追放された令嬢は魔法の過信を危惧した

叶 望

文字の大きさ
2 / 6

魔法に魅せられて

しおりを挟む
 ラインスト・ブランシュケット。これが兄の名だ。

 10歳と歳が離れた兄は来年見習い騎士になることが決まっている。
学院生活を終えて実家に戻って来ていた兄は仕官する為の準備をしつつも私の世話を焼いてくれる。

 帰ってきて早々、兄は私に会いに来てくれたのだ。

「お帰りなさい兄さま。」

「ただいま、リア。」

 リアと言うのはエストリアの愛称だ。

 ふわふわのシフォンケーキのように柔らかな薄い桃色のドレスに身を包んだ私は、部屋に入ってきた兄にそう言って出迎えた。
 図鑑を広げて床で遊んでいた私をそっと抱き上げて椅子に座らせると王都の土産だといって綺麗な丸い宝石のようなものを渡してくれた。

 淡い水色の透明なそれは兄の纏っている雰囲気をそのまま映したようなものに見える。

「何これ?」

 飴玉のようにも見えるが、私はこの世界に生まれてこの方飴玉と言うものを目にした事がない。
 だからこれは多分飴ではないだろうし、触った感じから石にも思える。きらきらと淡い光を放つそれを手で持ち上げて首を傾げた。

「これは私の魔力で作った魔石だよ。」

「魔石?作った?」

 魔石はどうやら自作できるらしいと考えていたのはかなり安易だったようで、色々と質問して分かったのは、魔物から採れる魔石を自分の魔力で染め直したもののことだったようだ。

「きれい…。」

「リアはこの魔石を使って魔法の練習をすると良いよ。」

「魔法の練習?」

「そう。魔石の魔力を使えるようになると自分の魔力の引き出し方が分かるようになる。慣れるまではそれを使うといい。」

 本来そういったものは親が準備するはずのものだ。だがそんな事は口にせず兄は魔石の使い方を私に説明してくれた。

「魔石を持って中の魔力をこうぎゅーっと引っ張ってきて呪文を唱えると魔法が発動するんだ。」

「引っ張る…。」

 いきなりそんな事を言われても分からない。目をぱちくりと瞬き魔石を眺める。そもそも魔力というものが分からないので引き出し方もさっぱりだ。

「こう魔石と一つになる感じで…」

 私の手に魔石を握らせると一緒に持って魔法を唱える。

『リフレッシュ』

 魔石から何かが抜け出す感覚と全身がさっぱりした感覚が同時に私を襲った。びくりと肩を震わせた私を優しく撫でて兄は魔石に魔力を補充した。どうやら一回こっきりで魔力が尽きたらしい。魔力が尽きると黒っぽい石になった。
 そして再び魔力が篭ると先程の色に戻る。その変化に驚きつつも魔石を空に掲げた。窓から見える雲と魔石を見て連想したものをなんとなく呟いた。

『あめ』

 決して飴玉に見えたからではないと思いたい。

 呟いた言葉は先程の感覚と同調して部屋の中にとても小さな雲が出来た。手のひらサイズの雲は私の目の前でふよふよと浮いていたが次第に色が暗くなり雨雲となる。

「へっ?」

 おもわずその雲から離れた瞬間、さぁーっとジョウロでみずをかけたような雨が水溜りを作った。もちろん部屋の中で。

「うひゃっ!」

 思わず令嬢らしからぬ声を上げたのは仕方がないだろう。小さな雨雲は床を見事に濡らして消えていった。残されたのは空になった魔石と唖然とする兄と私。水溜りは兄が『クリーン』の魔法をかけて掃除をしてくれた。兄によると『あめ』という魔法はないそうだ。
 魔法は基本的にイメージで成り立つがそのイメージが明確で適切でなければ発現しないらしい。

 首を傾げた兄だが何はともあれ魔法が始めて発動したことを喜んでくれた。

 その後は魔力の補充を練習する。体の奥から魔法に使った感覚と同じように魔力を引き出して魔石に入れる。空の魔石を満タンにしてみたりその中の魔力を抜いてみたりを試した。

