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二章
2way
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顔の造作から、容姿や動き方まで、とにかく見た目は全部と言ってもいいだろうな。このTwins RC1はこれまで俺が見てきたどんなシステマとも違ってる。
あれから俺たちはTwins RC1と一緒に元の部屋に戻った。勝亦が案内してくれたこの部屋は調整室とか言う名前らしい。で、まずは調整室に設えてあるシャワールームにTwins RC1を放り込み、俺は奴らの服を準備した。専用カバーはどうしたってか? 残念ながらこいつらは正式にリリースされた商品じゃない。ある訳ねえだろ、そんなもん。だから仕方なく俺はビルを降りてだな。まだ開いてた店を何とか探して二台分の服を適当に手に入れたんだよ。くそ、勝亦の奴、貧乏人を何だと思ってやがる。後で絶対請求してやるからな。まあ、本音を言うと割と安い服を売ってる店があったから助かったんだけどな。おっと、靴を買い忘れたのは勘弁しろよ。俺だって慌ててたんだ。代わりにスリッパを二組ほど営業所から失敬したんだから文句はねえだろ。
青い液体を落としてさっぱりしたTwins RC1に服を放り投げたとこまでは良かった。だがこいつらと来たら、服の着方を判っちゃいねえ。何だって俺がこいつらに服を着せなきゃならんのだ。って、目いっぱい文句言いつつも俺は二台に服を着せた。この間、勝亦は何かしてたらしいが、具体的になにをしてたのかは俺も知らん。インターフェイス着けてたからシステマ使ってたのは判るがな。
Twins RC1は顔立ちはどっちも整ってるし、肌なんかも傷一つなくてきめ細やかだ。インターフェイスなしでその辺をほっつき歩いてたら、きっと人間にしか見えないだろう。
「いいか。よく見てろよ」
俺はさっきと同じように椅子に座ってインターフェイスを着けていた。勝亦の合図と同時に視界が一気に変化する。アスファルトの道路と空以外の何もない空間に俺は立った。
周りを見ても何もない。あるのは青い空と路面だけ。そんな光景を見つめつつも俺は全然違うことを考えていた。Twins RC1の姿が脳裏に焼きついて離れないのだ。
何でこんなに気になるかなあ。油断するとそんな考えが頭に浮かぶ。いかん、と顔をしかめて俺は睨むように周囲を見回した。行くぞ、という勝亦の合図の後に俺を取り囲んでいた周囲の光景が変化する。あれ?
「さっきよか遅くないか?」
先ほど見た時のあの光景を思い出しながら俺はそう言った。確かに製品版のシステマ二台で作り出された光景より、明らかに今回のものの方が表示速度は遅い。
「二台のときと比べればそうだろうけど、一台の時と比べれば速いだろう? 今、映像を表示しているソフトは一台の時と同じものだ。だからこういう事もできる」
何が起こるのかと周囲の光景に意識を集中した。が、取り立てて何事も起こらない。何なんだよ、と俺が不服の声を上げたところで勝亦が説明した。
「今、TypeBのインターフェイスを外した」
「え?」
俺からはシステマの様子も勝亦も見えない。だが間違いなく……。
「動いて……る?」
インターフェイスがない以上、TypeBと呼ばれた男性型システマへのデータの入出力は不可能だ。なのに俺の目の前に広がる光景には少しの変化もない。風の感触も、音も、そして車や人の動きもまるで変わってはいないのだ。特にどこかの映像が壊れているといったこともない。
「これが2wayだ。片方が例え壊れても、一台残っていれば動くことが出来る。一台の時でも二台の時でも、使用方法を変える必要は無いし、特別なソフトウェアも必要ない」
勝亦が言った後、静かに周囲の景色が消える。俺は無言で空を見た。真っ青な空に浮かんでいた雲も消える。だが俺は勝亦の言うような凄さが今ひとつ判らなかった。二台で一台の仕事をさせるってのは、さっきみたいなのじゃないのか。勝亦の言わんとしていることを理解しようとする傍ら、俺はそんなことを考えた。何故なら製品版のシステマに見せられた景色は段違いに表示が速かったからだ。
