竜の血脈―黒狼盗賊団の頭―

叶 望

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034 エピローグ

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 あれから更に月日は流れ、フライ王国は建国した。
 国内の混乱は全くと言って良いほど起こらずそれだけの準備と時間をかけた事が伺える。
 フライ王国の空には2対の竜が舞っている。
 漆黒の竜と白銀の竜この2対がフライ王国の国王と女王である事はすでに国中に知れ渡っている。もはや巨大な竜が空を飛んでいてもこの国の人間は驚く事は無い。
 それほど見慣れた景色と成っていた。
 リュシュランは竜化して以降、自分の意思で竜へと変化することができるようになっていた。
 そしてリュシュランと同じように竜の血が強いシルフィールにその感覚を魔力で伝えることでシルフィールもまた竜の姿へ変化することができるようになったのだ。
 この竜化はシルフィールに新しい変化をもたらした。
 シルフィールの中にあった竜の記憶もまたリュシュランと同様に統合され二人は竜の記憶と血を継ぐ真の意味での継承者となったのだ。
 今やこの国では竜に守られた国であったというのは伝承ではなく事実だと受け入れられるようになった。
 そして黒き狼もまた彼らの傍に寄り添いその生涯を共に過ごした。
 そうして幸せな時を過ごす二人に更なる希望が芽生えたと気づくのは後少し先の事。

――――…

「陛下、視察の準備は整いました。すぐに出発できます。」

「ネイト、視察は当日で良い。今日はシルフィールの傍にいたい。」

「陛下?まさかまた竜の姿で飛んで行こうなんて考えていないでしょうね。」

「うぐっ……。」

 びくりと黒髪が跳ねてリュシュランは視線を逸らす。
 しかしリュシュランの考えはネイトにバレバレだった。

「奥方が気になるのは仕方が無いですが、これはかなり前から決められていたことですよ?」

「行かないとは言って無い。」

「陛下、それを許せば今後も同じように行動なさるでしょう?」

「………。」

 ネイトにジト目で見られてリュシュランはしゅんと項垂れた。

「はぁ。全く……今日だけですからね?」

 その言葉に一気に気持ちが浮上したリュシュランはソワソワしながら部屋を後にした。
 シルフィールが懐妊し新たな命が芽生えたと知ったリュシュランはこれまで以上にシルフィールを溺愛した。
 それこそ公務に差支えが出るほどの状態だったが国事態は問題なく運営されている。
 その影に先代たちの努力があったのは城に勤めている者たちであれば全員が知っていることだ。
 竜の習性が色濃く出てしまうのは仕方が無い。
 リュシュランもシルフィールも血の力が強すぎる。
 だからお互いに必死で抑えていたのだが、新たな命に浮かれてその制御が甘くなってしまったのだ。
 この二人を抑えることができるのはルイスとエマぐらいなものだが、この二人もリュシュランとシルフィールにはかなり甘い。
 そんな状態なので結局のところ周りが頑張るしか無いのだ。
 深夜とうとうその瞬間がやってきた。
 産婆が手際よく準備をする中、シルフィールは無事に3つの卵を産んだ。
 そう、竜の卵だ。
 卒倒しなかった産婆はリュシュランの言葉を聞いていなければきっと取り落としてしまったに違いない。
 竜の血が強いリュシュランとシルフィールの子であれば竜が生まれてもおかしくない。
 リュシュランはそう考えて産婆に何が起こっても驚かずに対処するようにと伝えていたのだ。
 おかげで無事に卵は綺麗な布で磨かれて今やシルフィールが竜の姿で温めている。
 竜の生態の知識が二人になければ大騒ぎになっていた所だ。
 その卵はリュシュランとシルフィールが交互で温めあった。
 そして孵った雛は3種の竜の子。
 漆黒体色を持つ闇属性の雌の竜はレジーと名付けた。
 白銀の体色を持つ光属性の雄の竜はジーク。
 そして水色の体色を持つ水属性の雄の竜にはユーリと名付けた。
 その2年後には更に3つの卵をシルフィールが産み新たに火属性の雌竜フレアと風属性の雌竜フィア、土属性の雄竜でランディと名付けられた竜の子が誕生した。
 色とりどりの竜が空を舞う。
 二人の子供たちは生まれたときは竜の姿だったが、少し大きくなるとすぐに人化をするようになった。
 どちらが本当の姿なのかと言えばどちらもと答えるだろう。
 竜でもあり人でもある。
 それがリュシュランとシルフィールの子供たちだ。
 竜の姿で生まれてきた彼らはこれまでの王族たちと違って記憶で廃人になることも竜の血に負けて命を落とすこともなく健やかに育った。
 恐らくリュシュランとシルフィールによって記憶が統合された結果だろう。
 そしてリュシュランとシルフィールは竜の血が強い事で寿命も竜と同じように長かった。
 歳を取っても若い姿を保ち続けた二人は子供たちに囲まれて更に孫やひ孫と何代にも渡ってその姿を目にすることが出来た。
 当然彼らの子供たちも長くその生を生きる事になる。

