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一章
科学部室にて
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「部長お。もう少し音声を落としましょうよお」
背後で情けない声がする。科学部部員、畑中奈美の声だ。絵美佳は奈美に頷きながら食い入るようにテレビの画面を見ていた。握っていた菓子袋に手を突っ込み、せんべいを口に運ぶ。
清陵高校の地下には科学部専用の地下室が作られている。かつて絵美佳の父、総一郎が通っていた時代に造られたものだ。総一郎の注文通り、地下室はかなり広々と作ってある。各校舎の下の空間の全てが地下室になっているだけあり、部屋数もかなりある。その地下の一室で絵美佳は無言で画面を見つめていた。
せんべいをばりん、と音を立ててかじる。背後で奈美が泣きそうになっているにも関わらず、絵美佳はテレビの音量を全く下げなかった。画面の中で剥き出しになった性器を弄られているAV女優は、とめどなく喘ぎ声を発している。
「クリトリスの形状がよく判らないわね。どうしてこんなに見えにくいの」
「……そりゃ、普通のビデオショップで借りたら、修正入ってますから」
絵美佳の横で顔を赤くしていた男子部員が呟く。絵美佳はふうん、と呟いて口一杯にせんべいを頬張った。
どうして人の見たい部分をわざわざ見えにくくしてくれるのだ。絵美佳は不条理な憤りを感じていた。画面の中で誰かの手が動き、女優の陰唇を割り開く。膣口の中に指を入れてこねまわしている。なのに手元にモザイクがかかって見えないのだ。
自分の性器は嫌になるほど観察した。ついでに女子部員の何人かの陰部も観察した。嫌がる男子部員も捕まえ、ペニスも無理やり観察した。なのにどうしても納得のいく結論は得られないのだ。絵美佳は苛々しながら画面を睨みつけた。勃起したペニスを女優がしゃぶっている。……らしい。残念ながらそそり立つペニスそのものにはモザイクがかかっており、はっきりと形状が見えなくなっている。
「そんで、俺らがこれを見なきゃならん理由ってなんなんすか、吉良部長」
隣でぼんやりと画面を眺めていた男子部員が絵美佳に問い掛ける。絵美佳はふふん、と鼻で笑って左隣に座る男子部員を見た。いや、正確には男子部員の股間を見た。
「決まってるじゃない。あたしが楽しいからよ」
絵美佳はさらりと返して笑った。絵美佳の視線に気づいた男子部員が慌てて膨れた股間を覆い隠す。
科学部の部員は総勢二十名。その全てはテレビ画面の前に並べたパイプ椅子に座り、無理やりAVビデオを見せられていた。女子部員の中には泣きそうな顔になっている者もある。絵美佳はせんべいを咥えたまま、ぐるりと部員たちの顔を見回した。テレビ画面に一番近いところに座っていた絵美佳は、目が合うと途端に視線を背ける部員たちを黙ったまま見やった。そして元通りに座る。
「やっぱり、あれね。裏よ。裏。裏じゃなきゃだめなのよ」
絵美佳は呻くようにそう呟いた。途端に少し離れた場所に座っていた新一年生の男子部員がジュースを勢いよく噴いた。だが絵美佳はちらりとそちらを見ただけで、隣に視線を戻した。股間を手で覆っていた男子部員が顔をしかめている。
「というわけで、あんたたち、次週までに裏ビデオを入手してくること。いいわね!」
絵美佳は立ち上がって周囲を見回した。手にした菓子袋の中でせんべいが音を立てて割れる。だが絵美佳は構わず判ったわね、と念を押した。顔を引きつらせた部員たちが訳も判らないままで頷く。絵美佳はよし、と頷いてさっさとビデオを止めた。
毎日、放課後になると地下に科学部員は集う。今日も例外ではなく、欠席者はいない。絵美佳はビデオデッキからAVビデオを抜き、借りてきてくれた男子部員にそれを放った。股間を隠していた男子部員が慌ててそれを受け取る。
「これ、どーすんすか。返すんです?」
情けない顔をした男子部員に絵美佳は当り前じゃない、と告げた。そして白衣を翻してビデオ部屋を出る。資料室、と称される部屋に入ると、絵美佳の後ろから女子部員が追いかけてきた。
「あの、吉良部長っ」
顔を赤くした女子部員は周囲を見回した。絵美佳は怪訝に思いながら振り返る。女子部員はうろたえて視線を逸らしたが、すぐに思い直したようにこぶしを握り締めた。
「どしたの?」
絵美佳は何の気なしに問うた。女子部員は意を決したように絵美佳ににじり寄る。絵美佳はおお、と呟いて身体を引いた。だが女子部員は目を潤ませてさらに迫ってくる。資料の入ったロッカーにいく手を阻まれ、絵美佳は仕方なく女子部員の肩を押さえた。これ以上、近寄られても困る。
