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第5章:あの子の存在
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資料室では、二人が写真の整理をしていた。
松岡は黙々とレイアウト案を修正している。
二人の間に言葉は少なかったが、どこか穏やかな
空気が流れていた。
沢井はふと、手を止めて耳を澄ました。
松岡が、機嫌良さそうに
「ふ、ふふん、ふん」
と鼻歌を歌っている。
沢井は気づいていた。伊勢正三の歌が多いことに。
(…この人、フォークソング好きなんだ)
そのことを、胸の奥にそっとしまっておいた。
その日の作業が終わると、しばらくは中間テストのため
予定はない。
沢井がつまらなさそうに
「来週から、試験勉強で、しばらくお休みね」
と言った。
松岡は手を止めて、沢井の方を見た。
「愛瀬なら『勉強は学生の本分だ。これも社会勉強だ』
って言いそうだね」
続けて言った。
「沢井さんが頑張ってくれているのは、すごく助かっているよ」
沢井は少しうつむきながら、答えた。
「松岡くんが色々助けてくれているから」
松岡が沢井を見ながら
「何か用事があったら『部活の下駄箱』の一番上にメモを
置いといくれる?」
沢井が答えた
「うん、わかった。テスト期間後にまたがんばろうね」
「それを楽しみに試験がんばるぞー」
とふざけて松岡が言った
「またね」
と言い二人は資料室を後にした。真夏の午後、静かな
教室の中で、二人の距離は少しだけ近づいていた。
試験前のため、小林はいつもより早めに帰路についていた。
ふと前方に目をやると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。
「あそこを歩いているの、沢井さんじゃない?」
少し考えたあと、小走りで近づき、ポンと肩を叩く。
「沢井さんだよね。この前、急に話しかけちゃって、
びっくりさせちゃった?」
沢井は少し驚いた瞳で振り返った。
「小林さん……でしたっけ。大丈夫でしたよ」
「小林さん……あっ、私のことだった。みんなが“ミッチ”
って呼ぶから、つい忘れていた」
小林はにっこり笑いながら、沢井の横に並んで歩き出した。
「今日はアルバム委員の作業、なかったの?」
「さっきまでやっていました。来週からテストなので、
早めに切り上げようって」
小林は少しおどけた調子で言った。
「私の目が届かないから、沢井さんにお願い。しっちゃん、
自分のことは後回しにして人の世話ばっかり焼くの。
結局、自分の首を絞める癖があるのよ。そうならないように、
見ていてあげて」
沢井は少し探るように尋ねた。
「小林さん、松岡くんと仲がいいし……そこまで気になるんですか?」
「しっちゃんとは中学からの友達でね」
「まぁ、世話になったこともあるし。知らない人からは、
私たちが付き合っているって思われることもあるけど」
ふっと目を上に向けて、少し寂しそうな目をしたが、
すぐに続けた。
「……のりっぺも含めて、4人――言い直して、
3人は友達仲間みたいな感じかなぁ」
その言い直しに、沢井は一瞬だけ違和感を覚えたが、
何も言わなかった。
「高校に入って、しっちゃんはサッカー部のキャプテンになって、
みんなから頼りにされるようになった。でも、私から見たら
中学のまま。だから、ちょっと心配で」
小林は心の中で
(少し試してみようかな)
と思いながら、笑顔で言った。
「でもさ、私みたいな美人を放っておくわけないじゃん?」
「時々、お茶とか映画に誘われることもあるんだよ。
もちろん、しっちゃんに奢らせるけどね」
そう言って笑いながら、バス停の前で立ち止まった。
「じゃあ、私はここからすぐだから。またね」
手を振って、小林は帰っていった。
(私に対抗して、沢井さんを積極的にする作戦。
しっちゃん、感謝しなさいよ)
心の中でそうつぶやきながら。
沢井の心に、小林の言葉や笑顔が、静かに心に
入り込んでくるのを感じていた。
松岡は黙々とレイアウト案を修正している。
二人の間に言葉は少なかったが、どこか穏やかな
空気が流れていた。
沢井はふと、手を止めて耳を澄ました。
松岡が、機嫌良さそうに
「ふ、ふふん、ふん」
と鼻歌を歌っている。
沢井は気づいていた。伊勢正三の歌が多いことに。
(…この人、フォークソング好きなんだ)
そのことを、胸の奥にそっとしまっておいた。
その日の作業が終わると、しばらくは中間テストのため
予定はない。
沢井がつまらなさそうに
「来週から、試験勉強で、しばらくお休みね」
と言った。
松岡は手を止めて、沢井の方を見た。
「愛瀬なら『勉強は学生の本分だ。これも社会勉強だ』
って言いそうだね」
続けて言った。
「沢井さんが頑張ってくれているのは、すごく助かっているよ」
沢井は少しうつむきながら、答えた。
「松岡くんが色々助けてくれているから」
松岡が沢井を見ながら
「何か用事があったら『部活の下駄箱』の一番上にメモを
置いといくれる?」
沢井が答えた
「うん、わかった。テスト期間後にまたがんばろうね」
「それを楽しみに試験がんばるぞー」
とふざけて松岡が言った
「またね」
と言い二人は資料室を後にした。真夏の午後、静かな
教室の中で、二人の距離は少しだけ近づいていた。
試験前のため、小林はいつもより早めに帰路についていた。
ふと前方に目をやると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。
「あそこを歩いているの、沢井さんじゃない?」
少し考えたあと、小走りで近づき、ポンと肩を叩く。
「沢井さんだよね。この前、急に話しかけちゃって、
びっくりさせちゃった?」
沢井は少し驚いた瞳で振り返った。
「小林さん……でしたっけ。大丈夫でしたよ」
「小林さん……あっ、私のことだった。みんなが“ミッチ”
って呼ぶから、つい忘れていた」
小林はにっこり笑いながら、沢井の横に並んで歩き出した。
「今日はアルバム委員の作業、なかったの?」
「さっきまでやっていました。来週からテストなので、
早めに切り上げようって」
小林は少しおどけた調子で言った。
「私の目が届かないから、沢井さんにお願い。しっちゃん、
自分のことは後回しにして人の世話ばっかり焼くの。
結局、自分の首を絞める癖があるのよ。そうならないように、
見ていてあげて」
沢井は少し探るように尋ねた。
「小林さん、松岡くんと仲がいいし……そこまで気になるんですか?」
「しっちゃんとは中学からの友達でね」
「まぁ、世話になったこともあるし。知らない人からは、
私たちが付き合っているって思われることもあるけど」
ふっと目を上に向けて、少し寂しそうな目をしたが、
すぐに続けた。
「……のりっぺも含めて、4人――言い直して、
3人は友達仲間みたいな感じかなぁ」
その言い直しに、沢井は一瞬だけ違和感を覚えたが、
何も言わなかった。
「高校に入って、しっちゃんはサッカー部のキャプテンになって、
みんなから頼りにされるようになった。でも、私から見たら
中学のまま。だから、ちょっと心配で」
小林は心の中で
(少し試してみようかな)
と思いながら、笑顔で言った。
「でもさ、私みたいな美人を放っておくわけないじゃん?」
「時々、お茶とか映画に誘われることもあるんだよ。
もちろん、しっちゃんに奢らせるけどね」
そう言って笑いながら、バス停の前で立ち止まった。
「じゃあ、私はここからすぐだから。またね」
手を振って、小林は帰っていった。
(私に対抗して、沢井さんを積極的にする作戦。
しっちゃん、感謝しなさいよ)
心の中でそうつぶやきながら。
沢井の心に、小林の言葉や笑顔が、静かに心に
入り込んでくるのを感じていた。
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