腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

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April

報告会のお時間です③

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「それにしても、全然起きないな。ユキ。起きて」
「うぅ…ん…」


 小さく揺らしてみても、ユキ先輩は全く起きる気配がない。レオン先輩は困ったように微笑むと、優しく頭を撫でた。


「仕方ないな。ユキが話した方がいいと思ったんだけど、あまり遅くなってもいけないし。蒼葉くん、俺でよければさっきの質問の回答をするよ」
「さっきの質問って?」
「“戦争”のこと。学年が違うから詳しいことまでは分からないけど、大まかなことなら話せるよ」
「ぜひ! お願いします!!」


 食い気味に返事をすると、レオン先輩は小さく頷く。


「蒼葉くんはこの1年間、生徒会との関わりが全くなかった。それは、生徒会側がキミに関わることができなかったからなんだ」
「できなかった?」
「そう。春風くんが圧力をかけていたんだ。蒼葉くんに関わるなって」
「桜花ちゃんが、生徒会に、圧力……!?」


 レオン先輩はさらりと言うけれど、とても信じられない。
 だって生徒会だぞ? この学園で一番権力を持っていると言っても過言ではない組織なんだぞ? そんなところに圧力をかけるなんて…。しかもあのお淑やかで優しくて可愛い桜花ちゃんが、まさかそんな……。


「春風くんって、キミにはとても過保護でしょう? 生徒会に関わった外部生は、たちまちいじめの対象になってしまう。蒼葉くんを守るために、事前に生徒会側に“関わるな”って言ったわけだ」
「なるほど。俺のことで色々と手を回してくれてたわけか」


 ものすごく職権乱用な気もするけど有難いな。生徒会と関わってたらこの1年、もっと多難だったのかもしれないし。


「でもそれだけじゃない。むしろここからが本題だよ」


 そう言って、一呼吸つくレオン先輩。整った眉がキュッと寄る。


「春風くんが蒼葉くんを生徒会と関わらせたくなかったのは、もう1つ理由があるんだ」
「と、言いますと?」
「この学園には、絶対に会わせてはいけないと言われる2人がいる。犬猿の仲、水と油。2人の視線が交わったら、戦争が起こるってね」


 犬猿の仲。そう言われて思い出す。
 確かに王道学園の設定に、そういう関係性の2人はいる。でも確かあれは、生徒会長と風紀委員長のはずだ。風紀副委員長である桜花ちゃんとは関係がないはずなんだけど。


「その内の1人が桜花ちゃんなんですか?」
「うん、そうだよ」
「その王道設定が存在してたのは嬉しいけど、バ会長と世良先輩じゃないのか…」
「会長と、雅くん? あの2人はどちらかと言うと仲が良い方だよ」
「おおぅ」


 仲が良い方でしたか。それはそれで興味が湧きますけどね。
 ってかレオン先輩。バ会長は“会長”で、世羅先輩は“雅くん”なんですね。気になるけど、とりあえず今は戦争についてだ。


「で、桜花ちゃんと仲が悪い生徒会の人間とは?」
「副会長の姫川くんだよ」


 副会長vs副委員長か
 なるほど。アリかも。


「そもそも家同士がすごく仲が悪いんだ。同じ業界でライバル同士だから、昔から敵対視している。それに2人ってちょっと性格似てるでしょう? 同属嫌悪でさらに馬が合わないのかなと」
「えー、そうですかあ? 優しくて可愛い桜花ちゃんと、計算高くて腹黒い副会長さんだと、全然違うと思いますけど」
「姫川くんへの評価が低いな…」


 苦笑するレオン先輩。
 だって俺から見るとそうなんだよ。まぁ、2人ともびっくりするくらい可愛くて美人であることは違いないけど。


「あれでいて、春風くんも冷静でしたたかな部分があるし、姫川くんは仲間や学園のことを想う心優しい部分もあるんだよ。先輩目線だけどね」
「まぁ、2人が仲が悪いことは分かりました。だとしても、"戦争"はさすがに言い過ぎなんじゃ? だってただの喧嘩でしょ?」


 喧嘩を“戦争”に読み替えるなんて、さすがに誇張しすぎやしないか。
 そう思って笑い混じりに告げてみると、レオン先輩の眉がさらに険しくなる。


「それが、あながち誇張表現でもないんだ。過去に一度だけ、2人が直接対決したことがあってね。普段なら周りに迷惑かけたりしないんだけど、あの時はもう周りどころか学園全体を巻き込んで……それこそ全面戦争だよ」
「全面戦争…?」
「そう。殴り合いなんかじゃないよ。分かりやすく言うと"冷戦"。春風派と姫川派で学園が真っ二つに割れて、もう誰が味方で誰が敵なのも分からない。当時は一挙手一投足に気を使ってたよ。常に緊張状態で、何がどう火種になるか分からないからさ」
「やばい。恐怖政治かよ……」
「そんな冷戦を収束させたのは、会長と雅くんだった。彼らが2人の間に入って話し合って、何とか場を鎮めてくれたんだ」
「やっぱり上の人の言うことは聞くってことですかね?」
「と言うよりは、幼馴染みの言葉だからじゃないかなぁ」
「ちなみに、どのくらい喧嘩してたんですか?」
「忘れもしない。俺が中2の9月から3ヶ月間だよ」
「3ヶ月間!?」


