竜の血脈―黒狼盗賊団の頭―

叶 望

文字の大きさ
20 / 34

020 行き過ぎた捜索

しおりを挟む
 毒を受けたシュラが回復するには数日を要した。
 熱が下がり無事に乗り切ったシュラは追っていた男の行方に付いてジャンから報告を受けていた。

「黒いローブを纏った男は王都の外れにある建物の中に入っていったっす。ここ数日張っていましたが、そこを出入りする者は皆ローブを目深に被っていて明らかに怪しい者ばかり。おいらが言うのもなんですが、あからさま過ぎて妙な連中っす。」

「それで、中の様子はどうだった?」

「集会を開いていたっす。なんでも漆黒の使徒と名乗る集団みたいで。」

「漆黒の使徒?」

 聞きか返したシュラにジャズがなんとも言い辛そうにしている。

「もしかして、全員が黒髪だったとか?」

 思い当たる事と言えばこのくらいだ。
 自分自身も黒い髪のために蔑みの視線はよく受けていた。
 だから漆黒という言葉を聞いた時点である程度の予測は出来ていた。

「えぇ。その通りっす。漆黒の使徒は王家の白銀の髪を持つ者に強い恨みを抱いているようでその色を持った王女もその対象になったみたいっす。」

「王女は巻き込まれたって事か。災難だな。」

「全くっす。それでシュラ様はこれからどうするつもりなんすか?」

「勝手に飛び出したとは言え、やられっぱなしは性に会わないんだよな。」

「殴りこむんですかい?シュラ様。」

 オルグが楽しそうに問う。
 全員やる気満々だ。
 シュラが傷つけられたという時点で彼らはその集団を許すつもりなどなかった。
 シュラがそれを望まなくても何らかの制裁を与えようと考えていたくらいだ。

「…そうだな。今回は盗むものもないけど、毒まで貰ったんだ。お返しは必要だな。」

 明らかにとばっちりを受けただけではあるが下手をすれば命に関わることだ。
 ミュリエル母様との約束でもあるユーリス兄様の分まで生きるという願いも絶たれる所だった。
 だからちょっとしたお返しついでに頭のおかしい狂信者たちに目に物を見せるのも悪くはない。
 シュラは仲間に恵まれていた。
 黒髪であっても付いてきてくれる仲間がいる。
 シュラは黒髪だからと言って他を排する行為などした事はない。
 そのやり方も気に食わない。
 シュラ達は制裁のために漆黒の使徒の集まる場所へと向かった。

――――…

 その場所は廃墟と言っても過言ではないほど寂れていた。
 今にも倒壊しそうな建物。
 それが漆黒の使徒達の本拠地だった。
 王都にあるのはなんとも皮肉な事だがシュラにとっては白銀だろうがなんだろうがその者たちが行った事が明らかな逆恨みである。
 しかもそれを引きずって行っているのは自分たちを正当に評価される為の行動ではなく、逆に貶める行為だ。
 犯罪紛い、いや確実に罪であると分かりきっている事を行っている。
 それで黒髪を不当に扱う文句を言う資格など果たして彼らにあるのだろうか。
 壊れそうな建物の扉を勢いよく蹴破る。
 中には大勢のローブを纏った者たちがリーダー格の男の下に集っていた。
 どうみても怪しげな集団にしか見えないが、黒い髪をさらして、堂々と入ってきた少年とその周りを固める屈強な男たちを見た漆黒の使徒のリーダーは口を開いた。

「黒を持つ同士よ……。扉を蹴破って入って来るなどどういうつもりなのかね。」

 その言葉にシュラは明らかな侮蔑の視線を向けて立っている。
 ただ立っているだけなのにシュラの持つ気迫が黒ローブの者たちを圧倒していた。

「同士?冗談じゃない。お前たちと俺を一緒にしないで貰いたいな。」

「……何をしに来たのだ。」

「毒を貰ったのでそのお返しに。この前王女を襲って逃げた奴を差し出せ。」

「同士を差し出すような真似はしない。出て行ってもらおう。」

 リーダー格の男がそれを告げるが、シュラの持つ瞳の色を見た黒ローブの一人が叫んだ。

「こ、こいつ王都で手配されている奴じゃないか。黒髪に金の瞳。」

「ほ、本当だ。こいつのせいで俺たちは……。」

 声がそこかしこから溢れだす。
 シュラは一瞬眉を顰めたが、手配されているのは知っているので今更動揺する程の事ではない。

「お前を差し出せば息子は返って来る。誰かそいつを捕まえろ!」

 今までシュラの覇気に押されて怯えていた黒ローブの者たちが大挙してシュラ達に襲いかかった。
 それを一蹴するかのように彼らは動いた。
 素早い動きで黒ローブたちを伸していく。
 元々やられた分をやり返しに来ただけだ。
 命を奪うつもりはない。
 黒狼盗賊団は強かった。
 いや、黒ローブの漆黒の使徒が元々ただの一般人であり戦闘経験があるものなど僅かしか居なかっただけなのだが、一方的と言っても過言ではない戦力さ。
 無力な人々と戦いを経験して継続しているものの差は明らかだった。
 あっという間に床に這い蹲ることになる黒ローブの者たちは、シュラ達の力に怯えこれ以上の暴力を受けないように震えて動かなくなった。
 残ったのはリーダー格の男唯一人。

