恋人たちの帰り道 〜すれ違った青春が、今、重なり合う〜

Bataro

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第8章:運命の神様

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夕方。日が暮れ出す頃。
「俺、花火なんかひさしぶりなんだ」
「私、線香花火楽しみー」
などの喋りごえが聞こえる。

沢井はサッカー部男子に
「一緒に花火しようよ」
とか
「これ終わったらかき氷食べに」
とか誘われている。

松岡はバスケ部一年女子に囲まれ、
「松岡さん、彼女はいるんですか」
とか
「ミッチー先輩と仲良いですね」
など聞かれていた。

小林は、それを横目に見ながら、手をたたき言った。
「はいはい。火傷しないように、ざっとグループ分けるよ」

「松岡組は、補習組とバスケ部2年。サッカー部とバスケ部一年は
小林組。光栄に思いなさい」

「えーまたミッチとか」
とか
「松岡さんと話したかったのに」
などの声を無視し、じゃあ、愛瀬先生に一言と話を振った。

「みんな、本当にご苦労だった」
「サッカーもバスケも、補習も、暑い夏をよく頑張ったな。
今夜くらい、肩の力を抜いてもいい」
「西村。皆んなにソーダを配ってやれ。俺の奢りだ。心して飲め」

生徒
「さすが、独身貴族。太っ腹!~」

「誰が太っているって?俺はまだスリムジーンズが履けるぞ」

「では。乾盃~」

花火大会が始まった。

沢井は、場の雰囲気になれず、花火を見ていた。

松岡は沢井を他の男子から遮るように、近づいた。
「沢井さん。明日からまた学校が始まるので楽しんでいこうよ」
「この花火でもやってみる?」

沢井は
「うん。実は久しぶりでちょっと怖かったの」
と嬉しそうな瞳を向け松岡を見た。

沢井は、少しだけ勇気を振り絞って言った。
「……松岡くんも、一緒に楽しもうよ」
言い終えた瞬間、顔が少し熱くなる。

「僕が火をつけてあげるよ」
と言い花火に火をつけ、一緒に楽しいんだ。

沢井はだんだん慣れてきた。いろんな種類の花火を手に取り、
子どものように楽しんでいた。松岡はその様子を見て、
自然と笑みがこぼれる。

小林は少し離れた場所からその二人を見つめ、
肩をすくめてつぶやいた。
「もう、一から十までお膳立てしないと……まあ、いっか」

花火が終わり、あたりが静かになり始めた頃、
そよぐ風が気持ち良い夕暮れ。愛瀬が口を開いた。
「俺も楽しませてもらった。人生には楽しみも必要だ」
「だが、人生には苦しみもある」

すると、生徒から茶化すように声が飛んだ。
「説教は今度聞くから!」
「ギターの前振りか!」
「由紀江先生とやってくれ」

笑いが起こる中、愛瀬は少し砕けた口調で続けた。
「まあ、聞け。人生の先輩としてのアドバイスだ」
「運命の神様って話がある。運命の神様には後ろ髪がない。
なぜだかわかるか?」
「運命は人それぞれ巡ってくる。タイミングを逃せば、
後ろから捕まえられない。だからだ」
「運命は、努力しなければ訪れてこない。
だが、訪れた運命も、タイミングを逃せば最後は
得ることが難しい」
「受験も就職も、人生も同じだ。覚えておいてほしい」

そして、ギターを手に取り、とおる声で言った。
「では、お待ちかねの俺のコンサートを始める。
アーティストは雰囲気を大切にする。
みんな、キャンプファイヤーみたいに輪になって、芝生に座れ」

「えー、汚れちゃうよ」
「もー、めんどくさい」
そんな声が上がりながらも、生徒たちは輪になって座り始めた。

松岡は沢井の横にそっと近づき、背中にかけていた
サマーセーターを彼女の腰の下に敷いた。
「そのワンピース、似合っているよ。汚れたらいけないから」

沢井は驚きながらも、尋ねるような瞳で松岡を見つめた。
「セーター、汚れちゃうよ。いいの?」

「気にしないでいいよ」

「ありがとう」

はじかむように、ゆっくり二人は並んで腰を下ろした。

その様子を横目で見ていた小林は、ふーっと息を吐いて笑った。
「もー、手間がかかるんだから」

ジャラーン。と愛瀬が物悲しいコードを弾き。
「俺の大好きな伊勢正三の『ささやかなこの人生』を
お前達に送ろう」
と言い、歌い始めた。

「🎵花びらが散った後の桜がとても冷たくされるように・・・🎵」
喋り声ひとつもなく皆んな歌に聞き入っていた。

一人、西村だけがつまらなさそうな目で松岡と
沢井を見つめていた。

彼らの夏休みは終わり、新学期が始まる。
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