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April

新歓準備での、運命のくじ引き②

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「んじゃ、くじの開封は説明の後に行いまーす! まずは説明するから聞いてくれよー」


 その声とともに、教室がしんと静まり返る。
 やっぱりこのクラス、統率取れすぎだろ。そう思うとちょっと苦笑が漏れた。


「今年の新歓は、2日構成になってます! 1日目に、メインゲームと立食パーティー。2日目は、遊園地を貸し切っているので、1日目にペアとなった相手とデートができます! はい、拍手!!」


 静かだった教室が、一瞬にして拍手に包まれた。“ペアで遊園地デート”というパワーワードが効いたらしい。
 もちろん俺も例に漏れない。何その最高すぎる腐男子興奮ワードは!?

 口元を手で抑えながら、堂々たる姿勢で教壇に立つ巴山くんに注目する。騒ぐ教室を一段高いところから満足そうに眺める巴山くんの姿が、どことなく陽希と似ているように感じた。もしかしたら同類なのかもしれない。

 しばらくして手を上げ拍手を収めると、これでもかというほどにたっぷりと溜めて説明を再開した。


「それではまずは、新入生歓迎祭の核とも言うべき今年のメインゲームの紹介だ! 今年は、…………“ケイドロ”を行いまーっす!!!」
「け、ケイドロぉ!?」


 ガタンッ、と椅子の倒れる音が響いた。
 ちなみに心で思いはしたものの、叫び声は俺じゃない。もちろん椅子だって倒していない。

 叫んで立ち上がったクラスメートは、口元に手を当てたまま、惚けたように立ちつくしている。この様子だと間違いなくこの子も同類だろう。


「気持ちはわかるけど落ち着けー!」
「あ、悪い……」
「鼻血出てるからティッシュ詰めとけよ」
「あい」


 そしてそんなクラスメートに対して、"気持ちはわかる"と告げた巴山くんもまた同じらしい。やっぱり、同性愛が横行している環境にいると、腐っちゃうものなのかもしれない。というか、そもそも嫌悪感を抱く余地がないか。彼らからすると、AVを見ているのと何ら変わらないんだろうしな。

 クラスの中に同志を2人も見つけてちょっと嬉しくなっている中、巴山くんは詳しい説明をスタートした。


「ケイドロ、知らない人いる? 地方によって呼び方とか違うみたいだし、知らない人挙手してー」
「どうやら知らない人も数人いるみたいだね」


 ぐるりと教室内を見渡した里緒が呟く。


「んじゃ説明しまっす! ケイドロとは鬼ごっこの一種で、警察が泥棒を捕まえるっていう、単純なゲームです。もう分かると思うけど、さっき引いてもらったくじは、『警察』と『泥棒』を決めるためのものってわけだな」


 くじの入った袋をシャカシャカと振りながら、巴山くんがそう告げる。
 すると、それまでずっと座ったまま静観していた里緒がおもむろに立ち上がった。


「んーと、みんな不思議に感じたかもしれないから、あえて補足説明するね。普段ならTSPアプリ使ってやるはずなのに、今回わざわざ紙のくじを引いてもらう形にした理由。それは、運営側も含めた不正防止のためです」


 里緒は教壇に積まれていたプリントをクラスメート達に配りながら、淡々と話していく。


「まぁ藤咲くんが同じくじを引いてたのを見てもわかるように、今回の新歓では、いつもなら何かと特別対応される人気者やランキング上位者も、一般生徒と変わらない対応を取ることにしたんだ。特別措置は一切無し。だけど、ネット回線を使ったらどこで誰に介入されるか分からないでしょ? だから、アナログな方法を採用したわけです」


 そう言われて気づいた。確かに、ランキングや権力が全てのこの学園では、それに見合う人はいつもなら問答無用で何か優遇されたような対応になる。この学園は月に一度何かしらの学園行事があるけれど、一般生徒と同じ対応をされているところなんて見たことがない。
 それはここが王道学園たる証拠で。俺が読んでいる王道学園モノでも、"ケイドロ"を行う時はスペシャルキャラ扱いで、『警察』でも『泥棒』でも捕まえることができるよみたいなことになっていることが多い。学園中の生徒が敵という四面楚歌状態。あれは、普通逃げらんねぇよなと思う。
 正直、今回のゲームが"ケイドロ"だと聞いて、そういう状態なんだろうと覚悟していた。でも、そういうわけじゃないのか。他生徒と一緒って、それは結構嬉しいかも。


