時駆け! 星空ふたごは歴史をかえてみせます

涼・麦穂

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第5章 時をこえて

1.起死回生の策

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 神さまホルンちゃんが、万歳ばんざいポーズのまま動かなくなってしまった!

 ゆいいつ思いあたるのは、ホルンちゃん人形を過去に置いてきぼりにしたことだ。

「あの人形はホルンちゃんのいちぶで、おれのかみの毛が入った分身ぶんしんだ。その人形があっちに行ったままだから、過去との接続せつぞくを切れないんじゃ……」

 神妙しんみょうな顔で両手を上げつづけているホルンちゃんを見る。
 大雑把おおざっぱだ、いいかげんだ、と文句ばかり言ってしまったけれど、いろんな助言じょげんをくれたし、なんだかんだでたよりにしていた。

「「どうしよう……」」

 深いため息がかさなる。

 こんな状態じょうたいで、3回目のタイムスリップを成功させられるのだろうか。
 つぎは園原そのはら伊織いおりの持つ赦免状しゃめんじょうをまにあわせるという、いちばん重要じゅうような使命があるというのに。

 そのとき、おどうの外から「遠き山に日は落ちて」のメロディーが聞こえてきた。

「「え、もう5時!?」」

 1回目のとき以上にいろいろありすぎて、時間はあっというまにすぎていた。

「ともかく、きょうはいったん帰ろう。あしたどうするか、考えなおさないと」

 ソラは、「ごめんね、またあしたね」と神さまホルンちゃんの頭をなでた。


 帰ったあと、ソラの頭に浮かんでくるのは、ゆうのことばかりだった。
 いっしょに暗闇くらやみを走りぬけたこと、野犬やけんれを追いはらったこと、ゴンスケとゼリー飲料を分けあったこと。

(裕に、んでほしくない。死んでほしくないよ。それなのに、あたし……)

 人形を落としてくるなんて、どれだけバカなんだろう。
 時間がたつほどに、じぶんをめる気もちが大きくなる。
 自己じこ嫌悪けんおのかたまりになったまま、3連休さいごの朝をむかえた。

 神社の本堂では、神さまホルンちゃんがそのままの姿勢で立っていた。

「どうしよう。ホルンちゃんにくさりをつないでもらうことはできないし」

 すべてが必要なこと、という奇跡きせきを信じて鎖を投げてみれば、成功するかもしれない。でも、目標にするべき場所の見当けんとうもなく、時の海をわたれるものだろうか。

「でも、おれたちでやるしかない。そのまえに、ちょっと確かめたいことがあるんだ」

 セイは、青いビー玉をひとつ取りだして、その手で時のとびらをノックした。

「ちょ、ちょっとまってよセイ。どことつなぐつもり? あたしまだ、心の準備が……」

 あわてるソラに、セイは「だいじょうぶ」と扉をうすく開いた。

 セイは、開けた扉のすきまから頭だけつっこむ。しばらくして、扉をしめた。

「うん、やっぱりだ。ほら、ソラも、時の海になれてきて、いろいろ見えるようになったって言ってたろ。おれも、扉とかかぎとか鎖に慣れてきたってこと。
……いけるぞ、ソラ。どんぴしゃで、イオリさんをつかまえられるかも」
「ほ、ほんと? ほんとうに!?」

 ソラは、つかみかからんばかりのいきおいで身を乗りだす。

「ソラが落としたホルンちゃん人形は、いまイオリさんが持ってる。観察かんさつモードを使うと、イオリさんの声がするんだ。まっくらで、なんにも見えないけど」

 ソラは、はっとする。きのう、だれかが刀をきかけたとき、「同志どうしちになるぞ」と止めたあの声は、園原伊織ではなかっただろうか。

「それで、どうするの」

「うん。おれ自身、つまり、ホルンちゃん人形を目標にできそうなんだけど……」

 ソラが過去で3時間すごせば、セイも現代ですごす時間は3時間だ。それは、ホルンちゃんが時の扉を維持いじしている時間でもある。
 つまり、伊織の持つホルンちゃん人形を目標にして「今」タイムスリップしても、きのうソラが追いかけられたときから15、6時間しかたっていないところへ行くことになる。

「イオリさんは人形を拾ってくれて、しかも持ちあるいている。ソラのものだってわかって、返してくれるつもりなのかも。赦免状を届けに戻ってくる日に人形を目標にして飛べば……」

「どんぴしゃだ!」

 セイは一揆いっきについて調べたノートを広げる。

「裕は、決起けっきの日はあさって、って言ったんだよな? すると、一揆がおきるのが明日で、けい執行日しっこうびは……13日後、だな」
「なんかイヤな数字だよね。イオリさん、人形を持ち続けてくれるかな」
「わざわざ拾ってくれたんだ、捨てたりこわしたりすることはないと思う。もし持ち歩くのをやめたとしても、13日後に人形を目標に飛ぶのはおなじだ」

