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Past2(アルマ)
episode62
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「アルマ様」
俯いてため息をついていた少年が名前を呼ばれ弾かれたように顔を上げる。
「・・・誰?」
訝しげに顔を上げた少年に笑いかけたのは、全身黒ずくめに黒いマスクをつけた歳若い男だ。
「ああ、失礼。身分素性を問わない場とはいえ不躾でした」
少年の右手を持ち上げた男がにっこりと微笑み、丁寧な言葉遣いで挨拶をする。
品のある所作に無駄がないところを見ると、きっとかなり身分の高い貴族の男なのだろう。
「・・・さっきアルマって」
華やかな衣装を着飾りクルクルと踊る男女に目を向ける。
踊るもの、談笑するもの、みなマスクで顔を覆い素性を知ることは出来ない。
もちろん、アルマもマスクで目元を覆っている。
不審げに男を見上げた少年が小さく首を傾げる。
「・・・間を縫って顔を出してよかった。とても似合ってる」
少年の耳元で囁かれた聞き覚えのある低く伸びのある心地よい声に、不安げに曇っていた少年の表情ががパッと明るくなった。
少年の真っ赤に染った耳を見て男が優しく微笑んだ。
「・・・っエド!、、、っん?!」
黒の革手袋を着けた大きな男の手が少年の口を優しく覆った。
「静かに、今お嬢さん方に追われてるんだ」
壁沿いに少年を連れた男が人目を気にしながらマスクをずらし、その素顔を少年に見せていたずらっぽく微笑んだ。
「何でエドが・・・?警備なんじゃ?」
「無礼講だからな。少しくらいは許される。見てみろ、今は城下のヤツらも貴族連中も身分を問わない」
気取った雰囲気の昨日までとは違い、城の門を開き平民を招待したこの舞踏会に身分や性別、年齢などは関係ない。
今この時、その姿を見て美しいと思ったものにダンスを申し込み、相手が承諾すればその相手と一日限りの楽しいひと時を過ごすことが出来る。
「・・・どうやら撒けたらしい」
マスクを着けたエドが探る様に目を向けるホールの中心には、男が左手に着けているものと全く同じ黒い革手袋を握った女がいる。
革手袋を握りしめる女の傍には他にも二,三人の歳若い女が集まっており、ホールの人混みを何か探すようにさまよっている。
エドは任務や休暇中にも城下でふらつく事が多いため、この期に一緒に踊って欲しいとせがむ城下の若い女達に囲まれていたのだろう。
貴族に見初められればとめかしこんで参加する娘たちも多い。つまり玉の輿を狙う男女も多くいるのだ。
「エド、手袋片方どうしたの?」
男の右手は手袋を着けておらず、状況を概ね理解した少年がクスクスと笑うと男が小さく溜息をつき肩を落とした。
「とられたんだよ。あそこの彼女からダンスを申し込まれて断ったんだ」
「え?」
「最初に踊る相手はもう決めてるからな」
アルマを見下ろしたエドの口元が笑う。
酷くうるさく感じていた喧騒が遠く聞こえた。
「アルマ、庭に出ようか」
俯いてため息をついていた少年が名前を呼ばれ弾かれたように顔を上げる。
「・・・誰?」
訝しげに顔を上げた少年に笑いかけたのは、全身黒ずくめに黒いマスクをつけた歳若い男だ。
「ああ、失礼。身分素性を問わない場とはいえ不躾でした」
少年の右手を持ち上げた男がにっこりと微笑み、丁寧な言葉遣いで挨拶をする。
品のある所作に無駄がないところを見ると、きっとかなり身分の高い貴族の男なのだろう。
「・・・さっきアルマって」
華やかな衣装を着飾りクルクルと踊る男女に目を向ける。
踊るもの、談笑するもの、みなマスクで顔を覆い素性を知ることは出来ない。
もちろん、アルマもマスクで目元を覆っている。
不審げに男を見上げた少年が小さく首を傾げる。
「・・・間を縫って顔を出してよかった。とても似合ってる」
少年の耳元で囁かれた聞き覚えのある低く伸びのある心地よい声に、不安げに曇っていた少年の表情ががパッと明るくなった。
少年の真っ赤に染った耳を見て男が優しく微笑んだ。
「・・・っエド!、、、っん?!」
黒の革手袋を着けた大きな男の手が少年の口を優しく覆った。
「静かに、今お嬢さん方に追われてるんだ」
壁沿いに少年を連れた男が人目を気にしながらマスクをずらし、その素顔を少年に見せていたずらっぽく微笑んだ。
「何でエドが・・・?警備なんじゃ?」
「無礼講だからな。少しくらいは許される。見てみろ、今は城下のヤツらも貴族連中も身分を問わない」
気取った雰囲気の昨日までとは違い、城の門を開き平民を招待したこの舞踏会に身分や性別、年齢などは関係ない。
今この時、その姿を見て美しいと思ったものにダンスを申し込み、相手が承諾すればその相手と一日限りの楽しいひと時を過ごすことが出来る。
「・・・どうやら撒けたらしい」
マスクを着けたエドが探る様に目を向けるホールの中心には、男が左手に着けているものと全く同じ黒い革手袋を握った女がいる。
革手袋を握りしめる女の傍には他にも二,三人の歳若い女が集まっており、ホールの人混みを何か探すようにさまよっている。
エドは任務や休暇中にも城下でふらつく事が多いため、この期に一緒に踊って欲しいとせがむ城下の若い女達に囲まれていたのだろう。
貴族に見初められればとめかしこんで参加する娘たちも多い。つまり玉の輿を狙う男女も多くいるのだ。
「エド、手袋片方どうしたの?」
男の右手は手袋を着けておらず、状況を概ね理解した少年がクスクスと笑うと男が小さく溜息をつき肩を落とした。
「とられたんだよ。あそこの彼女からダンスを申し込まれて断ったんだ」
「え?」
「最初に踊る相手はもう決めてるからな」
アルマを見下ろしたエドの口元が笑う。
酷くうるさく感じていた喧騒が遠く聞こえた。
「アルマ、庭に出ようか」
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