視界が切り替わり、システマが二台と勝亦の姿が目に入る。勝亦が言った通り、男性型の方はインターフェイスを着けていなかった。俺は黙ってインターフェイスを外した。さっき感じたような頭のぐらつきはもうない。
「客は新しい商品を何て言ってる?」
「あ? ああ。さすがは2wayですねってのが大半だな」
俺はまじまじと二台のシステマを見ながらそう答えた。だろうな、と勝亦が静かな声音で言う。俺は勝亦を振り返って顔をしかめた。勝亦が自分と女性型のシステマが身に着けていたインターフェイスを外す。
「本当に2wayである必要はない。客が充足感を得られるのは、リリースされた製品版の方なんだよ。……お前が言ったようにな」
あ。そうか。だから勝亦は俺にわざわざ2wayの性能を見せたのか。俺のシステマに関する知識が客と同じ程度だから。
「製品版のほうは確かに二倍近い処理速度が出せるけど、専用のソフトが必要だし、同期処理のために安定性や操作性がどうしても従来よりも劣ってしまう」
俺の理解力に極力合わせようとしてるのか、勝亦がいつもよりゆっくりとした口調で話し始める。俺は黙って話を聞くことに専念した。
「だから、処理速度が速くなっていても総合的な処理効率は実は従来機種と大差無いんだ。本物の2wayシステムなら使用感は一台の時とほとんど変わらない。処理速度と安定性が共に向上するから、処理効率は従来機種から格段に向上するけど、使う側から見れば特にこれまでと変わり無く感じるはずだ。だけど、だからこそ逆に客の満足感は得られにくい」
要するにありがたみがないってことだ。そう言って勝亦は疲れたように笑った。もしかしたらこいつ、そのせりふを上司の誰かに言われたんじゃないか?
「僕も子供じゃない。決定には従うし、納得もしてる。でもやっぱりちょっと悔しいというのはあるんだ」
そう言った時の勝亦の顔はやけに沈んでいた。多分、2wayってのが理解出来てねえんだろな、俺は。勝亦の悔しさってのが今ひとつ判らん。でも俺は正直に思ったことを話す気にはなれなかった。勝亦の感じてることがまったく判らないはずがないと思うじゃないか。腐れ縁かも知れないが、一応は長い付き合いなんだぞ。それを判らないってのはどうなんだ、と自分で思うわけだ。
勝亦は無言で二台のシステマを片付けにかかった。とは言っても服を剥がしてケースに戻すだけだがな。俺はそんな勝亦を硝子窓越しにぼんやりと眺めてた。あの二台だけじゃない。ここに納まってるシステマは全て休止状態になっている。下手に動かすと学習機能が働くだけじゃない。それだけでコストがかかるからだ。ここなら開発中のシステマと一緒にしておけるから、大した手間も金もかからないってのが勝亦の説明だった。
裸になった二台がそれぞれのケースに戻る。青く透き通った液体の中に身体を横たえる二台のうち、俺はいつの間にか女性型のシステマを見つめていた。勝亦曰く、女性型の方がTypeA、男性型の方はTypeBというらしい。音声入力も可能だから、インターフェイスなしでもある程度は稼動する。言語も理解してるからその気があれば話も出来るんだと。……そんなこと、どのシステマでも当り前に出来るのに、何故かこの二台がそれを出来ると聞いた時に俺は驚いちまった。勝亦が呆れてたもんな。悪かったよ、どうせ俺はシステマの営業の自覚なんぞねえよ。ふん。
急遽、RC2がリリース決定されたのにはとある背景があるのだと勝亦は教えてくれた。RC1に比べるとRC2は軽量でしかも大量生産が可能だ。その上製造コストも断然、RC2の方がかからない。つまり、I 3604 Twinsは本当に2wayである必要はないのだ、と上役が判断したのだ。
大混乱した工場も今は何とか落ち着いているという。だが勝亦が所属していた開発チームのチームリーダーは責任を取って辞職したそうだ。ただ中止にするには余りにも事態の変化が急すぎたのだ。
勝亦は事後処理に未だ追われているという。リーダーを失ったチームは恐らく解散になるだろう。そんな話も勝亦はしていた。もしかしたら勝亦は、周囲の誰にもそんなことを言えず、全く関係のない部署の俺だからこそ喋ったのかも知れない。
