物は処分致しました。一部は警察の方々が持って行かれましたが…………」
 萌江もえ咲恵さきえはすぐに蔵の中央へ。
 すると、咲恵さきえが家主に応える。
「……問題ありません…………ですが…………」
 その声に違和感を感じたのか、隣の萌江もえ咲恵さきえの手を握った。
 そして振り返る。
西沙せいさ────来て」
 入り口付近にいた西沙せいさが二人の背後に駆け寄る。
 萌江もえの声が続いた。
「私の前に────こっちを向いて」
 西沙せいさが言われた通りにすると、突然萌江もえは片膝をついて腰を落とし、片腕で西沙せいさを包み込む。
 すると、どこからともなく聞こえてきたのは────〝猫の声〟。
 威嚇いかくするようなその猫の声が蔵の中に響き渡る。
咲恵さきえ…………家主と蔵の外に」
 萌江もえは手を繋いでいた咲恵さきえにそう言うと、両腕で強く西沙せいさを抱きしめる。
 咲恵さきえは一瞬たじろぎながらも従った。
 足早に扉に向かう。
「外へ」
 そう言って怯える家主を促し、二人が外に出た直後、内扉が大きな音を立てて勝手に閉じたかと思うと、外の重い両開きの扉も閉じられる。
 直後、鍵が独りでにかかった。
 恐れ慄いて尻餅をつく家主の隣で、咲恵さきえは信じるしかなかった。

 ──……これは…………0.1%なの…………?

 扉が閉じているにも関わらず、猫の鳴き声は外にまで響き渡った。
 相手を威嚇いかくする甲高いその声に、数人の使用人までも駆けつけていた。
 その足音に混ざる、高いヒールの音。
 咲恵さきえは突然肩を掴まれた。
「どいて!」
 咲恵さきえが振り返ると、一人の女が咲恵さきえと家主の間を抜けて蔵の前へ。

 ──……どうしてここに…………!

 大きな音と共に、蔵の鍵が弾け飛んだ。
 直後、扉が重さを感じさせないスピードで開く。
 内扉が素早くスライドすると、中は漆黒の闇。
 女は入り口に立ちすくんだまま。
 咲恵さきえが駆け寄っていた。
 中には、大きく光る〝猫の目〟。
 それはさっきと変わらず背中を丸めた萌江もえに抱かれた西沙せいさの────〝猫の目〟。
 西沙せいさの口が開く。
 そして、辺りに響く低い声。
「〝近付くな! 貴様の血はまだ消えておらん!〟」
 すると、女は軽く体を仰け反らした。
 その肩を掴んだのは咲恵さきえだった。
「どいて」
 咲恵さきえ萌江もえの背後に近付くと、その首筋に手を入れる。
 そして水晶を掴んでいた。

 ──……〝力〟をちょうだい…………

 直後、西沙せいさが床に倒れ込む。
西沙せいさ!」
 咲恵さきえが叫ぶと同時に、萌江もえの体の力が抜けていた。
 後ろに倒れ込むように咲恵さきえに体を預ける。
萌江もえ! ────誰か来て!」
 咲恵さきえの声に応えるように使用人たちが蔵の中へ。
 いつの間にか蔵の中の漆黒も消えていた。
 そして咲恵さきえは同時に気が付く。
 萌江もえの足元にうずくまる一匹の黒猫。
 何事もなかったかのような丸い目を、咲恵さきえに向けていた。





 救急車を呼ぼうとした家主を制したのは咲恵さきえだった。
 敷布団と枕だけを用意してもらい、萌江もえ西沙せいさをそこに寝かせた。その二つの枕の間には、蔵の中にいた黒猫が体を丸めている。
 部屋には他に家主と、女。
 家主が心配そうに、萌江もえの頭に手を添える咲恵さきえに声をかけた。
「本当に……大丈夫でしょうか…………」
 この世のものとは思えない光景を見たせいもあるのだろう。その声は未だ震えていた。
 しかし咲恵さきえは静かに応える。
「ええ……ご心配をおかけしました…………でも大丈夫です。この子たちの状態は、私が一番よく理解していますので…………」
 すると咲恵さきえは、家主のそばに静かに座る女に、鋭い目を向けた。
 そして口を開く。
久宝くぼうさん、この方ですね…………さっき蔵に行く時に話してた…………」
「はい…………仁暮にぐれ……志筑しづき先生です」
 家主がそう応えると、その女────志筑しづきが軽く顔を上げた。間違いない。ほこらの跡地で会った女だった。あの時はその目を見ることが出来なかったが、日本人にしては薄い色の目だと咲恵さきえは感じた。

