腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

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April

ラスボスはヤツでした③

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「……え、おいっ!?」


 蓮の驚いた声。見えたその表情は、驚き一色だった。
 
 ふふ、ざまぁ!
 流石に予想しきれなかったみたいだな。
 俺は諦めない。最後まで、生き残れる方に賭けてやる!
 
 心の中で舌を出しながら、背後の蓮から前に視線を向ける。


 そして、目を見張った──。

 
「うわ!?」
「お……っと! はーい、蒼葉確保~!」


 視界いっぱいに映ったのは、大きく腕を広げる悠真。
 ヤバい、と思った次の瞬間には、殺しきれなかった勢いのまま悠真の胸にダイブしてしまい、腕の中にすっぽりと抱き止められていた。


「まっ! えっ……ちょ、悠真っ!?」
「はいはい、暴れんなよ~。誰か俺のTSP取って」
 

 何が起こった……?
 
 混乱する俺に、まるで子どもを宥めるような声をかけてくる悠真。それが無性に腹立たしくてますます暴れてやるが、普段からサッカー部でエースを張っている悠真と、文化部幽霊部員の俺では力の差は歴然。
 結果、細いのに力のある腕から抜けることは出来ず、無情にも軽やかなメロディーが鳴り響いた。


「はい、終了」


 にっこりと爽やかな笑顔でそう言うと、すぐに俺を解放する。そして手に、俺のTSPが渡された。
 慌てて画面を確認すると、赤文字でgameoverなんて不吉な文字が浮かんでいた。いや、これは不吉すぎる。

 ……じゃない。
 え、俺、捕まった……?
 何で?
 蓮から逃げたはずなのに、何で俺は悠真に捕まってるわけ……?

 思わず膝から崩れ落ちた俺に、悠真が慌てて手を差し伸べてくれる。
 その手を取り見上げると、警察ジャケットを着こなしたイケメンが、嬉しそうに表情を綻ばせていた。


「残念だったな、蒼葉~。後ちょっとだったのに。ってかマジでまだ、理解が追いついてない顔してるじゃん」
「何で、なんでお前らまで、こんなところに……」


 悠真をじっと見つめて、縋るような口調で尋ねる。
 何だか周りから軽く悲鳴が上がった気がしたけど、そんなのどうでもいい。今はここにこいつらがいる理由を知りたい。

 悠真は腕を引いて俺を立ち上がらせる。

 
「全部蓮様の指示だよ。今回、俺たち2-Aチームのリーダーは蓮様だったからな。それに、ここにいるのは俺たちだけじゃないぜ」
「え、まさか……」
「おい~!! 捕まえちゃったのかよー!!! 急いで戻ってきたのに意味なかったじゃんかーっ!!!」
「うわぁ、最後の選択ミスったか~。初手の精算したかったのに!」


 朔に、巴山くん。続々と集まってくる、見知った2-Aの面々。
 待って、これってもしかして……。


「2-Aの警察、全員いる……?」


 俺の呟きに、いつの間にか真横まで来ていた蓮が、器用に口の端を釣りあげて笑った。

 
「ご名答」
「蒼葉は絶対ここに戻ってくるって、蓮様があまりにも自信満々に言うから、クラス全員その考えに乗ったんだよ。なにせ、1年間ルームメイトしていた間柄じゃん? クラスの中じゃ、蒼葉のことをおそらく一番理解してる人だろうからな」


 悪戯っ子のようににっと笑う悠真。
 そんなまさか、蓮が自分から団体行動をしただと?
 一匹狼で有名な、あの蓮が……? 嘘だろ……?
 
 信じられない思いで蓮を見ると、俺の視線を受けたヤツは大袈裟な仕草で肩を竦めてみせた。


「何だよその奇妙なものを見る目は」
「だって……、お前が自分から誰かとなんて……」
「……いくら仕掛けを取り払ったとはいえ、テメェ相手に個人戦仕掛けるのは得策じゃねぇだろ。俺はただ、使えるもんを使っただけだ。未参加で失格になんて、なりたくねぇからな」


 腕を組んで、欠伸をしながら面倒そうにそう話す蓮。
 おい、さっきまでの楽しげなラスボスはどこへ行った。やりきるなら最後までやりきれよ……。

 呆れる俺に悠真は笑うと、くるりとクラスメートたちに向き直る。


「──ま、そういうことで今回の勝負は、蓮様のお陰で俺たちの完全勝利だな!」
「いえーい!!」
「蓮様バンザーイ!!!」


 悠真の一言で、クラスメートたちが一気に沸き立つ。
 ハイタッチしたり、肩を組んだりして喜ぶクラスメートたち。わちゃわちゃと騒ぐのは、2-Aとしてはよくある事。でも今日はその輪の中心に蓮がいる。本人は嫌がっているようだが、いつもみたいな人を寄せつけない雰囲気が薄いからか、クラスメートたちも臆することなく話しかけている。
 何だかそれが、ちょっぴり嬉しかったり。って、何目線なんだろう俺。


「捕まったのはすっげぇ悔しいけど……」


 喜ぶみんなから少し距離を取って、近くの椅子へと腰かける。


「……ま、このチームなら仕方ないか」


 呟いた言葉に、ふっと頬が緩んだ。

 きゃっきゃと男子高校生らしく騒ぐみんなを見ていると、捕まって憂鬱だった気分は不思議と無くなっていた。
 俺は、俺が思っている以上にクラスメートたちが好きらしい。……何それ恥ずいな。


「蓮!! お前の読み、すごかったぞ!!!!! まさかほんとにここに来るなんてな!!!!」
「……っるせぇ。こんな近距離で叫ぶな……!」
「ははっ! まぁ、朔の言うことは事実だからな~! 蓮様がいなけりゃ、見つけることすら出来なかった可能性が高いし、マジでありがとうございます!」
「お手を煩わせてすみません! ったく、巴山たちが初めに取り逃がすから~」
「俺たちのせい!?」
「いやいやそんなこと言うけど、飛び去る《女神様》をどうやって捕まえるってんだよ」
「あれは僕らでなくても無理だよ~」
「ま、なんでもいいじゃん。今回のことで、蓮様と蒼葉の絆みたいなモノが見えた気がするし?」
「森久保マジそれ! あーもう蓮様×《女神様》って、ガチめにあり寄りのあり過ぎてヤバい!!!」
「…………」
「あはは~そんな睨まないでくださいよ~……。今のがわかるってことは、やっぱり《女神様》は俺たちと同類で、貴方様は1年間ルームメイトしてたんすねすんません調子乗りましたっ!!!」
「バッカだな光。今の流れは悠真×《女神様》だろ!」
「ぎゅーって抱きしめてたんだからね!」
「それもそうだった!!!」
「お前らなぁ……」
「なぁ、なんの話してんだ!? 掛け算!?」
「やばい何その天然発言っ!?」


 1人輪の外から、騒ぐクラスメートたちと蓮がもみくちゃにされる様子を微笑ましく見つめる。
 話が若干横道に逸れ始めた時、スピーカーからザザっとノイズが流れた。


『あー、ただ今を持ってゲーム終了ー。全員講堂に戻ってこーい』

 
 そんな仁科先生の怠そうなアナウンスが学園中に響き渡り、長きに渡った怒涛のケイドロゲームは、無駄に騒がしい2-Aのメンバーに囲まれて終わりを迎えたのだった。
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