GAMEなら何でもいいってわけじゃないよね  五十路のオッサンゲーマーは異世界で何かする

なかのしま

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047話:理不尽

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 (くそ! クソ猿が!!俺がとどめ指さなきゃ意味ネェだろうが!)
 イラ立ちをなんとか抑え、細心の注意を払って木の陰に潜む男。
 今バレるわけにはいかない。
 新たにやって来た二匹の得物を仕留めて無事逃げ出すまでは。
 視線はアオイに集中している。
 (身長は160くらいか?顔は記憶した。
 胸はデカくねぇな、クソ、好みじゃねぇんだよガキが!それに情報が足りなすぎる・・・せめて名前を言えよ!発動できねぇ。)
 男の額からおびただしい量の汗が滴る。
 薄い頭髪を横になでつけ、油で無理矢理固めて、さも有るように見せかけようとしている。
 が、努力は報われていない。
 いわゆる、かつての中年男性によく見られた”バーコードハゲ”だ。
 額と顎が飛び出た顔面は、どう無理をしても不細工以外の形容詞が見いだせない。
 (あの男、返り血か?奴の血か?どっちにしろ、あれだけハデに破れてるならそうとうダメージはあるはずだ。)
 新たに現れた男の様子をちらりと確認した。
 血染めの特攻服は、派手に破れている。
 だが、手負いとは言えデモンエイプを圧倒している。
 最初の男を弾き飛ばした死にかけのデモンエイプは、あれが最後の力だったようですでに地に伏している。
 完全に分が悪い。
 が、多くのプレイヤーを殺してきた経験が、力を発動できさえすれば負けることはないと告げていた。
 自分は魔物。
 しかも、無理やり引きちぎられたカスのような存在だと思い込んでいた。
 だから何人殺そうと、相手も所詮は魔物にすぎないと気にも止めてこななかった。
 それは自分に対してもだ。
 こんな世界でどう死のうとかまわない。
 好き勝手やって、楽しむだけ楽しんで死んでやる。
 そう思ってきた。
 先程の、最初の男とのやり取りは衝撃的だった。
 俺はヒトでいいのか?
 いや、そんなことはもうどうでもいい。
 俺が死ぬと、向こうの俺も死ぬ?
 冗談じゃない。
 死ぬわけにいくか!何が何でも生き残らなければならない。
 会社に勤めながら、退社後や休日は自宅のローンと子供の学費を稼ぐために副業に明け暮れた。
 働き方改革?
 政治家どもの人気取りのため、本業の労働時間を削られて、頼みの綱だった残業手当を失った。
 あげく、減った分は副業で稼げと来た。
 あのクソ改革のおかげで俺は、休日も慣れない副業とやらに明け暮れなければならなくなった。
 確かに残業じゃない、会社に勤めているわけじゃないのだから。
 アルバイトでもパートでも派遣社員でもない。
 だからどれだけ働かされようと、過労にはならない。
 法律上は。
 一応建前上副業では個人事業主にされてしまうのだから。
 二言目には稼ぎが少ないと文句を言う妻への愛情はとうに枯れ、子供との接点もほとんどない。
 ただ毎月、支払いのためだけに日々を過ごすような生活の中、就寝前のわずかな時間、納戸として区切られた狭い部屋に照明をつけ、ベッドを置いただけの自室で、誰にも気づかれないように18禁のゲームをすることだけが生きがいだった。
 妻も子供もどうでもいい。
 ただ、向こうの自分が死んで、コレクション(18禁ゲームの数々)を奴らに見られるわけにはいかない。
 どんな手を使ってでも生き残らなければならない。
 発動さえできればいい。
 速攻で仕留めて逃げる。
 そのためにも、観察しなければならない。
 せめて名前、できれば、他にも数個、個人的な情報が欲しい。
