『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

5話「日常の中の小さな出来事」

退院して1か月。
春の陽射しは柔らかく、団地の十階から見下ろす街並みにも、穏やかな空気が流れていた。

朋広は原付を見て、「あれ、修理屋さんが直してくれたんかあ」と呟きながら、ゆっくりとエンジンをかける。
スマホも最新型に変わっており、カメラや通知機能、天気予報アプリに驚きつつも、軽くボケを交えながら操作する。

「これ……なんや、カメラで空も撮れるんか……ほな、雨上がりの桜も撮れるやんけ……あ、でも俺、構図とかようわからんわなぁ」

その時、団地の廊下で久世桔梗（24）が郵便物を整理している姿を見かける。
「おはよう、朋広さん」と軽く会釈されるが、天然鈍感な彼は「あ、はい、おはようさん」と微笑むだけ。
桔梗は内心、「なんか不思議と和むわ」と思いつつ、何事もなかったかのように立ち去る。

隣の伏見美琴（22）も階段で出くわす。和服姿で朝の光を浴びて、荷物を運びながら挨拶する。
「おはようございます、朋広さん」
「お、おはよう、美琴さん……今日もええ天気やな」と軽く返す朋広。
その天然さに、美琴は思わず笑顔をこぼす。

団地を出て、近くのコンビニに寄ると、白鳥つむぎ（20）がジュースを手に立っている。
彼女と目が合うが、朋広は「お、つむぎか」と気軽に会釈するだけ。
読者には、事故夜のシルエットと重なるような“何か”が薄く見え隠れしていることがわかる。

ガソリンスタンドでは、朝霧こはる（18）がスマホをいじりながら笑う。
「おはよう、朋広さん」
「お、こはるか……今日も元気そうやな」と軽く返す。
彼女の表情には少し気づきがあるようだが、朋広には届かない。

――こうして、事故後の日常は静かに、しかし着実に動き始めている。
主人公の天然鈍感な性格が、世界の異変に気づかず、日常を守る盾となる。
核や装具の存在、20才姿の真相も、まだ主人公には視認できない。

読者は、団地の角やコンビニ、ガソスタの向こうに、淡く揺れるシルエットや影を察知することができる。
それは事故の余波――「世界のルールが静かに書き換わった痕跡」――を示す。

朋広は今日も天然鈍感に、周囲の人々に軽く挨拶を返しながら、少しずつ日常に馴染んでいくのだった。