恋人たちの帰り道 〜すれ違った青春が、今、重なり合う〜

Bataro

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第11章:それぞれの秋

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西村は机に座って、英語の参考書を広げた。
いつものように、地元FMをBGMにしていた。
しばらくして、
『やっぱり、私には勉強は向いていない』
とベッドの上に寝転んで天井をぼんやりと見ていた。

FMから
「来年、卒業の職員募集」
の放送が流れてきた。

西村は募集要項をメモに書き留め、母親のところに飛んでいった。
「お母さん、今度、最終進路の面接があるって言ったよね」

「うん。あとでゆっくり話そうと思っていたのよ」

「私、就職することにした。いいでしょ」

「私がシングルマザーで気を使っているのならやめてちょうだい」

「私ね、前から人の心に残る仕事をしたいと思っていたの。
ラジオのパーソナリティを目指すよ」
と母親に告げた。

10月10日。
小林は一人で甲山に向かって歩いていた。
普段小林はスポーティな装いを好み、色も明るめを好んでいる。
今日は、グレーの制服の上下に白いブラウス。
普段は軽くウエーブのかかった髪をストレートにまとめている。
しばらく歩き、甲山の麓の『聖甲山教会』の門をくぐった。
教会を通りぬけ、奥にある墓地にゆっくりと入っていく。

「シュート久しぶり。今年も会いにきたよ」
と心の中で呟きながら『佐伯家』と書かれている墓石の前に
佇んだ。そう今日はシュートの命日である。
お墓の周りを丁寧に掃除し、墓石の前で目を瞑り、祈りを捧げる。
その瞳から静かに一筋の涙が溢れていた。
「今年も、シュートとの約束通り、忘れようと頑張ったよ。
でも、今日だけは許してね」
と呟きながら、小林の肩は震えていた。

その震えが徐々に大きくなってきた時、後ろから足音が聞こえた。
振り向くと、松岡がお花を携え、お墓に黙礼をし、小林に言った。
「一緒に、祈っていいかな」

小林は涙をこらえて
「うん、シュートも喜ぶよ」
と目を伏せて言った。

しばらく、沈黙が続いた。

突然小林が松岡の胸の中に飛びこみ、顔を埋めて泣きじゃくった。
松岡は優しく肩を叩きながら
「泣き止むまでこうしているよ」
と告げた。

小林は
「私ねシュートが亡くなる前に、『三年経ったら俺を忘れて、
いつもの元気なミッチでいてくれ』って言われたの」
続けて
「私、頑張ってきた。無理して元気なふりをしていたの。
これから、シュートとの約束を守る。時間かかるかもしれないけれど忘れる」

松岡は、小林の目を見ながら
「ミッチ、知ってたよ。頑張っているの」

小林は続けた
「この前、愛瀬が「運命の神様」の話してくれたでしょう。あの時
思ったの
「私神様を逃しちゃった」って。

「そんなことないよ、神様は頑張る人のところにきっとまた現れるよ」

小林は、顔をあげ松岡の目を見つめ
「しっちゃん。いつも私を優しく守ってくれてありがとう」
「私、あなたの優しさに甘えてるの知っていた」
「しっちゃんが私を大事に思ってくれているのも知ってた」
「私これからは、振り返らずに前を向いて歩く。
だから、私のお願い、しっちゃんも
目の前の運命の神様逃さないようにして」

松岡は
「えっ」
と言う表情をした。

小林は
「自分でわかっているでしょ。沢井さんのこと」
とつぶやいた。
しばらく二人は佇んでいた。

少し離れた教会の廊下から、西村がこの光景を見守っていた。
彼女もまた、この日に墓を訪れていたのである。
初冬の風が、供えてあった花を揺らしていた。
それぞれの思いを胸に抱えたまま、秋は更けていく。


その日の夜…

晶子が父親と夕食を一緒に摂るのはひさしぶりであった。
「晶子、学校の成績はどうかな。目指す大学には行けそうか?」
と聞かれた。

「先生との最終面接では、このままの調子であれば問題ないって
言われたよ」
と胸を張って答えた。

「そうか。よかった」
と安堵の顔で答えたあと、姿勢を正し、晶子に告げた。
「心ずもりして聞いてくれ。
前からアメリカに事務所を構え本格的に事業を
展開することは知っていただろう。
その予定が早まった。来年の4月には
家族でアメリカに移住するつもりだ」

晶子は突然の話に声も出なかった。

父親は続けて
「晶子が成人するまで、日本で事業を検討していたが、
クライアントからの強い要望で時期が早まった。
お前にも都合があると思うが、父さんは
卒業と同時についてきてほしい。考えておいてくれ」

横で話を聞いていた母が
「あなた、成人すれば晶子も一人前の大人。2年ほど親戚で
面倒見てもらうようなことも考えてあげて」

父親は
「わかった。考えるが晶子もお父さんの話をよく考えてくれ」

晶子は下を見ながら
「うん、考えてみる。先生にも大学のことは聞いてみる」
と答えた。
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