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少女の不安
しおりを挟む「はぁ」
騒がしい酒場の中で1人ため息をついたのは、鮮やかな赤色の長髪を丁寧に編んだ少女だった。顔はテーブルにうつぶせているためうかがえないが、それでも華やかな雰囲気は溢れ出ていて、彼女の可愛らしさを証明するには十分だった。
しかし彼女は酒場で浮いていた 。
たしかに少女が1人で酒場にいたら浮くのは当然のことだが、可愛らしい少女が1人で酒場にいるのだ。誰か話しかけてきてもいいだろう。
しかし男共はどうやら彼女を恐れているようで、まるで近寄らない。
そんな中、
「リィーーーちゃんっ!」
「ひゃ!」
いきなり後ろから抱きつかれて悲鳴がもれる。
「もうっ、カナさんっ!びっくりするじゃないですか!」
そう言って抱きついてきた女性の腕を振りほどき、頰をふくらまして睨みつける。まだ幼さを感じさせるその顔は雰囲気にたがわず可愛らしい。
「なーんで驚くのよ?リィーちゃんに気軽く話かける人なんてわたしくらいでしょうに。あ、あと1人いたっけ?」
そう言ってリィーと呼ばれた少女と同じテーブルにつく。
「だからですよ!私、話かけられ慣れてないんですから!心臓止まると思いましたよ。いいえ、止まりました。3秒くらいとまってました。」
そう言ってまだ睨みつけている。
リィーと呼ばれた赤髪の少女の名はマリー。
この街マギドで最も有名な冒険者だ。そしてマギドで最も強い冒険者でもある。
その腕前は国内でも指折りで、鮮血のマリーの二つ名も伊達ではない。彼女自身、その二つ名はやめてほしいと思っているのだが既に定着してしまっていてどうしようもない。
そしてカナはマリーの数少ない友人であり、マリーが所属する国営ギルドマギド支部の運営をしている公務員だ。
彼女は彼女でその美貌から、またもう一つの理由から、冒険者の中ではかなり有名である。彼女の美貌はマリーとは対照的で、切れ長の目や黒色で短く切りそろえられた髪は鋭い印象を与える。
カッコいいお姉さんといったところだ。内面はさておき。
見た目からすると2人ともまだ10代だろうとわかるが、マリーは幼く、カナは大人っぽかった。
「そんなことよりさぁ、ため息なんかついちゃってー。恋のお悩みかな?お姉さん相談乗るよー?」
カナはニヤニヤしている。
「そんなのじゃありませんよ。あとお姉さんって。同い年じゃないですか。」
「じゃあなんでため息なんてついてたの?お姉さん心配だなー」
お姉さんというのをやめる気は無いらしい。それはそうとして、ちっとも心配しているようには見えなくてちょっとムカつく。でも話す相手もいないので話すことにした。
「アルトさんのことですよ」
「恋の悩みじゃん」
「ち、が、い、ま、す!ちゃんと相談乗る気あるんですか?私はし、、、」
「あー、はいはい。つづけて。」
カナは手をひらひらとさせて言う。
「アルトさん、なんか最近私を避けるんです。せっかくお友達になれたと思ってたのに。一緒に依頼に行こうと誘っても断られるし、それどころか、誘ったことを口外するなっていうんですよ」
「口外してんじゃん」
「あ!」
マリーは両手で口を押さえる。
「まぁアルトくんはいい子よ。鮮血のマリーと一緒にいたらみんなから嫌われるーとかそんな理由でリィーちゃんを避けてるわけじゃないわよ、きっと」
そう言ったカナの右手にはいつのまに頼んだのか酒が握られている。
「そうですかねぇ」
「そうよ」
その言葉を聞いてマリーは少しホッとした。自分でもアルトのことを信じてはいたが、やはり不安だった。カナはそれを察してあえて断言してくれたのかもしれない。マリーは心の中でカナに感謝した。
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