時駆け! 星空ふたごは歴史をかえてみせます

涼・麦穂

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第4章 もうひとつの任務

3.危機一髪!

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 島座村しまざむらにも無事ぶじ到着とうちゃくし、決起けっきの日を伝えることができた。
 かくれていたソラのところへ戻ってきたゆうは、ほっとした顔をしていた。

「あんがとなあ、ソラのおかげだ。オレひとりだったら、明けがたにけたかどうかだ。……どうした?」

 ソラはだまって首をふる。大きな仕事をやりおえたうれしさはあるのに、無力感むりょくかんもある。

「そういえば、野犬やけんを追っぱらったあとから、あんまり話さねえよな。ごめんな、こわかったんだろ。でも、もうだいじょうぶだぞ。あ、ほら、これうか?」

 わたわたとこしふくろからゴンスケを取りだした裕にクスッとする。

「ごめん、ありがと。じゃあ、あたしも。ゼリー、飲む?」

 ホントか? とよだれをらさんばかりの裕に、ソラはアハハ、と笑った。

「へへ、よかった。元気出たな、ソラ」

 月明かりの下、こうして笑いあってものを食べていると、すぐにも農民が松林城まつばやしじょうにおしよせる大一揆だいいっきがおこるなんて、信じられない。さらにその数日後におこるであろう悲劇ひげきも。

 ちがう、とソラはじぶんの胸に言いきかせる。
 おこるであろう悲劇じゃない。悲劇なんて、おこさせない。じぶんの無力さに打ちのめされているばあいじゃない。

「そうだ、火縄ひなわに火をつけた、異国いこくあかし。すげえなあ。もういっかい見せてくれよ」

 サイドバッグには、地図とライターのほかにも、折りたたみ式小刀こがたな肥後守ひごのかみやサバイバル手帳てちょうなんかが出てきた。

「セイったら、こんなにいろんなものつめこんで! だいたい、小学生のくせにライターとか、意味わかんないよ」

 セイの『男のロマンアイテム・コレクション』の一部だ。
 むかしから、ソラはセイに比べて子どもっぽくて落ちつきがない、と言われてきた。
 でも、セイのこういうところはじゅうぶん子どもっぽい、とソラは思っている。
 まあ役に立ったからいいけど、とソラはジッポライターのふたをピンッとはねあげた。

「やっぱりすげえ! どうなってるんだ、これ」
「しくみまではわかんない」

 すると、ずっと観察かんさつモードだったセイが喜々ききとして説明をはじめた。

「中にオイルが入ってるんだよ。で、ボタンを押すと火打石ひうちいしとおなじ原理げんりで……」

 ソラは聞こえないふりをして、人形をおしりのポケットにねじこんだ。

「こっちもすげえよなあ。あつくねえ明かりなんて、ホタルみてえだ」

 裕は、ペンライトもふしぎでたまらないらしい。つけたり消したりして感心している。

「ソラはこのあとどうすんだ?」

 ソラもどうしようか、と考える。
 伝令でんれいを成功させることが、今回の任務にんむだったと思っていいだろう。
 残されたタイムスリップはあと1回。つぎこそ、園原そのはら伊織いおりを助けることになるだろう。
 場所の下見したみをしたほうがいいのか、それとも、もっと別の準備じゅんびが必要なのか。
 そもそも、走ってきた伊織がたおれる場所と時刻に、どうやっていあわせればいいのだろう。その問題は、そのまま残っている。

「ねえ、松林城の方角って、あっちのほうでいいの?」

 暗くて東西南北もよくわからなかったけれど、地面が下っているほうをさした。

「ああ。島座村からだと、お城まではすぐだな」

 裕の言う「すぐ」とは、よくよく聞くと、歩いて2時間ほどだった。むかしの人ってすごいなあ、としみじみ思う。

「……あれ?」

 お城の方角ほうがくから、松明たいまつらしきあかりが数個、ならんでやってくる。しかも、まっすぐこちらへ……ふたりのいるほうへ向かってきているようだ。
 いったいなに者だろう、とソラが思ったのとほぼ同時に、「役人だ」と裕がどくづく。
 一揆いっきのうわさが広まるなか、そこかしこでさむらいたちが警戒けいかいしているのだから、島座村の近くをパトロールしていてもおかしくない。

「でも、どうしてこっちへ?」

 ふたりがいるのは、集落しゅうらくの家々から田畑をなん枚もはさんだところにしげる、低木ていぼくのかげだ。
 顔を見あわせたとたん、ふたりは「あっ」と小さく声を上げた。
 裕が首から下げているペンライトが、つけっぱなしになっている。さっきの、つけたり消したりもまずかった。 
 あわててスイッチを消したけれど、もう遅い。松明たちは、あきらかにスピードをあげて近づいてくる。

「あたしがあの人たちを引きつけるから、裕は逃げて」

 ソラは、マウンテンバイクをおこしてまたがる。

「なに言ってる。女子おなごをおとりになん、できるか!」
つかまって牢屋ろうやに入れられたって、あたしはぜったい逃げられる。毘沙門堂びしゃもんどうのときみたいに。だから、おとりになるのはあたしでなきゃ」