 デモンエイプを仕留めた男がフラフラと女の元へ向かう。
 「アオイ、もう、、、。」
 かすかに聞こえた。
 (名前か?!これで発動できる。いや、まだ、もう少し・・・。)
 男の能力は、ターゲットとなる対象の情報が多いほど強力になり、発動時間も長くなる。
 外見、名前という最低限の条件を達成したが、これではまだ足りない。
 男を殺してこの場から立ち去ることはできても、この森の中から脱出するための合流地点まではもたない。
 (男を仕留めて女をさらう。
 合流地点までもたせるには、せめて今日の行動がある程度わかれば・・・くそ! 猿がいるからなんて余裕かまさずに魔物よけの魔導具を持ってくればよかった。)
 魔物よけの魔導具さえあれば、この場さえやり過ごすことができれば魔物がはびこる森から逃げきれただろうに、仲間に虚勢を張って合流地に置いてきてしまっていた。
 男はアオイを戦力として見ていなかったし、特攻服の男を始末すれば簡単に捕まると踏んでいた。
 死んだ男にオロオロとしているだけだと。
 増援もこれ以上はないだろう。
 デモンエイプに化けた二人が負けるとは思ってもいなかった。
 それもあって、発動を躊躇した。
 万が一自分が苦戦でもしたら、他の仲間に舐められる。
 「アオイちゃぁん、鍜治場に行ったのは、やっぱりユーシン君にお届け物があったからなのねぇ。」
 新たな声の主。
 (な!猫だと?)
 直立する猫がいた。
 「え?シンさん!?」
 愕然とする猫。
 (くそ!余計なもんが増えやがったが・・・ナイスだ猫。
 奴の話からすると、元々はあの猫と鍜治場だかに一緒にいたが、あの男に何かを渡すために飛び出し、合流してここに来たってことか?
 情報が弱ぇ・・・が、ウソじゃねぇはずだ・・・しかたねぇ、これで満足するとするか。)
 
 木の陰から、フラりと痩せた男が出てきた。
 (こいつが黒幕か?)
 ユーシンにとっては願っても無かった。
 怒りをぶつける相手がまだいた。
 (遠いな。臆病モンが!)
 相手の実力が分からない以上、うかつに動くわけにはいかない。
 今日、いやというほど思い知らされたばかりだ。
 刀を握りしめて、いつでも動けるように全身を緊張させる。
 現れた男は、下品な笑みを浮かべると、アオイを指さした。
 「お前に決めたぞ!」
 そう叫んだ途端、男が変わった。
 体が二回りも大きくなると、全身から黒い靄のようなものが立ち上がる。
 その変化に警戒するユーシンに向けて、男が突進してくる。
 「おせぇよ!」
 胴体を真っ二つにする勢いで刀を撃ち付けた。
 が、刀は男の体に触れる前に止まり、はじき返された。
 「な!」
 男の拳が迫る。
 そこに、弾丸と化したユーコが飛び込んできて、男の顔面にはじき返された。
 「なんだこいつ!かてぇ!」
 相手の攻撃や防御とぶつかってはじかれたことはあったが、無防備に近い胴体に全力で叩き込んだ攻撃がいともあっけなくはじき返されたことに少なからず衝撃を受けた。
 距離を取るユーシン。
 「カッチカチなのぉ~。」
 スピードは大したことが無いが、とにかく硬く、破壊力も高い。
 腕の一振りで木がなぎ倒された。
 圧倒的なパワーと防御力で、ユーシンの渾身のコンボも通じない。
 満身創痍の中戦うユーシンを、ユーコが高速移動からの攻撃でうまくサポートしている。
 ユーシンが戦えているのはそのおかげと言える。
 限界などとうに超えていた。
 その様子を見たアオイは、意を決したように立ち上がる。
 「シンさん、ちょっとだけ待ってて。」
 アオイは剣をつかむと、戦いへと駆け出す。
 その肩を、息を切らせたライアーがつかんだ。
 「だめだ、すぐに逃げて。」
 「なんで!あいつだけは許せない!」
 「あんたがいたら絶対勝てないんだよ、そういうゲームなんだ!
