時駆け! 星空ふたごは歴史をかえてみせます

涼・麦穂

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第3章 前夜

5.必要なこと

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  気づくとソラの目のまえには、万歳ばんざいポーズで立っているホルンちゃんの姿があった。

「ん? お戻りですねソラさん。そのみのかさはお土産みやげですか?」

 ホルンちゃんは片目かためをあけてソラの姿を確認すると手をおろす。同時に本殿奥ほんでんおくの扉からもれていた虹色にじいろの光が消えた。
 戻ってきた、という安心感あんしんかんが体じゅうにひろがる。

「はああああ、あせったあ! サンキュー、セイ。ナイスタイミング」
「おまえ、あぶなっかしいことおきすぎ……」

 無事ぶじに戻ったソラに、セイはたおれるように床にころんでしまった。

「ちょっとお。しっかりしてよ。あたしよりつかれてるわけ?」
「あのな。観察かんさつモードを使いすぎちゃダメだって、ソラが自分で言ったんだろ。なのに、気がぬけねーんだもん」

 そうだったかしら、とソラは舌を出した。

 ここぞというタイミングで観察モードを使うはずが、ソラはしょっちゅうびっくりしたり、あせったり。
 ソラの感情が大きくゆれるたびに、セイは過去のようすをつかもうと、感覚をとぎすませていたのだ。
 ホルンちゃんの言っていたふたごの共鳴力きょうめいりょくというやつが強くなっているらしく、おたがいに感情が伝わりやすくなっていた。

王念おうねんさんがいたときは観察モードのまま話せたし、楽だったんだけどね」

 いまでこそ文句もんくを言っているけれど、過去に行っているあいだはひとことも不平ふへいを言わなかった。そのことに、ソラは心のなかで「ありがとう」と言っておく。
 ホルンちゃんのトリカブト帽子ぼうしのときには、セイが本気であきれてばかにしていたのが伝わってきたので、感謝の言葉は口に出してやらなかった。

「いかがでしたか、たいむすりっぷの結果けっかは。歴史れきしを守ることができましたか」

 ホルンちゃんは、過去でなにをしてきたのか、まったく知らないようだ。目をキラキラさせる神さまに、ソラはがっくりとかたを落とす。

「あたしが飛ばされたのは、一揆いっきのまえでした! 歴史を守るもなにも、まだなにもおこってなかったの」

ホルンちゃんは目をぱちくりさせる。

「おや、それはそれは……。しかし、くさりを投げるとき、たしかにあのときあの場所が必要だと感じたのです。今回ソラさんが行ったことは、きっと必要なことだったんですよ」

 神さまに言われると、そういう気もしてくる。

「たしかに、ゆうに会えたし、イオリさんにも会えたし、治助じすけさんも見れちゃったし。歴史上の人物って、思ってたよりみんなふつうだった。あ、治助さんはすごい迫力はくりょくだったけど。セイも会ってみたかった?」

「おれは、織田おだ信長のぶながとかを遠くからながめるくらいでいいや……」
 セイは床に伸びたまま返事をした。

 今回、ソラが過去へ行っていたのは5時間ほどだった。
 そのなかで、王念坊主おうねんぼうずに会い、落とし穴に落ちて、裕に助けてもらって……と、もりだくさんだったが、処刑しょけいを止めるということについてはまったくなにもしていない。

「イオリさんに、そうなることを話せただけでもすごい成果せいかだろ。ホルンちゃんが言ったとおり、必要なことだったんだよ。裕とともだちになったことも、きっと役に立つよ」

