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第四章.愛する私のシャルルへ

54.閑話、クロ視点

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 俺は、クロ。男のクロだ。 


 クロは、クロの家で生産される生き物だ。女のクロは出荷され、男のクロはある程度保存され、クロの種にする。
 俺は、余剰だったから、島に捨て置かれた。島には、仲間のクロがいた。俺は、そのクロたちに育てられた。 
 小さい頃は数人いた島のクロも、今はいなくなった。新入りが来なければ、増えない。男が生まれないのか、島に連れてくるのが面倒になったのか、わからないが、数年は新参が来なかった。 だから、今は、俺は1人だ。
 なのに、建物の中に人がいた。頭からフードをかぶっているので、どんな人物か知れないが、背格好は俺と大して変わらない。 
 ここのところ、島には誰も来ていないし、こんな大きな新参者が来ることはない。何が目的だ? 
「誰だ!」 
 誰何するのと同時に押さえ込む。何の抵抗もなく、簡単に目標を捕らえた。おかしい。  
「お前は誰! っだ?」
 フードから顔が露わになっている。クロの女が、泣いていた。何故、こんなところにいるのか。女まで余剰ができたのか? それとも、俺のツガイか? 
「なぜ、泣く?」 
 売られなかったのを悲しんでいるのか? 島に来たくなかったのか? 
 だが、女は頭を打ったという、どうでもいいことで泣いていた。そんなことで嘆いていたら、ここでは生きていけないだろう。 
「お前もクロなんだな。悪かった」
 何故やってきたのかは知らないが、クロは仲間だ。何人いても、問題ない。そう思ったのに、女はクロではないと言う。  
「クロじゃないよ。シャルルだよ」 
 名付きのクロは、初めて見た。特別を許されたクロだった。 

 特別のクロ、シャルルは、背丈は変わらないものの、折れそうに細くて、記憶がなくて、クロの家のことも、今のことも覚えていなかった。久しぶりに見た仲間だったのに、今にも死んでしまいそうだった。
 特別のクロは、やはり特別だった。 
 呪文の詠唱なしに、いろんな物を出す。テーブルとイス、カップにお茶、ベッドにタンスに服に食い物、あかりまで、すぐに出てきた。 
「すごいな。シャルルは」 
 感嘆するしかない。俺も名付きのクロになりたい、と思った。 

 だがしかし、夜に寝るという意見だけは、頷けなかった。夜に寝て、死んだクロを何人か知っている。夜は暗くてすることがないのだが、それでも寝るのはやめた方がいい。 
「死なせない。一緒に頑張ろう」
 ベッドに並んで腰掛けて、話をして過ごした。シャルルの話は難しかった。数を使った魔法、生物の進化、食べ物の栄養価、ブツリホウソク、カガク? よくわからない話が出る度に質問すると、スラスラと答えが返ってくるのだが、話していても寝ている時があった。指摘すると起きるのだが、そのうち、叩いてもゆすっても起きなくなった。 
 このままでは、死んでしまうかもしれない。布団をかけてもかけても蹴られるから、布団を巻いて縛った。こまめに呼吸と体温のチェックをする。あとは、どうしたら? 死なないでくれ。死なないでくれ。シャルル! 


 シャルルは、日が昇って大分経って目覚めた。良かった。死んだら、死のうかと思った。
 シャルルが出した硬い食い物を食べて、寝た。就寝時間は大分過ぎていたから、すぐに意識がなくなった。

 寝た気はしなかったが、目が開いたから起きる。
 シャルルは、生きているだろうか? それだけが気にかかるのに、シャルルはいなかった。
 ベッドがあるのだから、夢ではないハズだ。何故、消えてしまったのだろう。

 城中を走り回って、隣の塔で見つけた。逃げられる前に捕まえる。 
「いなくなったと思った」 
「ごめんね。今夜は昨日より暖かく過ごしたいと思ってさ。頑張ってたんだよ。と言っても、まだ窓2つ分しかできてないんだけど。この城、窓いくつあるんだろうね。終わんないね!」 
 シャルルは、木で何かを作っていた。説明を聞いたが、とても非効率な物を作っているようだ。置いていかれたくないから、手伝いを申し出た。
 一緒にやるつもりでいたのだが、いつの間にか、1人で作業していた。

 今夜は、ベッドで一緒に寝るという。再三、昼に寝ろと言ったのに、シャルルは寝なかった。
 今日は、星の話や地下の話、人体の中身、イデンシについて。植物について。薬の作り方、弟妹の育て方を学んだ。夜なのに、シャルルが暖かくて、眠ってしまった。


 次の日は、シャルルは外に行くが、窓作りの続きをして欲しいと言われた。なんでもいいが、一緒じゃなきゃ嫌だ。理由を作っては、シャルルのところへ行った。
 シャルルは、今度は果樹を出していた。どういう理屈かわからないが、小さい粒で樹を作った。その樹に実がなっている。季節も関係ないようだ。今度、真似してやってみよう。 

 今度は、シャルルが海水や泥水を飲みたいと言い出した。雨水だけでは足りないのはわからないではないが、海水は塩辛いし、泥水は泥臭い。腹を壊しそうだ。やめた方がいい。小石や砂利や焼いた木や金属板を使うと、雨水より美味しい水ができるそうだ。
 絶対無理だと思ったが、穴掘りと水運びをやってやった。食料をシャルルが出すなら、何をして過ごしても構わない。 

 俺は、シャルルさえいてくれたら、他に欲しい物はなかった。シャルルがいれば、飯も困らない、布団も出てきた。あかりもつく。面白い話をしてくれる。何より寂しくない。
 だけど、シャルルは欲しい物が沢山あるようだった。水や食い物や温かさ? 俺がそれを作り出せたら、シャルルは、ずっと俺のそばにいてくれるだろうか。それならば、俺はやる。泥水だって飲んでやる。 
 俺も特別なクロになるために、名を欲したが、シャルルは嫌そうな顔をした。簡単だと言ったのに、ダメだった。俺は、特別にはなれなかった。

 朝起きたら、シャルルは俺に名をくれた。
 シュバルツ。シャルルよりも長い名だった。とても偉くなった気がした。シャルルとお揃いの名前だ。嬉しかった。だけど、名など欲しがらなければ良かった。 
 シャルルは、緑の光に包まれた。とてもキレイだったけど、シャルルの足が消えてしまった。
「シャルル、ダメだ。消えるな!」
 シャルルは、泣きながら食べ物を放出し始めた。
 いてくれるだけでいいと言いながら、欲をかいた罰なのだろうか。特別は、1人しか認められないのか。失敗した。後悔した。 
 だが、シャルルは最後にまた会えると言った。それがいつかはわからないが、その日までにシャルルが欲した物を全て用意しなければならない。あの細いシャルルが生きていくために、足りない物は沢山ある。全て手に入れよう。次は、消えさせない。
 それが叶えば、俺は幸せになれる。シャルルの希望も叶う。立ち止まっている時間はなかった。
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