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第二章.家族になろうよ
19.新創薬ライフと、おじさんの話
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温泉街から戻ってから、私の創薬ライフは充実している。なんだかんだでローちゃんさんが村に居着いてしまったので、毎日、プロの薬師に指導が受けられるようになったのだ。私の方が師匠なのだと言い張って、弟子として認めてもらえる様に、腕前を披露しているだけ、と無償で教えてもらっているのだけれど、本当にいいのだろうか?
私が私の創薬を教えないのは、弟子の力量を認めていないからではない。変な効能は、不思議魔法の所為でしたー、とタネ明かしした後は、教えられることが何もないからだ。ローちゃんさんが、魔力持ちかは知らないが、私が使っている魔法が、通常魔法なら呪文を教えれば、ローちゃんさんも同じ薬が作れるようになるかもしれない。だが、不思議魔法は、生まれ持った特殊技能か何かで、教えたからできるものでもないのだ。あれだけ何でもできるジョエルもキーリーもできないのだ。標本数が少なくて判断材料として適当かわからないけれども、村の人もできる人はいない。血の繋がった家族とか、どこかに同じことができる人がいる可能性は否定しないけれど、おそらく教えてどうにかなるものではないのだ。
しかも、誘拐される恐れがあるから言わない約束もしている。教えるどころか、種明かしする予定もないとは、ひどい師匠もいたものだ。
だが、教えてもらえる物は教えてもらう。それが私の創薬ライフ!
「ローちゃんさん、今日は何を作りましょうか?」
「そうですね。昨日、ソーヤーさんが、腰の痛みについて話してましたから、湿布薬を作りましょうか」
そうそう、赤毛でファニーフェイス少年だと思われたローちゃんさんは、シャルルより8つ年上のお兄さんでした。3つ4つ歳下だと思ってたところの8つ上。家出少年じゃなかったのは良かったけれど、もう自分の審美眼は何も信じられないね。ジョエルとキーリーは、気付いてたもの。
「湿布しっぷー。材料は、ギザギザ草とー」
「ギザギザ草ではありませんよ。正式名称を覚えましょう」
「え? ギザギザ草じゃないの? ダコタさん」
新創薬ライフスタート時には、殺し屋キーリーが同席してたのだけど、毎日付き合うほど暇じゃないのか、途中からダコタが代打に起用された。ダコタの仕事は、暇なのだろうか。毎日いるけど、大丈夫か。
「ギザギザ草だよ。合ってるよ」
ただ暇そうに見てるだけ部隊はつまらないのだろう、たまに話題を振ると、とてもいい笑顔をする。
「地方名ですか」
「違うよ。シャルルちゃんこそ、我が村のルール。シャルルちゃんが発言した時点で固有名詞くらいすぐ更新。覚えないと、ローワンさんが追放だから」
「さすが、天使様ですね」
恐ろしいルールを聞いてしまった。見る物聞く物知らない物が多すぎて覚えられなくて、日頃、適当なことばっかり言っていたけれど、皆にどれだけ迷惑をかけたのだろうか。発言には、重々注意を払わなくてはいけない。
「ちなみに、これの正式名称は何ていうの?」
「セイタカハルメヒツリ草です」
「セイタカハル? ギザギザ草でいいよね」
それ1つなら頑張って覚えるけども。何種類あるのかわからない薬草全部がそんなだったら、覚えられる気がしない。特に、もうギザギザ草のように自分の中で定着してしまった物は難しい。その上、ことは薬草だけではないのだ。無理だ。潔く諦めよう。
お昼ごはんで食堂に行ったら、珍しくジョエルとキーリーが一緒に並んで座っていた。行商のおじさんもいる。名前は忘れちゃったけど、ずっとおじさんと呼び続けていたら、おじさんの名前がおじさんに変わったりしないだろうか。ちょっと心配になった。
「ごはん一緒に食べていい?」
近寄って、声をかける。ごはんはやっぱり、家族みんなで食べたい。
「いいよ。オーランドは、ちょうど帰るところだから」
行商のおじさんのお皿は、沢山食べ物が乗っている。どちらかというと、食べ始めたばかりじゃなかろうか。追い出すのは、可哀想すぎる。
「おじさんをいじめるのは、ジョエルの勝手かもしれないけどね。食べ物を粗末にするなら、私は絶対に許さないよ!」
「ルルー、ごめんなさい」
ひどい言い草なのは、承知している。周りからは、とても白い目で見られているが、ここでおじさんを庇うと、より一層おじさんがいじめられるのだ。私だって、少しは学習を積んでいる。
「という訳で、お邪魔しまーす」
空いてたおじさんの横の席に座ったら、何か空気がピシリと凍りついた気がした。
「シャ、シャルル、ダメだ。そこは、ローワンの席だから」
キーリーが青い顔をしている。普段は、ローちゃんさんに厳しいのに、どういう風の吹き回しだろう? あれか? 口は悪いけど、実は優しい属性か? そういえば、キーリーはそういう人だった気がする。
「シャルルちゃんは、こっちのイスに! ジョエルさんの横で! ここでお願いします!!」
ダコタが近くの席からイスを持ってきた。もう座っちゃったし、そっちにローちゃんさんが座ればよくない? って思ったけど、おじさんにまでローちゃんさんと座りたいと主張されたので、しぶしぶ移った。いつかおじさんの横に座ってみせる!