「人……みたいだったな。あいつら」
話が一段落ついたところで俺はそう勝亦に言った。すると奴は少し笑って眼鏡を指で押し上げた。急行電車の吹き付ける風に煽られながら勝亦が頷く。
「いい出来だろ? 僕らの自信作だから」
勝亦の顔色はあんまり変わらないが、それでもすっきりした表情をしている。多分、喋ったから気も晴れたんだろ。だが、そうだなと同意しつつも俺は全く別のことを考えていた。行き過ぎた電車を見送って思わずため息をつく。ホームには俺たちの他に誰もいない。次の便が最終だ。
どうしてもあの二台がシステマに見えないのだ。ジャケットを投げつけた時のあの動き。あれはまさに人そのものの動きだった。関節部の動きもとても滑らかで、ぎこちなさなんて全くなかった。営業所にあるシステマとは比べ物にならないほどだ。
滑り込んできた電車に乗って俺は出来るだけ不自然にならないよう、その話を勝亦に振ってみた。勝亦は妙な顔をしていたがきっちり答えてくれた。どうやら話を聞く限りでは、奴らの反射神経はヒトと変わらないらしい。それと特殊なソフトを入れてあるために動きも段違いに滑らかなんだと。
飲みに来るか、という誘いを断って俺はマンションに戻った。飲みたいのは山々だったんだが一人で考えたいこともあったしな。それに勝亦が妙に俺のことを心配しだしたりして、実はちょっとうっとうしかったんだよ。
心配されるようなことなんてあるもんか。俺はそんなことを思いながら、マンションの入り口のポストに突っ込まれたちらしの類をまとめてごみ箱に放り込んだ。けっ。資源の無駄だって判んねえのかよ。こんなもん誰が見るかっての。
部屋に戻っても俺の気分は晴れなかった。くそ、勝亦の奴はあんなに清々した顔してやがったのに、俺は逆に不愉快になっちまった気がする。いや、不愉快っていうのとはまた違うな。
足で冷蔵庫の扉を開けてビールを取り出してそこで一息。あーあ。もう二時だぞ。こんな時間までなにやってるんだかな、俺も。誰もいない部屋でそんなこと呟きながら、俺は立ったまんまでビールを一本空けた。
あれから俺たちはTwins RC1と一緒に元の部屋に戻った。勝亦が案内してくれたこの部屋は調整室とか言う名前らしい。で、まずは調整室に設えてあるシャワールームにTwins RC1を放り込み、俺は奴らの服を準備した。専用カバーはどうしたってか? 残念ながらこいつらは正式にリリースされた商品じゃない。ある訳ねえだろ、そんなもん。だから仕方なく俺はビルを降りてだな。まだ開いてた店を何とか探して二台分の服を適当に手に入れたんだよ。くそ、勝亦の奴、貧乏人を何だと思ってやがる。後で絶対請求してやるからな。まあ、本音を言うと割と安い服を売ってる店があったから助かったんだけどな。おっと、靴を買い忘れたのは勘弁しろよ。俺だって慌ててたんだ。代わりにスリッパを二組ほど営業所から失敬したんだから文句はねえだろ。
青い液体を落としてさっぱりしたTwins RC1に服を放り投げたとこまでは良かった。だがこいつらと来たら、服の着方を判っちゃいねえ。何だって俺がこいつらに服を着せなきゃならんのだ。って、目いっぱい文句言いつつも俺は二台に服を着せた。この間、勝亦は何かしてたらしいが、具体的になにをしてたのかは俺も知らん。インターフェイス着けてたからシステマ使ってたのは判るがな。
Twins RC1は顔立ちはどっちも整ってるし、肌なんかも傷一つなくてきめ細やかだ。インターフェイスなしでその辺をほっつき歩いてたら、きっと人間にしか見えないだろう。
「いいか。よく見てろよ」
俺はさっきと同じように椅子に座ってインターフェイスを着けていた。勝亦の合図と同時に視界が一気に変化する。アスファルトの道路と空以外の何もない空間に俺は立った。
周りを見ても何もない。あるのは青い空と路面だけ。そんな光景を見つめつつも俺は全然違うことを考えていた。Twins RC1の姿が脳裏に焼きついて離れないのだ。
何でこんなに気になるかなあ。油断するとそんな考えが頭に浮かぶ。いかん、と顔をしかめて俺は睨むように周囲を見回した。行くぞ、という勝亦の合図の後に俺を取り囲んでいた周囲の光景が変化する。あれ?
