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第八章.みんな可愛い私の弟妹
98.閑話、ケネディ視点
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わたしは、ケネディ。今、恋をしている。
美しい少女がいるという噂は、聞いたことがあった。何処にいても目を引く、絶対の美しさを持っているのだと。一度見てみたいものだと思っていたが、それが叶うことはないままに、彼女は街からいなくなってしまった。
その時は、さして残念とも思わなかった。美人などと言ってみたところで、どうせたかが知れている。噂だけなら、うちの母も姉も妹も、そこの菓子屋の娘も、みんな美人だ。確かに不細工ではないと思うが、美人と言われると首を傾げざるを得ない。皆が美人であれば、美人に価値などないだろう。
彼女の存在なんて、すっかり忘れていたのに。ある晩、美しい人を見た。
艶やかな髪、麗しい顔、均整のとれた体躯、どこから見ても、無駄のない美しさだった。華やかで、煌びやかなオーラを持つ、太陽のような人だった。その人が通り過ぎた一瞬は、昼のような輝きを感じた。
あの人こそ、噂の少女の未来図に違いない。
街を駆け抜けた美しい人が誰であったのか、容易に知ることができた。次の日には、止められない噂になっていたのだ。彼女は美しいだけではなく、仕事の腕も一級で、著名だった。あの凜とした佇まいは、美貌だけで裏打ちされたものではなかったのだ。
早速、知己を得るべく、動いた。何をする前に、まず知り合わなければ話にならない。
彼女は、たまたまこの街に遊びにきた人で、街には住んではいない。噂を確認した頃には、もう街から離れていたので、会うことは難しくなった。
住所は簡単に知れたが、わたしが自然と訪れることができるような土地ではなかった。知り合いでもないのに、押しかけることはできない。知り合えれば何でもいい訳ではない。
わたしは、舞踏会を開催した。
日頃から、見識を広めるために行っていることだが、そこに彼女を招待することにした。主催者と招待客の関係であれば、自然と挨拶ができる。ビジネスの顔で知り合う方が、スマートに知り合える。
彼女の兄の友人というだけで、個人的な面識はないので、著名人を片っ端から呼ぶパーティにした。彼女個人ではなく、所属団体を丸ごと招待した。
隙のない装いを研究し、当日を迎えた。いよいよ待ちに待った日がやってきた。平服の彼女も美しかったが、着飾った彼女の美々しさは如何許りだろう。
逸る心を抑えて、招待主としての挨拶業務に従事する。挨拶だけきちんとこなしていれば、自然と彼女と知り合えるのだ。あわてる必要はない。
「ジョエルと申します。お招き下さり、ありがとう御座います」
、、、、、。
「ちょっと待てぃ。お前は、誰だ!」
見覚えのある金の髪。見覚えのある緑の瞳。見覚えのある整った顔立ち。見覚えのある!
「なんで、男なんだ!!」
「わたしは、生まれた時から男ですから」
そんなハズはない。噂だけなら15年前から知っている。15年前から、わりと最近までずっと女だった。顔を見れば、人違いでないことは知れる。男装の麗人でもない。生粋の男に見えた。最後の恋のつもりでいたのに。
「なんで、ドレスを着てこなかった!」
「わたしは男ですから、ドレスなど着ませんよ」
「嘘だ。昔は、ドレスしか着てなかったろう!」
「兄の誰かと、勘違いなさっているのではないですか?」
「兄がドレスを着るものか! お前と知り合うために、全員友人になったんだ。そんなのが混ざっていないことは知っている。10年以上、ずっと想い続けていたのに、わたしの初恋を返せ!!」
泣きながら、つかみかかった。
無様だ。みっともない。公衆の面前で行うことではない。著名人を片っ端から呼んだ会で乱心するなど、最悪だった。逆上して、それに気付いていないのではない。しれっと適当なことを並べる佳人だったものに、そのくらい腹が立ったのだ。
お前は、想いを寄せられることなど茶飯事なのだろう。好意を持たない相手に寄せられる想いなど、ただの雑音だろう。むしろ迷惑なだけだろう。だが、その想い1つひとつは、純粋で必死なものだったかもしれないのに。せめて、真剣に話を聞け!
