僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル

文字の大きさ
219 / 327
大学生編

43

しおりを挟む

ーside 桐生玲人ー


「ぁの…玲人。おやすみなさい」

「ああ。……慶太っ」

「…何?」

「いや、なんでもない…おやすみ」

「うん、おやすみ」


パタンと閉まるドア。

慶太はまたあの部屋へと消えていく。


もうどれくらいあいつと一緒に寝ていないのだろう。

慶太のぬくもりを感じずにあの広いベッドでひとり。


あいつが俺らの寝室ではないあの部屋に入るのを何度見送っただろう。

引き止めたいと思いながら。

無理やりにでもベッドに引っ張っていきたいと思いながら。

何度、それを我慢したのだろう。


慶太が朝帰りをして。

次の日から一緒に寝る事を無言で拒否されて。

理由なんて分かりきってるから問いただす事もできなくて。


もう二週間…か。

どんだけ、あいつの事を抱いてないのだろう。


最近、慶太の帰りが遅くなった。

異常に遅いというわけではない。

時間にしたら、多分一時間…くらい。


あいつのバイトが無い日に俺も少し早めに帰宅する。

そこにいるはずの慶太はいなかった。

少しして帰ってきたことにホッとする。


「…お帰り」

「玲人…帰ってたの?」

「あぁ」

「ごめん、ご飯すぐ作る…」

「サンキュ。……今日さ、どっか行ったの?」

「え?」

「いや…なんか遅かったかなって」

「ぁ…うん。ちょっと…買い物」


そう言ってすぐに俺に背を向けてキッチンへと向かう。


冷蔵庫に物をしまう慶太の背中を見つめる。

買い物なんてさ。

ウソ、なんだろ?


こんなにも簡単に慶太のウソを見抜けてしまう自分が誇らしいとともに。

すごく苦しい。


俺に隠して一体どこに行ってるというのだろうか。

知られたくないところ?

慶太にそんなことある分けない。

誰かと会ってんの?

違うよな。


あの日。

お前が着て帰ってきたあのトレーナーとスウェット。

キレイに洗濯されてアイロンかけられてるのを見た。

でも。

それが最近消えていた。


な。

違う…だろ?

しおりを挟む
感想 105

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

彼の至宝

まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

唇を隠して,それでも君に恋したい。

初恋
BL
同性で親友の敦に恋をする主人公は,性別だけでなく,生まれながらの特殊な体質にも悩まされ,けれどその恋心はなくならない。 大きな弊害に様々な苦難を強いられながらも,たった1人に恋し続ける男の子のお話。

メビウスの輪を超えて 【カフェのマスター・アルファ×全てを失った少年・オメガ。 君の心を、私は温めてあげられるんだろうか】

大波小波
BL
 梅ヶ谷 早紀(うめがや さき)は、18歳のオメガ少年だ。  愛らしい抜群のルックスに加え、素直で朗らか。  大人に背伸びしたがる、ちょっぴり生意気な一面も持っている。  裕福な家庭に生まれ、なに不自由なく育った彼は、学園の人気者だった。    ある日、早紀は友人たちと気まぐれに入った『カフェ・メビウス』で、マスターの弓月 衛(ゆづき まもる)と出会う。  32歳と、早紀より一回り以上も年上の衛は、落ち着いた雰囲気を持つ大人のアルファ男性だ。  どこかミステリアスな彼をもっと知りたい早紀は、それから毎日のようにメビウスに通うようになった。    ところが早紀の父・紀明(のりあき)が、重役たちの背信により取締役の座から降ろされてしまう。  高額の借金まで背負わされた父は、借金取りの手から早紀を隠すため、彼を衛に託した。 『私は、早紀を信頼のおける人間に、預けたいのです。隠しておきたいのです』 『再びお会いした時には、早紀くんの淹れたコーヒーが出せるようにしておきます』  あの笑顔を、失くしたくない。  伸びやかなあの心を、壊したくない。  衛は、その一心で覚悟を決めたのだ。  ひとつ屋根の下に住むことになった、アルファの衛とオメガの早紀。  波乱含みの同棲生活が、有無を言わさず始まった……!

処理中です...