島流し聖女はモフモフと生きていく

こまちゃも

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第十二話

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第十二話


「ん‥‥」

目が覚めると、青空が眩しくて目を細めた。
木洩れ日がキラキラと光りを落とし、風が頬を撫でた。
そうか、あの後倒れて‥‥外だと言うのに、フワフワと柔らかい。

「目覚めたか」

聞こえて来た柔らかい声と、大きくなったシロさんの顔が視界に入ってきた。
どうやらシロさんの上で寝ていたようだ。
慌てて起き上がろうとすると、「まだ寝ていろ」とシロさんに鼻で押されてしまった。

「枷が外れた事で身体に負荷がかかった」
「枷‥‥」
「心当たりがあるのか?」
「‥‥少々。ですが、理由がわかりません」

こんな事をするのは、あの人しかいない。だが、聖獣の言葉を理解できなくするなんて、あまり意味があるとは思えない。
そもそも聖獣と出会える事がほぼ無いのだから。
あの人のやる事は一見意味の無い事もあるが、そこにはちゃんとした理由がある‥‥事の方が多い‥‥多分。

「理由、か。確かに、そんな枷をつける意味は」
「そんな事より! メェちゃん、私達の言葉が分かるようになったのよね⁉」

突然目の前に飛び出て来た、ピヨさん。
よく見ると、私の左にノアさん、右にノルさんが気持ちよさそうに寝ていました。

「はい。ちゃんと分か」
「もうね! ずっと言いたかった事があるの!」

ピヨさんは私の胸の上に降り立つと、ふんす! と胸を張り鼻息を荒くした。
これは、なにかお怒りのようです。
私はどうにも人付き合いが不得手で、他人の気分を害す事も多々あるらしい。
大半は「無表情で怖い」や「何を考えているのか分からない」等でしたが、姉はよく「お前の顔を見るだけで気分が悪くなる」と言われていました。

「あの、そ」
「もっとちゃんと食べなさい!」
「もっとちゃんと食べろ」

ん? シロさんの声も聞こえました。食べろ?

「食事なら、毎日三食いただ」
「回数の問題じゃないわよ! 質と、量! 毎日毎食、パンとスープ、パンとスープ、パンとスープ!」
「申し訳ありません。私はあれしか作った事がなかったので。そうですよね。皆さんの栄養状態の事ももっとちゃんと」

なるべく栄養が偏らないようにしていたつもりですが、皆さんの本来の姿は私よりもはるかに大きい。量的にも足りていなかったのかもしれない。

「私達の事じゃないわよ! メェちゃんの事!」
「こいつ、ずっと心配していてな。粗食すぎてメェが倒れるんじゃないかと」
「心配、ですか」

自分の事を心配してくれる。そんな事、初めてだ。
なんだか、ムズムズします。

「ありが」
「ちょっと! メェちゃんの耳が赤いわよ⁉ やっぱりこんな外で休ませるべきじゃなかったわ!」
「あ、いえ、これは」
「シロ、メェちゃんを連れて家に帰るわよ! ノル、ノア! さっさと起きなさい!」

止める間もなく、ピヨさんはノルさんとノアさんを突いて起こし、シロさんがやれやれと言った感じで私をいつもの場所へと入れました。

「「ふぁ~‥‥あ~、メェちゃんがおきてるぅ」」

二人はとても眠そうにしながら、私に抱き着いてきました。
いつも二人同時に鳴いているなと思っていましたが、まさか全く同じ事を言っているとは思いませんでした。

「さっさと行くわよ!」
「分かったから、突くな」

ピヨさんに突かれたシロさんが走りだす。
遠ざかって行く泉を見ながら、「今度、お供え持ってきます」と心の中で感謝を込めて祈っておいた。





「まだ起きていたのか」

図書室で作業をしていると、シロさんがやって来た。
私は最近、夜になるとここへ来て島の調査をまとめています。
自分で見た物、図書室にある本、そしてトウドウさんの残してくださった資料とのすり合わせ。本に埋もれる事も多々ありますが、割と楽しんでやれています。

「ピヨが寝言でまで文句を言っていたぞ」
「‥‥もう少しだけ」
「メェはもう聖女ではなくなったのだろう? 何故そこまでする必要がある」

宝石の様なシロさんの瞳に見つめられ、思わずページをめくる手を止めた。

「世界樹の事とて、お前さんが生きている間くらいはもつだろう」

世界樹は確かに枯れ始めている。

「そうですね。私がどんなに長く生きたとしても、あと数十年です。ですが、このまま何もしなければ世界樹は数百年後に確実に枯れてしまう」

私はもう聖女ではない。とは言っても、神託を受けて‥‥などと言う事はなく、神殿が決めている事なので、役職のようなものだったりする。

「以前の私なら、聖女の義務としてやはり同じ事をしたでしょう。ですが、今は違います」
「?」
「シロさん達は聖獣ですよね? 聖獣の寿命がどれ程のものかは私には分かりませんが、世界樹が枯れるその時、きっと皆さんはこの世界にいる」

私は、今生きる見ず知らずの人よりも、その時生きているであろうシロさん達を守りたい。
薄情だと言われても、それが私の心です。師匠には怒られそうですが‥‥。

「私の出来る事など砂塵程度しかありませんが」

それでも、出来る限りの事はしたい。
私だけで駄目ならば、次の世代に託せるようにしたい。となると、子供? その前に結婚? 未知の事すぎで想像すら出来ません。最悪、研究資料をどこかの神殿に届けてもらうか‥‥。
思考が脱線しかけた所、左肩にふわりとした重みが乗って引き戻されました。
左頬にフワフワがモフっと‥いえ、ゴスッと来ました。
何故かシロさんに頭突きをされているようです。

「あ、あの、何か気に障る事むぶっ」
「メェが少々休んだところで、世界は滅びん。人は存外脆弱なものだ。休め」
「大丈夫ですよ。以前よりは休みも取っています」
「以前が異常なだけだ」

言葉が通じるようになってから、ピヨさんにも怒られました。
私の生活は、まるで数百年前の修行を見ているようだと。

「‥‥善処します」
「そうしてくれ」

シロはもう一度メルリアの頬に軽く頭突きをすると、図書室を出て行った。
そして一人テラスへと出ると、手すりの上へと飛び乗った。
島の半分を見渡せるその場所は、かつてのお気に入りの場所だった。

「お前さんと同じ事を言う者が、他にもいたぞ。アキ」

空には星が散らばり、月が淡く輝く。
古い友人を思い出し、思わず苦笑した。
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