僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル

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過去~高校生編2

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-side 日比野敦-


いつもいつも、話しかけたかった。

同じ教室にいるのに、俺らはお互いにすごく遠くて。

他のクラスメートと笑いあう俺とは対照的に慶太はいつも一人。

ただ机の上に本を置き、それに没頭する。

いや、してるふりなのかもしれない。


気になって気になって気になって。


でも手を離したのは自分だから。

そういう負い目があり、ただ気づかれないように見つめるしかなかった。


これを恋と呼ぶのかと言われれば、そうではない。

少なくとも俺は違うと思う。

玲人はそう思わないだろうが。


友情?それとも違う気がする。

家族愛?

よく分からねぇ。

でも、大事なんだ。


たまに慶太がひとりで教室に残ってるのも知っていた。

そしてその日は決まって玲人が別のヤツと帰っていくのも。


ただ今日は、放課後の誰もいない凍えるような教室で一人ひっそりと自分を抱きしめる慶太を見て。

どうしても話しかけずにはいられなかった。

俺よりも小さくて細い身体を必死に抱え込むあいつは。

まるで自分で自分を愛してるかのようで。

自分で自分を守ってるかのようで。


気づくと自分のコートをあいつにかけていた。

それが俺であることに気づき少しだけ驚いた表情をする。


久しぶりに慶太が俺のことを『あっちゃん』と呼ぶのを聞いた。

間近で見ると、またやせたように感じる。

それが玲人の、そして俺のせいであることは分かった上で思わず聞いてしまったんだ。

「玲人はまだ続けているんだろ?」
「ちゃんと言いたいことを言ってるのか?」


それなのに慶太の答えは。

「捨てられたくない。」
「わずらわしいと思われたくない。」
「離れて欲しくない」
「離したくない」

自分の感情よりも玲人がそばにいることのほうが大事で、何も言えない慶太。


笑ってるんだけど、笑えてねぇんだよ。

お前自分でその事分かってないだろ?


それがなぜかすごく悲しくて、とても痛くて。

泣いたのは俺。


人のためだけに純粋に泣いたのなんて初めてだろう。

せめて俺がいたら。

あの時こいつの手を離さなかったら。

慶太はもっとましな笑い方ができていたかもしれない。


玲人のためだ、慶太のためだ。

そう言って離れたけど、でも本当は。

「俺のおかげで二人はやり直せる。立て直せるんだ」

完全なるエゴ。


慶太。

忘れられないよ。

俺が離れると告げた時のお前の表情が。

一緒にいたときのお前のまぶしい笑顔が。

玲人を好きだと俺に言ったお前の照れた顔が。


もう一度あれを見ることは出来ないのか?


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