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第1章
11.実はすでに金で引き取りました
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「……そんなに俺と結婚したくないのか……」
どことなく悲しげな声で、ヴィルがつぶやいた。わずかに背を丸めたその姿が、また哀愁を漂わせている。
「うっ……」
これにはリリナのなけなしの良心もチクりと痛んだ。子どもの頃とはいえこちらから言い出したこと、なおさら後ろめたいものを感じる。
いや、流されてはいけない。リリナは心を鬼にし、唇を引き結んだ。
「申し訳ないけど――」
「……――俺と結婚すると、結構な財産を共有できるぞ」
ぽつり、とヴィルがつぶやいた。
「は?」
きょとんと目をしばたくリリナに、ヴィルが最終手段とばかり詰め寄った。
「それに衣食住もうなにも困らない!」
「い……いや……自分の面倒くらい自分でみますんで」
「豪邸に住めるぞ!」
「住む場所にこだわりないので」
「一生働かなくていいんだぞ!」
「それは逆に嫌だ……」
「周りの女子や魔道士に自慢できるぞ!」
「……そんなことでマウントとる趣味ないです」
「……」
必死に自分と結婚することのメリットを訴えていたヴィルはしかし早々に言えることが尽きたらしく、頭を抱え出した。
「ほ……ほかに何が不満なんだ……? 俺イケメンだよな……?」
本気でわからない様子のヴィルにリリナは呆れてぼそりとつぶやいた。
「むしろそんなことで本当に結婚できると思ってたのか……」
「信頼ある女子先輩に強くて金持っててイケメンならどんな女子もおとせるって言われたから……」
「あのね……別にあなたを好きとか嫌いとかでなく、私はそもそも結婚をする気がないんです」
ため息をついて、リリナは先を続けた。
「十年前の約束を破っちゃうのは申し訳ないけど……私にはやりたいことがある。理解してください」
「……。そうか……」
ヴィルの声は一転して弱々しくなり、がくりと肩を落として黙り込んだ。どうやらようやく諦めたようだ――リリナはほっと安堵の息を吐いた。
「まあ……さっき助けてくれたことには、お礼を言います。危うく魔道士までやめさせられるところ――」
「でもリリナの孤児院には結婚の承諾を得たぞ」
「はあああああああ!?」
諦めて落ち込んでいるかと思いきや、ヴィルはぱっと顔をあげてとんでもない切り札を繰り出してきた。どうやらこの男、全然諦めていない。
「ていうか、ちょ、私の孤児院って……行ったの!?!?」
「卒業式中にな。まあ結婚の承諾っていうか、もうちょっと正確に言うと、孤児院に”多めの金”を寄付して、俺がリリナを引き取ってきた」
「ひ、引き取っ……じゃあこの馬車――」
「ああ、もう孤児院には向かってないぞ。首都《おれんち》に行ってる」
「はあああああああああああああ!?」
絶叫するリリナの前で、ヴィルは不満げに腕を組み、顔をしかめた。
「俺はあの孤児院嫌いだ。リリナを嫁にほしいって言ったら次の言葉がじゃあ結納金よこせだぞ……普通、びっくりしたり喜んだりするんじゃないのか? あんな血も涙もないがめついところにリリナを一秒でも置いておきたくないと思ったんだ、俺は」
「まあ……寄付金を懐に入れるような院長だからね、がめついのはもはやどうしようもない……っていうかそんなことはどうでもよくて――!」
「たしかにリリナの言う通り、」
リリナの抗議を遮り、ヴィルはどこか得意げににやりと口の端をつりあげて見せた。
「十年前の約束は子ども同士のただの口約束だ。だからちゃんと社会的な手続きは踏んでおこうと思ってな」
「いや一つも踏んでない! ていうか一番大事な手続き踏んでない!」
「なんだよ大事な手続きって」
「私の! 同意だよ!!!」
