『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

第21話「図書館の午後」

退院から数日後、朋広は久しぶりに市立図書館へ向かっていた。小説の資料を探すためでもあり、ただ静かに過ごしたいという気分からでもあった。

図書館に入ると、雨上がりの空気がほんのり残る。棚の間を歩きながら、朋広はふと視界の端に人影を捉える。背筋がすっと伸びるほどではないが、どこか見覚えのありそうな立ち姿だ。

（……あれ？　誰かおるんかな……）

天然の鈍感さゆえ、誰だか特定はできない。だが読者には、ほんのり「重要キャラかも」と感じさせる描写だけが残る。

ラウンジコーナーでは、創作ノートを広げる学生の姿もある。近づくことなく、朋広は自分の席へ向かう。その途中で、桐生さくらや葵月すみれ、花房るりの姿を匂わせる影が通り過ぎるが、言葉は交わさない。

朋広は静かに椅子に座り、スマホを取り出す。割れたままの画面だが、特に気にせずスクロールを始める。

「……うん、これでも資料集めには十分やな」

ページをめくる音と外の微かな風の音だけが響く。世界はいつも通り静かで、しかし小さな変化――桜満開装具の影響や核の存在――は確かに動いていた。

そして、朋広がページを開き直した瞬間、スマホの桜模様がまたわずかに光る。しかし、彼は気づかず、ただ日常の延長として午後を過ごすのだった。