腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

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April

新歓ってお祭りの開会式②

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 響き渡ったのは、マイクを通した聞き覚えのある大きな声。その声に呼応するように、ホールが徐々に暗くなっていく。
 スポットライトが、舞台の真ん中を照らす。そこに立っていたのは、予想通りのあの男。


『天照学園高等部のみんな、おはよーさん! いやー、今日は絶好のお祭り日和やね!! 関西人の血が騒ぐわ~! ──と、そんな話してたらせっかくの遊ぶ時間が少ななるから、式はチャキチャキ進めていくでえ! と、ゆーことでっ! 改めまして、皆さんおはよーございます! イベント実行委員会委員長の、相良陽希でーっす! これより、新入生歓迎祭の開会式を執り行います!』


 そんな溌剌とした声と共に始まった開会式。
 陽希のやつ、最近付き合い悪いと思ったら、まさかのイベント実行委員だったとは。しかも2年なのに委員長だなんてマジか。あの陽希がそんな責任ある地位に就いてるだなんて、正直びっくりだ。お祭りが好きだから、イベント実行委員なことは驚かないが、責任とかは負いたくない系人間だと思ってた。

 舞台上に立つ陽希は、慣れた様子で司会進行をしていく。本人が言っていた通り、チャキチャキと無駄なく進めていく様は、かなりデキる男。こんな姿を見ると、やっぱり腐ってもSクラスなんだなと実感させられる。
 腐男子なのを隠しもしない“残念王子”だと言われていても、顔は良いし、家柄は良いし、成績も良いらしいし。あのテンション高いキャラが好感を持てるし、元気をもらえるという人も多い。だから、それなりの規模の親衛隊がついている。
 そして極めつけは、時たま発動する“王子モード”。あれは完全にチワワをメロメロにしてるもんな、うん。マジで、そのまま食ってくれたりすればメシウマなのにな。その点だけは残念でならない。


『続いては、我らが天照学園生徒会の御門秀吉生徒会長のお話ですーっ! 俺は一旦引っ込みまーす!』


 高らかに宣言して、陽希が袖へと引っ込む。
 入れ替わりで現れるのは、我らが《王様》。たっぷりと時間をかけてその登場シーンを演出すると、神々しいスポットライトを浴びながら、すっと息を吸った。


『今日は思い切り楽しめ。以上だ』


 舞台の真ん中で照らされながら、低く威厳のある声でたった一言そう告げる。
 いやぁ、いつも通り短くて素晴らしいスピーチですね。人としては大嫌いだが、こういう面では評価してやれる。理事長や学園長は信じられないくらいに話長いから、その後に続くコイツの一言スピーチは本当にありがたい。

 バ会長が袖に捌けようと歩き出すと同時に、弾けるような拍手が沸き起こる。いつも通りであればこのまま振り返ることなく捌けるのだが、今日は違った。
 途中で思い出したようにマイクの前に戻る《王様》。いつもと違う様子に、生徒たちが期待と戸惑いで少しざわつく。


『言い忘れていたが──』


 ゆっくりと、舐めるように会場を見渡していく。
 こんなことをするのはかなり珍しいな。なんて流石の俺も思った。いつもは俺たちのような一般生徒のことなんて気にも留めていないのに。


『警察共に告ぐ』


 瞼を伏せ、一度息をつく。
 開いたその紅い瞳から、獰猛な光が放たれた。


『俺様を捕まえるつもりならば、それ相応の覚悟をしておくことだ』


 決して大きくないその囁きは、不思議な音になってホール中に響き渡った。ふと口元を見ると、とても愉しげに弧を描いている。ちょっと不快な気分になった。

 『以上だ』と締めくくると、《王様》は今度こそ舞台から消え去った。
 しかしその非日常な言動は、特に警察側に多大な影響を与えたらしい。ざわざわと落ち着かない空気が包み込む。

 そんな空気を吹き飛ばすように、テンションの高い声は生徒たちに呼びかけた。


『はーい、会長さんありがとうございましたー! そしてみなさん! 今の会長さんの不穏な脅しは、真に受けんでええですよ~! ケイドロは警察が泥棒を捕まえるゲームなんやからね? わざわざ生徒の人気やらなんやらが関係せんように役決めたんやから、会長さん捕まえたからって罰受けるみたいなことは無いから安心してやぁ! むしろ、好きな人と遊園地デートしたいんやったら点数取らなあかんわけで、そのためには人なんか選んでる暇ないで~──って、どしたん、副会長さん?』


 陽希が必死に警察側の不安やら動揺やらを取り除こうとしていると、出演予定のなかった副会長さんが舞台上に現れた。
 彼は陽希からマイクをひったくると、凛とした良く通る声で話し出す。


『みなさん、ごきげんよう。警察チームの姫川貴那です。──警察の皆さん。よく聞いて下さい』


 その瞬間、ざわついていたホール内が水を打ったように静まりかえる。
 ……ホント、この学園の生徒たちはよくよく躾られてるよな。気持ちはわかるけどさ。
 そんな素直な生徒たちの様子に満足気に微笑むと、副会長さんは優しい口調で語り始めた。