今日のお昼は、ミラノ風ドリアだ。この世界にミラノという地名があるかは知らないが、私がミラノ風と言ったからミラノ風になってしまった1例だ。どこをひっくり返しても熊が出てこない。それだけで素敵なのに、とろけたチーズがたまらない。美味しい。
幸せ気分を満喫していると、おじさんから話を振られた。
「シャルルちゃんからも、説得してくれない? お仕事頑張るジョエル格好いい! とか、おじさんに優しいジョエル素敵! とかさ」
それは、説得なのだろうか?
なんだか知らないが、おじさんが持ってきた仕事をジョエルが引き受けてくれないらしい。おじさんは、冒険者ギルドからお使いを頼まれてきただけなのに、聞いてもらえなくて困ってるのだろう。
だが、そんな話を振られたって、私も困る。どっちでもいいことなら100%お願いを聞いてもらえるので誤解されがちだが、嫌だと思っていることに関しては、私が何を言っても無駄なのだ。私が頑張る理由もないのに、そんな期待をされても、どうしようもない。
「嫌なの?」
「絶対に嫌」
「嫌なんだって」
私のできること、終了!
「そう言わないでよー。SランクとAランク全投入して歯が立たないんだよー。ジョエルさんだけが頼りなんだって言ってたよー」
「うちはしがないCランクなの。Bランクを投入すればいいでしょう。Bランクまでは、ギルドの命令は絶対だもの。Cランク以下は断る権利があるんだから、わたしは行かない」
「難しいの?」
「違うわ。魔物退治に参加するより、ここでルルーを抱きしめている方がいいじゃない。招集場所が遠いのよ。毎日帰って来れないの。絶対、嫌だわ」
超くだらない理由だった!
「抱きしめるのは、禁止だから。骨折れるから。怖いから。痛いから。やったら嫌いになるから」
骨折も特級傷薬で即完治したと、ローちゃんさんが言っていたけれど、痛いのは勘弁だ。
「だけど、皆の役に立つジョエルは格好いいから、抱きしめる方ならいいかな?」
そっちなら、痛くないよね? 私が渾身の力で抱きしめたところで、ジョエルがどうにかなるとは思えないし。
私は、ドン引きな発言をしてしまったのだろうか、しばらく発言が止まったのだけど、
「できない」
ポツリとジョエルが言った。拳がふるえている。どうした?