 ──……まともな相手じゃない…………

 そう思った咲恵さきえが続けて口を開く。
「あなたは…………あの集落に関わりのある人ね…………〝猫神様ねこがみさま〟に…………」
 すると、志筑しづきの口元が小さく動いた。
 広角が僅かに上がる。
 咲恵さきえよりも明らかに年上だったが、その割にはやけに若々しい。
 その志筑しづきの声が、小さく部屋の空気に溶け込む。
「触れただけでお分かりになるとは…………確かに…………私はあのほこらを守っていた村のおさの血を引き継ぐ者です…………」
 そして、志筑しづきが語り出した。
が先祖はほこらへの慰霊の心を忘れ……催事をおこたり……やがてその呪いを恐れ…………村人を置き去りにあの地を去りました…………この度の呪いは…………元はと言えば我が先祖の行いから招いたこと…………それをしずめるために…………〝力〟のある私が参りました」
 その独特の声に、場の空気が静まる。
 それを破ったのは萌江もえの声。
「それだけじゃないでしょ」
 咲恵さきえが振り返ると、そこにはいつの間にか上半身を起こしていた萌江もえの姿。咲恵さきえが軽く笑みを浮かべると、萌江もえは布団の上に胡座あぐらをかいて続けた。
「あなたも過去の負い目からほこらを再建して欲しいと思ってた…………だからあの五人に接触した…………普通の人とは違うやり方でね…………あなたは〝壁〟を作って私たちを妨害していたようだけど、あの五人総てをシャットアウトすることまでは出来ていない。殺害現場の〝念〟は消せても、あの人たちの〝念〟までは消せなかった…………自分の力をあまり過信しないことね。人はそう簡単に操れるものじゃない…………」
 そして萌江もえは、隣で横になっている西沙せいさに顔を向けた。西沙せいさは両手をお腹の上で軽く合わせていたが、そこに手を乗せた萌江もえささやく。
西沙せいさ…………ご苦労様…………頑張ったね…………」
 すると、西沙せいさが重そうに目を開く。そして、何事もなかったかのように上半身を起こした。
 そこに萌江もえが続ける。
西沙せいさ、ホテルに電話して広めの部屋を一つ用意してもらってくれる? 私たちの他に6人入ればいいよ。あの五人にも来てもらって…………警察もロビーに」
 そして志筑しづきの声。
「…………公開裁判などと……」
「総ては…………あなたしだいだよ…………久宝くぼうさんにまで暗示をかけて…………」
 萌江もえはネックレスの水晶を外すと、左手に巻きつける。
 素早く家主の前に移動すると、その額に左手を当てて呟いた。
「この人が余計なことをしないように先回り? でも、この人の想いのほうが強かったね。懸命に抵抗してたからこんな時期にこんなに汗だくになって…………」
 萌江もえが手を離すと、家主の表情はまるで別人のように、スッキリとした目になっていた。
 萌江もえは布団に振り返ると、枕元で大人しく座る黒猫に笑顔を向けた。
「あなたはここが好きみたいね。助けてくれてありがと」
 そして家主に顔を戻して続ける。
「あの猫、この家の猫じゃ…………」
 すると家主は少し呆然としながらも、すぐに応えた。
「いえ……しばらくこの家では猫は…………」
「じゃ、お願いしてもいいですか? この猫はこの家の守り神になってくれる子です…………大事にしてあげてください」




          「かなざくらの古屋敷」
      ~ 第七部「猫の目」第5話(第七部最終話)へつづく ~
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

【完結】百怪

アンミン
ホラー
【PV数100万突破】 第9回ネット小説大賞、一次選考通過、 第11回ネット小説大賞、一次選考通過、 マンガBANG×エイベックス・ピクチャーズ 第一回WEB小説大賞一次選考通過作品です。 百物語系のお話。 怖くない話の短編がメインです。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

陰法師 -捻くれ陰陽師の事件帖-

佐倉みづき
ホラー
 ――万物には、光と陰が存在する。それは、人の心もまた然り。妬み嫉み、恨み辛み……心の翳りは、時に恐ろしいモノを生み出す。  人が抱く負の感情より生じた怪異による、人智を超えた怪奇事件。解決するは、影を操る陰陽師の末裔。  これは、陰をもって陰を制する怪奇譚。 ※こちらの作品はカクヨムでも同名義で公開中です。 ※表紙はかんたん表紙メーカー様にて作成しました。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~

水無月礼人
ミステリー
 子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。  故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。  嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。  不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。 ※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。  【アルファポリス】でも公開しています。

処理中です...