あくまで復讐の代行者

ゆーにゃん

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外伝 悪魔のちょっとした日常

バアルの日常 その二

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 それからどれ程、経ったか分からないがグレモリーとアスモデウスと共にある人間の召喚に応じた。

 自分では殺せない、同じ苦痛を恐怖を絶望を与えて死なせたい五人へ、復讐するため悪魔を頼ったと。
 それが、夏目との出会いであり契約だった。

 契約を交わし、夏目の家で過ごすこととなる。その際に、あるものへ俺は興味を惹きテレビに釘つけ。

「ほう~。これは面白うそうだな」

 それは家庭で野菜を育てることができる家庭菜園の特集。簡単にできるものから、すこし手間がかかるものまでと幅広く情報を教える番組。
 自分で育てて食うこともできる。野菜がメインだが、苺なんかも育てることができる。これはやっておかないと損な気がするな。

 夏目に言って、庭を借りるか。

「夏目」
「ん? どうした、バアル?」

 リビングのソファーでスマホを片手に、グレモリーと復讐するなら何をするか、どう恐怖を味わわせるかを話し合っていた。

「家庭菜園なんてものをやらせろ。面白そうだ」

 俺の言葉に、テレビを観る夏目。
 まあ、断られても強引にでも俺は始めるが。一応、言っておこうと思っただけだしな。

「家庭菜園……。バアル、これに興味があるのか?」
「ああ」

 なんだよ? 悪魔の俺が家庭菜園なんて似合わないってか?

 戦の強い悪魔だからな、そんな風に思われても仕方がないかもしれんが俺だってそういうものに興味がないわけじゃないぞ。

「家庭菜園ということは……、場所が必要だな。庭の広さで足りるだろうか? 道具を仕舞う道具入れを置く場所もいるだろうし……」

 お? その反応は、してもいいのか?
 てっきり、ダメだ無理だとか言われると思っていたが。

「僕では手伝えないから、家庭菜園するならバアル自身が庭を好きに改造してくれ」
「…………」
「どうした、バアル?」
「いや、あっさり受け入れたなって」
「ああ、そんなことか」
「どうしてだ? 自分の家が好き放題されるんだぞ? 人間は、自分のテリトリーを侵されるのは嫌うだろ。それなのに、夏目はいいのか? さっきの言葉、鵜呑みにするぞ? 俺の好き放題に改造して家庭菜園を始めちまうぞ」

 今まで契約を交わし、召喚してきた人間と反応が違うせいでか俺らしくもない質問ばかりを投げかける。

 その俺の質問に夏目はさも当然のように答える。

「構わない。庭で何かするわけでもないし、そもそも僕一人では何もできない。それなら、家庭菜園のついでに庭の手入れをバアルに任せた方がいいだろう。有効活用というやつだよ。それに、野菜は高い。なら家庭菜園で育てて、食卓に並ぶ方が節約に繋がるし美味しいものが食べられる」

 なるほど。このまま庭を放置しても雑草が生い茂り、手入れが大変な上にできないなら俺にさせた方が楽って考えたわけか。

 それに、と夏目は言葉を続ける。

「僕は、契約したお前たちの自由を縛る気はないから。やりたいことがあるなら、好きにさせておけばいいか。そう思っている。あとは、悪魔が家庭菜園なんて絵面が面白いじゃないか」
「…………」

 絵面が面白い、か。俺に向かってそんなことを言ってきたのは夏目が初めてだ。まだ出会ってそれ程でもないが、夏目は他の人間とは違って今後が楽しそうだな。

「くくっ。悪魔に向かって言うな、夏目」
「気に障ったか?」
「いや。夏目なら特別に許してやる。お前と一緒だと、今後が楽しめそうだからな」
「そうか。ああ、それとこれは家庭菜園する条件だけど」
「あ? なんだ?」

 右手の人差し指を立てる夏目。

「育てるなら、きちんと最後まで責任を持ち食べ途中で投げ出さないこと。これだけは守ってもらうぞ。バアル」
「ああ、分かった」

 俺はその条件を飲む。そして、翌日にさっそく庭を改造する。まず、雑草を魔力で塵一つ残さず燃やし、土へ魔力を流し野菜を育てる最適なものへと変える。不要な物を処分し、庭の隅に放置されていた道具入れを見つけ綺麗に掃除し庭の改造が終わった。

 その次の日には必要な道具や種、苗を買いに行く。

「ふむ。これと、あれも……。こっちもいいな」

 俺が食いたいものをメインに買い揃えていく。
 そうして一日で欲しい物を揃える。

 家庭菜園、三日目。

 買ってきた種や苗を耕した小さな畑に蒔き、植木鉢で育てられる野菜の配置も済ませる。今日から毎日、俺の魔力を流し込む。腐らないよう、微調整しながら甘く瑞々しく美味い野菜を育てる。

「くっくっくっ」

 朝、ホースで水をやる。俺の日課だ。家庭菜園を始めて一週間。俺の魔力で、育つのが早い野菜たち。それを眺め、嬉しくなって声が出て笑みを浮かべる。

「育てて一日目は、魔力を流し込み過ぎたかと不安になったが、ちゃんと育つのを見ると楽しいし嬉しいものだな」

 食べる時が本当に楽しみだ。どんな味がするのか。サラダに合うだろきっと。他にも煮込みから焼きまで。グレモリーなら、夏目のために料理に一工夫してくれるだろうから味が変わるだろう。

 煮込みなら汁に染み込んで、焼きなら香ばしく、そのままなら野菜本来の味が。どれも想像するだけ涎が出る。きっと、美味い。不味いわけがないと、自負さえしてみる。

「ああ。早く立派に育ち、俺の腹を満たしてくれよ」

 テレビで初めて観た時、興味が惹かれたのは確かだ。だがそれだけじゃない。育てた時の達成感、食った時の満足感を味わってみたい。そういうところにも惹かれた。

「夏目には感謝だな。俺のやりたい放題にさせてくれて。庭も好きに改造しても、楽しそうで何よりって言うだけで笑うし」

 人間は、欲深く私利私欲だ。そして、契約したからと俺たち悪魔を完全に手懐けたなどと愚かにも思い込み、我が物顔で命令を下す。
 俺は、それが心底気に食わない。

 だが、夏目は契約に関する命令を下しても、それ以外の命令を俺やグレモリー、アスモデウスにはしない。
 基本的に、俺たちのやりたいよう好きにさせてくれる。

「こうも、縛りのない楽な生活はいいな」

 気に入り始めた。この日常を。
 だから、悪魔らしくもない感謝を夏目にしてしまう俺だった――――。



                                               ―終わり―
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