「そうだな。やめとけ、やめとけ。そんなところにシャルルを連れちゃ行けないし、置いて行ったら、俺の独り占めだ。俺も連れて行ったら、最早どうなることやら知れねぇぞ?」
キーリーが、ほっとした顔で続けた。
が、ちょっと待て。これは、私が足枷になっているという話なのか。私は、独り立ちを目標に薬師修行をしているのに、まだ足りなかったらしい。私は、2人の邪魔をしたくはないんだよ。どちらかと言うと、役に立ちたいんだよ。
「おじさん。戦場から日帰り圏内で、温泉地とか、観光地とか、薬草パラダイスとか、何かそういうのない? 私、しばらくそこに遊びに行くから」
「シャルルちゃん、ありがとう! 調べてくる」
おじさんは、慌てて帰って行った。食事を残して。私は、殺意をみなぎらせた。
私が私の創薬を教えないのは、弟子の力量を認めていないからではない。変な効能は、不思議魔法の所為でしたー、とタネ明かしした後は、教えられることが何もないからだ。ローちゃんさんが、魔力持ちかは知らないが、私が使っている魔法が、通常魔法なら呪文を教えれば、ローちゃんさんも同じ薬が作れるようになるかもしれない。だが、不思議魔法は、生まれ持った特殊技能か何かで、教えたからできるものでもないのだ。あれだけ何でもできるジョエルもキーリーもできないのだ。標本数が少なくて判断材料として適当かわからないけれども、村の人もできる人はいない。血の繋がった家族とか、どこかに同じことができる人がいる可能性は否定しないけれど、おそらく教えてどうにかなるものではないのだ。
しかも、誘拐される恐れがあるから言わない約束もしている。教えるどころか、種明かしする予定もないとは、ひどい師匠もいたものだ。
だが、教えてもらえる物は教えてもらう。それが私の創薬ライフ!
「ローちゃんさん、今日は何を作りましょうか?」
「そうですね。昨日、ソーヤーさんが、腰の痛みについて話してましたから、湿布薬を作りましょうか」
そうそう、赤毛でファニーフェイス少年だと思われたローちゃんさんは、シャルルより8つ年上のお兄さんでした。3つ4つ歳下だと思ってたところの8つ上。家出少年じゃなかったのは良かったけれど、もう自分の審美眼は何も信じられないね。ジョエルとキーリーは、気付いてたもの。
「湿布しっぷー。材料は、ギザギザ草とー」
「ギザギザ草ではありませんよ。正式名称を覚えましょう」
「え? ギザギザ草じゃないの? ダコタさん」
新創薬ライフスタート時には、殺し屋キーリーが同席してたのだけど、毎日付き合うほど暇じゃないのか、途中からダコタが代打に起用された。ダコタの仕事は、暇なのだろうか。毎日いるけど、大丈夫か。
「ギザギザ草だよ。合ってるよ」
ただ暇そうに見てるだけ部隊はつまらないのだろう、たまに話題を振ると、とてもいい笑顔をする。
「地方名ですか」
「違うよ。シャルルちゃんこそ、我が村のルール。シャルルちゃんが発言した時点で固有名詞くらいすぐ更新。覚えないと、ローワンさんが追放だから」
「さすが、天使様ですね」
恐ろしいルールを聞いてしまった。見る物聞く物知らない物が多すぎて覚えられなくて、日頃、適当なことばっかり言っていたけれど、皆にどれだけ迷惑をかけたのだろうか。発言には、重々注意を払わなくてはいけない。
「ちなみに、これの正式名称は何ていうの?」
「セイタカハルメヒツリ草です」
「セイタカハル? ギザギザ草でいいよね」
それ1つなら頑張って覚えるけども。何種類あるのかわからない薬草全部がそんなだったら、覚えられる気がしない。特に、もうギザギザ草のように自分の中で定着してしまった物は難しい。その上、ことは薬草だけではないのだ。無理だ。潔く諦めよう。
お昼ごはんで食堂に行ったら、珍しくジョエルとキーリーが一緒に並んで座っていた。行商のおじさんもいる。名前は忘れちゃったけど、ずっとおじさんと呼び続けていたら、おじさんの名前がおじさんに変わったりしないだろうか。ちょっと心配になった。
「ごはん一緒に食べていい?」
近寄って、声をかける。ごはんはやっぱり、家族みんなで食べたい。
「いいよ。オーランドは、ちょうど帰るところだから」
行商のおじさんのお皿は、沢山食べ物が乗っている。どちらかというと、食べ始めたばかりじゃなかろうか。追い出すのは、可哀想すぎる。
「おじさんをいじめるのは、ジョエルの勝手かもしれないけどね。食べ物を粗末にするなら、私は絶対に許さないよ!」
「ルルー、ごめんなさい」
ひどい言い草なのは、承知している。周りからは、とても白い目で見られているが、ここでおじさんを庇うと、より一層おじさんがいじめられるのだ。私だって、少しは学習を積んでいる。
「という訳で、お邪魔しまーす」
空いてたおじさんの横の席に座ったら、何か空気がピシリと凍りついた気がした。
「シャ、シャルル、ダメだ。そこは、ローワンの席だから」
キーリーが青い顔をしている。普段は、ローちゃんさんに厳しいのに、どういう風の吹き回しだろう? あれか? 口は悪いけど、実は優しい属性か? そういえば、キーリーはそういう人だった気がする。
「シャルルちゃんは、こっちのイスに! ジョエルさんの横で! ここでお願いします!!」
ダコタが近くの席からイスを持ってきた。もう座っちゃったし、そっちにローちゃんさんが座ればよくない? って思ったけど、おじさんにまでローちゃんさんと座りたいと主張されたので、しぶしぶ移った。いつかおじさんの横に座ってみせる!
