冥府への案内人

伊駒辰葉

文字の大きさ
22 / 63
二章

昏い夢の中-2

しおりを挟む
 ジェル状のそれが塗られたペニスが電灯の光を鈍く照り返す。淡く色づいたペニスを順はしばらく眺めた。

「塗ったか?」
「こっちのもか?」

 そう言いながら順は左手を和也の前に差し出そうとした。

「え?」

 不意に股間が熱くなる。順は驚きに息を飲んで自分の股間を見下ろした。先ほどまで萎えていたペニスがゆっくりと頭をもたげる。それと同時に異様なほどの欲求が順の中に生まれた。戸惑いながら和也を見る。和也はのんびりとコーヒーを啜りながら目だけで笑った。

「な、何で……こんな……」

 無意識に身を屈め、順は掠れた声で呻いた。左手に残っていたジェル状のそれをぼんやりと見つめる。細かな気泡を含んだそれに何か細工がしてあったのだろうか。そうでなければこんなにいきなり昂奮する筈がない。

「こらこら。隠すなよ。見えねえだろが」

 面倒そうに立ち上がり、和也が順の肩を押し戻す。露になった股間ではペニスが痛いくらいに勃起している。順の呼吸は次第に速く浅くなり始めていた。

「ほーら、完璧。これでいけるだろ?」

 耳元にそう囁かれ、順は無意識に熱い息をついた。導かれるままに右手でペニスに触れる。まるでそこだけが別の生き物のようにペニスは脈打っている。指でなぞっただけで身震いするほどの快楽がこみ上げ、順は思わず呻いた。

「こ、こんなの、変だ。一体、何で」

 そう言いながら順は人差し指で静かにペニスをなぞった。付け根からゆっくりと先端に向かって指を運ぶ。熱く膨れた鈴口からはいつの間にか先走りが垂れている。あ、と小さく呟いて順は潤んだ目でペニスを見下ろした。指で触れている部分に焦れるような感覚がある。

「いいんだよ、それで。ほら、どこが気持ちいいか自分で探せ」

 和也が耳元にそっと囁く。低く甘い囁きに促され、順は何度か鈴口を指先でつついた。最初は恐る恐るだった指の動きが次第に大胆になる。先走りの垂れる鈴口を指先で擦りながら膨れた亀頭を指に包む。指に力を入れたり緩めたりを繰り返すうち、順の目には昂奮の色が浮かび始めた。

 ゆっくりと瞳の色が染まり変わる。順は空色の瞳を閉じて小さく呻いた。亀頭を捏ねていた指をずらして手にしっかりとペニスを握る。熱を帯びたペニスを根元から先端に向かってじわじわと擦る。先に塗りつけたジェル状のものは固まることなく、順の手の動きの助けになった。

 膝に乗せた左手が震える。ぎこちなくペニスを扱き始めた順を見つめながら和也がそっと身体を離す。だがそのことも判らないほどに順は初めての自慰に没頭していた。

「おお、上手い上手い。でもまだ出すなよ」

 床に座ってテーブルに片肘をつき、和也がのんびりと指示する。辛うじて声を耳で拾った順は、何故、そう言われるのかも理解出来ないまま小さく頷いた。和也が静かに腰を上げて部屋を出て行く。

 戻ってきた時、和也は手に空のコップを一つ握っていた。順は熱に浮かされた目で和也を見つめ、ふと手を止めた。だがそんな順に和也が舌打ちをして顎をしゃくる。

「やめんなよ」
「でも……それ、なに」

 飛びかけていた理性を懸命に引き戻して順は小声で訊ねた。ああ、と笑って和也が空のコップをテーブルに据える。

「出す時はちゃんとコールしろよ」

 言われた意味は何とか理解出来たが、意図が判らない。順は戸惑って手を止めたまま和也を見た。

「いいから続けろ」

 そう言って和也が順の目の前に立つ。和也は順の肩に手をかけ、耳元に口を寄せた。気配にびくりと身体を震わせた順の耳に和也が囁く。

「頭ん中でな。都子ちゃんを犯せ」
「なっ」

 思わぬことを言われ、感覚の全てが消える。だがすぐに順の身体には快楽が戻ってきた。いけないと思うのに都子の姿が思い浮かぶ。

「ぐっちゃんぐっちゃんに犯してやれよ。すっげえ気持ちいいぞ、きっと」

 甘い囁きに順は思わず小さく声を上げた。無意識のうちに手が動き始める。抑制しようとすればするほど、妄想が次々に浮かんでくる。順は意志とは正反対に和也の言うままに脳裏に都子を思い描いた。

 写真の中で笑う都子は順の目から見てもとても美しく成長していた。かつては幼さしか感じなかったその容姿もすっかり大人びていた。スカートから伸びる脚はすらりと長く、透けるように白い肌がとても魅力的に見えた。制服のジャケットに包まれた胸は膨らみ、身体の線も丸みを帯びていた。細い肩は抱いたら壊れそうだ。

「剥いちまえ。押し倒してナニをあそこに突っ込んでやるんだよ」

 まるで順の妄想を読んだように和也が囁く。順は自分でも気付かない内に強くペニスを扱き始めていた。ためらいがちだった手の動きが大胆になる。塗りたくったものが擦れる音と順の荒い息遣いが部屋に響く。

 制服を引き裂いて押し倒す。順は頭の中で泣き叫ぶ都子を組み敷いていた。傷一つない肌に唇を落とし、赤い印を幾つも刻む。悲鳴を上げる都子の口を手で塞ぎ、胸の膨らみを唇で思うままに吸う。手足を縛り付けるのも悪くない。そうすれば抵抗など出来なくなる。スカートをめくって下着を摺り下げて股間を露にする。

 順は都子を犯す場面を妄想しながら熱い息をついた。妄想の中で都子は嫌がって泣き叫んでいる。だがそれでも順は頭の中で都子を犯すのをやめなかった。怯えてかたく閉じている秘唇に強引にペニスを突き入れる。狭い膣に一気にペニスを突き入れればきっと都子は出血するだろう。が、その方がむしろいい。

 俺は本当はずっと。

「おー。完全に嵌ったな」

 感心したような和也の声も順の耳には入らなかった。熱心にペニスを扱きながら都子を呼ぶ。順はふわりと左手を持ち上げて口許に近づけた。手の中にあったジェル状のものを夢中で口に運ぶ。どうしてそうしたのか自分でも判らなかったが、口にそれを入れた瞬間、順はそれまでにない快楽を得た。口許を覆ったまま、それを嚥下する。残ったそれを舐め取りながら順は薄く目を開けた。

 空色に染まり変わった瞳は焦点が定まっていない。そして順の髪の色は根元から徐々に空色に変化しつつあった。だが熱心に自慰を続ける順は自身の変化には気付かなかった。頭の中で都子を犯しながら手の動きを速くする。

「も……う、出る……っ」
「おっと。忘れてた」

 苦しい息をつきながら告げた順のペニスを和也が手の上からつかむ。急に強く握られた順は掠れた悲鳴を上げた。

 和也は片手で空のコップを取り上げて順のペニスにあてがった。よし、と言って順のペニスから手を離す。その瞬間、順は呻きながら射精した。音を立てて精液がコップに注がれていく。

「すげえな。こりゃあ、お釣りがくるぞ」

 呟く和也の目は真っ直ぐにコップに向いている。順は荒い息をつきながら何度もコップの中に射精した。同時に頭の中で都子の膣内に射精する。

 妄想の中、順は泣き叫ぶ都子を見つめて嗤っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...