腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

文字の大きさ
76 / 94
April

ナギの王国

しおりを挟む
「ナギ、保くん、捕まっちまいましたごめんなさい!!」
「蒼葉くんも逃げ切られへんかったか~。やっぱり2-Aは恐るべし。ね、梶木」
「……うす」
「……なんか、2人ともかなり軽いな。もっと何か言われるものと」


 夜の立食パーティー開始直後。2人の元に赴き、勢いよく頭を下げた俺。
 だが当人であるナギたちが優雅にワイングラスを傾けながらそう言ったものだから、こちらとしてはかなり拍子抜けだ。


「なぁにゆうてんの。だってこれはゲームやもん。副会長たちの雰囲気に飲まれすぎやよ~。ただの新入生歓迎祭の1ゲームなんやから、そんな責任とか申し訳なさとか感じんでいいんよ?」
「……俺もただ、夕凪さんの命に従っただけっす。まぁ、副会長の言い方とかにはムカついたっすけど……」
「それも向こうの策略のうちやよ。あの人はほんとに、言葉も人も、扱うのが上手いんよねぇ」


 くすくすと笑いながら、摘んでいたクッキーを口に放り込むと、ぺろりと舌を出して指先を舐めとるナギ。
 何気なく見てるけど、今のナギはいつもと違ってとっても色っぽいから、周りがただではいられないらしい。今のだけで、数人脱落したのが見えた。

 にしても、普段制服着ている人がそれ以外の服着ると、どうしてこんなにイメージ変わるんでしょうね? しかもナギの私服って、関西の極道さんだから派手な色の柄物かと思いきや、シンプルでかっこいいし、なんだか大人っぽいんですよ。どう説明したら良いかわからないんだけど、不思議とセクシーなんですよ。ゲームの時ともまた違う服着てて、余計にセクシーになりましたよこれ。

 俺でさえそう思うんだから、ナギに侍る獣さんたちにとっちゃ、たまったもんじゃないだろうな。だからと言って、ナギに手を出そうとするような命知らずもいないだろうけど。

 こんなに素敵なのに、ナギの想い人さんはなんで靡かないんだか。お家柄の問題なんだろうか。だとしたら、なんて切ない物語……。


「ま、この話はこれでおしまいね。蒼葉くん。ケイドロゲームは残念でした、でもってお疲れ様~!」
「…………」
「蒼葉くん?」
「あ、おう。ナギもお疲れ、保くんも」
「……っす。お疲れっした」


 不思議そうに小首を傾げるナギから、手を後ろで組んで姿勢よくナギの傍に控えている保くんに視線を移す。
 視線に気づいて彼が軽く頭を下げるのを見ながら、俺は手に持っていたサーモンカナッペを口に放り込んだ。
 食べ慣れない美味が、口の中に広がる。


「あ~……うんまあ」
「蒼葉くんは、いつも美味しそうに食べるねぇ」
「そうか? まぁでも美味いからな、お世辞なしに。この学園に来なけりゃ、一生食べることもなかっただろうな」


 祭りの夜に必ず行われるこの立食パーティー。
 一流料理人が腕によりをかけて作っているため味はピカイチな上にタダで食べ放題なので、いろいろと企画を考えているイベント実行委員には悪いが、祭りの中でこの時間が一番好きだ。

 なんて、一般ピープルである俺は思っているのだが、お金持ちの子息が集まる天照学園ここは、ある意味大人が集う社交界と同じ。将来家を背負って立つのがほぼ決まっている上流階級のおぼっちゃまにとっては、普段の生活よりも気が抜けないかもしれない時間らしい。
 特に悠真や里緒が祭り後なんかにボヤいていて、いつも大変そうだなぁなんて他人事のように聞いている。彼らも学園の中では上の方に位置するものの、特に親からの圧力が凄まじいらしい。

 とはいえ、そういったことに関係の無い者にとっては、美味しいものをタダで腹いっぱい食べられる夢のような時間。俺たち外部から来た一般人はもちろん、今目の前にいるナギもおうちがアレなので、普通の上流階級とはワケが違うらしい。

 今この場にいるのは、3学年全てのDクラスの面子。強面ばかりが集まるここには、他のクラスの生徒は近付きづらいようで、別世界──ナギの王国と化していた。
 立食パーティーにも関わらずどこから持ってきたのか肘置き背もたれ付きの玉座のような椅子。そこに鎮座する、美しくて可愛いナギ。
 彼の目の前の皿には常に好物の肉料理が盛られ、グラスが空いたら何を言わずともドリンクが注がれる。
 これこそまさに、“女王様”。