「あのっ、例の彼について調べてきたんですけどっ」
例の彼。それを聞いた絵美佳はきらり、と目を輝かせた。
「弱点はわかったの!?」
絵美佳は女子部員の目を覗き込みながら笑みを浮かべた。すると女子部員が頬をさらに染める。
「ええっと! 弱点っていうかっ、好きな体位はわかりましたっ!」
身体を張って好みを探ったのだろう。女子部員の目は達成感に爛々と輝いている。だが絵美佳は呻き声を上げて女子部員を突き飛ばした。
「あいつが好きな体位は後背位でしょ? そんなの常識よ!」
ロッカーに手をついた姿勢で絵美佳はそう喚いた。女子部員が涙を浮かべて慌てたように絵美佳にすがってくる。だが絵美佳はがっくりとうなだれていた。
「でっ、でも部長っ! あたし、三回もいかされちゃったんです! もう、凄かったんですうっ!」
女子部員は懸命に絵美佳にそう訴えた。絵美佳は鋭い眼差しで横目に女子部員を睨みつけた。
「……。あんたもしかして喧嘩売ってる?」
そう呟いた絵美佳はゆらりと顔を上げた。女子部員は慌てて後ずさる。絵美佳から離れながらも、女子部員は懸命に叫んだ。
「そんなっ! だって、吉良部長が調べろって……! あのっ、雨宮くん、ちゃんと前戯もしてくれましたしっ、そのっ、ちゃんと外出しでしたしっ」
絵美佳はそれを聞いた途端、目を吊り上げて女子部員に迫った。息を飲んだ女子部員の肩をがしりとつかむ。
「どーせあたしは処女よ! 悪かったわね!!」
「えっ、嘘おっ!」
絵美佳の叫びに女子部員が叫び返す。絵美佳はどう言う意味よ、と歯軋りしながら女子部員の肩に爪を食い込ませた。痛いと悲鳴を上げた女子部員が泣き出してしまう。だが絵美佳はがっしりと女子部員の肩をつかんでいた。
「そっか。志願してくれるんだ」
絵美佳は歯軋りしながら片頬だけを歪めて笑い顔を作った。だがその顔は決して笑っているようには見えない。女子部員は引きつりながら涙を流して首を激しく横に振った。
明るい声で、よかったわあと言いながら絵美佳は鋭い視線をドアへと向けた。そこにはさきほどのビデオテープを手にした男子部員が呆然とした顔で立っている。絵美佳はにやりと笑って顎をしゃくった。
「春日さんが性器を見せてくれるんだそうよっ。生よ、生っ。嬉しいでしょっ」
春日は絵美佳に肩を捕まれたままで掠れた悲鳴を上げた。男子部員が近づいてきて、春日の腕をがっちりとつかむ。それを見ながら絵美佳はにんまりと笑った。
背後で情けない声がする。科学部部員、畑中奈美の声だ。絵美佳は奈美に頷きながら食い入るようにテレビの画面を見ていた。握っていた菓子袋に手を突っ込み、せんべいを口に運ぶ。
清陵高校の地下には科学部専用の地下室が作られている。かつて絵美佳の父、総一郎が通っていた時代に造られたものだ。総一郎の注文通り、地下室はかなり広々と作ってある。各校舎の下の空間の全てが地下室になっているだけあり、部屋数もかなりある。その地下の一室で絵美佳は無言で画面を見つめていた。
せんべいをばりん、と音を立ててかじる。背後で奈美が泣きそうになっているにも関わらず、絵美佳はテレビの音量を全く下げなかった。画面の中で剥き出しになった性器を弄られているAV女優は、とめどなく喘ぎ声を発している。
「クリトリスの形状がよく判らないわね。どうしてこんなに見えにくいの」
「……そりゃ、普通のビデオショップで借りたら、修正入ってますから」
絵美佳の横で顔を赤くしていた男子部員が呟く。絵美佳はふうん、と呟いて口一杯にせんべいを頬張った。
どうして人の見たい部分をわざわざ見えにくくしてくれるのだ。絵美佳は不条理な憤りを感じていた。画面の中で誰かの手が動き、女優の陰唇を割り開く。膣口の中に指を入れてこねまわしている。なのに手元にモザイクがかかって見えないのだ。
自分の性器は嫌になるほど観察した。ついでに女子部員の何人かの陰部も観察した。嫌がる男子部員も捕まえ、ペニスも無理やり観察した。なのにどうしても納得のいく結論は得られないのだ。絵美佳は苛々しながら画面を睨みつけた。勃起したペニスを女優がしゃぶっている。……らしい。残念ながらそそり立つペニスそのものにはモザイクがかかっており、はっきりと形状が見えなくなっている。
「そんで、俺らがこれを見なきゃならん理由ってなんなんすか、吉良部長」
隣でぼんやりと画面を眺めていた男子部員が絵美佳に問い掛ける。絵美佳はふふん、と鼻で笑って左隣に座る男子部員を見た。いや、正確には男子部員の股間を見た。
「決まってるじゃない。あたしが楽しいからよ」