 13日後は、再来週さらいしゅうの日曜日。そこがまさに、運命の日になるに違いない。
 いまからすごす13日間の長さを思って、ふたりはため息をついた。


 よくじつの、連休けの火曜日。ふたりは落ちつかない一日をすごして、下校するとき神社へ寄った。
 本堂ほんどうのなか、万歳ポーズをしたままのホルンちゃんに、ソラはもうしわけない気もちでいっぱいになる。

「ごめんね、ホルンちゃん……」

 頭をなでようと手を伸ばし、はっとする。
 頭の位置が、低い。
 二日ふつかまえは、ソラの頭よりも高い位置をなでた。けれどきょうは、ソラの背と同じくらいしかない。

「「ホルンちゃんが、ちぢんでる!」」

 本殿ほんでん奥扉おくとびらを時の扉にしているあいだ、神さまホルンちゃんは、身うごきはおろかおしゃべりもできない。願いの力だけでなく、自身の力をけずっているとしてもおかしくない。

「ホルンちゃん、このままじゃ消えちゃうの? あたしのせいだ……」

「おれたちがタイムスリップを成功させればだいじょうぶだ。あんなに大きい山の神さまだぞ。あと12日間、がんばる力はあるって信じよう」

 そう言ったセイ自身の顔色かおいろわるさも、ソラには気になった。

 そしてつぎの日。あんのじょう、授業中に鼻血を出したセイが保健室へ連れていかれた。
 休み時間にソラがようすを見にいくと、ひたい氷嚢ひょうのうを乗せられてぐったりと寝ていた。氷嚢をつまみあげると、セイは薄眼うすめを開ける。

「観察モード、使いすぎなんでしょ」

 ばれてたか、とセイの口が動く。

「だってセイ、授業中にぼーっとしてるし、話しかけられても気づかなかったりしてるんでしょ。先生が、おこるより心配してるって」
「なんでそんなこと、2組のおまえが知ってんだよ」
「おまえって言わないで! 女子情報網じょうほうもうをなめんなよ」

 くっそー、とセイは顔をしかめた。

「ともかく、しばらくは観察モード禁止。いざってときにつかれて集中できませんでした、なんてダメすぎるでしょ。それに……あたしまで、耳をふさいでさけびたくなるよ」

 強化きょうかされた共鳴力きょうめいりょくで、相手の感情が伝わりやすくなっているのはお互いさまだ。この二日間ふつかかん、ソラ自身のものではない恐怖きょうふがなんども心にひろがった。あれはきっと、セイが感じていることだ。

 ホルンちゃん人形をとおしてセイが知ったのは、一揆やなにかのひどいありさまだろう。怒鳴どなり声や悲鳴ひめいもあるかもしれない。そんなものは、耳に入るだけで怖い。
 過去におこったことを知っておこうと、耳をすませ続けているセイの気もちはわかる。

でも。

「そういう怖いことまで、ぜんぶ体験しなきゃいけないのかなあ」

 裕たちのほんとうの苦しみがわからないことを、ずかしく思いもした。
 けれど裕は、えの苦しみを知らないことを、いいことだと言ってくれた。

「ソラだって、むこうで怖い思いしただろ。でもおれは、安全なところで見てただけだ。ソラの兄ちゃんなのに、妹だけ怖い目にあわせてさ……」

 そう言って、セイはぷいっと背を向けた。
 いつもなら、ふたごのくせにお兄ちゃんもくそもない! と食ってかかるところだ。
 でも、いまはおこれなかった。

 ベッドをかこむカーテンが、シャッと開く。保険の先生だった。

「あらやだ、怖い話の見すぎなの?」

 なんて答えてよいかわからず、ソラは「えーと……」と口ごもる。
 セイは、すこしをおいて答えた。

「ある人が経験した怖さとか痛さとかを知らないまま、『かわいそう』とか『助けなきゃ』とか、思ってもいいのかって話してました。しかも、じぶんだけ安全なところにいて、危ないことは人まかせで」

 天川あまかわ君は哲学的てつがくてきねえ、と先生はセイの額に手をあてた。

「うん、熱も出てないし、鼻血もとまったわね。もう1時間寝て、よければ教室に戻りなさい」

 ぺち、とセイの額をたたく。

「では、哲学的な天川君に問題です。骨折こっせつしてへんな方向にうでが曲がった子がいます。腕をまっすぐに引っぱってから固定こていしなきゃいけません。折れた腕を引っぱる激痛げきつうを知っている医者いしゃは、その子がかわいそうでとても処置しょちできないといいます。もうひとりの医者は、骨折の痛みを知らないので、処置できるといいます。さて、その子にとって必要なのは、激痛をわかってくれるだけの医者と、処置をするだけの医者の、どちらでしょう」

 先生は、ちょっといじわるそうにウフ、と笑った。

「さ、天川さん。休み時間おわるわよ」

 ありがとうございました、とソラは保健室をあとにした。


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