『桜魂の継承者』-BLOOM OF ETERNAL BONEDS-

第35話「団地のささやき――知らぬ接点」

雨上がりの朝。
団地の廊下には、湿った空気の匂いと、階下のカフェから漂うコーヒーの香りが混ざる。

朋広は、原付を駐輪場に置き、階段を上がる。
胸ポケットのスマホは、相変わらず桜模様がほんのり光っている。

「……昨日の雨、まだ乾いてへんな」

軽くつぶやきながら、廊下を歩いていると、10階の廊下の端に久世桔梗の影。
郵便受けを確認しているだけだが、朝の光に照らされ、柔らかい雰囲気を放つ。

「おはようございます」

軽く頭を下げる桔梗に、朋広も自然に返事をする。

「おはよう……」

隣室からは伏見美琴が、荷物を抱えて和服の袖を整えながら出てくる。
微笑みを交わすだけで、朋広の心にほんの少し安心が広がる。

（……やっぱり、朝の団地もええもんやな）

階段を降り、エントランスに向かう途中。
ふと、ガソリンスタンドの向こう側、団地駐輪場の隅のほうに、視界の端で揺れる人影。

――誰かがいる気配。

しかし、20才姿の体と天然鈍感な性格のせいで、影はただの通りすがりの人に見える。
心の奥で感じる「何か」が、かすかに胸に残る程度。

団地のエントランスを出ると、向かいのコンビニ前で、別の微かな気配。
手に荷物を抱えた人がちらりと見えるが、声も名もない。
それでも、何か“安心感”をもたらすような存在だ。

朋広はスマホを取り出し、通知を確認。
桜模様の光はわずかに揺れるが、特別な表示はなし。

「……なんや、また光っとる？」

思わず笑いながら、ポケットに戻す。


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■監視者パート

屋上から、団地全体を見下ろす影。
先日の事故以降、波長の揺れは少しずつ増幅している。

「対象：福田朋広。
　無自覚のまま複数接点発生。
　団地内における潜在的“接触者”を確認。
　監視継続」

微かな桜色の光は、まだ薄く揺れているだけ。
だが、波長の変化は着実に増えており、後の展開を匂わせる。