絵美佳はさらりと返して笑った。絵美佳の視線に気づいた男子部員が慌てて膨れた股間を覆い隠す。
科学部の部員は総勢二十名。その全てはテレビ画面の前に並べたパイプ椅子に座り、無理やりAVビデオを見せられていた。女子部員の中には泣きそうな顔になっている者もある。絵美佳はせんべいを咥えたまま、ぐるりと部員たちの顔を見回した。テレビ画面に一番近いところに座っていた絵美佳は、目が合うと途端に視線を背ける部員たちを黙ったまま見やった。そして元通りに座る。
「やっぱり、あれね。裏よ。裏。裏じゃなきゃだめなのよ」
絵美佳は呻くようにそう呟いた。途端に少し離れた場所に座っていた新一年生の男子部員がジュースを勢いよく噴いた。だが絵美佳はちらりとそちらを見ただけで、隣に視線を戻した。股間を手で覆っていた男子部員が顔をしかめている。
「というわけで、あんたたち、次週までに裏ビデオを入手してくること。いいわね!」
絵美佳は立ち上がって周囲を見回した。手にした菓子袋の中でせんべいが音を立てて割れる。だが絵美佳は構わず判ったわね、と念を押した。顔を引きつらせた部員たちが訳も判らないままで頷く。絵美佳はよし、と頷いてさっさとビデオを止めた。
毎日、放課後になると地下に科学部員は集う。今日も例外ではなく、欠席者はいない。絵美佳はビデオデッキからAVビデオを抜き、借りてきてくれた男子部員にそれを放った。股間を隠していた男子部員が慌ててそれを受け取る。
「これ、どーすんすか。返すんです?」
情けない顔をした男子部員に絵美佳は当り前じゃない、と告げた。そして白衣を翻してビデオ部屋を出る。資料室、と称される部屋に入ると、絵美佳の後ろから女子部員が追いかけてきた。
「あの、吉良部長っ」
顔を赤くした女子部員は周囲を見回した。絵美佳は怪訝に思いながら振り返る。女子部員はうろたえて視線を逸らしたが、すぐに思い直したようにこぶしを握り締めた。
「どしたの?」
絵美佳は何の気なしに問うた。女子部員は意を決したように絵美佳ににじり寄る。絵美佳はおお、と呟いて身体を引いた。だが女子部員は目を潤ませてさらに迫ってくる。資料の入ったロッカーにいく手を阻まれ、絵美佳は仕方なく女子部員の肩を押さえた。これ以上、近寄られても困る。
「あのっ、例の彼について調べてきたんですけどっ」
例の彼。それを聞いた絵美佳はきらり、と目を輝かせた。
「弱点はわかったの!?」
絵美佳は女子部員の目を覗き込みながら笑みを浮かべた。すると女子部員が頬をさらに染める。
「ええっと! 弱点っていうかっ、好きな体位はわかりましたっ!」
身体を張って好みを探ったのだろう。女子部員の目は達成感に爛々と輝いている。だが絵美佳は呻き声を上げて女子部員を突き飛ばした。
「あいつが好きな体位は後背位でしょ? そんなの常識よ!」
ロッカーに手をついた姿勢で絵美佳はそう喚いた。女子部員が涙を浮かべて慌てたように絵美佳にすがってくる。だが絵美佳はがっくりとうなだれていた。
「でっ、でも部長っ! あたし、三回もいかされちゃったんです! もう、凄かったんですうっ!」
女子部員は懸命に絵美佳にそう訴えた。絵美佳は鋭い眼差しで横目に女子部員を睨みつけた。
「……。あんたもしかして喧嘩売ってる?」
そう呟いた絵美佳はゆらりと顔を上げた。女子部員は慌てて後ずさる。絵美佳から離れながらも、女子部員は懸命に叫んだ。
「そんなっ! だって、吉良部長が調べろって……! あのっ、雨宮くん、ちゃんと前戯もしてくれましたしっ、そのっ、ちゃんと外出しでしたしっ」
絵美佳はそれを聞いた途端、目を吊り上げて女子部員に迫った。息を飲んだ女子部員の肩をがしりとつかむ。
「どーせあたしは処女よ! 悪かったわね!!」
「えっ、嘘おっ!」
絵美佳の叫びに女子部員が叫び返す。絵美佳はどう言う意味よ、と歯軋りしながら女子部員の肩に爪を食い込ませた。痛いと悲鳴を上げた女子部員が泣き出してしまう。だが絵美佳はがっしりと女子部員の肩をつかんでいた。
「そっか。志願してくれるんだ」
絵美佳は歯軋りしながら片頬だけを歪めて笑い顔を作った。だがその顔は決して笑っているようには見えない。女子部員は引きつりながら涙を流して首を激しく横に振った。
明るい声で、よかったわあと言いながら絵美佳は鋭い視線をドアへと向けた。そこにはさきほどのビデオテープを手にした男子部員が呆然とした顔で立っている。絵美佳はにやりと笑って顎をしゃくった。
「春日さんが性器を見せてくれるんだそうよっ。生よ、生っ。嬉しいでしょっ」
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