「さっきよか遅くないか?」
先ほど見た時のあの光景を思い出しながら俺はそう言った。確かに製品版のシステマ二台で作り出された光景より、明らかに今回のものの方が表示速度は遅い。
「二台のときと比べればそうだろうけど、一台の時と比べれば速いだろう? 今、映像を表示しているソフトは一台の時と同じものだ。だからこういう事もできる」
何が起こるのかと周囲の光景に意識を集中した。が、取り立てて何事も起こらない。何なんだよ、と俺が不服の声を上げたところで勝亦が説明した。
「今、TypeBのインターフェイスを外した」
「え?」
俺からはシステマの様子も勝亦も見えない。だが間違いなく……。
「動いて……る?」
インターフェイスがない以上、TypeBと呼ばれた男性型システマへのデータの入出力は不可能だ。なのに俺の目の前に広がる光景には少しの変化もない。風の感触も、音も、そして車や人の動きもまるで変わってはいないのだ。特にどこかの映像が壊れているといったこともない。
「これが2wayだ。片方が例え壊れても、一台残っていれば動くことが出来る。一台の時でも二台の時でも、使用方法を変える必要は無いし、特別なソフトウェアも必要ない」
勝亦が言った後、静かに周囲の景色が消える。俺は無言で空を見た。真っ青な空に浮かんでいた雲も消える。だが俺は勝亦の言うような凄さが今ひとつ判らなかった。二台で一台の仕事をさせるってのは、さっきみたいなのじゃないのか。勝亦の言わんとしていることを理解しようとする傍ら、俺はそんなことを考えた。何故なら製品版のシステマに見せられた景色は段違いに表示が速かったからだ。
視界が切り替わり、システマが二台と勝亦の姿が目に入る。勝亦が言った通り、男性型の方はインターフェイスを着けていなかった。俺は黙ってインターフェイスを外した。さっき感じたような頭のぐらつきはもうない。
「客は新しい商品を何て言ってる?」
「あ? ああ。さすがは2wayですねってのが大半だな」
俺はまじまじと二台のシステマを見ながらそう答えた。だろうな、と勝亦が静かな声音で言う。俺は勝亦を振り返って顔をしかめた。勝亦が自分と女性型のシステマが身に着けていたインターフェイスを外す。
「本当に2wayである必要はない。客が充足感を得られるのは、リリースされた製品版の方なんだよ。……お前が言ったようにな」
あ。そうか。だから勝亦は俺にわざわざ2wayの性能を見せたのか。俺のシステマに関する知識が客と同じ程度だから。
「製品版のほうは確かに二倍近い処理速度が出せるけど、専用のソフトが必要だし、同期処理のために安定性や操作性がどうしても従来よりも劣ってしまう」
俺の理解力に極力合わせようとしてるのか、勝亦がいつもよりゆっくりとした口調で話し始める。俺は黙って話を聞くことに専念した。
「だから、処理速度が速くなっていても総合的な処理効率は実は従来機種と大差無いんだ。本物の2wayシステムなら使用感は一台の時とほとんど変わらない。処理速度と安定性が共に向上するから、処理効率は従来機種から格段に向上するけど、使う側から見れば特にこれまでと変わり無く感じるはずだ。だけど、だからこそ逆に客の満足感は得られにくい」
要するにありがたみがないってことだ。そう言って勝亦は疲れたように笑った。もしかしたらこいつ、そのせりふを上司の誰かに言われたんじゃないか?