 ドラマでも見るように、ぼんやりと眺めていた俺。
 その時、は起こった。


「わっ──」
「あ……っ、す、すみませ……っ、すみません……!」


 ナギの傍を通り過ぎようとした大人しそうな眼鏡くんが、バランスを崩しナギにぶつかってしまった。そんな光景を前に、ナギより先に周りが動く。
 ガタイの大きな強面のお兄さんたちが眼鏡くんを囲み、その胸ぐらを掴みあげる。

 
「おいテメェ、どこ見て歩いてやがる!!」
「す、すいません……っ、決してわざとじゃ……」
「すいませんで済みゃあ風紀もポリ公も要らねぇんだよ!!!」
「やめろ」
「で、ですが──」
「やめろゆうてんやろ。2回もゆわせんな」
「……っす」


 ナギの低い一喝に、深々と頭を下げて下がるお兄さんたち。こんな強面のでかいお兄さん数人を相手に、何てことを……。
 本当にナギってヤクザさんなんだなぁ、ってこういう時心から感じる。


「中邨さん、すみません……」
「いいいい、気にしやんといて。こんだけ図体でっかいのがいっぱいおったら、ぶつかりもするよ。それより、さこくんは怪我したりしてない? こけたやろ?」
「だ、大丈夫です……。本当に、すみませんでした……」


 どうやらナギと知り合いらしい眼鏡くんこと迫くんは、再度頭を下げると逃げるようにして去っていった。
 それを見送ってようやく、ナギに声をかける。


「大丈夫か、ナギ? 彼もDクラスの子?」
「そんなに柔と違うから大丈夫。あの子はそう、1-Dの子なんよ」
「めちゃくちゃビビってたけど」
「ほんまによ……。僕らとは違う理由でDクラスにおる子やからね。全く……。カタギに簡単に手ぇ出すなっていつもゆうてるのになぁ?」


 困ったように頭を抱えるナギ。彼の低い声に、周りの空気が凍りつく。
 次の瞬間、十数人が一斉に膝に手を当て頭を下げた。まさに圧巻の光景ってやつだこれ。

 目が点になっている俺を他所に、ナギは大きなため息を吐く。


「やめ。周りが怖がるだけや。蒼葉くんも、ごめんね」
「あーいや、なんか極道ドラマでも見てるみたいで面白いから問題ない」
「さすが。大物の答えやね」


 そう言って、ナギは手に持ったワイングラスをぐいっと煽った。さらに、皿に載っていたタルタルソース付きのエビフライを頬張る。その時、口元にタルタルソースが少しついた。それに気づいていない様子のナギに、俺は自分の口元を指差しながら指摘する。


「ナギ。ここ、タルタルついてる」
「え、ほんと?」


 軽く確認した後、ナギは徐に保くんの方に顔を向けた。すると心得ているのか、ナギの前に恭しく跪いた保くんがゆっくりと右手をナギの方へと伸ばす。

 
「……失礼します」
「ん」


 白い布を持った手が、優しげにナギの口元へ当てられる。


「ありがと、梶木」
「……うす」


 そんな一連の流れを目の前で見せつけられた俺の思考は、完全に妄想の世界に旅立っていた。

 いやね? 正直、やってること自体は口元のソースを拭うってだけで、別になんてことはない。それはわかる。
 だけどさ、なんだかちょっとだけ、ちょこっと、萌えなかった?
 当たり前のように口元拭ってもらうナギの主人加減とか、心得ている保くんの従者加減とか、俺的にはもう最高すぎて鼻血出そう。だって、何も言わなくても心通じ合ってるわけですよ。なんだよもう最高すぎる。
 ナギって、俺と会う時は大抵陽希と一緒にくるんだよな。その時はDクラスの人を連れてくることは一切なくて。
 お祭りではいつもこうしてナギを中心にDクラスが固まってるけど、この王国に俺からわざわざ近づくこともなかった。
 だから全然知らなかったんだよ。ナギの周りってこんなに観察しがいがあったんだな!

 陽希と桜花ちゃん以外との関係性……。好きな人がいるって聞いたとはいえ、どうしても考えちゃうんですよごめんねナギ!
 しかもさ、上下どっちでもイケちゃいそうな感じが……あー、もう大好物ですっ!
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

どうしてそうなるんだよ!!!

藤沢茉莉
BL
俺様な会長、腹黒な副会長、無口な書記、双子の庶務……不本意ながら生徒会役員に選ばれてしまった見た目不良なお人好し主人公が、個性的なメンバーに囲まれながら頑張る話。 多忙のため少々お休み中。 誤字脱字ほか、気になる箇所があれば随時修正していきます。

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

処理中です...