 あんたが奴に捕まっただけでも100%こっちの負けが確定するんだ。
 悔しいだろうけどとにかく逃げてくれ!!」
 初めて見るライアーの必死な様子に、ただ事でない何かを感じたアオイ。
 それ以上何も言わず、振り返りざま村へと駆け出した。
 悔しさに涙があふれた。
 「てめぇ!ふざけてんじゃぁねぇぞ!」
 逃げ出したアオイに気が付いた男がライアーを怒鳴りつけた。
 (まずい、あのガキ知ってやがるのか。)
 今まで自分の能力に気が付かれたことはなかった。
 そもそも、知っているやつがいるなんて思いもしなかった。
 「うるさいなぁ、なら静かにしなきゃ。」
 ライアーはストーカーを強調して、ワザと見下すような態度を取った。
 「エロゲーの中でも格別にゲスいの選んでんじゃん、いや、マジソンケーしますよ。」
 さらに侮蔑を込めた態度で挑発する。
 男の顔がみるみる赤く、怒りに歪む。
 「え~、やっぱり変態なんだぁ、一目でわかったけどぉ。」
 ライアーの意図に気が付いたユーコが乗ってきた。
 「エッチなゲームでこの世界に来ちゃうってぇ、ちょーダサ~い、死んだ方がいいよねぇ。」
 さらに言葉と態度で挑発するユーコ。
 (さすが腹黒にゃんこ、いい挑発するね。)
 
 男のプレイしていたゲームは、数あるエロゲ―の中でも特に奇抜さとゲスさで知られたものだ。
 ターゲットに決めたキャラクターをストーキングして情報を集め、弱みを見つけて追い込んでゆく。
 ターゲットになるキャラクターはヤクザ親分の娘だったり、大物政治家の娘だったり、いわゆるVIP。
 ターゲットを決めた後は、規定ターンの経過後に襲い掛かるわけだけど、護衛や警察などと選択式の戦闘モードに入るのだ。
 成功するには複数回の選択を正しく選ばなければならないが、集めた情報によってターゲットを捕まえるまでの猶予が決まる。
 というもの。
 戦闘モードもめちゃくちゃで、興奮が最高潮に達した主人公は銃弾をはじき、コンクリートの壁を素手でぶち抜く。
 そんなゲームが現実になったら。
 それがこの状況だ。
 ユーシンのコンボですら傷一つつけられない。
 逆に一撃で死亡確定の破壊力。
 手に負えないとはこのことだ。
 唯一の勝機は、無敵時間が切れるまで耐えること。
 ゲーム上では数日のストーカー行為で情報や弱みを見つけて行動に移すわけなので、この短時間ではそれほど多くの情報は掴まれていないはず、つまり、無敵時間はかなり短いのではないか、というのがライアーの見立てだった。
 (発動された以上、とにかく時間稼ぐしかない。)
 アオイを追わせず、発動限界までこの場に足止めすればいい。
 それがかなり困難なことだと、ユーシン達を見て察していた。
 (あ~、くそ、いがいと巧いな、あいつ。)
 プレイヤースキルが必要なゲームじゃない。
 元々格闘技か何かやっていたか、それともこの世界で上達したのか。
 どっちにしろ面倒だ。
 挑発に乗ったかに思えたが、すでにユーシン達を殺すことよりも、アオイを追うための行動にスイッチしている。
 侮れない。
 倒すために大技を多用するユーシン、受けた腕で遠くへ弾き飛ばそうとする敵、それをけん制するように顔面や足めがけて突っ込んでは弾かれるユーコ。
 そうしながらも、敵はアオイを追う。
 ライアーは二人が飛ばされた隙間を補うように、足止めに集中する。
 攻撃を途切れさせず、追わせない戦いに集中することにした。
 それでも止まらない。
 攻撃が通らない。
 ユーシンはすでに疲労で息も絶え絶えな状態。
 ユーコも、自らの攻撃が弾かれるたびに負傷している。
 ダメージを与えられなくても、確実に敵の足を鈍らせているユーシンにはそのまま頑張ってもらうしかない。
