リトルアルト

まぁさとう

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曖昧な記憶

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 急に息がつまり、吐き出しそうな感覚に襲われる。しかし吐き出すどころか息もできない。朦朧とする意識の中で細く目を開けるとそこには馬乗りになって俺の首を絞めつける人の姿がぼんやりと見える。死を感じた。

 長い夢を見ていた気がする。
 目が覚めると見覚えのある部屋だった。窓と扉が1つにベットが2つあるだけの殺風景な部屋。
 自分の寝ていたベットの横にはボコボコになった鎧と剣があった。
 天井や壁はところどころ腐っている。いやよく見ると床もだ。腐っているところを踏まないように立ち上がる。
 全開になった窓から吹く風がボロボロのシャツ一枚にズボン姿の僕には少し肌寒く感じる。
 窓の外に目を向けると、頂上が窓の枠から飛び出して見えないくらいの高い山が白く佇んでいる。いい朝だと思った。
 わかるようでわからない。ここがどこかも、そして僕が誰なのかも。でもなぜかとても落ち着いている。まるで日常のように。実際そうかもしれないな。

「おいアルト!飯だ!降りてこい!」
 聞き覚えのある声だ。そして聞き覚えのある名前。
 アルト・・・そうだ、俺はアルトだ。たしかにアルトなのだが名前以外はやはりぼんやりしていてよく思い出せない。

 とりあえず下から聞こえる怒鳴り声に従い、部屋を出て階段を降りる。そこには串に刺さった肉を両手に持ったスキンヘッドとフォークとナイフで朝食をとる金髪の姿があった。2人とも鎧で装備している。

 肉を持った男は2メートルほどの大男だ。それに顔には筋が入っている。初めて見る人からは怖がられるだろう。だが僕には全く怖くは感じられない。むしろ見ていて落ち着くようだった。歳は30か、いやもっと若そうな気もする。

 金髪の方は細くて色白だった。皿の上に置かれた肉をフォークとナイフでわざわざ串から外して食べている様からは、ところどころ腐ったこのボロい家には場違いな気品が感じられた。こちらは20代前半といったところだ。

「ほれ、朝飯だ。食ったらすぐ出るぞ。」
 大男が片手に持った肉を僕に差し出す。
「出るってどこへ?」
 検討もつかない僕は尋ねる。
「いつまで寝ぼけてんだよ、お前は。登山だろ、登山」
「装備もしてないじゃないか。万が一にも夜になることは避けたいんだ。しっかりしてくれよ。」
 金髪は嫌そうな顔で言う。
「アルトって朝弱ぇよな。バカだし。」
「バカは君だろ?人にバカの称号なすりつけようとしてももう手遅れだよ。この前だって宿でだまされてたじゃないか。銅貨8枚の宿で金貨出してお釣りが銀貨2枚ってどういう計算したんだい?そんな騙されかたしたのは君だけだよ。きっと君がバカだって知ってるからどんなものか試してみたんだろうね。」
「あぁ、もうお前うっせぇよ。外で食えよ。まじでうっせぇよ。」
 うっせぇよとしか返せないらしい。

 2人の声を聞いていてだんだんと思い出してきた。たしか大男の方はバルカス、金髪の方はダッシュだ。
「登山って、あのすごく高い山を?登ってどうするの?それに、僕はあまり詳しくないけど鎧は登山にはむかないと思うよ。」
 2人はきょとんとこちらを見つめた。
「は?お前まじで言ってんのか?」
「さっきから口調もおかしいし、何があったんだい?」
 僕は一瞬、自分が記憶喪失であることを話そうかどうか迷ったが、2人なら信用できそうだし隠していても仕方がないと思った。

「実は俺、今朝起きる前の記憶が、曖昧というか、ほとんどないんだ。」
 2人は静かに、しかし目に見えて驚いていた。
「ほとんどって、、、どんくらい覚えてんだよ?俺の名前は?」
 バルカスは身を乗り出し聞いてきた。
「君はバルカス、そして君はダッシュでしょ?2人が話してるのを聞いてて思い出したんだ。だから、、、」
「僕はダッシュではないぞ。僕にはダルク・リュー・シューベルトという名が、、、」
 ダッシュが必死さの伝わる口調で否定してくる。
「だからお前うっせぇっての。続けてくれ。」
 僕はバルカスに感謝しながら続ける。
「だからそのうち全部思い出すんじゃないかと思うんだ。時間はかかるかもしれないけどあまり心配しないでほしい。」
 そうは言ったが僕も不安でいっぱいだった。2人も苦い顔をして唸っている。
「わかった。今回の任務は中断。街にもどる。それでいいよな?ダッシュ」
「ああ。今はアルトが心配だし、アルトがこの状態では任務を遂行できないだろうしね。」
「じゃあ街にもどる準備だ。」
 3人は準備に取り掛かった。
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