腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

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April

日常、そして非日常への期待② -side貴那-

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「ただいまぁ、連れてきたよ~」


 考えに浸っていると、澪が双子を連れて降りてきた。
 双子は腕を引かれながら駄々を捏ねている。いつも通りの光景。


「お仕事やだー!」
「やだー!」
「2人とも。文句言わずにやりなさい」


 変わらない日常的な会話が飛び交う。
 しかし、そこに非日常が1つ。


「澪! 貴那! 椛も楓も嫌がってるだろ! 嫌がってるのに無理やりさせるなんてダメなんだぞ! そういうの、パワハラっていうんだぞ!!」


 朔が私の前で仁王立ちをして怒っている。
 パワハラも何も、双子がサボっていたからなのだけれど、一緒に遊んでいた朔を相手にそんなことを言っても仕方がない。


「怒らないでください。これは、2人のためでもあるのですよ」
「そうなのか!?」
「えぇ。ですから、決してパワハラなどではありません」
「でも…」


 朔が双子の方を見る。澪によって椅子の前まで連れていかれた双子は、助けてーと大きな瞳を潤ませている。
 しかし次の瞬間、朔の興味が別の方へと飛んでいった。


「あれ? 蒼葉は?」
「あぁ、教室に戻られましたよ」
「えーっ!!? せっかく連れてきたのに!!」
「少し、秀吉と喧嘩してしまいましてね」


 そう告げると、秀吉の眉がピクリと動くのが見えた。
 これ以上はやめた方が良さそう。無闇に秀吉を怒らせてもメリットはない。
 そう思った私は、澪に合図を送った。澪は指でOKマークを作る。


「そうなのか!? 喧嘩は良くないぞ、秀吉!」
「……俺様は悪くない」
「でも──」
「ね~。朔は、クッキー好き~?」
「え? あ、好きだぞ!!」
「向こうに美味しいクッキーがあるんだぁ。一緒に食べよ~?」
「本当か!? うん、食べるっ!!」
「「えっ!?」」
「みんな、仕事頑張れよ!」


 元気良くそう言い放つ朔。
 本当に、自由奔放な子ですね。
 モコモコの黒い髪と分厚い眼鏡に覆われてほとんど顔は見えないけれど、とても軽い足取りで澪と一緒にリラックスルームに消えてしまった。

 これには流石の双子も観念したらしい。
 大きなため息をシンクロさせた後、席に着き、書類を広げた。


「椛、楓。来週は新入生歓迎祭です。それを楽しみに、仕事頑張りましょう。貴方たちならできますよ」
「「はぁい…」」


 黙々と仕事を進める私たち。
 少し例外はあるものの、これが私たち生徒会役員の日常。

 日々、生徒たちのため、学園のために、身を粉にして公務を行う。
 これは、学園を卒業した後も上に立つものとしての自覚や素養を身につけるために必要なことでもある、らしい。
 生徒会役員になるにあたって、そういった説明をされた気がする。

 そのため、なんだかんだと言いながらも、秀吉は仕事を放り出すことなく向き合っている。《女神様》の彼にはまだ分かってもらえないかもしれないけれど、秀吉は秀吉なりに学園を大切に思っている。
 まぁ琥珀が怖いとか言う理由も、少しはあるかもしれないけれど。

 澪は見た目には緩く見えるけれど、仕事に対してはとても真面目で正確だ。一緒に仕事を始めて以来、一度も彼のミスを見たことは無い。

 双子も始めるまでは嫌がるが、始めてしまえば真面目に取り組んでくれる。ただ、集中力が続かないのは難点だったりする。

 賢心先輩は、とても丁寧かつ詳しい書類を作成してくださる、頼れる先輩だ。
 そんな賢心先輩はというと、自分の机の上を綺麗にして、すやすやと夢の国に旅立っていた。そう言えば、《女神様》が来た頃から眠いと言っていましたね。

 何だか保護者のような気持ちで賢心先輩を見ていると、澪が1人で戻ってきた。


「朔、寝ちゃったから戻ってきた~」
「お昼寝ですか。ますます子どもみたいで可愛いですね」
「賢心先輩も寝てるんだねぇ」
「いつも通りですね。今日も平和です」
「学園は混沌と化しておりますよ」


 そんな物騒な言葉とともに戻ってきた琥珀。手には何冊かの書物を持っている。
 時間がかかっていると思えば、図書室にでも寄っていたようだ。


「あ。琥珀くん、おかえり~」
「ただいま戻りました。遅くなり申し訳ございません」
「ノックくらいしろ」
「もちろん、作法通りしております」


 琥珀は自分の机に書物を置くと、秀吉に向き直る。


「秀吉様。小鳥遊様と教室で会いまして、書類の件伺いました。確認終わりましたら私が届けますので、お声掛けください」
「マジかよ、アイツ…」
「さすが小鳥遊さんですね。ちゃっかりしています」


 琥珀に話を通しておけば、確実に今日中に受け取れる。ここに琥珀がいないのを見て、教室が怪しいと睨んだんでしょう。
 本当に彼は頭が切れるというか、要領がいいというか。


「あ、そうだ。ねぇみんな~。急なんだけどオレ、今週末実家に帰るね~」
「いつものですね。了解です」
「……いつもの、だね。ごめんねぇ」


 澪は、申し訳なさそうに眉を下げる。
 さっきの電話からここまでが、いつもの定型パターン。
 あの電話は家からなのか、外に何か良い人でもいるのか。
 少し気にはなるものの、必要ならば自分から私たちに話してくれるだろうと思っているので、何も聞かないことにしている。


「構いませんよ。澪は仕事きちんとしてくれますから」
「もしも何かあったら、メッセージでも送ってねぇ。出来ることなら実家の方でもするからさ~」
「ボクらも家に帰るー!」
「帰るー!」
「ダメです。仕事終えてからじゃないと認めません」
「「えー! 貴那りんのバカー!」」
「貴方たちはサボりすぎなんですよ。ほら、手を動かしてください」
「「ぶー」」


 そんな感じで軽い雑談を交えながら、いつも通りの日常が過ぎていく。
 いや、いつも通りではないですね。
 なにしろ、1年間焦がれた《女神様》と初めて話せた記念すべき日なのだから。

 もう遠慮はしません。
 想定外の朔の登場も、想像以上の学園の混乱も、全てチャンスに変えて、人生に一度しかない高校生活を謳歌するべく精力的に動きましょう。

 その時、全員のスマホが鳴った。寝ている賢心先輩以外は全員確認する。
 それは、久方振りの非日常への誘いだった。
 秀吉の方を見やる。その顔はもう、生徒会長ではなくなっていた。


「招集だ」


 その言葉の非日常な響きに、私はゆっくりと口角を上げた。
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