 そんなピリピリした学園生活を3ヶ月間も!?
 恐ろしいなあの2人…。生徒たちが“戦争”を恐れるのも分かるわ……。しかもそれの引き金に自分がなるかと思うと、恐ろし過ぎて震える…。だけどなぁ。


「さて。俺が知っている話は以上だよ」
「ありがとうございました。知らない学園の裏話を聞けて良かったです。ただ、やっぱり納得できない点が」
「納得できない点?」
「嫌いな副会長さんと俺が関わることになって、桜花ちゃんが怒るのはわかります。でも、なんで副会長さん側が応戦するんですか? 喧嘩って、売られても買わないと始まんないでしょ?」


 少なくとも俺の知っている喧嘩とはそういうものだ。売る方と買う方がいて、初めて成立する。まぁ、戦争だから違うと言われてしまえばそれまでだが。
 レオン先輩は、右手を顎に添えて小さく唸る。なんて様になるポーズなんだ。ここにカメラを持ってきていたなら絶対に撮ってた。なんで持ってないんだ俺!


「そう言われると確かにそうだね。流石に姫川くんの気持ちまでは俺にも分からないな」
「そりゃそうですよね」


 むしろ、あんな腹黒な人の気持ちをレオン先輩に分かってほしくない。貴方はユキ先輩の良きスパダリでいてください!!


「うぅん……」


 そこでようやく、ユキ先輩が目を覚ます。ぽや~っと辺りを見渡し、そして正面に座る俺を視界に入れると、みるみるうちにその澄んだ黒い瞳が大きく見開かれた。


「わああああ、蒼葉様!? お、おれ…っ!」
「落ち着いて、ユキ。深呼吸」


 促されるまま深呼吸をするユキ先輩。従順だねえ。可愛いですよ。
 数度深呼吸をしていくらか落ち着いたユキ先輩が、ガバッと頭を下げる。


「蒼葉様、本当に申し訳ありません……! 大切な報告会途中でうたた寝だなんて、俺……っ!」
「うたた寝じゃない、気絶してたんだよ」
「気絶!? なんで!?」
「それより大丈夫ですか?」
「あ、蒼葉様が俺の体調を気遣ってくださった……。大丈夫ですもうすっかり元気です…!」


 顔を青くしたり赤くしたり、何とも忙しい先輩を見ながら、苦笑いを浮かべる。


「あ、それで戦争のことですが──」
「それなら、俺からある程度話しておいたよ」
「え!? なんでだよ!!」
「あまりにもユキが気持ちよさそうに寝ていたから」
「馬鹿!」


 胸ぐらを掴んで揺らしながらユキ先輩はレオン先輩に抗議する。「馬鹿!」と連呼するユキ先輩可愛い。見て、あのレオン先輩の愛おしげな表情。
 俺も微笑ましい気持ちでその様子を眺める。一通り暴言を吐き終えて気分が落ち着いたのを見計らい、レオン先輩が締めの言葉を口にする。


「そろそろお開きにしますか?」
「ですね。今日はこのくらいで」
「嘘だろ、もうこんな時間!? 蒼葉様。貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございました。もっと長く深く蒼葉様といたかった…」


 シュンと俯きながら、寂しそうにそう告げるユキ先輩。そんなユキ先輩を真っ直ぐ見つめた。ボディタッチはやめておく。また気絶されたら困るからな。


「どうしました、蒼葉様?」
「今日のユキ先輩、いつもと違ってすごく話しやすくて可愛らしかったです。ユキ先輩にとってレオン先輩は特別なんですね!」
「か、かわ……っ!? いや…、レオは別に、ただの……」
「これからもレオン先輩と仲良くしてくださいね!」
「ま、待ってください! レオは幼馴染みなだけで…!」


 あたふたと、目に見えて狼狽えるユキ先輩。そして、ハッとなにかに気付くと、隣に立つレオン先輩を睨みつけた。


「レオ! 蒼葉様に一体何を言ったんだよ!?」
「何って、ユキの良いところをたくさん教えて差し上げたんだよ」
「え? 俺の良いところ?」
「ですよね?」
「はい!」


 笑顔で大きく頷く俺を見て、ユキ先輩は顔を真っ赤に染める。


「そ、それならいいけど…。ってか、なんか蒼葉様とレオ、仲良くなってないですか?」
「蒼葉様の魅力に俺も気付いただけだよ」
「だろ!? 蒼葉様、最高に素敵だろ! やっと気付いたのかよ、おっせえぞ! あ。でも、蒼葉様は渡さないからな。蒼葉様を一番に愛しているのは俺だからな!」
「わかってるよ。俺が一番に愛している人はもう目の前にいるからね」


 さらっと恥ずかしいセリフを吐いているレオン先輩と、その意図に全く気付いていないユキ先輩。なんで気付かない。真っ直ぐ過ぎるくらいに直球だぞ。レオン先輩としては、もうその反応を楽しんじゃってるんだろうな。
 レオン×ユキというほぼ公式のCPも見つかったし、今日は今までで一番良い報告会だった。ところでちりちゃんは、こういう関係だと知っててレオン先輩に代役頼んだんだろうか? 可能性はあるな。


「さ、帰りましょう」
「蒼葉様、お送り致します!」
「ありがとうございます」


 とはいえ、寮は1つだから送るも何もないんだけどな、と苦笑する。

 朝から降っていた雨は、いつの間にか止んでいた。紅い夕日が辺りを柔らかく包む中、俺たちは寮への帰路に着いた。
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