腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

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April

揺るぎない忠誠心①

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 前方からゆったりとした足取りで歩いてきたのは、警察ジャケットをピシッと着込んだ副会長さんだった。
 背後に6人ほどを従えて、普段通りの一見柔和な笑みを浮かべたまま、まっすぐに俺を見つめてくる。

 そんな視線を遮るように、保くんが前に出てさりげなく俺を守ってくれる。やっぱなんか、所作の1つ1つが惚れそうなくらいかっこいいんですよね、この人。
 確かに釣り上がった目尻とか、一重なところとかは強面の部類に入るかもしれない。だけどきっと、惚れた相手なんかはデレッデレに甘やかしてくれるタイプだと思います! そういうのに疎いのか、天然入ってるからさらに良きだわ。あああもうマジで本当に相手が俺じゃなければ……!


「貴方は中邨くんの子ですね。どうして彼の傍に? ご主人様を間違えているのではありませんか?」


 妄想に頭を抱えていた俺を現実に引き戻したのは、揶揄からかう様な副会長さんの声。きっとすごく楽しそうに笑ってるんだろうことが想像出来る。まぁ、目の前は保くんの広くて立派な背中一色なので、真実はわからないけれども。

 っていうか、“中邨くんの子”って保くんのことか? だとしたら何その不思議な関係。正直副会長さんとナギの距離感もわからないし、それによって取り巻きである保くんとの関係性もだいぶ変わってくるわけだけど……。
 多分、良くはないな。こりゃ。
 まぁそもそも桜花ちゃんの親戚だし、良くないのは予想通りっちゃ予想通りか。椛も陽希との関係はあんまり公にしないようにしてるみたいだったし。桜花ちゃんとナギと陽希は、俺が学園に来る前からかなり仲が良かったみたいだもんな。


「その主人からの、言いつけだ」
「なるほど。《女神様》に護衛をつけるとは、やはり彼は頭の切れる男ですね」


 あの獲物を捕食するみたいな副会長さんの視線を遮ってくれたのはありがたかったが、イチ腐男子としてやっぱりやりとりが気になるので、恐る恐るもう一度覗き込む。
 俺たちから3mほど先にいる副会長さん御一行。先頭に立つ副会長さんは、口元に手を当てて予想通りさも可笑しげに微笑んでいた。

 ふぅん。一応ナギのことは評価しているんだな。
 
 なんてどうでもいいことに1人うんうん頷いていると、副会長さんの瞳が怪しく光った。
 心の底から嫌な予感がする。


「ですが、貴方は優先順位を間違えたのかもしれませんね」
「……どういうことだ」


 静かに、冷えた保くんの声が耳に届く。
 そんな張り詰めた空気の中に、副会長さんは遠慮なく爆弾を投下した。


「中邨くん以下3名は、先ほど我々が捕らえました」
「…………え?」


 ナギが、捕まった……?


「…………何を馬鹿な」
「馬鹿だなんてとんでもありません。私がここで嘘をつくメリットは皆無ですよ?」
「くっ……!」


 保くんが言葉に詰まっている。
 確かに副会長さんがここで嘘をついたところでメリットはあまりない。精々俺たち──主に保くんを揺さぶって捕まえやすくなる程度のもの。
 ……って言うと、それなりのメリットはあるのか。俺も少なからずショックを受けているわけだから。


「彼らを捕まえられたことは、〔生徒会グループ うち 〕の士気を上げるのにとても有益でした。いやぁやはり、中邨くんの人気はすごいですねぇ。中邨くんのところの中でも一際腕の立つ貴方が傍にいなくて、本当にラッキーでした。さすがの彼も、この極限状態の中で判断を間違えてしまった、というわけですね」
「……っ!」


 副会長さんの思惑通り……かはわからないが、保くんがものすごく動揺しているのが伝わってくる。崇拝するナギが捕まったのだ。自分がいないところで。
 自分がいたら、守れたかもしれない。そう思うのは、力のある保くんなら当然かもしれない。


「保くん、ごめん。俺のせいで……」


 わなわなと震える保くんに、小さく声をかける。

 そう。俺さえあの時ナギたちと合流しなければ、ナギが俺のことを構うこともなかった。もちろん保くんがナギから俺のことを護れって命じられることもなかったわけで。変わらずに4人でいたら、逃げ切れたかもしれない。
 本当に申し訳ないことをした。ナギにも、保くんにも。プリン頭さんと赤髪さんにも。

 悔しさやら申し訳ないやらで顔を伏せる。どう声をかけていいかわからずに、床の上で視線を彷徨わせていた。

 
「彼もやはり人の子。人の子である限り、完璧はあり得ません。ふふ。そう考えると何だか少し安心してしまいますよね」
「…………うるせぇ」
「……へ?」


 突如聞こえてきた、地を這うくらいに低い声。楽しげに話していた副会長さんのトークもぴたりと止まる。
 え、今の保くんの声……? ……怒ってる?

 顔を上げると、表情は見えないものの、保くんの纏う雰囲気が明らかに怒りに満ちていて。思わず半歩後ずさろうとしたら、手首を掴まれた。
 ちらりとこちらに視線を寄越した保くんが頭を振る。その鋭い視線が一瞬俺の背後を向いたので辿ってみると、遠くに警察の塊が見えた。マジか、いつの間に? 全然気づかなかった。
 と言うか、保くん。今もまだ俺のこと、護ろうとしてくれてるのか……?

 驚きの眼差しで見上げた俺に一瞥することなく、保くんは俺の手首を掴んだまま視線を副会長さんへと戻すと、堂々とした口調で告げる。


「あの人は、それを覚悟で動いたんだ。たとえ捕まっても構わない。この人──《女神様》を護れるならってな」
「そう彼が言っていたのですか?」
「いや。そんなこと、わざわざあの人は言わねえ」
「では、そう言い切れる根拠は?」
「そんなものはない。だが、あの人はそういう人だ。何より、あの人の判断に間違いはない」
「……へぇ。そうですか……」


 保くんと副会長さんが静かに睨み合う。……多分、睨み合ってるんだと思う。背後にいる俺からはつり上がった目の端がちょっぴり見えるくらいだから、どんな表情をしてるのかまでは分からない。

 誰も動かない。遠くの警察の声が聞こえるくらいの静寂が辺りを包み込む。
 俺たちを見つけて集まってきた背後の警察たちも、その異様な状況に気付いたのか、少し離れたところで立ち止まった。
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