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皇帝
しおりを挟む青年は、宝石などで装飾された大きな扉を開く。一礼して頭をあげると、中の様子がうかがえた。
シャンデリアの輝く、煌びやかで広い室内には、白く長いテーブルが1つ置いてあった。
一番奥の椅子には40前後の男が、姿勢良く座っている。そして、その前には料理が並べられていた。
青年はその男の方へ歩いて行き、近くでひざまずく。
その男の表情は固く、眼光は鋭い。前にいるで、震え上がるような威圧を感じる。
青年の頭には覇者という2文字が浮かんだ。そう、この男には、覇者の風格が備わっていた。紛れもない王の器である。
「皇帝陛下。ご報告でございます」
青年はひざまずき、床を見たまま言った。
「顔を上げてよい。報告を続けろ」
青年は皇帝の言葉に顔を上げる。
近くで見ると、その筋肉は服の上からでもわかる程に鍛えられている。
皇帝は目の前の肉の乗せられた石に、手元の水をかけ、フォークで石を突く。すると肉は音を立てて焼けはじめた。
火石は、水に濡れたまま衝撃を与えると、火はおこらないが、熱を発するのだ。
「はっ!王国では、火石の値段が上昇を続けています。戦争を仕掛けてくるのは目前かと」
皇帝は、肉になにかの液体を注ぐ。今度は水ではない。よく見ると液体は赤色をしていて、血であることがわかった。
青年は肉の味が損なわれるのではないか、と思ったが、勿論そんなことは口にしない。
「この肉は今朝狩ったイノシシのものだ。イノシシは、散歩をしている私を見つけ、襲いかかってきた」
皇帝は急に話しはじめた。
青年には皇帝がなにを言っているのかがわからなかった。
「つまりだ。王国もイノシシと同じに、襲いかかってきたところを斬りふせる、ということだ。そうして得た獲物は優越感というスパイスがよく効いて、実に美味い。血の一滴までものこしたくないほどにな」
青年は皇帝の狂気に恐怖した。
イノシシの村から戻って1週間が過ぎた。
少しずつ猛暑もおさまりつつあり、早朝ともなれば心地よい涼しさが感じられる。
バルカスとダッシュの怪我は、『他人の怪我を癒す』魔法を持つ医者のおかげもあって完治していた。
「よぉ、アルト」
バルカスが宿の隣の部屋から、アルトの部屋に来て声をかける。
「おはよう、バルカス。調子はどう?」
アルトは一応怪我の様子をたずねる。
「ああ、もう万全だ。今日からは依頼に行けるぜ」
「それは良かった。じゃあ用意するよ」
「ああ。じゃあ俺も」
そう言ってバルカスは部屋にもどる。アルトも鎧を装着し始めた。
準備を終えたアルトとバルカスは、ダッシュを呼びに行って、3人でギルドへ向かった。
ギルドの中には、ちらほらと人の姿がある。
アルトはその中に、座るマリーの姿を見つける。
「おはよう、マリー。こんなとこに座って、依頼は受けないの?」
アルトは座り込んでいるマリーを不自然に思い声をかける。
「ああ、アルトさん達。今日は来たんですね。あの、一緒に依頼を受けてくれませんか?」
「この子ったら、アルト君達が帰ってきた日に誘い忘れちゃったからって、その次の日から毎日来てたのよ」
カナが横から入ってきて言う。受付は他の2人で十分そうだ。
「そうなんだ。宿はわかってたでしょ?来てくればよかったのに」
「でも、失礼かと思いまして」
ーん?前に押しかけてきたよな?
アルトはそう思いながらも口にはしない。
「迷惑なんかじゃないよ。もっと気軽に接してよ。せっかく友達になれたんだから」
マリーはアルトの言葉を聞き、非常に嬉しそうに笑った。
「友達、、、。そうですね!ありがとうございます!」
「で?依頼ってなんなんだ?」
バルカスが尋ねる。
「あ、別に受けたい依頼があるわけじゃないんです。皆さんの受ける依頼についていきたいなーと思って」
「なんだそういうことか。そんなんで1週間も俺たちを待ってたのか?変わりもんだな、おめぇも」
「え!?そうでしょうか?」
マリーは少し不安そうな顔になる。
アルトは別にそうは思わなかった。マリーが必死で僕達と仲良くなろうと思っているのがわかったからだ。
アルト達は結局、歩いて2、3時間ほどの所にある村への往復の護衛任務を受けることにした。
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