『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

第18話「風の通り道」

退院から一週間。福田朋広は原付で近所を散策していた。春の風が肌に触れ、街路樹の新芽が揺れる。

途中の交差点で、すれ違う女性の髪の光や仕草に一瞬目を奪われる。だが彼はそのまま、「こんにちは」と軽く挨拶を交わすだけで通り過ぎる。

コンビニ前を通ると、窓際で誰かが棚を整理している気配がする。遠目には見えるものの、具体的な人物の判別はつかない。朋広は自然に立ち止まりもせず、買い物に来た客をやり過ごす。

団地に戻ると、階段の踊り場で久世桔梗が軽く手を振る。返事をしながら部屋に入る朋広の胸ポケットで、スマホの桜模様が小さく光る。

「……なんや、また変な光出とるな……」

自分でも意味はわからないが、どこか安心する感覚に頬が緩む。

窓の外、ほんの一瞬、視界の端に影が揺れた気もする。だが、振り返れば誰もいない。

静かな午後、風が団地の廊下を抜ける。世界はまだ穏やかで、朋広の生活には日常が戻っていた。