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第4章 もうひとつの任務
1.偶然じゃない
しおりを挟む3連休二日め。
うすぐもりの空の下、きのうの朝よりも1時間半おそく、ふたりで家を出た。お父さんとお母さんは、もう稲刈りの手伝いに家を出たあとだ。
朝おそくなってしまったのは、マウンテンバイクを改造するのに夜更かししたからだ。
ソラは乗りなれたじぶんのバイクがよかったけれど、セイは「また落とし穴に落ちたりして壊したりしたら、大会に出られないだろ」とじぶんのバイクをいじりはじめた。
うしろに荷物を積めるようにリアキャリアとサイドバッグをつけ、重くなるのをいやがるソラの反対をおしてライトもふたつにした。
さらに後輪には、ふたり乗りするときの足おきになるハブステップまでつけてしまった。
「ちょっとお、こんなのいらないし! だいたいお巡りさんに注意されちゃうじゃん」
ふたり乗りは交通違反だし、タイヤから棒が突きでているのですれちがう人にあぶない。
「平気だよ。350年まえに警察はいないだろ。もし行き帰りに見つかったら、えー、お父さんが持ってた部品をつけてみただけなんですけどーって知らないふりしてあやまればいいって」
ソラは「もう!」とあきれる。学校や近所ではまじめな優等生でとおっているセイの、ちょっとした暗黒面だ。
「ていうか、なんでセイがバイクのオプション装備をそんなに持ってんのよ。ハブステップなんて、それこそお父さんの子どものころに流行った骨董品じゃん」
ぶうぶう言うソラに、セイは無邪気に笑った。
「だって、なんかカッコイイじゃん。いつか、集めた部品をぜんぶつけてみたいって思ってたんだ」
ゴテゴテとかさ増したバイクは、ソラにはどうしてもかっこよく見えない。
ご満悦のセイに、ガキンチョ! と言ってやった。
せまい歩道で人とすれ違うことも、パトロール中の警察官にも会うことなく、ぶじに顕彰会館の神社へやってきた。
「「ホルンちゃん?」」
見ると、神さまホルンちゃんは神楽殿でゆらゆらと踊っていた。
どうやら「なーくなうまこー あんがとよー」を踊っているらしかった。けれど、ふりつけはゆったりとして、盆踊りとはちょっとちがうようだ。
ふたりがやってきたことに気づくと、「きょうもいい天気ですねえ。お待ちしておりました」とおじぎする。
「これくらいのくもり空って、王念岳にとってはいい天気なの?」
「暑くもなく、寒くもなく、登山日和って意味なのかもよ」
ではでは、と本殿にむかおうとしたホルンちゃんは、目ざとくセイのマウンテンバイクに気づく。
「セイさんの乗り物は、きのうよりも太りましたか?」
「でしょー。男子はこれがかっこいいんだってさ」
本殿に入ると、また自動的に扉が閉まった。
「さて、きのうおっしゃっていたところにお送りすればよろしいのですね」
あいかわらずせっかちなホルンちゃんは、「ふぁあああ!」という例のかけ声とともに万歳ポーズをとり、御本尊のある奥扉を時の扉にかえた。
ソラは裕の蓑と笠を身につけ、セイの黒いマウンテンバイクにまたがる。
「せっかくのかっこいいバイクも、乗ってるあたしがこれじゃあレトロとおりこして歴史の展示品だね」
いちいちいやみ言うなよ、と頬をふくらませたセイに、ソラはあっかんべーをしてやった。
「それでは、まいりますよ」
青いビー玉をにぎってノックすると、扉が開いて時の海があらわれた。
「ふむーん……おお! たしかに。きのうの場所のすぐちかくで、わたしたちをよぶわたしの気配がします。そこを目標にしますよ。とお!」
ホルンちゃんの手から投げられたビー玉が、青い鎖の軌跡をつくりながら虹色の空間に伸びていく。
鎖の先は、一揆の後か先か、それともまっただなかか。
鎖に触れると、ソラのからだは、またがっていたバイクともども時の扉にすいこまれた。
はじめはわけもわからず通りぬけた時の海にもなれてきた。見わたすと、時の海には無数の泡のように、たくさんの想いがちらばっているのがわかった。
(そっか。過去へ飛ぶっていうのは、この泡のなかのたったひとつを目標にして、鎖をつなぐってことなんだ)
鎖に導かれて、ひとつの泡にたどりつく。
ソラの目に強い西日がさしこんで、まぶしさに手でひさしをつくった。
場所は一回めとおなじあの山城跡の曲輪で、マウンテンバイクも無事にソラといっしょにやってきた。
問題は、どの時点にやってきたかだ。
「おお、きてくれたか! なんじゃそのへんな車のついた馬の骨は」
すぐそばに、王念坊主が立っていた。
「自転車だよ。未来の乗り物。で、いまっていつ? 一揆は、どうなったの」