「10年前? ロリコンか」
Sランクには、敵わない。ひょいといとも簡単に投げられたが、力量の差など関係ない。
「10年前は、わたしも子どもだったに決まっているだろ!」
舞踏会だったものが、武闘会に変わった。
一方的につかみかかっては、投げられ続けるだけのショーだが、招待客には、概ね好評を得た。また開催して欲しいとの要望が次々挙がっているらしいが、誰がやるか。しばらくは、ケガの治療で静養だ。誰にも会わずに引きこもった。
ジョエルは、まったく腹の立つ男だったが、つかみかかって投げられ続けるうちに、想いは消え去った。今は、憑き物が落ちたかのように、不思議なほどスッキリしている。わたしは、新しい恋を見つけたのだ。
あの舞踏会に、とても美しい女性が現れたのだ。何もない空間に前触れもなく出現し、ふわりふわりと落ちてきた。まっすぐな鳶色の髪、大きな漆黒の瞳。ほんのりと緑の光を帯びている。男装にも見えたが、あの小柄な体型は、今度こそ絶対間違いなく女性だ。愛らしい笑みに、一瞬で心が奪われた。
ジョエルが連れ去ったので、諦めかけたが、念のために情報を求めた。美しい彼女の目撃情報は、簡単に集まった。
舞踏会に来たものの、足を痛めて踊ることもできず、人見知りのために、会話を楽しむこともなかったという。夫を名乗る人物もいたが、明らかに口裏合わせの兄だったそうだ。
父と兄に守られて、付き添いで舞踏会に現れたご令嬢だ。ジョエルのものであったなら、兄が夫の代役などしないだろう。美しく控えめで、奥ゆかしい彼女。最高だ。
今度こそ今度こそ今度こそ、素晴らしい出会いを果たしてやるぞ。
美しい少女がいるという噂は、聞いたことがあった。何処にいても目を引く、絶対の美しさを持っているのだと。一度見てみたいものだと思っていたが、それが叶うことはないままに、彼女は街からいなくなってしまった。
その時は、さして残念とも思わなかった。美人などと言ってみたところで、どうせたかが知れている。噂だけなら、うちの母も姉も妹も、そこの菓子屋の娘も、みんな美人だ。確かに不細工ではないと思うが、美人と言われると首を傾げざるを得ない。皆が美人であれば、美人に価値などないだろう。
彼女の存在なんて、すっかり忘れていたのに。ある晩、美しい人を見た。
艶やかな髪、麗しい顔、均整のとれた体躯、どこから見ても、無駄のない美しさだった。華やかで、煌びやかなオーラを持つ、太陽のような人だった。その人が通り過ぎた一瞬は、昼のような輝きを感じた。
あの人こそ、噂の少女の未来図に違いない。
街を駆け抜けた美しい人が誰であったのか、容易に知ることができた。次の日には、止められない噂になっていたのだ。彼女は美しいだけではなく、仕事の腕も一級で、著名だった。あの凜とした佇まいは、美貌だけで裏打ちされたものではなかったのだ。
早速、知己を得るべく、動いた。何をする前に、まず知り合わなければ話にならない。
彼女は、たまたまこの街に遊びにきた人で、街には住んではいない。噂を確認した頃には、もう街から離れていたので、会うことは難しくなった。
住所は簡単に知れたが、わたしが自然と訪れることができるような土地ではなかった。知り合いでもないのに、押しかけることはできない。知り合えれば何でもいい訳ではない。
わたしは、舞踏会を開催した。
日頃から、見識を広めるために行っていることだが、そこに彼女を招待することにした。主催者と招待客の関係であれば、自然と挨拶ができる。ビジネスの顔で知り合う方が、スマートに知り合える。
彼女の兄の友人というだけで、個人的な面識はないので、著名人を片っ端から呼ぶパーティにした。彼女個人ではなく、所属団体を丸ごと招待した。
隙のない装いを研究し、当日を迎えた。いよいよ待ちに待った日がやってきた。平服の彼女も美しかったが、着飾った彼女の美々しさは如何許りだろう。
逸る心を抑えて、招待主としての挨拶業務に従事する。挨拶だけきちんとこなしていれば、自然と彼女と知り合えるのだ。あわてる必要はない。
「ジョエルと申します。お招き下さり、ありがとう御座います」
、、、、、。
「ちょっと待てぃ。お前は、誰だ!」
見覚えのある金の髪。見覚えのある緑の瞳。見覚えのある整った顔立ち。見覚えのある!
