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April

謝罪からのペア発表①

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 ナギの王国から離れ、1人でいろんな料理を食べ歩く。
 気がつくと、周りにはいつものメンバーが集まってきていた。


「ねー藤咲くん、あれ取って」
「んあ? あれってなんだよ? 醤油?」
「いや、これじゃね~? はい、ポン酢」
「さっすが悠真くん。僕のこと分かってるね」
「やだ、夫婦……!」


 パーティーのたびに目の前で繰り広げられる、夫婦のような素敵なやりとり。なぜか今回は俺を挟んでいるものの、いいものはいい、もっとやれ!


「うんまあぁぁぁぁ!!!! 何これ、すんげえ美味いじゃん!!!」
「落ち着いて、朔。料理は逃げないよ」
「これ、向こうのテーブルから巧が取ってきたんだよな!!!? ちょっともらってもいいか!!!?」
「別に、食べたいなら食べれば?」


 こっちもこっちで大変微笑ましい。
 でかい声で騒ぎまくる朔を笑顔で宥める颯くんに、取ってきた料理を食べる朔のことをちょっと嬉しそうに見つめるツンデレの巧くん。
 ほんのり王道的な感じがまだ残ってる気がして、すごく良きです!

 溢れる笑みを抑えきれぬまま、交互に2組のグループを眺める。
 あ~、料理がすごく美味い。

 しばらくすると、会場に流れていたムードのある音楽がゆっくりとフェードアウトしていく。
 代わりにスピーカーから流れたのは、聞き覚えのある無駄に元気な声。

 
『はいはーい皆さん! 今日は1日お疲れさんでしたー!!』


 声と同時に、前の舞台にスポットライトが当たる。


『ケイドロ、どやった? 楽しかったですかーっ!?』


 陽希に近いところから、「楽しかったー!!」という声が次々に上がる。
 返事を聞いた陽希は、満面の笑みを浮かべる。


『そらよかった! イベント実行委員長として、ほんまにめちゃくちゃ嬉しい嬉しいわぁ! とゆーわけで! 最終結果、みんな知ってるとは思うけど一応報告しまーすっ! 逃げ切り成功は、この俺相良陽希、ただ1人! 先にゆうとくけど、ヤラセとかとちゃうから!! 正々堂々戦った結果やからね!!?』


 そう。陽希はただ1人、逃げ切り成功していた。

 つまり、最後の30分間でバ会長や世良先輩たちも捕まったということ。あの2人はチートみたいなものなのに、捕まえる強者がいたということだ。
 って考えると、陽希だけが逃げ切ったこの結果は、正直ヤラセを疑われてもおかしくはない。だがこの場に、陽希のことを悪く言う声は全くない。
 それは、みんなの前でそれをはっきりと明言する陽希のオープンで真っ直ぐな性格と人柄だろう。
 “あの相良陽希がヤラセのようなことをするわけがない”と、みんなに思ってもらえるほど、陽希は生徒たちに好かれている。


「そういや、里緒は誰に捕まったんだっけ?」
「たまたま委員長と会って話してたら、そこを沙絢くんたちに囲まれたの。びっくりしたよ」
「苺愛くんか。やっぱりすごいな、彼」
「うん。僕はまだしも、委員長まで捕まえたところは流石だなって思ったよ」
「時間があれば、俺たち2-Aが里緒のこと捕まえたかったけどな~」
「ふふ、簡単に捕まる僕じゃないよ?」


 悠真と里緒のそんなやりとりをニヤつきながら聞いていると、一際大きな歓声が上がった。
 見上げた舞台上には、陽希ではなく赤い髪の男。
 ものすごく不機嫌そうに舞台上を進む様子に、沸いていた会場が徐々に静かになっていく。


『……俺様を捕まえやがったアイツ――貴那の奴、絶対にゆる――』
『はい、呼びましたか?』
『はぁ? 呼んでねえ! 許さねえって言おうとしただけだ、出てくんじゃねぇよ!!』
『もう、そんなに怒らないでくださいよ。たかがゲームですよ、秀吉。こんな些細なことで癇癪を起こしていては、琥珀に叱られてしまいますよ?』


 やれやれと、大袈裟な動作でため息を吐く副会長。
 舌打ちをしてそっぽを向くバ会長に代わり、副会長は優しい営業スマイルを浮かべて会場を見渡した。


『舞台上から失礼します。我々生徒会のチームに入ってくれた皆様、今日は1日お疲れ様でした。お陰様で、警察チームとして1番の成績だったようです。皆様の助力の賜物です。それ以外の皆様も、本日は大変お疲れ様でした』


 こちらを労うようなその言葉に、凍っていた会場から凄まじい悲鳴が湧き上がった。

 流石生徒会。陽希の時とは比べ物にならない、と言うかベクトルの違う沸き方だ。何の対策もしていなかったから、鼓膜が破れるかと思った……。
 クラクラする頭とダメージを負った耳を労っていると、生徒会の2人に代わり、再度お祭り男が舞台に立った。


『会長さん、副会長さん、ありがとうございましたーっ!! さてさて、そんならいよいよお待ちかね! 明日の遊園地でのペアの発表……の前に、謝らなあかんことがあります~』