「同士諸君になんて事を。」

「お前が命じたからだろ。」

 冷めた瞳で男を見るシュラは他の者たちが向かってくる中、自分だけは動かなかった男に侮蔑の視線を送る。

「同じ黒髪を持って居るのだ。分かるだろう?我らは髪が黒いと言うだけで虐げられてきた。すべて白銀が奪ったのだ。憎んで当然だろう。」

「憎むのは勝手だが、そんなに黒髪の不遇を訴えるのならなぜそれを明かす為の行動を起こさない。お前らがやっているのはただ嘆いて弱いものに八つ当たりしているだけだ。」

「ぐっ。確かに我々は弱いものばかりを狙ってきた。15年前の赤子もしかり、王女もか弱い女性だ。だがそれの何が悪い。力のない我々はその程度しか抵抗することなど出来はしないのだ。」

 その言葉にシュラはぴくりと反応した。
 15年前という言葉。
 それは、シュラが身動きの取れない赤子であった時に魔物に襲われた村の事を思い出した。だが、なぜ襲われたのか。
 それを問いただす気分にはなれなかった。
 余りにも愚かな言い分しか出てこないこの男に何を言っても無駄だと悟ったからだ。

「それに今、黒髪を持つ者が大勢捉えられている。それもすべてお前のせいだ。息子も捕らえられ大勢の仲間たちが捕まって居る。お前さえ居なければ…。」

 突然話しの変わった男の言葉はシュラに深く突き刺さった。
 だが、男の言葉は最後まで告げられる事はなかった。
 オルグが思いっきりリーダー格の男を殴り飛ばした為だ。

「シュラ様、こんな奴のいう事など聞く必要はないぜ。それにこいつらは捕まったほうがマシだろうよ。生きるのに最低限のことは保障されるだろうからな。それにこいつらのやっている事を考えたら自業自得だ。」

 ぎろりとリーダー格の男を睨みつけたオルグはシュラの肩をぽんと叩いて慰める。
 だが、シュラはその言葉を無視する事は出来なかった。

「シュラ様。貴方が気にやむ事はないのですよ。」

 ルイがオルグの言葉を支持したが、シュラの気持ちが晴れる事はなかった。
 そして、シュラは決断する。

「黒髪で捕まっている人たちを解放します。」

「シュラ様?」

「俺のせいで捕まる人が居るのはやっぱり見過ごせない。これは俺のわがままだ。だから黒狼盗賊団は関係ない。それでも一人じゃ無理だ。皆、手伝ってくれる?」

「当然じゃないですか。」

 不安げに問うシュラに全員が笑って応えた。
 それがシュラには嬉しかった。
 その様子を黒いローブを来たリーダー格の男は驚きの表情で見ていた。
 シュラの周りに居るのは黒髪ではない男たち。
 蔑む事もなくシュラを慕っているのが目に見えて分かる。

「我々は間違っていたのか。」

 ぽつりと呟いたリーダー格の男は倒れ付している仲間たちを見て自分達の愚かさに気が付いた。
 出て行こうとするシュラ達を慌てて引き止める。

「待ってくれ、黒き髪を持つ者たちを助け出すと言うのなら我々も力になる。いや、貴方の力になりたい。」

 先ほどまでとは打って変わって懇願する男にシュラはしばらく考えて応えた。

「俺たちに付いてきたいのなら勝手にすれば良い。だが、俺たちに守って貰おうと思うな。俺たちは盗賊だ。付いて来ても良い事なんてないかもしれないぞ。」

「それでも……私は貴方が羨ましい。貴方は黒髪でありながらも仲間に慕われている。我々にはそんな者たちは居なかった。だからこうして同じ痛みを持つもの同士で集まるしかなかった。あなたは我々の光だ。どうか、我々を導いてください。」

「さっきも言ったが、付いて来たいなら勝手すればいいさ。」

 そう言って踵を返すシュラ。
 この日、漆黒の使徒という集団は黒狼盗賊団に吸収された。
 そして、奪われた者たちを救うため、情報を集める事に専念する。
 多くの手駒を揃えた黒狼盗賊団はかつてないほど迅速に情報を集めていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな
恋愛
「覚醒しなければ、生きられない———       しかし、覚醒すれば滅びの呪いが発動する」 100年前、ヴァンパイアの王家は滅び、純血種は絶えたはずだった。 しかし、その血を引く最後の姫ルナフィエラは古城の影で静かに息を潜めていた。 戦う術を持たぬ彼女は紅き月の夜に覚醒しなければ命を落とすという宿命を背負っていた。 しかし、覚醒すれば王族を滅ぼした「呪い」が発動するかもしれない———。 そんな彼女の前に現れたのは4人の騎士たち。 「100年間、貴女を探し続けていた——— もう二度と離れない」 ヴィクトル・エーベルヴァイン(ヴァンパイア) ——忠誠と本能の狭間で揺れる、王家の騎士。 「君が目覚めたとき、世界はどう変わるのか......僕はそれを見届けたい」 ユリウス・フォン・エルム(エルフ) ——知的な観察者として接近し、次第に執着を深めていく魔法騎士。 「お前は弱い。だから、俺が守る」 シグ・ヴァルガス(魔族) ——かつてルナフィエラに助けられた恩を返すため、寡黙に寄り添う戦士。 「君が苦しむくらいなら、僕が全部引き受ける」 フィン・ローゼン(人間) ——人間社会を捨てて、彼女のそばにいることを選んだ治癒魔法使い。 それぞれの想いを抱えてルナフィエラの騎士となる彼ら。 忠誠か、執着か。 守護か、支配か。 愛か、呪いか——。 運命の紅き月の夜、ルナフィエラは「覚醒」か「死」かの選択を迫られる。 その先に待つのは、破滅か、それとも奇跡か———。 ——紅き誓いが交わされるとき、彼らの運命は交差する。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

処理中です...