『いいですか? これは頭脳戦です。私は実際の警察組織のように、頭を使って犯人を追い詰め捕獲します。そのためには、現場で動いてくれる人が多く必要です。私の下に就きたい人は、ゲーム開始後すぐに舞台上に来てください。……たくさんのご参加をお待ちしていますよ』


 そんな風に告げると、副会長さんはマイクを陽希に返して、何事も無かったかのように袖へと捌けていった。
 副会長さんが退場しても、しばらくの間沈黙が続いた。なんてったって、間接的にではあるものの、いつも一緒にいる《王様》と《姫様》が全面対決を宣言したのだ。そりゃあこんな反応になってもおかしくはない。

 衣擦れの音すら響きそうな静寂の中、いち早く声を上げたのは、司会進行役の陽希だった。


『──あ~、ははー、ちょっとちょっと副会長さんまでもー。こんなん強敵すぎてヤバいやんなぁ? まぁ、そういうゲームやし、しゃーないけども。ルール決めたん俺らやし、こんなことになるかもしれんことは予想済み……っちゅーことで! はーい! みんな戻ってきてやー! 開会式も一通り終えました! そして、開始時刻の9時まで残り5分! 俺は今から逃げ切ることに集中するから、マイクは仁科センセに渡します! みんな!! 今日はめいっぱい楽しもな~!!』


 最後まで元気にそう言って、手を振りながら舞台を後にする陽希。陽希のおかげで息を吹き返した会場は、キャーキャー言いながらそんな陽希に手を振り返している。やっぱりアイツ、腐っても"王子様"なんだよなぁ。

 そんな陽希からマイクを託されたのは、保健医の仁科千景先生。少しよれた白衣を身に付けて、欠伸をしながら舞台上に現れる。
 後ろで束ねられた艶々の黒髪と、白衣のコントラストはいつ見ても綺麗だ。スラッとした立ち姿とかは、副会長さんとちょっと被るかもしれない。メガネもかけてるし。
 だがしかし、副会長さんと違って、仁科先生はとても緩い。話し方も、動きも、仕事への態度も。そんなわけで、生徒としては付き合いやすい先生だったりする。
 そんな仁科先生。実は、来るもの拒まず去るもの追わずのバリタチだって噂がある。これはまさに王道通りだったりするわけでっ! もうそんな噂を聞いた時には、叫び出すかと思ったってマジで。本当かどうか確かめたくて保健室に行ったら、現場は見ていないが、漏れ聞こえる現場には遭遇したことがあったりして、もう死ぬかと思いました……。

 なんて1人脳内トリップしていると、怠そうな声に現実に引き戻される。


『あー、仁科だ。泥棒が逃げ出すまで残り4分。一応おさらいだが、4分後の8時55分に泥棒達が逃げ出し、その5分後に鳴り響く開始のチャイムで警察が出動する。警察の奴らは必ずジャケットを羽織ること。今回のルールでは、おとり捜査はアウトだからな。脱いだ瞬間に失格だから気をつけろよ。ということで、まだ着てないやつは今着ろー』


 落ち着いた大人の男の声。かっこいいというよりセクシー系。普通に話してるだけなのに、なんて艶っぽいんだ。耳元で囁かれたら妊娠しそうな声ってこういうのを言うのかね。

 声に聞き惚れていると、隣からチッとかなり大きめの舌打ちが聞こえた。うざったそうに動き出す蓮の気配に、笑いそうになるのを必死で堪える。


『そんで、ゲーム中は個人用スマホの使用は禁止。同じ身分…つーか、警察内、泥棒内はそれぞれTSPで連絡が取れるようになってるから、そっち使えよー。んで捕まえ方だが、警察と泥棒のTSPが一定の距離で5秒以上触れ合うこと。捕まりたくないからってTSPをどこかに隠したら、ルール違反で失格だからな。失格者は学園からペナルティがあるらしいから、やめた方がいいと思うぞー』


 学園からのペナルティ。どんなものかは知らないが、サボり癖がある蓮ですらお祭りには必ず出席しているところを見ると、きっとかなり重いんだろう。伊達に幼稚舎から在籍していないよな。


『と、そろそろか。んじゃ泥棒たち。準備はいいか~?』


 おもむろに時計を見て、緩い口調で告げる仁科先生。
 よく躾られている生徒たちは、元気に返事をしながら移動を始めた。


「あー、やっと始まる~! じゃあな、蓮。検討を祈ってるぜ」
「お前もな」
「蒼葉! オレがお前を捕まえるからな!! 待っててくれよな!!」
「臨むところ」


 蓮やマリモとそんな言葉を投げ合うと、俺も動き出す波に沿って、ホールの扉の前へ立った。


『泥棒チームスタートまで、10秒……5秒。4、3、2、1、スタート~』


 仁科先生の緩い掛け声と共に、両開きの扉が勢いよく開け放たれる。それと同時に、『泥棒』たちがもつれ合うように飛び出した。

 ──王道学園名物イベント、新入生歓迎祭のケイドロが、遂にスタートしたのであった。
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