これが乗り物かいな、とまじまじとマウンテンバイクを見ていた王念坊主は、そうじゃった、と顔を上げた。
「爆発寸前じゃ。庄屋たちが罰を覚悟で越訴しようとしたんじゃが、城方は門前払いで訴状を受け取りもせんかった。その話しがぶわあーっと広まってのう。こうなったら大勢で押しかけるしかない、飢え死にするくらいなら侍に斬り殺されるほうがましじゃ、ちゅうて、いきりたっとるんじゃ」
つまりここは、2万人がお城へつめかける大一揆がはじまる、すこしまえということになる。
王念坊主は心配そうに背なかを丸める。
「怒りはもっともじゃ。このままではえらい数の飢え死にが出てしもうでの。農民たちの訴えは、なんとしてもとおさにゃならん。それには、みなで城へ行く決起の日を伝えあわにゃならんのじゃが……」
バラバラに行っても、侍たちに力づくで追いかえされるだけだ。できるだけたくさんの村と連絡をとりあって、おなじ日に行かなければならない。
「狼煙とかで連絡しないの?」
セイの声に、王念坊主は首をふった。
「狼煙なんぞ上げれば、城方にもわかってしまうじゃろが。見はりの役人もウロウロしとる」
ソラはバイクを置いて、下にひろがる村々を見る。西日に照らされる家々や木々から、長い影がのびていた。
「むかしって不便だね。スマホがあれば、集合日時の連絡なんていっぱつなのに」
そのとき、草をふみわけてくる音がして、ドキッとする。かくれるよりはやく、人影が現れた。
「え、ソラ、ソラか!?」
「裕!」
現れたのは、裕だった。
裕は火縄銃を袈裟がけに背おったまま走りよってくる。額には玉のような汗が浮き、荒い息をしていた。ここまで、ずっとかけ登ってきたのだろう。
「ソラ、どうして、こんなとこにいる。毘沙門堂では飛んで消えちまったから、みんな大さわぎさ。王念坊主さまのお弟子さまだっつったら、なんとなくおさまったから、よかったけど」
「ごめんね。あ、ほら、この人が王念坊主さん。みんなのこと、すごく心配してるの」
裕は首をかしげた。
「……ここに、おられるんか?」
裕には見えていないらしい。「ふつうはわしのこと見えんからのー」と王念坊主も残念そうだ。
「裕から見えなくて、王念さん残念がってるよ。あたしはね、みんなのことを心配してる王念さんに呼ばれてここにきたの。裕こそなんで……って、あれ? それ、女物?」
裕はすこし恥ずかしそうに、着物の合わせを引っぱった。
「まわりの村に、決起する日を伝えに行くんだ」
村の周辺は、役人たちに見はられている。そこで、女装した裕が隣村へおつかいに行くふりで抜けだしたのだという。
猟師の修業をしている裕は山にくわしく、獣道も知っている。抜け道を使って、こっそり村々と連絡をとろうというのだった。
裕は、そわそわと足ぶみした。
「オレ行かなきゃいけねえ。はやく伝えねえと……。村から抜けだすのに、時間かかっちまったからよ。王念坊主さま、ご無礼おゆるしください」
あさっての方角におじぎをして、裕は走っていった。王念坊主は心配そうだ。
「まにあうかのう、あしたかあさってには、城に行かにゃならんだろうに」
「え、そんなにせっぱつまってるの?」
おどろくソラに、王念坊主はそうりゃそうだろう、という顔をした。
「いちどはお城に訴状を持っていっとるんじゃ。家老たちは越訴しようとした庄屋たちを捕える準備をしとるじゃろ。庄屋たちがおらねば、みなで城に行っても、訴えの内容をちゃんと伝えられる者がおらんくなる。それにな、まとめる者のおらん一揆はひどいもんじゃぞ。盗賊か山賊の群れかというようになってしもう。それこそ、冬の飢え死にのまえに、人間どうしで殺しあいになってしもうやもしれん」
「そんな……!」
園原伊織を助けて赦免状をまにあわせる以前の問題だ。一揆が失敗、もしくは一揆そのものがなくなるかもしれない。それどころか、殺しあいだなんて。
セイが「そうだったのか」とさけんだ。
「おれたちは、イオリさんを助けて処刑を止めるだけじゃだめなんだ。一揆も成功させなきゃいけない。3回分の時の鍵は、そのためにできたんだ」
そんなこと言ってもどうしたら、ととまどうソラに、セイはもどかしそうにつづけた。
「いま、まにあわせなきゃいけないのは、裕の伝令だろ!」
はっとして、ソラはマウンテンバイクを見る。
ソラは、バイクの後輪につけたハブステップをちょん、と蹴った。
「あたしたちが選ばれたわけが、そろってるんだね」
運命だとか偶然だとかいうものは、あんがいこういうことかもしれない。
「王念さん、だいじょうぶ! きっとまにあうよ」
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