 ユーシンが射程外へ飛ばされないためにもユーコのサポートは必須。
 ライアーは二人のスキをついて速度を上げようとする敵をけん制するが、それも全力でかからなければ歯牙にもかけられない。
 消耗が激しい。
 (あぁ、ユーキさんもこっちに来てもらうんだった。)
 着替えるために村へ戻った際、ユーキと落ち合って軽く話していた。
 アオンの進化で、多数を制圧するのに適したスキルを覚えていたからヒエンの制圧に行こうと思う、というユーキと別れていたのだ。
 まさかこんなデタラメで理不尽な敵が残っていたとは。
 (マナさんは・・・あ、魔石抜き押し付けたんだった。)
 選択した行動がことごとく裏目に出ているような気がしてきた。
 すでに村の中に入ってしまっている、3人が抜かれればすぐにでもアオイが捕まる。
 無敵モード発動後、ターゲットがどこに隠れても居場所が分かってしまうというのもゲームの仕様だった。
 その焦りが、ライアーの動きを鈍らせた。 
 (抜かれる!)
 その時、狼の遠吠えが。
 一瞬敵の動きが止まり、光線が男の顔面へ。
 アオンにまたがったマナが放ったビーム砲だった。
 ダメージは与えられていない。
 それでも、強烈な光が目をくらませ、初めて足が止まった。
 
 マナがシンの元へ向かい走り出した時、ヒエンとの攻防へ向かっていたユーキがアオンに乗ってやって来た。
 「あれ?なんでマナさんが?」
 キョトンとするユーキに、いきさつを話す。
 「じゃあ、アオンに乗っていってください。僕もすぐに追いかけます。」
 明らかに疲労の見えるマナを、少しでも休ませられるだろうとのユーキの提案だったが、それが絶妙のタイミングでみんなを救うことになった。
 アオンの速度でなければ到底間に合わないタイミングで、アオンが新しく覚えたスキル、広範囲威圧によって敵の動きを止め、マナのビームで視界を奪った。
 一撃で仕留めるつもりだったマナにとって、ヘッドショットを決めたのに無傷というのは驚愕の結果だ。
 が、無敵ぶりをまざまざと見せつけられ、自分のミスで抜かれそうになったライアーにとってはまさに天の助けだった。
 全身に炎をまとう。
 一度アオイをターゲットとして選んだ以上は、決着がつくまでターゲットの変更はできない。
 炎が消えても自分がターゲットに選ばれる心配はないし、戦力として頼もしいマナが選ばれることも無い。
 体当たりをかます。
 どうせダメージは無いと高をくくっていた男の体が燃え上がった。
 「クソ!なんだ?何しやがった!」
 突然燃え上がった体の感触と熱に、よく見えない目で状況を確認しようとする男。
 その足は完全に止まり、炎を消そうとその場で転げまわる。
 ユーシンの刀が転げまわる敵の体を何度も切りつける。
 炎が消えて男が起き上がっても、ユーシンは攻撃を止めない。
 切れなくとも、アオイを追わせることだけはさせない。
 鬼気迫るユーシンの攻撃に、無敵状態の男もたじろいだ。
 いいようにされてはたまらぬと、裏拳でユーシンの顔面を殴りつけようとした時、その拳にナイフが突き刺さった。
 そして、ユーシンの刀が、ついに敵の肩口を深々と切り裂いた。
 「はっ?いてぇ・・・!?」
 驚愕と激痛に歪む顔。
 「やっとかよ、助かったっス。」
 姿の見えないスロークに感謝すると、そのまま力を込めて刀を引き抜き、横なぎにフルスイング、胴体を真っ二つに切り裂いた。
 「なんで・・・他の、やつら・・・ば・・・。」
 その言葉を最後に、男は二度と動くことはなかった。
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