 裕、か。

 ソラは、日に焼けてそばかすのいた裕の顔を思いだす。心も体も強く、やさしい少年。

 また、会いたいな。

 裕が貸してくれた蓑と笠にそっとふれる。

「ソラ?」
 顔をのぞきこまれて、ソラはあわてて「あの、その」と言葉をさがした。

「そ、そうだ、その、裕だけど。あたしたちとおなどしくらいに見えなかった? 資料だと、中3くらいじゃなかったっけ」

 そうなのだ。かぞどし16さいということは、ソラたちでいう14歳か15歳。

「あ、おれも思った。顔つきとか体つきとか、そんなに上って感じしなかったよな」

 んー、とホルンちゃんはあごに手をあてた。

「まあ、むかしによくありそうなことですねえ。ぎゃくサバみというやつです。ほんとうは10歳なのに、12歳ということにして奉公ほうこうに出す、みたいな」

 うわあブラック、とソラは顔をしかめた。

「おゆうちゃんのばあいは、それこそはん都合つごうというやつかもしれませんよ。子どもをさらし首にする獄門刑ごくもんけいにしたら、さすがに反感はんかんを買いますからね。記録上だけでも16にしたのかもしれません」

 スーパーブラック、とセイは眉間みけんにしわを寄せた。

 ともかく、過去へ飛べるのはあと2回。

「もしかしたら、1回でイオリさんを助けて2回は予備よびっていう計画がまちがいだったのかも」

 本堂ほんどうのなかで、ふたごと着ぐるみのような神さまがになって会議かいぎをはじめた。

「わたしは、あの時代の人たちを助けたい願いの力がちたと感じて、時の扉を開くかぎをつくりました。そうしてつくってみたら、3回分とちょっとできちゃったもので」

 うっかり感がただよう言い方ではあるものの、真実の歴史を守るためには、過去に3回行くだけの力が必要だった、ということにならないだろうか。

「だったら予備なんてものはない。でも、その3回分と『ちょっと』ってなに?」

 ホルンちゃんは、ポシェットから青いビー玉をひとつ取りだした。ほかの6個よりひとまわり小さく色もうすい、7個目のビー玉だ。

「これです。願いの力がちょっぴり多く集まったってことでしょうねえ。時の海を350年ぶんわたるには、短かすぎる鎖にしかなりません。しかも、ひとつですから片道切符かたみちきっぷというやつです」

 どんなに近い過去でも、戻ってこられないのでは使えない。ホルンちゃんは薄い色のビー玉をポシェットに戻した。

 じつはソラには、鎖の使い方そのもので気になることがあった。

「あのさ。今回は、ホルンちゃんが一揆まえの王念さんと鎖をつないだわけでしょ。で、セイは過去にいるあたしにむかって鎖を投げた。じゃあつぎ、どこを目標にして、どこと鎖をつなぐの? イオリさんがたおれる場所と時間って、どうやって目標にすればいいわけ?」

「それは……きょうソラが行った日からなんにちで、場所もどのくらいはなれてるかを調べて、そこへ向かって鎖をつなぐしかないだろ」

「セイは、そういうことできそうなの? さっき、あたしを引きあげたときからなんにち後のなんキロ南、みたいに」

「いや、おれはむりだよ。あの虹色のなかのどこに投げればいいのかなんて、ぜんぜんわからない。さっきは、ソラとしっぽがつながってるみたいな感覚があって、そのしっぽの先にむかって投げたんだ。行きはやっぱりホルンちゃんに頼るしかないよ」

 ところがホルンちゃんは、きょとんとした顔をする。

「これは、なん年なん月なん日のどの場所へ、というものではないのですよ? おおまかに、こう、一揆があったころをおもい浮かべてですね、そこのあたりの困っている自分を探して鎖を投げたってところです」

 ソラは「うそお!」と悲鳴ひめいを上げ、セイは「うそだろ……」とつっぷした。

「ホルンちゃんって、大雑把おおざっぱだよね!? これで神さまやってけるなんて」
「ていうか、神さまだから、かもしれないよ。感覚が大きすぎて、こまかいことは関係ないんじゃないかな。ほら、人間ひとりひとり、個別こべつなやみとか問題をいちいちきいてたらパンクしそうじゃん」

 つっぷしながらも、ちゃんと考察こうさつするところがセイらしい。
 とはいえ、正確な場所や時間が指定できないというのは、大問題だ。

「いろいろ、あまく考えてたよなあ……」

 セイはあおむけになると両手で顔をおおう。

「むこうで、王念さんがイオリさんにはりついててくれれば楽なのになあ。イオリさんがピンチのときによんでくれればいっぱつじゃん。ていうか、そこで王念さんがイオリさんを助けてくれれば問題ないわけで」