――――…

 良く晴れた朝の日差しが登る頃、城ではここ最近頻繁に起こる問題に重鎮たちが頭を悩ませていた。

「またか?またなのか……。」

「はい。今朝から姿が見えないそうで。」

「こうなったら寝室にも護衛と称した見張りを立たせるか…。」

「それは流石に可哀想です。護衛が。」

「……はぁ。どうしたものか。」

 いつものようにこの国の国王と女王が子供たちを連れて外に飛び出した。
 その姿は雄大な竜の姿。
 今日もフライ王国の上空を滑るように飛んでいく。
 スピードも当然早いのであっという間に島を旋回して周る。
 そして山の中で丁度良さそうな場所を探して降りていく。
 ずんと巨体が大地に下りると周囲の鳥たちが驚いて逃げ惑う。
 そして土煙が収まるとその場には色とりどりの髪色を持つ子供が6人と漆黒の髪を持つ男性、そして白銀の髪をもつ女性の姿があった。

「それじゃ、今日も狩といきますか。」

「くすくす。ねぇ、リュシュラン?お城のみんなきっと怒っているわよ。」

「わ、分かってるけど……。最近なんでか狩をしないと気持ちが落ち着かないんだ。」

「やっぱりこれも竜の習性なのかしら?」

「どうだろうね。単に血が騒ぐだけなのかもしれないけど。」

「父上!早く行こうよ。」

 子供たちがリュシュランに纏わりついて早く行こうと急かしている。

「んじゃ、競争だ。誰が一番獲物を狩れるかな?」

「僕が一番!」

「違うわ。私よ!」

 子供たちのやり取りを見ながらリュシュランは微笑む。
 そしてその日の狩が始まった。
 子供たちは竜の姿で生まれてきたからなのか、狩猟本能がしっかりと身についていた。シルフィールの元には獲れたての動物や魔物が積み上げられていく。
 それを最早慣れた手つきで捌いていく。
 その日も大量で子供たちをしっかり見守っていたリュシュランも呆れる量だ。
 そしてそれを調理して余った分は城に持ち帰る。
 当然帰ったらリュシュランは執務に追われる事になるのだが今はそんな事を考える事はせず、ただ家族の団欒を楽しんだ。
 子供たちは疲れ果てたのか竜の姿で大地に寝そべっている。
 リュシュランはそっとシルフィールを抱き寄せてキスをした。

「…っん…リュシュラン……。」

「シルフィール、愛している。この幸せが未来永劫続く事を願っているよ。」

 そう言って抱きしめる腕に力を込めた。
 優しくシルフィールの髪を撫でてその手を徐々に下ろしていく

「もう。ちょっとこんな所で……。」

 シルフィールを抱きしめながらリュシュランはその柔らかさを楽しむ。
 愛おしい気持ちが尽きることなく沸きあがってくる。
 竜の番と成った彼らは愛を深めながら日々を過ごす。
 その愛が失われる事は無い。
 そういう習性があるのだから。
 リュシュランはシルフィールを腕に抱いて愛を囁いた。
 フライ王国は今日も平穏な日々を向かえる。
 それは竜に守られた国。
 そして何時しかその国は竜人の住む国として知られるようになる。
 世界は広く竜の力は強大だ。
 あらゆる災厄から大切なものを守りぬく。
 竜の血脈であるリュシュランとシルフィールはフライ王国の礎として長くその国を守ったという。

-END-
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