「ということを踏まえて! もーっと詳しい説明をしますよー! みんな、小鳥遊が配ったプリント見てくださーい!!」


 そう言われて、蓮の席で止まっていたプリントに手を伸ばす。


「ま、つっても書いてる通りだけどー。とにかく、『泥棒』は逃げて、『警察』はそれを捕まえる! 『泥棒』は逃げ切れば勝ちだし、『警察』はより多く捕まえれば勝ちなわけだ!」
「なんてアバウトな……」
「えー、だってこの通りじゃね? あ、捕まえるのにはTSPを5秒間翳すんだけど、当日は腕に装着できるように備品を配ってくれるらしいでーす! 以上!」
「巴山くんたら、ちゃんとしてよ」
「いつもと比べて、超真面目にしてる!」
「それは……、そうだけど。……まぁいいや。次、ペアの決め方について説明してあげて」
「はいはーい! こっちの方が重要だもんな!!」


 呆れたような里緒に臆することなく、巴山くんは元気に話しだす。
 ふと、そういえば巴山くんってよく授業中寝てるな、とか思った。まぁ、蓮とともにサボることがある俺は何も言えない。


「さっき、2日目にペアと遊園地デートって言っただろ? あのペアを決めるのが、この"ケイドロ"でっす! ペアは今回指名制を採用しました。指名順はプリントの通り、1番が"最後まで逃げ切った『泥棒』"、その後は"より多くの泥棒を捕まえた『警察』"の順に指名できます」
「それって、生徒会の皆様とかも指名できるの…?」


 クラスメートがおずおずと手を挙げて尋ねた。それを聞いて何となく、篠原くんの方に視線が向かった。珍しくその席に姿勢正しく座っている彼は、相変わらずのポーカーフェイスで前を見つめている。


「もちろん! 指名できるのは、『警察』全員と捕まえた『泥棒』の中なら誰でもOK。ただ、自分が指名する順がくるより先にペアが成立している人は選べないから、指名順は早ければ早いほど良いわけだ」


 きゃあああ!!と、歓喜の悲鳴があがった。もしかしたら憧れの方と遊園地デートができるかもしれないのだ。そりゃあもう嬉しいだろう。
 新たなCPの登場に絶対一役買ってくれるだろうし、今まで知らなかったCPを見つけることもできるかもしれない。なんて嬉しい企画なんだ!


「ルールはわかったかー? 何か他に質問のある人は挙手してー!」


 そう言って辺りを見渡す巴山くんに、手を挙げることなく質問が飛ぶ。


「ねぇ巴山ー。『警察』は捕まえた『泥棒』の数って言ってたけど、流石に僕たちみたいなのには不利な気がするんだけど」
「そうそう。足も早くないし、力も強くないしぃ」
「頑張って捕まえても横から取られちゃったりしそうじゃん? それって不公平じゃない?」


 言い出したのは、所謂チワワくんたち。小柄で女の子顔負けの女子力を持つ彼らは、口々に告げながら小さく頬を膨らませる。
 そんな可愛い抗議の声と聞いた巴山くんは、チッチッチと人差し指を左右に揺らした。


「説明が不足していたな、申し訳ない。その点については細かく考えているから安心してくれ! そもそも、リアルでの『警察』っていうのは"組織"だ。だからその仕組みをここでも採用した!」
「どーゆーこと?」
「つまり、同じ『警察』であるメンバーとグループを組める。そのうちの誰かが『泥棒』を捕まえると、グループ全員にプラスされるってわけ!」


 またもやクラスが沸き立つ。
 つまり、『警察』側は数で戦えるということだ。本人が言うように体力がないチワワたちや、運動嫌いな人であったとしても上位を期待できるし、運動神経抜群な『泥棒』が相手でも捕まえられるかもしれない。


「ま、これは別に『警察』に限ったことではないんだけど。『泥棒』もグループ組めるけど、そっちは個人主義だからねぇ。心理戦になりそうだから、グループを組む場合は相手を慎重に見極めるように! はーい、他に質問のある人ー!」
「はい! ランキング上位の方同士でも、ペアって組めちゃうんですか?」
「それはもちろん。今回は特別措置はないって言ったでしょ? ランキング上位者だろうが、一般生徒だろうが、先輩だろうが、後輩だろうが、全く関係ないよ」


 里緒がそう答えると、さっきとは違った歓声が溢れる。
 「いつもと違った絡みが見れるかな?」とか、「生徒会×風紀が見てみたい!」とかいう楽しげな声だけでなく、「会長様とペアになるには、できる限り早く指名権を得ないと…」と真剣に悩む声や、「もしも《魔王様》が警察だったら、グループに加えていただけるだけで幸せかも……!」なんて声など、反応は正に十人十色だった。

 そんなクラスのざわめきをどこか心地よく聞いていると、巴山くんが遂にくじの入った袋を掲げた。


「よぉーっし!! もう質問はないなあ? んじゃ、運命のくじ引き、開封していくぜーっ!!」
「「「おぉー!!!」」」


 拳を突き上げた巴山くんに呼応するように、2-Aは今日イチの盛り上がりを見せた。
 マジでうちのクラス、ノリ良すぎだろ。まぁこういうの嫌いじゃないけど。
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