 そういうと、陽希は舞台袖に向かって手招きする。
 ぞろぞろと出てきた中に巴山くんを見つけたから、イベント実行委員会の面々らしい。


『ペア決めの方法についてやけど、元々は指名制で考えてたんを今回急遽変えさせてもらいました。理由は、逃げ切ったんが俺1人やったからと、警察のメンバーが思ったよりもグループ組んでしもて、獲得ポイントに差がつかんかったからです。これやとどうしても泥棒より警察が有利になってまうからね……。今回はこっちの考えが至らんかったばっかりに、ほんまにすいませんでした!!』


 舞台にいる実行委員会のメンバーが、揃って頭を下げる。
 
 一応事前に聞かされていた会場は、変に騒ぐこともなく、静かに陽希の次の言葉を待っている。本当に、よく統率の取れた学園だ。


『皆さんの頑張りを無駄にせんように、一生懸命考えました! なので、新しいペア決めについて、説明させてください! 詳しくは副委員長の方から』


 そう言ってマイクを横の人に差し出す陽希。

 
『……え? なんで俺?』
『なんでって、説明するんは弥生の方が上手いやろ』
『ったく、仕方ないなぁ。マイク代わりました、イベント実行委員会副委員長の剣崎けんざき弥生やよいです。委員長が説明責任放棄したので代わりに話します』


 「その言い方は酷い!」と抗議する陽希を軽くあしらいながら説明を始める副委員長さん。
 って――。


「誰!?」
「誰って、去年も相良さんと一緒にイベント実行委員してただろ。3-Sの剣崎弥生先輩」
「え、3-S!? 先輩!? でも今陽希――」


 めちゃくちゃ親そうに、しかも呼び捨てしてたけど!?


「詳しくは知らないけど、親しいみたいだな」
「長い間一緒に実行委員してるからじゃない?」
「俺全然知らなかった……」
「そりゃ、相良さんがイベント実行委員長であることすら知らなかったんだもんな」
「まぁ、お2人の関係性を深く知りたいなら、うちの副委員長に聞けばいいんじゃないの?」
「桜花ちゃんか。確かに!」
「っつーか、そんなまどろっこしいことせずに、相良さんに直接聞いたらいいと思うけど。蒼葉なら聞けるだろ?」
「でもさ、もし副委員長さんが陽希の想い人だったとしたら、流石の陽希も素直には――」
「「それはない」」


 答えてくれないかも、という俺の言葉を待つことなく否定されてしまった。
 2人の陽希へのイメージってどんななんだろう。ちょっと気になる。

 そんなやりとりをしている間に、剣崎先輩の説明は佳境に差し掛かっていた。
 なんとなく理解した内容としては――。

 ケイドロ後、生徒全員にTSPを通してアンケートを実施。
 ペアを組みたいかどうかと、組みたい人を3人答えてもらい、その希望をもとにイベント実行委員が総力を上げてマッチングさせた。
 もちろん、ケイドロでの成績はしっかりと考慮に入れた。警察の人は獲得ポイントが多いほど、泥棒の人は逃げていた時間が長いほど、希望に近くなるように考えたとのこと。


『ケイドロでの頑張りが無駄にならないことは大前提。そして、できる限り全員の希望を叶えられるように、我々が持つありとあらゆる情報をかき集め、責任を持ってマッチングさせてもらいました。さすがに全員希望通りとはいきませんが、ちょっとは期待してもらっても大丈夫です』
『ゆうやん、弥生!』
『急に茶々入れんなよ。そういえば皆さんに先にお伝えしておくと、この相良陽希は唯一の逃げ切り成功者なので希望が最優先され、今回は誰ともペアを組まず1人で1日過ごすそうです』
『あ、そうそう、そうなんよ! 今回は身軽に1人で、たくさんのペアの動向を見守らせて頂きます! 俺となりたかった人、おったらごめんなぁ~!!』


 悲しそうな声がところどころで聞こえる。が、当の陽希がとても軽やかに言うからか、陽希の親衛隊で幹部をしているはずの小松くんや真壁くんは、楽しげに笑っていた。
 いいよな~。陽希のところの親衛隊って、なんか平和そう。
 

『そうゆうわけやから、仲のえぇお友達となれた人も、ずーっと好きやった憧れの人となれた人も、はたまた全く気ぃも留めてへんかった相手となった人も、みんな目いっぱい遊園地デート楽しんでや! ほんで俺に、たっくさんの萌えを供給して!! 楽しみにしてんで~!!!』
『おいコラ、マイク返せ……っ。ふう。委員長が失礼しました。では、そろそろ時間も時間なので、ペアを発表します。皆さん、TSPを準備ください』


 一斉に、TSPを取り出す生徒たち。
 俺も確認しようとポケットに手を伸ばした時だった。


『ごめん弥生、もっかいマイク貸して。……最後に、予想してなかった相手とペアになった人にゆうとくで』


 TSPを手に取り舞台上へと視線を戻すと、何やら真剣な表情の陽希と、何故かバッチリ視線が合った。

 ……え?
 見間違いかと思って、目をゴシゴシと擦ってみる。

 いや、間違いじゃない。陽希のやつ、絶対に俺を見てる……。


『その人は、自分を選んでくれた人。少なからず好感を持ってくれている人や。自分は今まで全く気にしてなかったんかもしれんけど、相手はずっと気にしとったんや。せやから理由もなく嫌がらんと、積極的に関わってみてや! もしかしたら、新たな恋の息吹を感じられるかもしれんで~!!』


 俺を真っ直ぐに見つめながらそう言い、パチンとウインクをかましてきた陽希。

 ――嫌な予感がする。ものすご~く、嫌な予感がする……!
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