腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

文字の大きさ
67 / 94
April

やっぱこの学園は普通じゃない①

しおりを挟む
「あー、やっぱり桜花ちゃん捕まったかー……」


 風紀室に桜花ちゃんを置いて俺が向かったのは4階。1-Sの教室がある階だ。
 2階と3階は少し声がしたものの、4階まで来るとまた人の気配が無くなった。1-Sの教室を覗いてみると、予想通り誰もいない。
 中に入り込んだ俺は、誰のか分からない机に着席してTSPを弄っていた。

 きっと桜花ちゃん、自分から捕まったんだろうな。
 覚悟を決めたような桜花ちゃんの顔を見て、そうなるかもしれないとは思ってた。思っていたけど。

 そこまでして白城院くんを構う理由って一体。

 気にはなるけど、それは2人の事柄だ。
 部外者である俺が深入りするのは良くない。

 誰にだって、知られたくない秘密はある。
 悩み事なんてまるでなさそうなあの双子にだってあったんだ。

 もちろん、俺だって例外じゃない──。
 
 考えている間に黒くなったTSPの画面に、自分の姿が映る。
 視線が向かったのは、耳元で揺れる雫型のピアス。画面越しでは色はわからないが、実物は深い青色をしている。
 手入れする以外では外さない──否、外してはいけないそのピアスにそっと触れ、目を伏せたその時。


「やっほー」


 ガラッと音を立ててドアが開かれた。
 弾かれるように顔を向け、席から立ち上がる。その衝撃で、椅子が激しく倒れてしまった。


「ごめんごめん、そんなにびっくりさせると思わんかった」
「ナギか。マジびっくりしたー」


 困り顔で駆け寄ってきたのはナギだった。
 黒基調の、どちらかというと大人っぽい爽やかな私服に身を包んだナギは、制服の時よりも男らしく見える。


「ナギ、私服かっこいいなぁ」
「そう? 今日はこんな日ってことで地味なの選んだからちょっと心配やったんやけど、蒼葉くんの瞳にそう映ったんなら安心やね」


 かっこいいナギに目を奪われていると、ふとその後ろに気がついた。
 教室に入ってきたのは、ナギだけじゃなくて。


「ってか、今日みたいな日も変わらず引き連れてるんだな」


 ナギを追うように入ってきた3人の強面の青年に、苦笑を漏らしながらそう告げる。


「だってついてくるんやもん。僕だって目立つからやめて欲しいんよ? でも何言うてもついてくるから、もう諦めた~」


 俺の前の席に俺の方を向きながら腰掛けたナギは、机に頬杖をついてため息を吐く。そんな姿はいつも通りのナギで、ちょっと安心。
 取り巻きさんたちは、何を言わずとも前後のドアから廊下を見張っていた。なんともよく出来た舎弟さんたちだ。

 
「こんな日までとは、やっぱ大変だなぁ」
「ま、慕ってくれてるんは素直に嬉しいんよ」


 〈Dクラスの奇跡〉と言われる彼を崇拝する人は少なくない。
 元々家の関係の配下だという人もいるみたいで、ナギが望む望まないに関わらず、彼がいく先には必ず誰かがついている。
 それを振り切るために駆け込むのが、あの屋上だったりするんだろう。


「それよりも蒼葉くん。何か思い詰めてた感じやったけどどしたん?」
「え? あー、何でもない。走り回って疲れただけだ」


 そう言って笑って見せる。が、我ながら曖昧な返事と、下手な愛想笑い。
 ナギならきっと気付いているんだろうけど、彼は眉を八の字にしつつ「そっか」と微笑んでくれた。
 その優しさに甘えて、仕切り直すように椅子に座り直す。
 

「そういや、桜花ちゃん捕まったな」
「あーうん。誰にやられたんやろね? まさか捕まるなんて、よっぽどの事があったとしか思えへんけど」
「それが実はさ──」


 俺は、さっきの出来事を簡単に伝える。
 するとナギは納得したように数度頷いた。


「なるほどねぇ。ということは、きっと桜花はルイくんを引き止めるために捕まったんやね」
「やっぱそうか」
「うん。あの2人の間には何か複雑な事情があるみたいやから」
「何かって、ナギも知らないのか?」
「詳しいことは知らんかなぁ。僕が小5の時に編入してきた時点で、2人はあんな感じの関係やったし」


 頬杖をつきながら、ナギはそう言って息を吐く。


「みんなは知らん? あの2人の間に何があったんか」


 廊下を警戒していた3人の青年がこちらを振り向く。この時やっと、取り巻きの3人をまじまじと見た。
 名前もわかんないので見た目だけで簡単にいえば、プリン頭と赤髪と銀髪。なんて取り合わせだ。


「すんません、夕凪さん。俺は知らないっす」


 前のドアを護るプリン頭さんが軽く左右に頭を振りながら告げると、横にいた赤髪さんが「あ!」と声を上げた。

 
「おい、アレじゃね? 2年の時の」
「あ? 2年の時って……あー、なんかクラスの奴らが大量に消えたやつ?」
「そうそれ。アレって確か、Sクラの誰かを襲ったとか何とかじゃなかったか?」
「そうだったか~? あんまり覚えてねぇな。それより3年の秋に大事になった制裁事件とかはどうよ?」
「あれは《女王様》関係ねーだろ。もっと上の学年の話だった思うぜ。3年って言やぁ、もう一個なんかなかったか?」
「それは確かBかCのイジメだった気がする。あー、先輩共と喧嘩して大事になったやつもあったな」
「そいつは覚えてるぜ。俺も知ってたら参加したって、あのころは思ったもんだ。あれもあったな、4年の時の──」


 その後もどんどん飛び出してくる、小等部前半に起こったらしい数々の事件たち。


「結構色々事件があんだな……」


 襲ったとか、喧嘩とか、イジメとか、制裁とか。
 どれもこれもなんて恐ろしいワード。それを10歳にも満たない子どもがやってたなんて信じられないんだが……。この学園ではこれが普通なんだろうな。
 1年ここにいて、身をもって体験した今となっては、ありえないとは嘘でも言えない。


「まぁねぇ。賢くて大人しいおぼっちゃまばっかりが集まってるわけと違うから。あぁもうええよ、2人とも」


 そうナギが静かに告げると、2人はぴたりと会話をやめた。そしてピシッとナギに向かって頭を下げると、廊下への警戒に戻る。
 おぉ、なんて躾が行き届いているんだ。うちのクラスもなかなかだけど、たった一声で自由に操れるナギはほんとすごい。
 もしもナギの目の届く範囲でイジメとか喧嘩が起こっても、一瞬にして沈静化できるんだろう。
 なぜかそんな確信が持ててしまう。

 〈Dクラスの奇跡〉なんて肩書きを持ってるんだ。伊達じゃないよな。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

どうしてそうなるんだよ!!!

藤沢茉莉
BL
俺様な会長、腹黒な副会長、無口な書記、双子の庶務……不本意ながら生徒会役員に選ばれてしまった見た目不良なお人好し主人公が、個性的なメンバーに囲まれながら頑張る話。 多忙のため少々お休み中。 誤字脱字ほか、気になる箇所があれば随時修正していきます。

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

処理中です...