今日のお昼は、ミラノ風ドリアだ。この世界にミラノという地名があるかは知らないが、私がミラノ風と言ったからミラノ風になってしまった1例だ。どこをひっくり返しても熊が出てこない。それだけで素敵なのに、とろけたチーズがたまらない。美味しい。
幸せ気分を満喫していると、おじさんから話を振られた。
「シャルルちゃんからも、説得してくれない? お仕事頑張るジョエル格好いい! とか、おじさんに優しいジョエル素敵! とかさ」
それは、説得なのだろうか?
なんだか知らないが、おじさんが持ってきた仕事をジョエルが引き受けてくれないらしい。おじさんは、冒険者ギルドからお使いを頼まれてきただけなのに、聞いてもらえなくて困ってるのだろう。
だが、そんな話を振られたって、私も困る。どっちでもいいことなら100%お願いを聞いてもらえるので誤解されがちだが、嫌だと思っていることに関しては、私が何を言っても無駄なのだ。私が頑張る理由もないのに、そんな期待をされても、どうしようもない。
「嫌なの?」
「絶対に嫌」
「嫌なんだって」
私のできること、終了!
「そう言わないでよー。SランクとAランク全投入して歯が立たないんだよー。ジョエルさんだけが頼りなんだって言ってたよー」
「うちはしがないCランクなの。Bランクを投入すればいいでしょう。Bランクまでは、ギルドの命令は絶対だもの。Cランク以下は断る権利があるんだから、わたしは行かない」
「難しいの?」
「違うわ。魔物退治に参加するより、ここでルルーを抱きしめている方がいいじゃない。招集場所が遠いのよ。毎日帰って来れないの。絶対、嫌だわ」
超くだらない理由だった!
「抱きしめるのは、禁止だから。骨折れるから。怖いから。痛いから。やったら嫌いになるから」
骨折も特級傷薬で即完治したと、ローちゃんさんが言っていたけれど、痛いのは勘弁だ。
「だけど、皆の役に立つジョエルは格好いいから、抱きしめる方ならいいかな?」
そっちなら、痛くないよね? 私が渾身の力で抱きしめたところで、ジョエルがどうにかなるとは思えないし。
私は、ドン引きな発言をしてしまったのだろうか、しばらく発言が止まったのだけど、
「できない」
ポツリとジョエルが言った。拳がふるえている。どうした?
「そうだな。やめとけ、やめとけ。そんなところにシャルルを連れちゃ行けないし、置いて行ったら、俺の独り占めだ。俺も連れて行ったら、最早どうなることやら知れねぇぞ?」
キーリーが、ほっとした顔で続けた。
が、ちょっと待て。これは、私が足枷になっているという話なのか。私は、独り立ちを目標に薬師修行をしているのに、まだ足りなかったらしい。私は、2人の邪魔をしたくはないんだよ。どちらかと言うと、役に立ちたいんだよ。
「おじさん。戦場から日帰り圏内で、温泉地とか、観光地とか、薬草パラダイスとか、何かそういうのない? 私、しばらくそこに遊びに行くから」
「シャルルちゃん、ありがとう! 調べてくる」
おじさんは、慌てて帰って行った。食事を残して。私は、殺意をみなぎらせた。
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