「なんで、男なんだ!!」
「わたしは、生まれた時から男ですから」
そんなハズはない。噂だけなら15年前から知っている。15年前から、わりと最近までずっと女だった。顔を見れば、人違いでないことは知れる。男装の麗人でもない。生粋の男に見えた。最後の恋のつもりでいたのに。
「なんで、ドレスを着てこなかった!」
「わたしは男ですから、ドレスなど着ませんよ」
「嘘だ。昔は、ドレスしか着てなかったろう!」
「兄の誰かと、勘違いなさっているのではないですか?」
「兄がドレスを着るものか! お前と知り合うために、全員友人になったんだ。そんなのが混ざっていないことは知っている。10年以上、ずっと想い続けていたのに、わたしの初恋を返せ!!」
泣きながら、つかみかかった。
無様だ。みっともない。公衆の面前で行うことではない。著名人を片っ端から呼んだ会で乱心するなど、最悪だった。逆上して、それに気付いていないのではない。しれっと適当なことを並べる佳人だったものに、そのくらい腹が立ったのだ。
お前は、想いを寄せられることなど茶飯事なのだろう。好意を持たない相手に寄せられる想いなど、ただの雑音だろう。むしろ迷惑なだけだろう。だが、その想い1つひとつは、純粋で必死なものだったかもしれないのに。せめて、真剣に話を聞け!
「10年前? ロリコンか」
Sランクには、敵わない。ひょいといとも簡単に投げられたが、力量の差など関係ない。
「10年前は、わたしも子どもだったに決まっているだろ!」
舞踏会だったものが、武闘会に変わった。
一方的につかみかかっては、投げられ続けるだけのショーだが、招待客には、概ね好評を得た。また開催して欲しいとの要望が次々挙がっているらしいが、誰がやるか。しばらくは、ケガの治療で静養だ。誰にも会わずに引きこもった。
ジョエルは、まったく腹の立つ男だったが、つかみかかって投げられ続けるうちに、想いは消え去った。今は、憑き物が落ちたかのように、不思議なほどスッキリしている。わたしは、新しい恋を見つけたのだ。
あの舞踏会に、とても美しい女性が現れたのだ。何もない空間に前触れもなく出現し、ふわりふわりと落ちてきた。まっすぐな鳶色の髪、大きな漆黒の瞳。ほんのりと緑の光を帯びている。男装にも見えたが、あの小柄な体型は、今度こそ絶対間違いなく女性だ。愛らしい笑みに、一瞬で心が奪われた。
ジョエルが連れ去ったので、諦めかけたが、念のために情報を求めた。美しい彼女の目撃情報は、簡単に集まった。
舞踏会に来たものの、足を痛めて踊ることもできず、人見知りのために、会話を楽しむこともなかったという。夫を名乗る人物もいたが、明らかに口裏合わせの兄だったそうだ。
父と兄に守られて、付き添いで舞踏会に現れたご令嬢だ。ジョエルのものであったなら、兄が夫の代役などしないだろう。美しく控えめで、奥ゆかしい彼女。最高だ。
今度こそ今度こそ今度こそ、素晴らしい出会いを果たしてやるぞ。
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