腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

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April

狼くんの帰還

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──


 そんなこんなで、あっという間に新歓前日になった。
 この数日、特に何事もなく過ぎ去っている。
 マリモが相変わらず煩いものの、なにか大きなことをしでかすことも無く、教室に留まることが増えていた。生徒会なんかは、新歓前で忙しいから構っていられないんだろう。マリモが大人しいからか、かなり学園内も落ち着きを取り戻している。
 だがしかし、同じクラスである2-Aメンバーは、どう足掻いてもマリモとの接触が増えるわけで。


「蒼葉! この後一緒に遊ぼうぜ!!」
「遊ばない」
「遠慮すんなって!! オレの部屋来いよ!!」
「行かない」
「何でだよーっ!? 別に予定もないだろ!?」
「人を暇人みたいに言うな」


 何て失礼なやつだ。
 俺にはな、ゲームしたり、本読んだり、執筆したり、写真撮ったりと、予定が山積みなんだよ!

 それでもマリモは蓮の席に反対向きに座って、俺の目の前で駄々を捏ねてくる。


「最近みんな忙しいって相手してくれないんだって! なあ蒼葉!! あーそーぼー!!」
「遊ばないって」
「何でだよー! あ、蒼葉がやりたいことあるなら付き合うから!!」
「やだね」
「そんなこと言うなよ!! 遊ぼー!! 遊んでくれなきゃ帰さないからな!!」
「子どもか!」
「男子高校生はまだまだ子どもだ!!」


 そんな、いかにも馬鹿なやり取りを見て、周りのクラスメートたちがまたコソコソと話し出す。


「あぁ、《女神様》のあの素っ気ない感じ、すごくいいよね!!」
「わかる! あの小学生みたいなマリモに付き合って差し上げているところが本当にお優しい……!」
「もうやりとりが可愛い」
「俺さ、最近マリモのこと、ちょっと可愛く感じるんだよな」
「マジ? 眼科行った方がいいんじゃね?」
「それは酷すぎるだろ!?」
「あー、相手がマリモじゃなけりゃなぁ……」
「絵になるのになぁ」


 そういえば、いつの間にか転入生である朔のことを"マリモ"と呼ぶのが定着したらしい。誰が流行らせたんだろうな。もしかして、俺が呟いたりしたのを聞いていたんだろうか。声に出さないように気をつけていたのにもしそうだとするなら、無意識って恐ろしい。

 しばらくそんな不毛なやりとりを続けていると、里中くん改め颯くんが現れた。明日の新歓に向けて部活は休みだと言うので、これ幸いとマリモ頭の子どもを押し付けて、俺は寮へと帰ることにした。

 天照学園の寮は、どこかの高級ホテルのような出で立ちをしている。山の頂きに聳え立つ高層建造物。どうやって建てたんだろう。本気で謎だ。
 全部で10階建てのこの建物。1階1階の天井が異様に高いので、一般的な10階建ての建物より高いと思う。多分。
 1階は全校生徒の交流の場であるロビーがあり、2階は教職員の部屋。その上の3階~7階がA~Dクラス、8・9階はSクラスの生徒が2人1部屋で割り振られている。かく言う俺も、つい先月までは504号室を蓮と使っていた。しかし、発表された今年度のランキングで3位以内に入ってしまったため、最上階である10階にある6部屋のうちの1部屋を贅沢にも1人で使うことになってしまった。ランキングが実権を握るこの学園らしいっちゃあらしいけど、ここまで来るといっそ清々しい気すらしてくる。
 この部屋割りに沿って、TSPで入れる階が決められている。例えば、俺のいる10階には住んでいる6人しか入れない。逆に俺たち6人はこの寮内どの階にでも入れる。つまり、部屋にさえいれば、マリモに突撃される心配はないわけだ。他の住人たちが連れてこなければ、だけど。

 日付が変わった頃。明日に備えて早く寝ようとベッドに入った。しばらく横になっているといい感じに眠気が襲ってきて気持ちよくうとうとと微睡んでいると、それをぶち壊すように突然スマホが震えた。


「んんぅ……。だれ……?」


 目を開くのも億劫だったがいつまで経っても切れる様子のない着信に、仕方なくスマホを手に取った。ディスプレイを確認すると、1週間ぶりの名前が表示されていた。


「……もしもし」
『下』
「へ……?」
『1階まで降りてきてくれ』
「おい、ちょ──」


 一方的に通話を切られた。その有無を言わさない勝手な要求にかなり苛立ったが、アイツは言い出したら聞かない。このまま無視しても、また電話がかかってくるだけ。後の面倒ごとは避けたいので、俺は仕方なく眠たい身体に鞭打って部屋を出た。