「……」
不服そうに押し黙ったヴィルは、ふいに、ぐいとリリナの腕をつかみ、力尽くで引き寄せた。
どことなく悲しげな声で、ヴィルがつぶやいた。わずかに背を丸めたその姿が、また哀愁を漂わせている。
「うっ……」
これにはリリナのなけなしの良心もチクりと痛んだ。子どもの頃とはいえこちらから言い出したこと、なおさら後ろめたいものを感じる。
いや、流されてはいけない。リリナは心を鬼にし、唇を引き結んだ。
「申し訳ないけど――」
「……――俺と結婚すると、結構な財産を共有できるぞ」
ぽつり、とヴィルがつぶやいた。
「は?」
きょとんと目をしばたくリリナに、ヴィルが最終手段とばかり詰め寄った。
「それに衣食住もうなにも困らない!」
「い……いや……自分の面倒くらい自分でみますんで」
「豪邸に住めるぞ!」
「住む場所にこだわりないので」
「一生働かなくていいんだぞ!」
「それは逆に嫌だ……」
「周りの女子や魔道士に自慢できるぞ!」
「……そんなことでマウントとる趣味ないです」
「……」
必死に自分と結婚することのメリットを訴えていたヴィルはしかし早々に言えることが尽きたらしく、頭を抱え出した。
「ほ……ほかに何が不満なんだ……? 俺イケメンだよな……?」
本気でわからない様子のヴィルにリリナは呆れてぼそりとつぶやいた。
「むしろそんなことで本当に結婚できると思ってたのか……」
「信頼ある女子先輩に強くて金持っててイケメンならどんな女子もおとせるって言われたから……」
「あのね……別にあなたを好きとか嫌いとかでなく、私はそもそも結婚をする気がないんです」
ため息をついて、リリナは先を続けた。
「十年前の約束を破っちゃうのは申し訳ないけど……私にはやりたいことがある。理解してください」
「……。そうか……」
ヴィルの声は一転して弱々しくなり、がくりと肩を落として黙り込んだ。どうやらようやく諦めたようだ――リリナはほっと安堵の息を吐いた。
「まあ……さっき助けてくれたことには、お礼を言います。危うく魔道士までやめさせられるところ――」
「でもリリナの孤児院には結婚の承諾を得たぞ」
「はあああああああ!?」
諦めて落ち込んでいるかと思いきや、ヴィルはぱっと顔をあげてとんでもない切り札を繰り出してきた。どうやらこの男、全然諦めていない。
「ていうか、ちょ、私の孤児院って……行ったの!?!?」
「卒業式中にな。まあ結婚の承諾っていうか、もうちょっと正確に言うと、孤児院に”多めの金”を寄付して、俺がリリナを引き取ってきた」
「ひ、引き取っ……じゃあこの馬車――」
「ああ、もう孤児院には向かってないぞ。首都《おれんち》に行ってる」
「はあああああああああああああ!?」
絶叫するリリナの前で、ヴィルは不満げに腕を組み、顔をしかめた。
「俺はあの孤児院嫌いだ。リリナを嫁にほしいって言ったら次の言葉がじゃあ結納金よこせだぞ……普通、びっくりしたり喜んだりするんじゃないのか? あんな血も涙もないがめついところにリリナを一秒でも置いておきたくないと思ったんだ、俺は」
「まあ……寄付金を懐に入れるような院長だからね、がめついのはもはやどうしようもない……っていうかそんなことはどうでもよくて――!」
「たしかにリリナの言う通り、」
リリナの抗議を遮り、ヴィルはどこか得意げににやりと口の端をつりあげて見せた。
「十年前の約束は子ども同士のただの口約束だ。だからちゃんと社会的な手続きは踏んでおこうと思ってな」
「いや一つも踏んでない! ていうか一番大事な手続き踏んでない!」
「なんだよ大事な手続きって」
「私の! 同意だよ!!!」
「……」
不服そうに押し黙ったヴィルは、ふいに、ぐいとリリナの腕をつかみ、力尽くで引き寄せた。
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