 一度感覚で掴んだものは忘れず使えるそうだ。

 その日から兄による魔法講義が始まった。魔力とは、ありとあらゆる生き物が持っているものでその質は親から子へと引き継がれることが多いという。父は水、母は風の属性をもっている。兄はその両方を受け継いでいて私はまだ調べていないので分からない。
 魔法の属性は学院に入ってから調べるのが通例となっている。兄によれば貴族の義務として学院には12歳から15歳まで通うのだそうだ。
 そして16歳になると適性に応じて配属を決めていく。もちろん希望があればそれを出すことも出来る。魔力の属性によって出来ることが増えるのだが決して他の属性を使えないということはない。効率が悪いだけで使う人が少ないというだけなのだ。

 魔法は便利だ。

 娯楽の少ないこの世界で、唯一楽しめるものができた私はそれにのめり込んだ。
 もちろんそればかりではなく兄が持ち帰ってきた学園で学ぶものもこっそり熟読させてもらった。学院では基本となるベースの勉強にそれぞれのコースに合わせた授業を受けるという専門学校や大学のような勉強方法だ。
 兄は騎士コースだったが他にも領地経営コースや魔法師コース、文官コースがある。騎士コースをとっていた兄の授業内容には実践と訓練、戦略など目的に応じたものがあった。
 5歳の子供が見ても今の時点では役に立たないのだが、何かしようにもできる事が限られているのだ。

 知識を増やすくらいは許して欲しい。

 今の私が剣を振り回そうものなら使用人に間違いなく止められるだろう。結局のところ、実際に試せる魔法に依存するしかなくなる。

 そして私の使う魔法はこの世界のモノとはかけ離れた魔法になっている。兄の魔法を見ているとそれが良く分かる。原理を良く理解せずに発動する魔法と理解して発動する魔法では魔力効率はもとより結果も大いに違いが出るようだ。

 これは技術があまり進歩していないこの世界の問題だと思う。

 水魔法で出した水は飲むことが出来ない。これが最たるものだ。どこから出す水なのかが明確でないので飲み水にならないのだ。
 ちなみに魔法で出した水を飲むと3日3晩下痢と嘔吐に悩まされるらしい。実際に試した者がいたようだ。確かにどこから持ってきたのか分からない水を飲んで無事で済むとは思えない。

 腹を壊して当然の結果だと思う。

 そんな状況なので戦略級の魔法師が少ないのは言わずもがな。魔法を大きくするために大量の魔力を必要とするのだろう。
 まさに非効率的な魔法だ。魔法の範囲すら何度も使って体に覚えさせるらしい。恐らくどこまでの範囲に影響を与えるのかと言う情報がないために魔力による力押しの策と言える。
 あの後何個か魔石を貰って魔法の練習に使っているが魔石はどうやって出来るのかと聞くと答えは分からないだった。魔物の体内にあるのが当然なのでその仕組みを考える事がなかったのだろう。
 そこで質問を変えてみた。魔物は生まれたときと大きくなったときの魔石の大きさに違いがあるのかという質問だ。兄は小さい魔物の魔石は小さいし大きな魔物は当然魔石も大きいと言った。

 つまり年月で魔石の大きさは変わっていくという事だ。

 では人にもあるのだろうか?

 答えは「ある」だった。

 それを聞くとなんだか不思議な気分になる。自分の体にも魔石があるのだと思うと複雑だ。魔石は心臓部にあるらしい。

 なんだか怖い。

 魔石が破裂する事はないのだろうかという心配を思わずしてしまったが、そういう事はないらしい。そうやって少しずつ魔石についての知識も深めていった。

 ちなみに魔石は魔道具を動かすのに使われる。まさに電池のような役割を持っていた。そして魔石に魔力を補充するというのも町ではお小遣い稼ぎのように扱われているようだ。
 ただ基本的に魔力が多いのは貴族なので平民でそれを専門にしているものは少ない。魔力を複数回使えるようにする為、魔石に魔力を溜める作業は結構な時間と労力が必要なのだとか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...