「遅せぇ」
「……こんな時間に人を呼び付けて、第一声がそれかよ」
「眠そうな声だったもんな」


 エレベーターを降りると、蓮はロビーに置かれたソファーに寝転んでいた。
 眠気MAXで不機嫌な俺に対し、蓮は楽しげに話しかけてくる。すぐにでもベッドに戻りたい俺は、先を促した。


「で? 何の用?」
「ま、とにかくお前の部屋に行こうぜ」
「……それが用件か」


 何となく、予想はしていた。
 そもそも蓮は、朔とルームメイトになったのが嫌で学園を飛び出したわけで。帰ってきたところで、朔との関係が改善するだなんて微塵も思っていない。
 下手すりゃ、俺のところに来るとか言い出すかもしれないと思っていたが、まさか本当にそうなるとは。

 立ち歩いていることもあって、徐々に眼も覚めてきた。回り出した頭でよくよく考えてみたら、予想はしていたものの、蓮を10階に連れて行くのは結構危険なんじゃないだろうか?


「別に来てもいいけど、変な噂立つかもしれないぞ? "《女神様》と蓮様がついに同棲"みたいな」


 自分で言っててちょっとぞわっとした。俺はノーマル。ノンケなんだよ。蓮は良き友人であって、そういう対象としては見れないんだよ。


「アレと関わるよりマシ」
「嘘だろ」
「お前、腐男子のくせに自分の関わるやつに耐性無さすぎんだよ。この学園にいれば、嫌でも慣れる」


 そういうもんなのか。確かに、嫌でも耳には入るし、下手すりゃ視界にも入るけど、それでも受け入れられないものってありますでしょ?


「ったく、仕方ねぇな。お前は言い出したら引かねぇからな……」


 蓮が頑固なことは、この1年一緒にいて身をもって知っている。
 諦めてエレベーターのボタンを押すと、蓮はニヤリと意地悪そうに笑った。


「さっすが、学園の《女神様》。噂に違わず慈しみに溢れておいでで」
「殴るぞ」
「暴力沙汰なんて起こしたら、お前の言うチワワたちが泣くぜ」
「マジうぜぇ」


 蓮を連れて自室に入る。俺の前を歩く蓮を見て、つい数週間前のことなのにルームメイトしてたことがなんだか懐かしく感じた。
 今の自分の部屋は広くて住み心地はいいけれど、ちょっと寂しいし、時々怖いんだよな。『ただいま』って言ったら『おかえり』って返ってくるのが当たり前の家で育ったからかもしれない。


「はー。流石に、豪華な部屋だな」
「無駄にな。そういや、明日は頑張って泥棒捕まえろよ、警察さん」
「あ? 新歓なんか、テキトーにやるつもりだが」
「んなこと言ってたら、遊園地に変なペアで挑むことになるぞ」
「何だよそれ?」


 俺は新歓用ケイドロのルールを掻い摘んで話した。なかなか面倒くさいルールなのに、俺の説明がいいのか、蓮の察しがいいのか、1回で理解できたらしい。
 聞き終わった瞬間、蓮は荒々しく舌打ちする。


「ふざけんなよ! 誰だよ俺の分のくじ引きやがったやつ」
「俺ですが何か?」
「蒼葉テメェ、自分のと入れ替えやがったんじゃねぇだろうな……?」
「そんなことできねぇよ」
「マジかよ。本気でやらなきゃいけねぇとかマジめんどくせぇ……」
「ふぁいとー」


 軽く言ってやるとものすごい顔で睨まれた。お前な、それ人でも殺しそうな顔だぞ。高校生がする顔じゃねぇぞ。

 部屋に戻ってきたことで、眠気も戻ってきた。大きな欠伸を漏らしながら、寝室へ体を向ける。


「ふあぁ……。ねっむ、もう寝る。そっちの部屋はほぼ使ってないから好きに使えよ。離れてるし、電気消してくれてもいいから」
「そういや、暗い部屋は苦手なんだったか」
「正確には暗くて狭い密室な。ま、ドア開いてて豆電点いてりゃそんな気にはなんねぇけど。じゃ、おやすみ」
「おう、おやすみ」


 寝室へ戻ると、勢いよくベッドへダイブした。目は覚めたと思っていたのに横になったことで一気に睡魔が襲ってきて、そのまま何も考えることなく夢の世界へと旅立ったのだった。
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