 裕はまだなにか言いたそうだったけれど、小さな声で「わかった」とうなずいた。

「セイ、聞いてるよね? あたしが合図あいずしたらくさりを投げて」

 バイクの前輪ぜんりんを石の上に乗せてすこしうわ向きにする。いつでも走りだせるようにペダルに足をかけた。

 近づいてくる人たちの松明で照|《て》らされた顔が、うっすらと見えてきたちょうどその距離きょりで、役人たちの足が止まった。

「そのほう、そこでなにをしている」

 こっちがひとりだと思っているらしい。ソラは、いまだ! とライトを全開にした。

「うわあ!」「目が、目があ!」「なんじゃ、こりゃああ!」

 セイのとりつけたダブルライトが、すばらしい威力いりょく発揮はっきした。

「動くんじゃねえ! 頭ふっ飛ばすぞお!」

 裕がドスをきかせてさけび、パアン! と空砲くうほうを鳴らす。
 目をおおって大さわぎをする役人たちは「ひいい!」となさけない悲鳴ひめいをあげて地面にふせた。
 裕は山がわへ走りだす。
 ライトに目がれないように、ソラはつけたり消したりをくりかえし、顔を上げようとすれば目をねらってペンライトで照らしてやった。

「あたしはこっち。おにさんこっちらー!」

 わざとからかうような声音こわね挑発ちょうはつし、全力のスタートダッシュをきった。

「ヒャホー!」

 さけびながら侍たちの横をすりぬける。

「う、馬?」「からくり車か!?」

 侍たちにとってはわけのわからない乗り物に、これまた大混乱だいこんらんだ。
 そのとき、ソラのまよこでチキッと金属音きんぞくおんがする。

(刀!?)

「ばかもの! 同志どうしちになるぞ!」
「しかし!」

 言いあらいを尻目しりめに、裕とは反対方向へ走る。思ったとおり、みんなでソラを追ってきた。
 ソラと松明の距離はぐんぐん広がる。このくらいでじゅうぶんだろう、とブレーキをかけた。

任務にんむ終了しゅうりょう! セイ、お願い」

 ……なにもおこらない。

「ちょっとセイ、無視むししたの、おこってんの? でもあとにして……って……」

 胸ポケットに手をやって、全身からが引いた。

 ホルンちゃん人形が、ない。

「うそでしょ!?」

 そういえば、セイがジッポライターの説明をはじめたのをさいごに話をしていないし、人形にさわってもいない。
 なんで、どうして、どこで落としたの、いや、さっきの場所か! と頭のなかがパニックになる。

 ひきはなしたはずの役人たちが、すぐそこにせまっていた。

「うそうそうそうそ、やだやだやめてよ!」

 またバイクを走らせはじめたものの、追いかけられる悪夢あくむのときのように思うようにいかない。と、ライトに照らされ、目のまえにとつぜんり土があらわれる。

 とっさに、ジャンプ台の要領ようりょうで乗りあげ、ちゅうを飛び、地面に着地……のはずが、地面がなかった。

落とし穴に落ちたときとおなじ、踏みぬく感覚と、浮遊感ふゆうかん

「きゃああああ!」

 見えないあなの底に、竹やりが見えた気がした、そのとたん。
 背中をバシンと叩かれ、目のまえが虹色にじいろにかわる。

 あ、助かった……。

 虹色の空間を、後ろむきに引っぱられて通りぬける。

 ふっと七色の光が消えたと思うと、ぼふん! とやわらかいものにぶつかり、ガッシャアン! とバイクごと床板ゆかいたに投げだされた。目のまえに星が飛ぶ。

「ソラ、おい、ソラ!」

(セイの声だあ……)

 かたをゆさぶられ、いっきに力が抜ける。

「あは、ちょっとおそかったけど、ナイスタイミング。こういうときって、ほんとうに目のまえに星が見えるんだねえ。ホルンちゃん、クッションになってくれてありがと」

 ヘラっと笑ったソラに、セイは「かんべんしてくれよー」と座りこんだ。

「ライターの説明、おまえ無視しただろ。それならかってにおしゃべりしてろよ、おれだって休憩きゅうけいするわい! って寝ころがってたら……」

 とんでもなくひどいむなさわぎがしたという。
 ようすをみようと集中しても、視界しかいはまっくらで、遠くでどなり声がするだけ。

「ソラを引きもどすかどうか迷ってたら、『ぬ!』『終わった!』みたいな恐怖感きょうふかんがどわーって頭のなかに入ってきてさ。気づいたらそこへむかって鎖を投げてた」
「あー、それ、完全にあたしのきもちだ。助かったあ……」

 ホルンちゃんによって強化きょうかされている共鳴力きょうめいりょくのおかげだ。
 ともかく、この2回目のタイムスリップは、成功したと考えていいのだろうか。

「で、3回目のことだけど。また王念おうねんさんが呼んでくれるんじゃないか? 大勢おおぜいが捕まって、処刑しょけいされそうになるんだ、心配でお城の近くまで見にいくと思うんだよな」

 今回のタイミングもぴったりだった。つぎも、きっとうまくいくはずだ。しむらくは、王念坊主おうねんぼうずとそういう打ちあわせができなかったことだ。

「ね、ホルンちゃん聞いてた? もう1回、あたしたちを呼んでる王念さんを見つけて、そこに鎖を投げてほしんだけど。……ねえってば」
「……ホルンちゃん?」

 ホルンちゃんは返事もなく、万歳ポーズのまま動かない。

「おーい。あたし、戻ってきてるよ。もう、いいよー」

 つついてみてもゆらしてみても、神さまホルンちゃんはさとったような表情でピクリとも動かない。
 奥扉おくとびら隙間すきまからは、あいかわらず虹色の光がもれている。

『どういうこと?』

 ふたりは、顔を見あわせた。

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