「僕も子供じゃない。決定には従うし、納得もしてる。でもやっぱりちょっと悔しいというのはあるんだ」
そう言った時の勝亦の顔はやけに沈んでいた。多分、2wayってのが理解出来てねえんだろな、俺は。勝亦の悔しさってのが今ひとつ判らん。でも俺は正直に思ったことを話す気にはなれなかった。勝亦の感じてることがまったく判らないはずがないと思うじゃないか。腐れ縁かも知れないが、一応は長い付き合いなんだぞ。それを判らないってのはどうなんだ、と自分で思うわけだ。
勝亦は無言で二台のシステマを片付けにかかった。とは言っても服を剥がしてケースに戻すだけだがな。俺はそんな勝亦を硝子窓越しにぼんやりと眺めてた。あの二台だけじゃない。ここに納まってるシステマは全て休止状態になっている。下手に動かすと学習機能が働くだけじゃない。それだけでコストがかかるからだ。ここなら開発中のシステマと一緒にしておけるから、大した手間も金もかからないってのが勝亦の説明だった。
裸になった二台がそれぞれのケースに戻る。青く透き通った液体の中に身体を横たえる二台のうち、俺はいつの間にか女性型のシステマを見つめていた。勝亦曰く、女性型の方がTypeA、男性型の方はTypeBというらしい。音声入力も可能だから、インターフェイスなしでもある程度は稼動する。言語も理解してるからその気があれば話も出来るんだと。……そんなこと、どのシステマでも当り前に出来るのに、何故かこの二台がそれを出来ると聞いた時に俺は驚いちまった。勝亦が呆れてたもんな。悪かったよ、どうせ俺はシステマの営業の自覚なんぞねえよ。ふん。
急遽、RC2がリリース決定されたのにはとある背景があるのだと勝亦は教えてくれた。RC1に比べるとRC2は軽量でしかも大量生産が可能だ。その上製造コストも断然、RC2の方がかからない。つまり、I 3604 Twinsは本当に2wayである必要はないのだ、と上役が判断したのだ。
大混乱した工場も今は何とか落ち着いているという。だが勝亦が所属していた開発チームのチームリーダーは責任を取って辞職したそうだ。ただ中止にするには余りにも事態の変化が急すぎたのだ。
勝亦は事後処理に未だ追われているという。リーダーを失ったチームは恐らく解散になるだろう。そんな話も勝亦はしていた。もしかしたら勝亦は、周囲の誰にもそんなことを言えず、全く関係のない部署の俺だからこそ喋ったのかも知れない。
「人……みたいだったな。あいつら」
話が一段落ついたところで俺はそう勝亦に言った。すると奴は少し笑って眼鏡を指で押し上げた。急行電車の吹き付ける風に煽られながら勝亦が頷く。
「いい出来だろ? 僕らの自信作だから」
勝亦の顔色はあんまり変わらないが、それでもすっきりした表情をしている。多分、喋ったから気も晴れたんだろ。だが、そうだなと同意しつつも俺は全く別のことを考えていた。行き過ぎた電車を見送って思わずため息をつく。ホームには俺たちの他に誰もいない。次の便が最終だ。
どうしてもあの二台がシステマに見えないのだ。ジャケットを投げつけた時のあの動き。あれはまさに人そのものの動きだった。関節部の動きもとても滑らかで、ぎこちなさなんて全くなかった。営業所にあるシステマとは比べ物にならないほどだ。
滑り込んできた電車に乗って俺は出来るだけ不自然にならないよう、その話を勝亦に振ってみた。勝亦は妙な顔をしていたがきっちり答えてくれた。どうやら話を聞く限りでは、奴らの反射神経はヒトと変わらないらしい。それと特殊なソフトを入れてあるために動きも段違いに滑らかなんだと。
飲みに来るか、という誘いを断って俺はマンションに戻った。飲みたいのは山々だったんだが一人で考えたいこともあったしな。それに勝亦が妙に俺のことを心配しだしたりして、実はちょっとうっとうしかったんだよ。
心配されるようなことなんてあるもんか。俺はそんなことを思いながら、マンションの入り口のポストに突っ込まれたちらしの類をまとめてごみ箱に放り込んだ。けっ。資源の無駄だって判んねえのかよ。こんなもん誰が見るかっての。
部屋に戻っても俺の気分は晴れなかった。くそ、勝亦の奴はあんなに清々した顔してやがったのに、俺は逆に不愉快になっちまった気がする。いや、不愉快っていうのとはまた違うな。
足で冷蔵庫の扉を開けてビールを取り出してそこで一息。あーあ。もう二時だぞ。こんな時間までなにやってるんだかな、俺も。誰もいない部屋でそんなこと呟きながら、俺は立ったまんまでビールを一本空けた。
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