 はあ、とソラも大きなためいきをつく。

「そうなんだよね。でも、神さまたちにはそういう手助けができないから、あたしたちがいるわけで」

「そのとおりです。わたしがこうしておふたりとお話しできているのも、おふたりが特別とくべつちゅうの特別な存在だからであって、やはり人間世界のことは人間が」
「「わかってるから!」」

 ふたりの声が重なったとき、ソラはふと思いだした。

「あたし、王念さんと約束してきたんだった。うーんと困ったら、あたしたちを呼んでって。あのあと、地域ちいき全体で大ごとがおこれば、王念さん、困るよね? 王念さんが困ってる場面なんだから、必要なところでしょ。そこに、ホルンちゃんに鎖をつないでもらうってどうかな」

 そこがどんな場面かはわからないけれど、伊織いおりが走ってくるところであれば助ければいいし、最後のタイムスリップにむけてのヒントをつかめたり、準備じゅんびしたりできるかもしれない。

「そういう、いきあたりばったりな行動って、不安でいやなんだけどなあ」
「でも、ほかにある? 考えすぎて動けないよりいいじゃん」

 ホルンちゃんを見ると、そういうお手伝いならできますよ、と了解りょうかいしてくれた。

「でも今回、ソラさんが一揆の主要しゅよう人物じんぶつたちと会えたのはさすがです。これが、たいむすりっぷに必要な条件のひとつ……関係者かんけいしゃえんというものなのです。だいじょうぶ、この先もきっとうまくいきますよ」

「ああそれ、おれたちがえらばれた3つの条件のうちのひとつだよね。あのときは地元じもと生まれってことかなあくらいにしか思わなかったけど」

 ソラも、ふたりが選ばれた理由を思いだした。

「助けたいって強く願ってることと、共鳴力があるってことと……関係者、だっけ?」
「言ってませんでしたか? あなたがたのご先祖せんぞさまは、赦免状しゃめんじょうをとりつけたおさむらいです」

「「えええ!」」

「ご先祖さまといっても、遠い遠い親戚しんせきというやつです。彼のなんにん目かのお子さんのお孫さんの子の三男坊さんなんぼう婿養子むこようしに出てその長女ちょうじょが……とか、そういう感じのやつですね」

 まさか、ふたりが園原そのはら伊織いおりの子孫だったとは。これも、運命うんめいのいたずらというやつなんだろう。

 ホルンちゃんは「ね、だから大丈夫ですよ」と、もういちどにっこりしてみせた。


 おどうから外に出ると、あいかわらずのいい天気だった。時刻じこくは、昼過ぎだ。

いね日和びよりだねえ。お父さんとお母さん、がんばってるかな……あ! そうか、イオリさんの声って……」

 いきなりつかまえられて心臓しんぞう爆発ばくはつするかと思ったけれど、「すまぬ、なにもせぬ」と言われた声に、なぜだか安心するひびきがあった。

「イオリさんの顔と声、お父さんにちょっとてるのかも。それで、なんか危ない人じゃない、って思えたんだ」

 はるか遠いご先祖さまとはいえ、確実かくじつに血はつながっているはずだ。裕が高橋たかはしさんと似ていたように。

代々だいだい、全員が似てるわけじゃないのにな。そういう、奇跡きせきみたいなつながりが、たまたまおれたちのまわりにあったのも、きっと必要なことなんだ」

 風が吹きぬけて、神社の木々の向こうがわの、黄色の稲穂いなほをゆらす。そこの田んぼも、近いうちに稲刈りをするだろう。

 たったいま見てきた、350年まえの、まずしい田畑の景色けしきが重なる。
 ソラは、ぐっとくちびるをかんだ。

「裕たちががんばってくれたから、きっといま、この景色があるんだよね」
「おれたちも、せいいっぱいやるんだ」

 うん、とソラはうなずいた。
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